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『元彼の遺言状』文庫サイズになって買ってよかった、一気読みでした!【読書レビュ】

おもしろかった! 買ってよかった。僕はあまり小説とか特にミステリーとかはほとんど読まないのだけれど、たまには読みたくなることもあるので、今年初の丸善まとめ買いの際に購入してきた本。ちょうど一年前のまとめ買いの際にも気になっていて、その時は「心淋し川」「推し、燃ゆ」を買っていて、横にあったこの本もすごく気になっていたのだけれど、上記のとおりミステリーはあんまり読まないこともあって、その時は買わなかった。でもずっと気になっていて今回文庫本になったのを見て喜んで買いました。楽しく一日で読み切り、内容を把握した上で翌日の午前中に二度読み完了、ミステリーでもやっぱり二度読みはいいですね。


元彼の遺言状

新川帆立 著 2021年10月の本

 主人公の剣持麗子さんが破天荒過ぎて強すぎて、でも小説の中でも彼女の成長や葛藤なども表現されていて、もちろんミステリーとしても面白いんだけれど、二度読みの際に散りばめられたいくつかのヒント情報をたどっていくのもとても楽しかったです。 
 剣持麗子さんもそうなんですけど、著者の新川帆立さんも相当にぶっとんでいる方であり、そのご経験があってこそ、こうしたキレッキレの書籍が書けるんだなぁと、頭のあまりよくない私は思います。新川帆立さんのご経歴が巻末の「解説」に書かれており、ざっと記載しておきます。

 1991年アメリカ・テキサス州ダラスで生まれ、宮崎県で育つ。16歳で夏目漱石の「吾輩は猫である」を読み自分も小説を書きたいと思ったらしい。しかしながらすぐに小説家を目指したわけでなく、まずは経済的な基盤を作るために国家資格のある専門職を目指すことに。医師を志望し東京大学の医学部を受験して不合格となるが、後期試験で医学以外の学部なら進学できることとなり、法学部に入学弁護士を目指すことになった。これと決めたらとことん突き詰めるタイプのようで、司法修習中には最高位戦日本プロ麻雀協会プロテストに合格している。2017年に弁護士登録。

元彼の遺言状 P347


現在、小説執筆に集中するために弁護士業は休業中だという。ほんと、麗子に似て、とんでもない人だ。(最高位戦日本プロ麻雀協会プロテストに合格が刺さった。。)

 
さて、ミステリーの読書レビュってすごく書きにくいのだけれど、ストーリーに直接かかわらない程度で、引用しておきます。

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贈与論

P115 「僕のおすすめは、マルセル・モースの『贈与論』です。あの本に出会って僕の人生が変わったと言いますか、それがきっかけで研究者になたようなものです」

元彼の遺言状 P115

はっ、いきなり来た。 そんなに多読家でもないけれど、この話って最近読んだよね。そうそう『思考のコンパス』山口周さんの本の第2章の近内悠太さんの章で出て来た!と思ってました。



雪乃の解説

P132 紗枝の話によると、雪乃は、森川家と昔から付き合いがあった呉服問屋の娘であったが、家業が立ち行かず、一家離散してしまった。まだ学生であった雪乃を哀れんで金治の私設秘書として採用した。しかし、雪乃はあまり事務作業が得意ではなく、結局はちょっとした買い物や雑事をこなしてアルバイト代を貰う程度の働きしかできなかったらしい。

 そうこうしているうちに栄治と付き合い出して、このまま結婚してしまうのかとささやかれていた矢先、栄治がうつ病を発症する。すると雪乃は栄治とあっさり別れて、以前より猛烈にアプローチをしていたという拓未と付き合って結婚した。実際に栄治と拓未は仕事上のライバルでもあったから、雪乃は勝ち馬に乗ったということなのだろう。

元彼の遺言状 P132

登場人物が複数人いる小説のため、特徴的な名前として読者の頭に残りやすい工夫をしてくださっていて、雪乃はまさに細くて白くて雪のようなというイメージの女性と書かれていたが、二度読みの際にこちらの記述は思わずなるほどと思ってしまった。こうしていくつかの箇所に仕掛けをまいていっている情報を二度読みで探していくのも面白いですよね。


弁護士の仕事って

P143 しかし、弁護士の仕事って、そんなにいいものだろうか。命を張ってまでやり遂げたいことだろうか。私自身、一生懸命やっているほうだとは思うけど、刃物を突きつけられるような状況で役割を貫く自信はない

元彼の遺言状 P143

こちら著者の新川さんの想いがそのまま文字になっているんだろうな、とも思いながら、このくだりも後々のストーリーのヒントになっていく、散りばめられた断片の一つですよね。 後々、麗子が変わっていく前の印象です。


法医人材

P189 「そんな部分に注射をする治療はしていない。不審に思って、主治医の浜田先生に上申したのだけど、結局その注射痕がなんなのかは分からなかったんです」
 私は首をかしげた。そのような痕跡がある場合、通常「事件性あり」として解剖などに回されるのではないだろうか。その点を朝陽に問うと、
 「法医人材が全く足りていないから、日本の死体の中で解剖されるのは一パーセント未満なんですよ

