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目指せ!脱・野球音痴

周囲が当たり前のように知っていることを自分だけが知らないことが、時々ある。

たとえば、高校生の頃。
軽音楽部」はカスタネットやピアニカを和気あいあいと演奏する部活だと思い込んでいた。
新入生歓迎ライブを聴きたいという友だちに付き添って視聴覚室に行きノコノコと最前列に座り、突如鳴り響いた暴力的な爆音に耳を引きちぎられたかと思った。
1曲聴いたあとで泣きながら重い鉄扉に体当たりするようにして逃げ出したら、「俺たちの演奏そんなによかった?」と演奏メンバーの一人が飛び出してきた。
感涙と勘違いされたらしい。

たとえば、大学生の頃。
高校時代のクラスメイトと、偶然電車で顔を合わせた。
すっかり垢抜けた様子の彼女が「最近よく代官山に行っていて」と言ったから、私は「へえ、健康によさそう」と返した。
彼女は一瞬怪訝そうな顔をしたけれど、そのまま話を続けた。私は何か間違えたらしいとは思いつつも問いただすことはできずに、内心冷や汗をかきながら彼女の話に相槌を打っていた。
大学に着いて友人に事の顛末を話して、ようやく代官山が山ではないことを知った。青山が山じゃないのは知っていたけど、代官山まで山じゃないなんて。高尾山は本当に山なのかと不安になってくる。

たとえば、野球のルール
率直に言って、それまでは野球のことを「球を打つや否や超走る競技」としか認識していなかった。
あまりにも雑。
ちなみにサッカーは「球を蹴りながら超走る競技」だし、テニスは「球を超打ち合いまくる競技」だ。とりあえず球さえ追っておけば間違いないと理解している。
私が理解できないのは、球に群がる人々のあの常軌を逸した興奮だ。体育の授業中でもきちんとした試合でも、常夜灯に群れる羽虫のように彼らは躍起になって球に突進していく。
どんだけ球が好きなんだ。
そのギラついた目つきが怖くて、私はいつも極力離れたところから試合を眺めていた。

そもそも、スポーツのルールは難しすぎるのだ。
運動神経がないから、常に目先のことでいっぱいいっぱい。全体のルールなんて把握して動けるわけがなかった。
だから私はいつも、「今だ!走れ!」と言う周りの声を頼りにどこを目指すべきかもわからぬまま走ったし、「ヘイ、パス!」と求められればなんの疑いもなく味方にも敵にも球を渡した。
そのおかげで毎学期末になる頃には、すっかり危険人物として名を馳せていた。

そんなわけで細かいルールを知らないまま競技に参加していたため、「足しか使っちゃいけない」はずのサッカーでいきなり誰かがボールを投げても誰からも咎められないのが本当に不思議だったし、テニスにおいてちゃんと相手側に打ち返したにもかかわらずアウトと言われてしまう現象にも納得がいかなかった。
もちろんどちらも球が白線を越えたからという明確な理由があるらしいのだけれど、当時の私は「ものすごく頑張って蹴った(打った)のになんで!?」と当惑してばかりいた。

そんな中で野球は、サッカーやテニス以上に取っつきにくいスポーツだった。ルールがさらに複雑に見えるからだ。
ボールを打ったくせにじっと佇んでいる選手を見れば「早く走れ!」と拳を握ったし(ファウル)、1番じゃなくて4番がちやほやされているのも意味不明。
監督の存在意義もイマイチ感じられなかったし、どうしてみんなわざわざ痛い思いをしてまで塁に向かってスライディングしてくるのかと疑問に思っていた。
感覚としては、仰向けに飛び込んでいった方が塁に一気に近づけそうな気がするのだけれど(それはそれで危険)。

それから背番号と人数が一致していないのも謎だった。どう見てもひとチーム20人もいないのに、51番の番号を背負ってる人がいたりする。
しかもファーストなのに背番号は1じゃなかったりするし。
紛らわしいにもほどがある。

そういえば体育の授業中、自分は左利きだから左から回るのかと早合点して真っ先に三塁に向かって走って、敵味方双方から大ブーイングを食らったこともあった。
「右中間」は「宇宙間」に脳内変換され、「あの選手、宇宙まで球飛ばせるんか……やば」と思っていた。
もっとも「宇宙間」に関しては、同様の勘違いをしている人がけっこういて心強かったのだけれど。


そんなこんなで27年、生粋の野球音痴として過ごしてきたわけですが。「そろそろ野球のルールでも理解してやるかな」と重い腰を上げることにした。
その理由はいくつかある。

まず一点目。
フォローしているnoterさんに、なぜか野球好きが多いため
初めは「ほえ〜」と口を半開きにして読んでいたけれど、何度も彼女たちの野球観戦にまつわる投稿が流れてくるたびにだんだんと羨ましくなってきた。
ルールがわかったら、贔屓のチームができたら、こんなにも楽しめるものなのか。私もそろそろ、そちら側に行ってみたい。

そして二点目。
彼氏が野球好きなのだ
とはいえ「彼氏のすべてを理解したくて、野球を勉強し始めたの♡」なんて惚気ようとしているわけでは決してない。
最近の彼はテレビでオリンピックの野球を観戦しながら、暇になった瞬間『MLB The Show 21』という選手&チーム育成ゲームに切り替えるという、一日中野球漬けの生活を送っていたのだ。
彼が食い入るように試合を観ている(あるいは操作している)間、なんとなく私も一緒に観る羽目になる。

