つき

小説をまとめています。

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マガジン

  • 記憶探偵・森林ききょうについて

最近の記事

雨はじめんの洗濯だ。

    • あなたが読めない

      彼女は本屋にくる度に途方に暮れるのだという。 ページの中で息を潜めている文字たちが、自分めがけて飛びかかるのを表紙の影で待ちわびている、そんなふうに感じるらしい。 黒いインク。 赤いインク。 黄色いインク。 それぞれが持っている形をほどいて貪欲なヒルのように吸いついてきたら、きっとひとたまりもないだろう。 そう言って彼女は自嘲気味にからからと笑う。 僕は素朴な疑問を投げかけた。 「文字は身体のどこを襲うの?」 「目よ、目から入って、脳みそと心を食べちゃうの」 脳裏にピンク

      • コップ1杯の生ぬるい水にありったけの砂糖とお日さまの光を入れてくるくるかき回し続けてるような意味のない時間は、本当に本当に心地よかったけれどずっとあのまま過ぎていくのも怖くて仕方がなかったなあ。

        • 久しぶりに見たMステが過去曲の紹介ばかりになっているんだけど、このまま過去の情報量が押し寄せてきたら、紙がくるくる丸まって影になってしまうんじゃないか。

        雨はじめんの洗濯だ。

        • あなたが読めない

        • コップ1杯の生ぬるい水にありったけの砂糖とお日さまの光を入れてくるくるかき回し続けてるような意味のない時間は、本当に本当に心地よかったけれどずっとあのまま過ぎていくのも怖くて仕方がなかったなあ。

        • 久しぶりに見たMステが過去曲の紹介ばかりになっているんだけど、このまま過去の情報量が押し寄せてきたら、紙がくるくる丸まって影になってしまうんじゃないか。

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        • 記憶探偵・森林ききょうについて
          4本

        記事

          インザウォーター

          私の中に書かれたコードというものは、何やら先人によって書かれたもので、既にもうこの世にはいないという。 遺伝子というか、ゲームというか。 考古学者が言うには、「風呂」とはお湯を貯めてできるものとされていたそうだ。 けれど、今では風呂で夢をみる。 誰もが風呂で夢を見る。 1日10時間は夢を見る。 青い水。 浸かる。 プラスチックの箱。 天井を走る、コマーシャル。 振り切る。 コードが揺れる。 溶ける、からだ。 ひゃぷひゃぷ、水が呼ぶ。 風呂に入れば、脳が電子というナイフで細

          インザウォーター

          グルメに執心、ご就寝

          今回はアボカドだったか。 ラテックス-フルーツ症候群は初めてだな。 そうつぶやいてゆっくりとスプーンを置いた。 サーモンとアボカドと玉ねぎを使ったタルタルサラダが、物憂げに紺色のボウルに残るばかりだった。 男は中身をキッチンのゴミ箱に投げ込むと、テーブルの上の煙草をとってベランダへ出た。 乳白色の空からわずかに光が差し、かろうじて街に朝であることを告げていた。 煙草に火が付き、薄煙がゆっくり空気に溶け込んでゆく。 「その出来事」は彼にとって珍しいことではあまりない。 この前

          グルメに執心、ご就寝

          女の工程

          女には工程がある。 女には工程がある。 そう独りごちて、女は洗面所の鏡と向き合った。 振り向いて映した背骨は、振り向き美人のそれというよりも川べの小魚のように頼りがなかった。 肌の上に張り付いた黒い髪。 指に通しながら上を向き、束を後ろに放り投げて顔を出す。 雫がわずかに散る。 この顔をつくるにも難儀なものだ。 自然が、できる限り美をまとえと強制するこの時代では、化粧というのは一種の様式美に近い。 頰の髪が張り付いていた箇所に、ファンデーションの跡。 そのまま指で拭うと、

          女の工程

          森林ききょうの謝罪

          「申し訳ございません。私としたことが」 依頼を完遂することができませんでした。 そう言って森林ききょうは深々と頭を垂れた。 テーブルの反対側に座る母親は言葉を忘れたかのように唖然となった。 「そんな、まだ、ご依頼してからたったの34時間しか経っていないのですよ」 口を開けたまま人形のように首を振る母親は、思い直したように話し始めた。 「時間がかかるのなら待ちます。 お金が必要ならかき集めます。 娘が戻って来なくとも、真実を知ることができるならばもう何もいらないのです」

