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自動販売機設置型の店舗が急増。その意義と可能性に迫る

最近、街中でちょっと変わった自動販売機を見かけたことはありませんか? 餃子や鍋、ラーメン、フルーツ、スイーツに至るまで、ユニークな自販機が次々と登場しています。

今回は「自販機ビジネス」に着目し、企業の様々な取り組みを「飲食店経営」副編集長・三輪大輔さんにレポート頂きました。

店舗づくりの在り方を変えた自動販売機の威力

コロナ禍で外食の絶対数が減少、多くの飲食店がイートインの売上では立ち行かなくなり、デリバリーやテイクアウト、ECなど、イートイン以外の新たな販路の拡大に力を注ぐこととなりました。自動販売機も、そうした施策の一つです。

その結果、冷凍ギョウザに代表されるように、様々なアイテムを取り扱う自動販売機が続々と登場しました。
初めは懐疑的な見方をする人が大半でしたが、成功事例が出始めるとともに取り組みが増え、飲食店の新たな収益源になりつつあります。

こうした流れをリードした企業の一つが、株式会社福しんです。同社は都内を中心にラーメン・定食チェーン店「福しん」を34店舗展開しており、一杯390円の「手もみラーメン」をはじめ、リーズナブルでおいしい定食やギョウザ、チャーハンが楽しめるとあって、幅広い世代からの支持を集めています。

そんな同社が冷凍自動販売機の「ど冷えもん」を導入したのは、かなり早いタイミングでした。その理由について、福しん代表取締役社長の高橋順氏は次のように語っています。

「当社がど冷えもんの導入を決めたのは、2021年2月3日にこの世界初の機器が設置された、というニュースを友人のFacebookで見たときです。それを見た瞬間に絶対に欲しいと思い、すぐに連絡をしました。非対面で冷凍食品を販売できる特性はもちろん、ど冷えもんを活用したらECサイトの商品をそのまま転用することができます。その他にも、設置すること自体が宣伝効果になったり、閉店後も売上を伸ばせたり、さらにはイートインとは別のお客様にアプローチできたりと、いろいろなメリットを感じていました。

結果として、世界初の機器が設置されてから2カ月とたたない3月31日に、当社でもど冷えもんを設置することができました。実際に設置をしてみると想定の1.5倍以上の売上があり、あまりの反響の大きさに私たちも驚いています。中でも、入間郡毛呂山町(埼玉県)にあるセントラルキッチンに設置した自動販売機の売上は凄まじいです。

自動販売機のメリットは店内に入らずに商品を購入できる点にあります。商店街に構える店舗だと、ついで買いのニーズがとても高いです。実際、一日のうちでも昼食と夕食の前の時間で売上が伸びています。今までリーチできなかった層にアプローチできている点だけを見ても、設置は大成功だったと胸を張っていえるのではないでしょうか」

実をいうと、ど冷えもんのベースとなるECサイトを立ち上げたのも、コロナ禍になってからでした。
その前は、同社は取引先向けにお中元用の商品などを販売していたものの、一般消費者はターゲットにしていませんでした。
しかしコロナ禍になり、売れるものは何でも売ろうという姿勢でECサイトを立ち上げ、ラーメンやギョウザ、チャーシューなどの販売を開始しました。
結果として同社では、自動販売機の設置で、イートイン、デリバリー、テイクアウトに加えて、四つ目の販路ができたことになります。
そのインパクトは大きく、店づくりの在り方も変えると、高橋氏は話します。

「ど冷えもんは家賃の半分を稼ぎ出せるくらいのポテンシャルを持っているので、出店のリスクを下げることができます。現在、店頭に6台と工場に3台設置していますが、今後、設置台数を増やしていく予定です。

当社は都心に展開しているので、道路のギリギリまで建物がきている店舗が少なくありません。しかし、それだと自動販売機の設置は難しいでしょう。そのため改装時に店舗をセットバックさせて、客席を減らしてでも自動販売機を設置していきます。現に、22年2月に改装した阿佐ヶ谷店は、その手法を採用しました。そこまでしてでも設置することに意味があると感じています。今後、新規出店も自動販売機の設置を前提に進めていくことになるでしょう」

