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ブランディングが店舗スタッフにもたらす効果とは

セルフチェックアウトや電子レシートなど、テクノロジーを活用して新しい顧客体験を生み出す実店舗DXが進んでいますが、海外では店舗スタッフの生産性向上従業員エンゲージメントの向上だけではなく、ブランディングといった観点でも「インナー施策」に関するDXに期待がかかっているようです。

特に店舗は顧客と接点を持つ重要なチャネルの一つであるため、いかにブランドイメージやブランドステートメントを従業員に浸透させられるか、日々接している顧客の声やニーズをキャッチアップし、企業に還元できるかが求められています。

さらに、コロナ禍の影響で従業員の増減や入れ替わり、BOPISやウェブルーミングなどの新しい買い物体験が登場するなど、実店舗の環境や役割が大きく変化する中で、より従業員のエンゲージメントを高める取り組みや、新しい環境への適応を促すためのサポートが必要とされているのです。

こうしたニーズに応えるべく、海外ではスタートアップを中心に新しいソリューションが続々と誕生しています。そこで、「データ・アプリ活用」と「IoTデバイス活用」の2つの方向性から、近年のトレンドを紹介したいと思います。

今回は「データ・アプリ活用」編です。

ユニコーン企業の仲間入りを果たしたStaffbase

この領域で大きな存在感を示している企業の一つが、2014年にドイツで創業したStaffbaseです。同社は企業-従業員間や、従業員同士のコミュニケーションを円滑にするスマートフォンアプリを提供。アプリ名やロゴ、色、アイコン、フォントなどが企業に合わせて最適化されたアプリの中で、従業員同士が拠点や国を超えてコミュニケーションを取ったり、パーソナライズされたニュースフィードを発信したり、匿名による従業員からのフィードバックを集めるといった機能が備えられています。

小売店舗では、SNSと同じ感覚で店舗スタッフ同士がコミュニケーションを取ったり、シフト調整・確認などの日常業務をスムーズに行ったり、最新のトレーニングモジュールを特定のチームや拠点に提供するなどの機能が使われています。

例えば、スイスのファッションブランドChicoréeは、ミレニアル世代およびZ世代の従業員同士がオンラインで頻繁かつスムーズなコミュニケーションを取れるようにStaffbaseアプリを活用。全従業員の81%がアプリを利用し、社内コミュニケーションの活性化や従業員満足度の向上につながっているようです。また、従業員にコンテンツを自由に届け、誰もがそのコンテンツを共有できる点も評価されており、アプリの使いやすさや簡易さも高い利用率の一因になっているのではないかと推察できます。

さらに、コロナ禍で小売店舗が直面している課題にも、Staffbaseは向き合っているようです。

例えば、より安全に配慮した店舗運営を実現するためには従業員に新たなレベルのトレーニングを提供する必要があります。その際に複数店舗が様々な地域や国にまたがり、異なる時間帯や言語で展開するグローバルな小売業では、対応は一律にはいきません。

Staffbaseでは各拠点の従業員に合わせた情報共有を簡単に行うことができます。またデスクトップやモバイルを含む様々なチャネルを活用できるので効果的な社内コミュニケーションが実現可能です。

さらに、季節労働者やコロナ禍で一時的に解雇した従業員とコミュニケーションを取り続ける機能や、再雇用したい従業員にリーチするプログラムを提供することで、経験豊富なパートタイムスタッフや既に訓練を受けた従業員といった貴重な人材を確保することができます。

Staffbaseは現在、世界中の2,000以上の企業に導入され、1,300万人以上の従業員が使用する巨大プラットフォームへと成長。2022年にはシリーズEで1億1,500万ドルの資金調達を行い、市場評価額11億ドルでユニコーン企業の仲間入りを果たしました。

今後、同社はより専門的なトレーニングを必要とする業界の発展に向け、約5,400万ドルを投資して社内コミュニケーションの継続的なスキルアップを目的としたアカデミーを含めた、様々な取り組みを行う予定です。

2020年に顧客が2倍以上に増加したRetail Zipline

Staffbaseと同年にアメリカで創業したRetail Ziplineは、小売業界に特化したSaaSソリューションを提供。従業員同士のスピーディなコミュニケーションを実現するメッセンジャーツールや、タスク管理機能、オペレーションやマニュアルなどに簡単にアクセスできるリソースライブラリ、安全やコンプライアンスに関する店舗ごとのレポーティング機能などを実装しています。

