【書評】父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。/ヤニス・バルファキス/ダイヤモンド社
父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。/ヤニス・バルファキス/ダイヤモンド社
読みやすさ
★★★☆☆
スポーツへの転用度
★★☆☆☆
経済に関して全然詳しくない自分にとって、ここまで引き付けられる題名の本は今までなかった。
とんでもなくわかりやすい経済の話。
経済=お金の話?という具合に経済という言葉を遠ざけてきた自分でも、さすがにこんな題名の本なら理解できるだろう。
という思いで、手に取った。
率直な感想というと
「ちょっと難しかった。。。笑」
経済の歴史や、経済の話をいろんなわかりやすい例え話で表現している部分が多くあり、そこはとても理解できたし、非常に面白かった。
が、自分で説明できるかと言われたら、そこまで理解はできていない。
というのが、ちょっと難しかった理由だ。
本を読んで、中身を飲み込んだ感覚は無いが、自分の中で印象的だったことを下記の3つにまとめる。
1 経済の歴史を知る
ここの部分はタイトルの通り、とんでもなくわかりやすく、経済というものがどういった歴史を遂げてきたのかということが説明されている。
なぜ人種差別などの格差というものが存在するのか、という切り口から経済の歴史を掘り下げていく。
とんでもなく簡潔にいうと、農耕の発展によって生まれる、土地ごとの農作物の余剰が、あるかないか。それによって、記録するために文字が生まれたり、文化の発展に大きな影響を与えて、知能的な格差を生んだ。といったところか。
経済の歴史は、「余剰」によるものから。
自分のところで多く採れたものを人に渡す。もしくは他の人と交換する。そんなやりとりかたきている。
詳しいことは、とんでもなくわかりやすい話を読むのが手っ取り早いが、
農作物の余剰のやり取りの記録に生まれたのが文字の起源であるというのは意外で面白い。
農作物が豊富すぎて余剰のやりとりがなかったオーストラリアのアボリジニやアフリカの先住民たちは、豊富すぎたことが仇となって、文字が必要となることがなかった。
そんなことで文明の発展に影響を及ぼし、世界を人種格差に導いてしまったというのが、人間の歴史なのだ。
本書の中では、何万年も前の情景を思い浮かべながらその成り立ちを想像して読み進めることができる。
**
2 人間の楽観と悲観によるもの**
経済というものが何によって動いているのか。
そんなこと考えたこともなかった。
本書で例え話として使われていた、「狩人の話」
どう猛な鹿を追う狩人の集団は、鹿を仕留めて家族でご馳走を囲もうと思っている。
しかし、その鹿を仕留められるかというのは、何しろどう猛な鹿だから、簡単ではない。
一人でも気をそらしてしまうと仕留められない。
一方で、周りには簡単に仕留められそうなウサギがいる。
鹿を仕留めたら何日も食べていけるが、ウサギだと1食分にしかならない。
この集団が一致団結して鹿を追うのか、ウサギに妥協してしまうのか。
全員が協力することと、全員が協力するだろうと思っていることが大切であり、それが大きな動きを生み出す。
そんな狩人の話が経済にも言えるというのだ。
経済の先行きに関して、「きっとこうなるだろう」「きっとこうなるだろうとみんな思っているだろう」という人間の発想が経済の動きを出すというのだ。
お金や物自体の価値によって左右されるのではなく、そのことによって世の中がこう変わっていくだろう、という、
楽観的もしくは悲観的な予想
が経済の動きを生み出すという。
経済のその人間らしさに、先ほどの歴史と同様に、まあ確かにそうなるか、とも思いながら、自分はそういった予想のできる人間ではないということに危機感を感じる。
本書の冒頭にも、経済学者だけが知る経済は良くないことが書かれているが、自分にはどうもこの本を読んだところで、経済は有識者に動かされている感覚しか得られなかった。
実は自分のやっているラグビーも、人間らしさ満載なスポーツである。全員が本気で勝てると思っているチームと、誰か一人でも負けるかもしれないと思っているチームでは実力の発揮ぐらいに大きな差が出る、マインドゲームである。
その揺るがない強い心を持ち続けられるチームが勝てるチームである。
そのための万全なマインドの準備が必要だ。チームの持って行き方。人間らしさを強みに帰るチーム作り。
経済に関しては、人の流れを敏感に感じとる能力を磨かなければならない。
ラグビーに関しては流れを生み出す側としてマインドセットを統一していかなければならない。
立場が違っても、人の流れを感知する必要があるようだ。
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3 思考実験による、幸せとは**
そんな、人間らしさをもつ経済も、人工知能やAI技術の発展によって変化を起こしていく。
映画・マトリックスの内容を例に出しながら、
人工知能に支配されていることすら気づいていない世の中になるのではないかという思考実験が紹介されていた。
人工知能に支配された世界は、自分自身はカプセルに入れられた植物状態の人間だが、VRのような世界の中で無限の喜びが待っている。そっちの世界で暮らしているのだ。全ての欲望が満たされ、全てがうまくいく。
しかし、こっちの夢のような世界に行ってしまったら二度と戻ってくることができない。
果たしてそんな世界に行きたいだろうか。
自分は絶対に行きたくない。そしてほとんどの人がきっとそう答えるだろう。
究極の選択である。
欲望を満足させることと本物の幸せは違うのだ。
本書の中で語られている、本物の幸せは、
「何者かになるプロセスである。」
「満足と不満の両方がなければ、本物の幸福を得ることはできない」
と述べられている。
葛藤を経験することで人は成長し、そのことに人生の幸せというものを感じるのだ。
居心地の良い環境、なんでも自分の思い通りにいくこと、楽な練習、点差のつく試合
自分に置き換えて考えてみると、自分の欲望を満たすことの考えられるシチュエーションはたくさんある。
そのことが悪いわけではないが、それが本当の幸せなのかと言われたら、そんな成長のない人生が幸せであるとは考えられない。
小さな衝突を自分なりに突破していくことに幸せを感じ、大きな壁をぶち破った時に心から喜べるのだと思う。
自分の価値観を人に押し付けるわけではないが、この思考実験により、きっと多くの人がそうであると考えられたら、世界は変わる気がする。
人工知能の発展はそんなことを気づかせてくれる。人間にとっての本当の幸せとは。
―――――
はっきり言って経済に関して一丁前に語れるほど理解できたとは言えないし、
タイトルの通り、とんでもなくわかりやすかった部分と、ちんぷんかんぷんだった部分が半々だった。
ただ、文明の成り立ちや、未来の人工知能の行く末などを経済という題材を使って説明していたところは非常にわかりやすく、最終的に本当の幸せとは何か、ということを考えさせられるとは思わなかった。
翻訳本らしく、当たり前だが日本の例えがないあたりが、読んでいて自分の世界を広げてくれる考え方・視点を与えてくれた。