そして彼は私があまりルールを理解していないことに薄々勘づいているらしく、「なんでこの人がてろてろ走ってるのかわかるか?」(答え:ホームランだから)、「この選手知ってる?時々バラエティ出てるんだけど」(前田健太氏。検索して彼がかなりの画伯であることを知った)などと時折水を向けてくる。

これは悔しい。明らかに馬鹿にされている。
とはいえずっと観ていると、少しずつ知識が増えていって楽しい。
特に最近はストライクが一種類じゃないことを知って、うっかり感動してしまった。
野球に馴染んでいる方のために恥を忍んで補足すると、これまで私は「空振り=ストライク」だと思っていて、「三回空振り=アウト」だと思っていた。
けれど、それは違った。というか、それだけではなかった。
バットを振らなくてもストライクゾーンに入ればストライクになるし、バットに当たってもファウルになってストライクになることはある(この辺はまだよくわかっていない)。
そんなこんなで少しずつ野球に見慣れていく中で、「もしかしてそろそろ理解できるんじゃない?」と少しだけ調子に乗り始めた。
それが二つ目の理由。

そして三つ目にして最大の、野球のルールを理解したい理由。
それは、私の激推ししているきりえやさんの偽本(私のnoteにおいては三度目の登場!)に、野球関連の作品が地味に多いためである。
偽本といいぬか床といいどんだけ好きなんだと自分でも呆れますが、今年は好きなものを推して推して推しまくる年にすると決めたので。どうかお付き合いくださいませ。

さてと、順に見ていきましょう。

①『だいだ赤おに』(原作:ないた赤おに

ひたすらかわいい。友だちになりたい。


②『代打ニック』(原作:タイタニック

バット一本で彼は何をするつもりなのだろうか。


③『ファースト』(原作:ファウスト

悪魔もちゃっかりユニフォームを着ているのがツボ。


④『黄金球』(原作:黄金虫

圧倒的に主人公よりも目立っている魔球。バッター眩しそう。


⑤『金色打者』(原作:金色夜叉

『黄金球』のまさかの続編。今度は主人公が光り輝く。タイトルの『黄金球』には球、『金色打者』にはバットが入っている。芸が細かい!

それにしても、ついきりえであることを忘れてしまう精巧さ。
先日原画展に行って、ほんとに切ってんだなぁと見入ってしまった。

こうして野球関連の作品を並べてはみたけれど、実は原作をきちんと読んだことがあるのは『ないた赤おに』くらい。他の作品は国語便覧や世界史の資料集であらすじを眺めた程度だ。
けれど、そんな私でもわかる。

絶対にこんな話じゃない!(笑)


きりえやの高木亮さん、野球好きなのかしら。それとも単純に絡めやすかっただけかしら。
野球ワードを知っていたらきっともっとニヤニヤできるのだろう。絶対にそちら側に行かねばと、闘志が湧いてきた。

そうと決まれば、漫画探しだ。
高い壁にぶち当たった時は、漫画にすがるに限る。
算数が数学になり気が遠くなった中学時代は、小学館の『ドラえもんの学習シリーズ』、歴史に躓いた時には同じく小学館の『名探偵コナン・学習漫画シリーズ』、そして古典がスイスイ解けなくなった高校生の時は『あさきゆめみし』(大和和紀)。
これまで私は、数々の苦境を漫画によって乗り越えてきた。

漫画の偉大さは、無味乾燥だと思い込んでいた数式や文章をイキイキと見せてくれるところにある。
その明快さに、その臨場感に、何度助けられたことだろう。

さーて、どの野球漫画を読むかな。
真っ先に浮かんだのは、『巨人の星』。
「消える魔球」「大リーグボール養成ギプス」といった、私のような未読者にも知られている数々の謎の名詞の元ネタはたしかこの作品だったような。
でも……今読むには暑苦しいなぁ。だってちゃぶ台ひっくり返すおじさんが出るんでしょう?

タッチ』はどうだろう。野球応援で散々吹いたから親近感もあるし。
けれど、双子のどっちかが死んじゃう話だったような。死ネタは嫌だ!私は楽しくルールが知りたいのだ。

そういえばまだ我が家にテレビがあった頃(地デジ化とともに消滅した)、『MAJOR』というアニメがやっていた。主人公の小さな男の子がひたすら壁にボールをぶん投げていた記憶がある。たしかお父さんが野球選手だったはず。
これいいんじゃない?と何気なく巻数をチェックして、絶句。

圧巻の、78巻。

いくらなんでも多すぎる!助けて〜、ドラえも~ん!

そんなわけで、私はいま野球のルールを手っ取り早く覚えられそうな漫画を探索している真っ最中だ。できれば爽やかに、そしてハッピーに、光る魔球の仕組みやスライディングの効能が知りたい。そんでもって私の積もりに積もった無知と思い込みを、鮮やかに打ち破ってほしい。

かなり欲張りな気もするけれど……あきらめたらそこで試合終了ですよ(これはまた違うスポーツ漫画)。


↓ これまでに書いたきりえやさんが登場する話。

↓ これまで紹介した偽本も、何作か収録されています。

ジュンク堂池袋本店で開催中の「きりえや夏の偽本まつり2021」も、ぜひ!


お読みいただきありがとうございました😆