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『女帝 小池百合子』 石井妙子

 2020年5月に発売された本書は、現在では売上は30万部を超え、政治系の本としては異例のベストセラーとなっている。
 もちろんこれは、同年7月に行われる東京都知事選挙を見越しての発売という文藝春秋の販売戦略の巧みさによるところは大きい。
 しかし、そのような販売戦略を取られなくても、本書は話題の1冊になっていたことは間違いないだろう。
 
 『小池百合子』という記号



 この記号を大きくしたのは紛れもなく小池百合子自身である。
 また、本人自身も強くそれを望み、人生を懸けて、『小池百合子』の価値を釣り上げた。
 彼女は実務家としての評価はほぼゼロに等しい。しかし、ニュースキャスター時代に培った立ち振る舞いや勝馬に乗る嗅覚の鋭さで、世論の評価を勝ち取ってきた。
 『小池百合子』という記号を肥大化させ、とうとう東京都知事というポストを手に入れた。
 しかし、それゆえ、本書の話題性が高いのもある意味必然だ。過去に出版されていた本のなかで、ここまで小池百合子を詳細に語った本は他にないからだ。
 彼女が必死でコントロールしてきた『小池百合子』という記号は、築地問題の対応や国政選挙における都民ファーストの会の大敗北で、その価値を下げた。そして、本書の出版によっても彼女の評価を大きく下げたことには違いない。
 メディアを駆使してのし上がった彼女が、メディアによって蹴り落とされるのはなんとも皮肉なものである。
 

 小池百合子は『小池百合子』をいかにして作り上げたのか。
 
 では、内容に入っていきたい。



1.要約



 本書は、小池百合子の生い立ちから、東京都知事になった現在までの過程が語られている。
 幼少期〜高校生頃まで。後述する疑惑のエジプト時代。テレビ東京のキャスター時代。国政時代。都知事時代が章別に語られている。
 幼少期から現在の小池百合子に通底していることは絶えず自分を飾り続けることだった。
 

『小学生時代の百合子は、「どんなお金持ちの子どもよりもお金持ちのお嬢さんに見えた」と同級生はいう。 ……神戸には「ファミリア」という有名な高級子ども服店がある。……百合子は「ファミリア」から抜け出たような恰好をしていたという。だが、実際には、すべて母の手作りだった』Kindle版333頁


 関西有数のお嬢様学校であった中高一貫校の甲南女子中学校に進学するが、彼女の父親の事業の失敗や、国政選挙に落選が原因で小池家の財政状況は非常に悪かった。
 小池百合子は甲南女子に通い続けるために高校2年生の頃はアルバイトをして、家計を支えていた。

 小池百合子は甲南女子を卒業後、一旦関西学院大学に進学するが中退し、エジプトに留学をするのである。
 そして、本書は小池百合子のエジプト生活に触れつつ、小池百合子の経歴最大の疑問である『カイロ大学主席卒業』の真偽について迫っていく。
 
 エジプト留学の当時、小池百合子のルームメイトはこう語る。

『百合子さんは仕草や表情が豊かで、相手の気をそらさない。目を大きく見開いて、じっと上目遣いに相手を見る。……ダジャレやギャグが次々と飛び出す。カイロでは男性たちにとってアイドル的な存在だった』Kindle版881頁

 
 エジプト時代の小池百合子は現地の邦人男性と遊んでばかりで、ほとんどアラビア語の勉強をしていなかった。

『遠回しに早川さんは「勉強しないでも平気なの?」と尋ねたが、小池から返ってくる言葉はいつも一緒だった。
「いいの。だって、お父さんが……カイロ大学に入れるように頼んでくれているから。……」』Kindle版896頁
 帰宅すると小池の姿がなく、ダイニングテーブルの上に、めずらしくノートが広げてあった。……その、あまりにも拙いアラビア語を見て驚く。……英語でいえば、「This is a pen.」にあたる文章が、ぎこちなく上下していた。Kindle版965頁


 小池百合子はそんな状態だったが、父親のコネでカイロ大学に編入することができたのだ。
 彼女はその後、カイロ大学を主席で卒業した、と自身の経歴を述べていたが、これにも大きく疑問は残る。
 

 『日本人初のカイロ大学卒業生として知られる小笠原良治大東文化大学名誉教授は、アラビア語を日本で学んでから……カイロ大学に入学したという。日本人留学生の中では群を抜く語学力だったというが、その小笠原でもカイロ大学では留年を繰り返し、卒業までに七年を要したという。 アラビア語の口語すら話せなかった小池が、文語をマスターして同大学を四年間で卒業する。そんなことは「奇跡」だと嫌味を込めて語る人は少なくない』Kindle版678頁



 また、同居人も小池百合子はカイロ大学を卒業していないと証言している。


 小池はエジプト留学の最中に作った、日本のテレビ関係者との人脈を利用して、キャスターの仕事へと繋げていく。
 先述したエジプト時代での邦人男性との無数の交流は無駄ではなかった。
 カイロ大学を卒業した知的な女性という肩書を引っさげて次のステップに進むのである。

