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「前橋市アーバンデザイン」を読解くvol.9 第5章:長期ビジョン(後編)

前橋市の再開発計画「前橋アーバンデザイン」(以下MUD)を章ごとに読解いていく。第5章「長期ビジョン」についての(前編)に引き続き(後編)で具体策を読解いていく。

4)街路ネットワークについて【複数交通手段への対応】

「歩行者・自転車がより便利に、簡単に往来・移動できるようにすることで、利用者の増加を図る」という解説なのだが、クルマの乗り入れを少なくして道路や公園などのパブリックスペースでもゆったり街を楽しめるようにしようということでしょう。(下のイメージ図、MUDより抜粋)民間の土地は所有者の利益追求優先なので難しい面はあるが、道路は市の持ち物なので何とかなるんじゃないかと思う。思い切って車を締め出して、緑を多くして、歩いていて楽しい街になるのはステキです。

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ちなみに、こちらの街路ネットワークも国交省が推奨する「まちなかウォー―カブル推進プログラム」の内容に準拠している。

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国交省がこれからの都市像としてまとめた提言の中心が「ウォーカブルな街づくり」。官民連携で税制等のパッケージ支援により、公共空間の拡大・改変・利活用を推進しようという施策。全国200以上の自治体がこのプログラムに参加しているが、当然前橋市もエントリーしている。またウォーカブルな街にすると健康寿命が延びるというエビデンスもあり、この分野の研究は非常に興味深い。(千葉大の花里先生の研究事例↓)

では、MUDの中ではウォーカブルな街をどうやって実現していくのか、具体的に示されている5つの施策を見ていこう。

■改善イメージ1)「まちなかの通過交通を外周へ誘導し、交通量を減らす。」現状、立川町通と千代田通が2車線でマチナカの車通りとして頻繁に活用されているが、指定区域を東西に横断する立川町通道路を地下化もしくは高架化できれば解決できる課題だと思う。ウオーカブルの実現には少なからず道路整備などの公共事業の支出が必要になるということだろう。

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■改善イメージ2)「街路空間を積極的に活用して複数交通手段対応の主要街路とする。交通量の減った主要街路は、歩道上のオープンカフェや、車道を定期的に歩行者天国にしてイベントを開催するなど新しい使い方を進める。」現在もマチナカで小さいイベントは開催されているが、大きなイベントは年3回の「祭」がある。その時ばかりは、みんながマチナカに大挙するイベントであり、この規模のイベント(ファーマーズマーケットやオクトーバーフェスなど)が開催されると、相当賑わう予感!

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■改善イメージ3)「2次的街路、裏通りを改善し人の往来を促進する。(自動車が対面通行する街路を一方通行に変更して歩行者空間を確保するなど)」現状でもマチナカの裏通りは、店舗への配送車くらいしか通ってないので、あまり効果は見込めない気がする。また、裏通りの建物も”さびれたスナック”など老朽化や活用面での課題があるので、もっとダイナミックな再開発の後に、裏通りの活用も考えるべきだろう。

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■改善イメージ4)「歩行者・自転車が、安全に便利に利用できる多角的使用可能な動線として、中心市街地を取り囲むグリーン・ループを整備する。グリーン・ループ沿いに新規開発投資も期待できる 。」これは、構想としてはわかりやすいし、何となく健康に良さそうと感じるが、いざ道路整備となると歩道や緑地帯の確保などは公共事業の領域なので、時間がかかるだろう。外周部分に人が集まることと内部のマチナカに人が集まることにどんな関連があるかもちょっと疑問。マチナカでのウォーカブル実現を先行すべきだろう。

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■改善イメージ5)「交通網に絡めた結節点としての拠点をつくる。県庁、前橋駅、中央前橋駅を頻繁に10~15分間隔に行き来する自動運転循環バスを導入し、移動の利便性を高める。」ウォーカブルの間を埋める巡回交通手段は不可欠だし、車を排除するためにはマチナカに来るための公共交通手段も大切。これが真っ先に整備されるべき点かもしれない。