同社は小売業界が抱えている課題やインサイトに関する情報提供も積極に行なっており、業界ニーズを深く捉えたソリューションを提供している点が特徴的です。

例えば、スーパーマーケットなどの食料品小売業者はコロナ禍でオムニチャネル施策を加速させ、カーブサイドピックアップといった新しい買い物体験を提供しています。

Retail Ziplineのレポートでは、すべての従業員がこうした施策を「自分には関係ない」とするのではなく、「配送に関する顧客の質問に答えられるように一人ひとりを強化することが、素晴らしい買い物体験とひどい買い物体験の分かれ目となる」と述べ、トレーニングとコミュニケーションの重要性を説いています。また、従業員により良い学習機会を与えることが、より熱心な従業員と高い採用率、そして離職率の低下につながることも示しています。

アメリカのスーパーマーケットチェーンHy-Veeは2020年3月にZiplineとの提携を決定してから程なくして、パンデミックの影響で店舗は食料品を求める顧客で溢れかえったことから、CEOは迅速にZiplineを立ち上げて毎週ビデオメッセージで全従業員と連絡を取り続けました。コロナ禍で自身の健康リスクにさらされながらも人びとに食べ物を提供するために店舗運営している自社のエッセンシャルワーカーに感謝と支援を示すためです。このプラットフォームを活用することで重要な情報共有や特典を提供するなど従業員がより良い仕事ができるよう支援することができ、従業員は会社が自分たちを気にかけて面倒を見てくれていると感じるようになったと、レポートで伝えています。

同社は実店舗の効率的な運営と、買い物客にも好影響を与える従業員エンゲージメントの向上を目指して設立されましたが、パンデミックの影響もあってその需要はますます高まり、2020年に顧客が2倍以上に増加しました。

Retail Ziplineは2021年にシリーズBで3,000万ドルの資金調達を実行。さらなるイノベーションの創出とパートナーや従業員との信頼関係を守るべく、チームの拡大に注力することを表明しています。

実店舗のインナーコミュニケーション活性化がもたらす効果とは?

他にもソリューションをいくつか紹介しつつ、各社が挙げているインナーコミュケーション活性化のメリットにも少し触れたいと思います。

最前線の店舗スタッフとオフィスをつなげるアプリを提供するSpeakapの創業者は、小売のフロアマネージャーとして働いていた頃、従業員間のコミュニケーションにギャップがあると感じ、2011年にSpeakapをリリースしました。

同社は小売業におけるインナーコミュニケーションの課題として「多くの従業員がコンピューターにアクセスできず、共有タブレッドを使用する必要がある」「パートタイマーやアルバイトスタッフはマネージャーと対話する機会が少ない」「トレーニングやオンボーディングに一貫性がなく、店長の裁量に依存している」「店舗スタッフは会社の上位層に不満を感じ、自社のブランドや製品にあまり情熱を注ぐことができない」といったものを挙げています。

その解決策の一つとして提示しているのがSpeakapアプリの活用で、「パーソナライズされたコミュニケーション、緊急メッセージのプッシュ通知、社内アンバサダーの選定と報酬、投票、分析などをモバイルアプリに一元化することで、社内コミュニケーションを合理化できる」と説いています。

なお、SpeakapはTHE NORTH FACEやドミノピザ、BOSCHといった500以上のグローバルブランドに採用されているようです。

フランスに本社を持ち、日本にも拠点があるLumAppsは、従業員エンゲージメントソリューションを提供する企業。主な機能として、適切な情報を適切な人に適切なタイミングで届けるターゲティングコミュニケーション、従業員専用のSNS、社内から適切な人材を見つけるスタッフディレクトリ、アンケートのフィードバックや、スタッフの利用状況の分析などがあります。

同社は小売業における社内コミュニケーション活性化が「顧客満足度向上」「ブランドへの信頼感アップ」「店舗スタッフのエンゲージメント最適化」「店舗スタッフの定着率向上」「店舗スタッフ-経営層の関係性構築」「生産性向上」「収益増、コスト削減」といった効果をもたらすと主張しています。

LumAppsも2020年にゴールドマンサックスが主導する資金調達ラウンドで7,000万ドルを調達し、フランス政府が急成長期にある有望なスタートアップを表彰する「FrenchTech120」に選出されるなど、順調に成長し続けている企業の一つです。

その他にも、2021年に5,000万ドルを調達したイギリスのYOOBICや、同じく2021年に1,000万ドルを調達したカナダのKudosなどが台頭し、パンデミック以降、従業員のインナーコミュニケーション向上に対するニーズは着実に高まっていることがうかがえます。

国内でも実店舗のコミュニケーション改善に貢献するソリューションはいくつか出てきていますが、まだStaffbaseのようなユニコーン企業が出てくるほどの市場規模には成長していないのが現状ではないでしょうか。とはいえ、海外事例で紹介してきた実店舗のニーズは日本にも共通する部分が多いと思いますので、今後どのような展開が生まれるのか注目です。

次回は、「IoTデバイス活用」という観点から店舗インナーコミュニケーションのトレンドを追ってみたいと思います。

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