進化が続く自動販売機の商品提案力

株式会社凪スピリッツジャパンも、福しんと同様に自動販売機を活用して成功事例をつくった企業です。同社は「すごい煮干ラーメン凪」の運営で知られており、台湾、フィリピン、香港、シンガポール、アメリカなどにも進出しています。

同社が自動販売機の運用を始めたのは、21年6月頃のことです。そのベースになったのが、20年4月の1回目の緊急事態宣言中に立ち上げた、ラーメン通販サイト「RAMEN STOCK」。
同サイトは、営業ができずに苦しい経営を強いられていたラーメン経営者たちから、ほぼ販売価格で商品を買い取って全国へ販売しました。
これは、コロナ禍で苦しむ経営者を救うプロジェクトとして、大きな注目を集めました。

その取り組みが発展して誕生したのが、「RAMEN STOCK 24」という自動販売機です。「すごい煮干ラーメン」はもちろん、吉祥寺の武蔵家の「家系MAX」や、都内を中心に展開する麺処井の庄の「辛辛魚らーめん」などを販売し、一時は一台100万円を超える売上を記録する日もあるほど大きな反響がありました。
随時、新しい商品も導入し、そのラインアップの充実度は自動販売機の域を超えて、もはや「ラーメンの横丁」だといっても過言ではありません。
現在でも、家賃をまかなうほどの売上があり、設置にかかる費用も一年あまりで回収できるなど、店舗経営を強力に支える役割を果たしています。

通常、飲食店をオープンするには、多額の初期投資が必要になります。
それはラーメン店も変わりません。加えて、コロナ禍では外食の絶対数が減っているので、店を維持する苦労はさらに大きなものになります。
しかし、自動販売機で家賃分くらいの金額を稼ぎ出すことができれば、損益分岐を下げることができ、店の維持もしやすくなります。

同社代表取締役の生田悟志氏も、自動販売機の効果についてこう語っています。

「人手をかけずに、売上を上げられるのが自動販売機の大きなメリットだと思っています。ポイントは商品力です。それがなければ、利用されなくなってしまうでしょう。だからこそ、これからも面白い店とコラボレーションをしながら、もっといろいろな場所に設置していきたいと考えています。もちろん今後も積極的に店頭には自販機を置いていくつもりです。売れなかったら撤去すればいいという気楽さで設置できるのも、自動販売機のメリットかもしれません」

コロナ禍を契機に提案の進化が続く自動販売機。今年の3月28日には、アメリカのシリコンバレーから自動調理自販機「Yo-Kai Express」が上陸し、話題を集めています。

Yo-Kai Expressは、日本に古くからあるうどんの自動販売機をヒントに開発されました。アメリカでは19年から設置が始まり、オフィスや空港、ホテル、スキー場などに設置が進んでいます。
日本ではコロナ禍での行動変容を受けて、羽田空港第2ターミナルと首都高の芝浦パーキングエリア、そして期間限定で東京駅と、多くの人が行き交う交通の要に設置。一日十数杯が売れるなど、まずまずのスタートを切っており、現在、さらなる飛躍に向けて味の改良を続けています。

なお、「Yo-Kai」という名前には、“妖怪”のようにどこにでも現れるサービスにしたいという思いが込められています。その思いの通りに、Yo-Kai Expressが市場を席巻する日も近いかもしれません。

(文:「飲食店経営」副編集長 三輪大輔)

飲食店の自動販売機は、コロナ禍で低迷したイートインの売上を補填するだけでなく、非対面ニーズとのマッチングや、店内へ入らずに購入できる便利さ、これまでお店を利用したことがないユーザー層の新規獲得など、様々なベネフィットをもたらす強力な販売チャネルになり得るようです。

今はその珍しさで注目を集めることが多いと思いますが、これから自販機を導入する飲食店がどんどん増えていくと、消費者に選ばれるための他社との差別化が必要になり、商品ラインナップや味、体験設計も含めてさらなるアイデアや工夫が生まれそうです。自販機ビジネスがどのように進化していくのか、今後の動向に注目したいと思います。