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「街路ネットワーク化」の5つの改善イメージの中には優先順位や時間差があると思うが「ウォーカブル」実現のための「車の排除」は、マチナカだけでなく前橋市を変えるための非常に大切な長期ビジョンだと思う。

5)オープンスペースについて【水と緑のネットワーク化】

「オープンスペース化した低未利用地や前橋公園、利根川、広瀬川、馬場川をつなぎ、水と緑のネットワークをつくることで前橋らしいまちの魅力を積極的に高める」という解説。前橋市は古くから「水と緑と詩のまち」と謳われていて、赤城山と利根川を背景とした豊富な水と緑がある。私も小さいころには川遊びをしたり、川沿いをサイクリングをしたりして親しんだ記憶があり、水と緑があるととても落ち着く。マチナカが、水と緑で繋がったらどんなにステキかと思う。では、具体的にどんな施策が考えられるのだろうか。

■改善イメージ1) 「低未利用地を、オープンスペースとして利活用」点在する駐車場や空き地を商業地として活用しようというもの。大規模な再開発までは時間がかかるので、空いている土地から新しい事を始めようというもの。下の事例のように、駐車場や空き地にキッチンカーを置いたり、再開発までの短期間でも賑わいが作れる方法はありそうだ。それに、今の時代は固定的な大型投資物件より、街の成長に応じて軽やかで柔軟に変えられる物件の方が求められている気がする。その一つの解決法が「コンテナ」かもしれない。実は前橋にはコンテナ建築を専門とする会社があり、日本ではまだ珍しい。私もマチナカで事業をする際には、是非コンテナを使って「軽やかな」建築をしてみたい。

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※前橋市にあるステキなコンテナ建築をする会社さん↓

■改善イメージ2)「緑の広場をつくり、交流やイベント、憩いの拠点とする。」これ、一番わかりやすいし、一番魅力的です!ミクストユースで住職商学が街に同居するなら、必ず「間」としての公園が必要だと思います。何かあったら、ここに来てホッとする。自分を取り戻す。でも、細かく分かれてしまった商業地の土地をどうやって集めたら良いのか?空き地や駐車場を片っ端から芝生にしていくのもありかも。いづれにせよ、本気でマチナカ公園を作るためのステップをみんなで考えるべきだと思う。

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■改善イメージ3)「既存のオープンスペースを積極的に活用するための改善を図る。」これは、都心のように大型商業ビルのオープンスペースがあるわけではないので、そんなに期待できないですね。

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■改善イメージ4)「水に親しむオープンスペースを整備し、水のイメージを高める。」イメージ2のマチナカ公園と一体ですすめるのが良さそう。中央の大きな公園と、それと繋がる河川緑地ができたら、なんてステキなんでしょう。

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■改善イメージ5)「城跡や歴史文化のイメージをまちづくりに反映する。」街づくりの視点としてはとても大切だと思うが、前橋の高度成長期を支えた歴史的建造物があまり残っていないのが非常に残念。前橋は生糸や絹織物産業で栄え、レンガ造りの工場や倉庫が並んでいた街。古くからのレンガ屋さんも残っていると聞いたことがあり、街の特色として「レンガ」をモチーフにする手法は確かにアリだと思う。

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本橋絹織工場

※私の実家も地場産業である「絹織物」の工場だった。三角屋根の昔ながらの町工場であったが、残念ながら廃業&解体。

■改善イメージ6)「オープンスペースをつなぐ緑のネットワークを整備し、オープンスペースをつなぐ緑のネットワークを整備し、緑の前橋のイメージを高める。」新規に道路を緑化するのはタイヘンなので、まずは緑化ができている通りを活性化させよう。

