頭の中の声がうるさい
目をつぶっていたのに、頭の中でおばあちゃんの怒鳴る声がうるさい。
あんたがいけないんでしょ
ばかね
おおばかもんだよ
なにしにきたの
おばあちゃんはいつも怒っている
怒っていない時がめずらしい
鬼のようだ
おばあちゃんの声がうるさい
大きな大きな声だ
大嫌いな声になった
おばあちゃんが笑っていた時の顔が思い出せない
おじいちゃんに会いたい
うちの家族の中で優しかったのはいつだって男の家族だけだった
おじいちゃん
おじさん
昔は優しくなかったけどお父さんも今は優しい
おじいちゃんに会いたい
おじさんに話を聞いてもらいたい
うちの女家族は集まると愚痴ばかり
怒って現状に文句を言うばかり
過去をふりかえって後悔を酒のつまみにしている
今のことを必死で話してる
可哀想に。
状況を変える力を持っていない人はこうなってしまうのか。
おじいちゃんは小さいころから私を1番可愛がってくれた。
親戚の中で1番初めに生まれた孫、「初孫」といっていつも特別扱いしてくれた。
幼稚園のときはバス停までの送り迎えをしてくれたし、小学生の時はプールに連れて行ってくれたし、中学生になってからもおばあちゃんには内緒だぞといって自分の少ないお小遣いから私にお小遣いをくれた。
今は家に閉じ込められている。
散歩が好きなおじいちゃん。
でもおばあちゃんが、「外に出ると危ないから」って言って家に閉じ込めている。
そんな家に閉じ込めていたら、おじいちゃんの頭は正常なのに、ボケていってしまうよ。
おじいちゃんはボケてなんかいない、私と話をする時とてもはっきり話すもの。
おじいちゃんは古いものが好きで、たとえば仏閣とかお寺とかそういうのが好きで、日本らしいものが好きなの。
植物も好きなの。
散歩して桜を見たかっただろうな、と思う。
家に閉じ込められておじいちゃんは幸せじゃないよきっと。
垂れ流しているテレビを見て、おばあちゃんの愚痴を聞いて、寝るのを繰り返す日々。
可哀想だよ、私がおじいちゃんをいろんな所へ連れて行ってあげたい。
でもそのためには家族の中で私の信用が足りていない。まだ子供だと思われているから。
私はいつ大人だと認めてもらえるのだろう、そして、そのときにおじいちゃんは生きているのだろうか。
頭の中でうるさいおばあちゃんの声に、一喝、寝る前くらい黙ってよと怒鳴りつけた。
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