 キャスター時代の小池は引き続き、人脈作りに勤しむ。

 『番組に出るようになった彼女は、「努力」をかかさなかった。番組にやってくるゲストには必ず礼状を書き、スタジオ内で並んで一緒に撮った写真を同封したのだ。…… 一方、アラビア語通訳としての需要は、ほとんどなかった』Kindle版1,552頁


 そして、キャスターになってからは、インタビューを受けることもあり、小池の人生の脚色はどんどん増していく。

『無名の彼女が世に出るための売り物は、カイロへの留学体験とカイロ大学卒という異色の学歴だけだった。だからこそ、ピラミッド写真や〝首席〟が加わりその「物語」はどんどん大きく、より魅力的になっていくのである』Kindle版1,574頁



 小池は40歳になる頃、キャスターとしての賞味期限も迎え、次の転身先を探していた。
 そんな最中、日本新党の細川護煕から声がかかり、国政に出馬することとなった。
 ちなみにこの出馬は、当時仕事をしていたテレビ東京には極秘に行われており、世話になったテレ東の会長にさえ、事前に教えることはなかった。

 俺は反対したよ。ようやくキャスターとして乗ってきたところじゃないか。議員なんて、バカバカしい。キャスターのほうが、よほど世の中に影響を与えられる……彼女はハンカチで涙をぬぐいながら化粧室に立った。でも、戻ってきたらケロッとしていて。『これからもよろしくお願いしますね』と言われた。あれれ、さっきの涙は何だったんだって思ったよ(笑)Kindle版2,018頁



 また、小池の不義理な態度はこのように評されている。

 「……男が組織の中で上り詰めるというのは、大変なこと。努力して権力闘争を乗り越えて、ようやく、そのポジションを掴む。でも、小池さんのような若い女性は、見た目と感じの良さで、あっという間に成功してしまう。男の成功者の苦労はわかっていないと思う。だから平気で男の人のメンツを潰すし、立場への配慮がない」Kindle版2,049頁


 この後、小池は細川護煕の旗色が悪いとなると新進党の党首になる小沢一郎に鞍替えする。また、その後は、日本新党から離れ自民党へと移る。
 彼女のこのような不義理な態度は、全て自分の権力欲を満たすために、行動しているものだ。
 彼女は、自身の行動により次の権力を手に入れられば行動する。
 そうでなければ彼女は動くことはない。
 阪神淡路大震災の被災者からの嘆願は無視をした。
 環境大臣の頃、アスベスト被害者への救済はマスコミ向けにアピールするための道具に過ぎない。アスベスト被害者を手厚く助ければ、官僚からの反感を買い、小池自身の立場が危うくなることはわかっていた。そのため、小池が被害者に向けて言ったことは何も守られなかった。
 また、防衛大臣の頃のエピソードも強烈である。

『……「イケメンの自衛官を十五人集めて頂戴」 言われるままに、若く、見栄えがいいと思われる男性自衛官を十五人、集めた。彼らに囲まれて談笑する姿を撮影させると、小池はそれをPR写真としてマスコミに公開した』Kindle版3,300頁
『七月は、……数時間も登庁しなかった。自民党の国防部会にも、ほとんど出席したことがないという小池に、……官僚はレクチャーしようとするが本人が嫌がる。「学ぶ」ことはせず、「見せる」ことにしか関心がないのだ。レクチャーを断わり、テレビ出演や雑誌のグラビア撮影を優先する。……パフォーマンスに走り、実務は疎かになる』Kindle版3,307頁


 為政者らしからぬ態度で、自己の権力への追求に走る小池の行動は分かりやすい。
 環境大臣や防衛大臣の数々の身勝手な行動の結果、第2次安倍内閣において、内閣のポストは用意されていなかった。
 その事実が分かると、活動の場を都政へとあっさりと変えた。国政おいて権力を手に入れられないと悟ったからであろう。


 そして、2016年7月31日。
 彼女は東京都知事選挙に当選し、東京都知事の椅子を手に入れ、現在に至るのである。




2.感想


 奇妙な読後感に襲われた。
 思い浮かんだ感想は小池百合子への嫌悪感ではない。

 『女性が東京都知事になるにはこれくらいの神経の図太さなければならないのか』

 この一言に集約される。称賛と皮肉が入り混じった感情を抱いていた。
 
 本書では何が何でも成り上がろうとする、女帝の生き様が克明に描かれている。
 世話になった人を平気で裏切り、権力を手に入れていく。
 実務能力より人脈と愛嬌。どんな組織にもこのようなタイプの人間はいるが、ここまで突き詰めたのは小池百合子以外いないのではないか。
 権力への凄まじい渇望が彼女を突き動かす。そんな彼女にとって政治家という職はまさに天職に違いない。
 この表現が適切かどうかはわからないが、小池百合子を現代風に言い換えると、意識高い系というものに部類されるだろう。