元彼の遺言状 P189

この部分は一回目読んだ時点で、『アンナチュラルと思いました。石原さとみさんが法医学者として「不自然死究明研究所(UDIラボ)」で働き、そこに運び込まれるのは、“不自然な死”(アンナチュラル・デス)」の怪しい死体ばかりというお話。その時のミコトさんの話がよく思い出されました!解剖されない「ご遺体」の話。
(まったくどうでもいい話ですが、娘の誕生日にアンナチュラルのディスクをプレゼントしたことがあります。)


使命感

P260 とても惨めな気持ちになった。だが、私は頭のどこかで考えていた。たとえ一生遊んで暮らせるだけのお金があったとしても、私は仕事をしているだろう。自分なりに考えたことを実行に移して上手くいった時はうれしいし、何もしないのでは人生があまりにつまらない。だから私は働く。そのあたりのどこかに、自分が求めるものがあるような気がしている。しかし、それ以上のことがよく分からない。

元彼の遺言状 P260

小見出しは自分の判断でつけているのですが、この時の麗子の心境は僕の感覚だと使命感という言葉が当てはまるんだと思うんです。何のために働くのか?というポイントは前半は明確にお金の話が出てくるが、P259、260あたりから、その何とも言えないものに突き動かされていく、麗子が成長していくシーン。P143の抜粋からすでに変化がある。自分では気づいていないが、お金のためでない何かのために行動しようとし始めている!


こころのねっこ

P262 「麗子さん、小学校の文集に『よわっちいお兄ちゃんを悪い人から守るために、べんごしになります』って書いたらしいじゃない。雅俊さん、恥ずかしかったらしいわよ」

元彼の遺言状 P262

 麗子の成長のストーリーに、心をウキウキさせながら(自分がカネのために働く人間でないので勝手に超共感していて)、たぶんどっかで来るだろうなと思っていたところに、彼女が弁護士を目指した背景が明かされるシーン。

当人は、既にまったく記憶にない、金の亡者的に前半部書かれているだけに、このシーンは「やっぱりね」な水戸黄門的な安心感はあったけど、超うれしかった。小見出しは、自分の子ども達の保育園の卒園式時に聞いて私が大泣きした曲のタイトルです。


責任感

P281 銀治が何を求めているのか知らない。金庫の中身が何なのかも分からない。しかし、頼まれたことを、法の許す限り、私が責任を持って実現してやろうと思う。これが私の仕事なんだから。

元彼の遺言状 P281

もうこのころの麗子は、完全に振り切れていて痛快。お金のことしか考えていなかったところから、こんなにも純粋に心から突き動かされて行動できるようになっている。そして、その行動を「これが私の仕事なんだから」と自分に言い聞かせている。この一文、著者の新川帆立さんが自分に言い聞かせているのかしら。 純粋に人のために自ら犠牲を取って行動できる人、超共感します!


インテグリティ

P310 結局その夜、私は警察署内の留置所に入れられた。

 暖房もないなか、毛羽立った薄い毛布一枚で寝ることになったけれども、これまでにないくらい堂々とした大の字になって、ぐっすりと寝た。

 お天道様に恥じるようなことは何もしていないと思った。

元彼の遺言状 P310

クライマックスの後のシーン、達成感で「大の字になって」寝る麗子。「お天道様に恥じるようなことは何もしていない」もうこの言葉、インテグリティしかないです。 カネがもらえるとか、仕事になるとか、そんなことはどうでもよくて、とにかくP262のようなこころのねっこがある中で、ひと様のために汗をかいて、「お天道様に恥ずかしくないか」という観点での判断基準に麗子が変化、というか進化?、したことが超超うれしかったです。


こころのねっこその2

P317 「お前、本当に何も覚えてないのか?」
 と尋ねてきた。

 覚えてないのかと訊かれても、何のことか分からないから、きっと覚えていないということだろう。

 「お前が小学校にあがったくらいの頃に、父さんに言ったんだよ。『私は外でいっぱい褒められるから、お父さんは、あんまり褒められていないお兄ちゃんを褒めてあげてね』って。今考えると、俺に失礼な話だけどな」

 「私、そんなこと言ったの?」私は全然覚えていなかった。
 「ああ、言った。あの時、兄は相当傷ついた」

元彼の遺言状 P317

前半に父上とのバトルがあったりしたシーンがあった後の最後のオチ的な内容をこちらで記載してしまっては本当はいけないのかもしれないが、やっぱりここは書いておきたかったのでお許しください。 本当に心優しい勝気の麗子が実は自分から父親に言っていた、という事実が確認されるシーン。
次作はまだ読んでないけど、麗子さん、もうちょっと素直になってください、強くて美しいのはわかるけど、と思う弱者な(このお兄ちゃんのような)自分がいました。。

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以上

最後まで読んでいただきありがとうございました!
一応、ミステリーの根幹に関わる内容には触れていませんが、麗子の成長という観点では触れてしまっていまして、その点はご容赦ください。

ブクログレビュもアップしておきます。みなさん、受け止め方がいろいろですね。




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