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「水と緑のネットワーク化」の6つの改善イメージは、どれもステキな構想だと思うが、実現に向けての策が感じられなかった。今後、MUDの中で具体策が提示されるのを期待したい。

6)土地利用について【ミクストユース化して昼夜間人口のバランスをとる】

「まちの中の用途の複合化を促進し、住人口と就業人口の増加による昼夜間人口のバランスをとり、昼夜問わずまちに人が行き交う仕組みをつくる 。」という解説。イメージが添付されているが、全然イメージできないし、ステキじゃない(笑)

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それはさておき「職住比率を【3:1】に近づける」というミクストユースのKPIが出ているので、まずは「働く場」の準備が必要になる。商店でもいいし、オフィスでもいい。具体策を見て行こう。

■改善イメージ1)「多様な居住ニーズに対応した住宅を増やし、人口密度を上げる。」具体的な建物の事例が示されている。1F部分は店舗として街に開き、2F以上は住居と事務所をフレキシブルに使えるといった複合ビル。住戸部分も自分が住む以外の不要なスペースは、部屋貸しできて、長年にわたり多世代が活用できる。また、パブリックテラスの活用で街に溶け込んだ建物になっている。

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■改善イメージ2)「既存建物をリノベーションし、職を中心とした昼間人口を増加させる。」リノベーションが完了し、オープンした「白井屋ホテル」が先行事例。

でも、ここまで活用できるストック物件があまり存在しないのも現実。商店街の1F店舗、2F住居の間口5~10ⅿの木造物件が多く、リノベしたくても耐震性に問題があったり、改装しても設備に問題があったりと、悩ましい問題もある。またマチナカでも30万/坪程度の土地価格なので、固定資産税払ってそのまま放置という物件も多い。神戸市が未活用の「空き家」の固定資産税を上げるというニュースを見たが、マチナカもそのくらいしないと不動産が動かないかもしれない。

■改善イメージ3)「ローカルコンテンツを生かした商業店舗を増やす。」街のカラーを出していくためには「前橋ならでは」の商品企画が重要になる。それが、下のイメージではカッコ悪すぎだが(笑)これを実現しようとすると「建物」ではなく名物という「コンテンツ」を作らねばならない。ただし、このコンテンツづくりが建築を軸とする都市計画メンバーが不得意だたりするので、ココはコミュニケーションデザイナーの出番!私が前橋の中で最もやっていきたいことなので、是非ご期待を!(もっとステキなお店にしてみせます~)

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■改善イメージ4)「学生などの若者がまちに関わるきっかけづくりを進め、将来の定住促進を図る。」ミクストユースの「学」は若者がいる街と定義されているが、本来は「学校」自体が街づくりに参画するということが本質だと思う。全国のまちづくりを牽引する各地のUDC(アーバンデザインセンター)では、大学等の教育機関との連携が必須となっている。街づくりや都市生活を大学の研究テーマとし、それをマチナカで研究した学生が、卒業した後もマチナカで街づくりを実践する。既に在前橋の複数の大学で「まちづくり」に関する研究がなされているが、今後はMUDを実践するMDC(前橋デザインコミッション※前橋版UDC)が教育機関と深く連携していく必要があるだろう。

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「ミクストユース化して昼夜間人口のバランスをとる」の4つの改善イメージだけでは職住比率(3:1)の目標には程遠い気がするが、コンテンツ作りや教育機関との連携など、しっかりと「仕組み」を構築し「ながきにわたり街づくりを継続する」することが大切だと理解した。

長期ビジョン(後編)は、ボリューミーなコンテンツになってしまったが、これを理解することで、やっと全体像が見えてきた気がする。しかし、理解が深まると「では、実際どうする?」「何から始める?」のような疑問が生まれるのも事実。次章は、もう少し地域を絞った「地域ごとのまちの将来像」が具体的に出てくるようなので、その中で具現化の道筋が現れるのを期待しながら読解いていきたい。

次回もお楽しみに~


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