 僕が思うに、小池百合子は細木数子に似ている。

 溝口敦の名著『細木数子 魔女の履歴書』に描かれている細木数子像と重なってくる。
 平気で嘘をつき、人間を利用する。強い男尊女卑の価値観。占い師の能力すらも借り物に過ぎず、実務能力はない。権力の邪魔になるものは徹底的に排除する。
 女帝と魔女の共通点はかなり多い。
 彼女たちの細かな経歴や立ち振る舞いを知れば人の上に立つべき人間ではないことは直ぐに分かる。
 ただ、残念なことに、上に立つ『べき』人間と上に立『てる』人間は別なのだ。
 ここで興味深いデータを紹介したい。本書でも紹介されているが、都職員の小池百合子への評価である。
 都政新報という都政情報を多く扱う新聞社がとった都職員へのアンケートだ。「小池都政1期目を百点満点で表すと何点かというものである」
 これによれば小池百合子は46.4点と言う、歴代知事の石原、猪瀬、舛添もとったことのない評価だった。
 実務家の能力としての評価は皆無に等しい。

 そんな小池百合子は2020年11月現在も引き続き知事を務めている。
 下がってしまった彼女の価値を上げるチャンスとして東京五輪は利用されるに違いない。
 自分の権力のために邪魔になるならば、都民ファーストの会すら簡単に切り捨てるだろう。
 彼女の権力の欲望は次にどこに向かうのか。

 
 


3.評価


 著者の徹底して調べあげる姿勢に圧巻された。
 世間で流通している、クリーンな小池百合子像とは、全く別の執拗に権力を追求する女帝小池百合子像を生み出すことに成功している。緻密な取材内容にはとてつもない説得力がある。
 幼少期〜エジプト留学期までは、小池側から語られる一方的な物語しかなかったが、よくもここまで構成できたものか、と驚きを覚えた。
 ここまでの力量がある著者だからこそ、最後のピースである同居人を引き寄せることができたのであろう。
 この凄まじい情報量。巧みな構成力。どれを取っても一級品の政治本である。
 

 本書で問われた『小池百合子はカイロ大学を卒業したか』という疑問。
 この真相については、闇の中だ。カイロ大学が公式に小池百合子の卒業を認めた以上、一応嘘ではない。
 しかし、先述したように、カイロ大学を初めて卒業した日本人の小笠原良治が卒業に7年かかった事実を考えれば、強い疑問は残る。
 カイロ大学は政治的な意向を受けやすく、外圧があれば卒業証書も簡単に発行できるような環境であり、そもそも卒業証書自体に信頼性がない。
 関西学院大学に入学した程度の学歴(関学も優秀であることは間違いないけどあえてこういう書き方しますね笑)で、アラビア語は未経験の状態でそもそも入学できたことが疑問であるが笑

 しかし、女帝が鼻高々に掲げる『首席』卒業は、嘘であったことが証明された。女帝も認めている。この点は本書の功績である。
 ちなみに小池は、この首席卒業という虚飾を、『勘違い』の一言で済ませている。



4.批判



 多方面で、絶賛を受けている本書であり、僕自身も惜しみなく評価しているつもりだが、興味深い批判があったので紹介したい。


 アザと病と英語 『女帝 小池百合子』の違和感|高井浩章

 小池百合子に対する評価は著者と変わらないとしつつも、小池百合子のアザ、病気等の身体的な問題を取り上げ、批判を絡めるという極めて悪質な手法が問題であると批判している。
 この点は僕もかなり同意できる部分がある。
本書を読むとわかるのだが、悪者に仕立て上げようとする印象操作に嫌気がさすこともある。
 そこまで言わなくてもよいのでは?あくまで事実の追求で小池百合子を倒せばよいのに、と思うこともままあった。


小池都知事のアラビア語力をどう評価したらいいのかわからない方へ|jaber

 本書では小池百合子のアラビア語は稚拙なものと評しているが、小池百合子のアラビア語能力を高いと評している者もいる。
 小池百合子はアラビア語能力の低いことが、カイロ大学を卒業していないことの証明の1つになるため、ここは極めて重要な部分である。
 残念ながら僕はアラビア語が全くわからないため真偽を判断できないが、小池百合子のアラビア語を評価している者がいることも紛れもない事実であることはしっかりと覚えておきたい。
 
 

【参考文献】

https://news.yahoo.co.jp/articles/aa2984b6c9dec5153f33463bc8579add1f4a08d3

https://books.bunshun.jp/articles/-/5626

https://news.yahoo.co.jp/articles/6db7a29e478def7ecdcc66939f8d843ace3bc7d4

https://news.yahoo.co.jp/articles/e3a13b1f79d8ebfb47f59ad766d124bed4c91eac

https://president.jp/articles/amp/36581

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20代後半。社会人やってる関西住みの一般人。昨今のブームに乗せられてサウナと筋トレとロードバイクにハマったというウルトラミーハー人間。かなり文章量の多いガッツリ系の書評を書きます。読んでほしい本があれば、書評書きます。詳しくは仕事依頼欄で確認お願いします。