          森林ききょうの謝罪

          黙って本が読める人はすこぶる優秀だ。ひとたびページを繰れば、言葉の喧騒に飲み込まれてしまって、作者の語り文句なのか自分の妄想なのか記憶なのか、てんで区別がつかなくなってしまう。自分が書く話も顛末のないまま走る機関車みたいで、私はひたすら線路に頭を打ち付けて失神しそうになっている。

          黙って本が読める人はすこぶる優秀だ。ひとたびページを繰れば、言葉の喧騒に飲み込まれてしまって、作者の語り文句なのか自分の妄想なのか記憶なのか、てんで区別がつかなくなってしまう。自分が書く話も顛末のないまま走る機関車みたいで、私はひたすら線路に頭を打ち付けて失神しそうになっている。

          森林ききょうの密事

          親愛なる森林ききょう様 あなたがこの手紙を読むとき、私はもうこの世にいません。 これが私が生きた一片の証と言ってもよい、最後のお願いごとになります。 知り合いでもない人にお願いをされるなんて、と今頃あなたは美しい眉をひそめて読んでいることでしょう。 記憶探偵の噂はまことしやかに世間に流れています。 きっと、あなたが思っているよりもずっと広く根を広げ、やがて私のもとへ届く運びとなったのです。 『若い探偵が死んだ経緯を暴き出す』 そのセンセーショナルな耳触

          森林ききょうの密事

          デビル・ガール・プロジェクト

          私が死んでしまったのは確かなようで、とりあえず訪問すべきは愛した人だろう。 バスのように北風を2度乗り継ぎ、星の吊り革にぶらさがり、懐かしい土地に颯爽と降り立つ。 東京。私を生み、私を活かし、私を殺し、私を埋めた街。 雲をスライドさせて彼を発見。 健康上は問題なさそうだったが、私を満足させるような表情ではなかった。 いっそのこと、全部忘れてあっけらかんとしていれば良かったのに。 心の底から笑って、泣いて、人生を謳歌していれば良かったのに。 彼の表情はどこか過去の痕跡を隠し

          デビル・ガール・プロジェクト

          森林ききょうの沸点

          「一体何のつもりですか、これで二度目です」 ああ、また始まったと言わんばかりに探偵はため息をついた。 1つ750円のお弁当を売るワゴンの前に並び、黒板に描かれた本日のメニューを吟味しながら、森林ききょうは警部に返答する。 今日のメニューはトマトハンバーグと海老とブロッコリーのサラダだ。 「あなたが殺人と思われる事件の解決を要請されたように、私は彼女に要請されたんです」 「要請って、まさか自殺する前に恨みを晴らしてくださいってお願いを?だったら君が止めれば」

          森林ききょうの沸点

          私のアイコンのモデルわんこ・チビ太が、なんと先日瀕死の危機にあったらしい。何事かと聞くと、大好物のササミにがっついて喉に詰まらせ、ひっくり返って痙攣し始めたと。ライスケーキ・キラーならぬ、ササミ・キラー。飼い主は号泣おろおろ、犬友達が喉に手を突っ込んで救い出したとさ。良かったね。

          私のアイコンのモデルわんこ・チビ太が、なんと先日瀕死の危機にあったらしい。何事かと聞くと、大好物のササミにがっついて喉に詰まらせ、ひっくり返って痙攣し始めたと。ライスケーキ・キラーならぬ、ササミ・キラー。飼い主は号泣おろおろ、犬友達が喉に手を突っ込んで救い出したとさ。良かったね。

          ものを書くということ

          ものを書くという行為は、科学の実験に似ている。 体内の混沌とした液体のような広がりを空中から眺めて、静かに何かがせり上がり、浮上してくるのを待っている。 それは実験と言いつつも、仮説もゴールもない根比べなのかもしれない。 砂とも金ともしれないうごめきを、じいと見つめながらただひたすらに待つのである。 登場人物が、勝手に走り出す瞬間というのがある。 設定した顔付きや性質が、日頃とはまったく別の感覚を伴って、ひとりそっと駆け出す。 作者からすれば、手綱のとれた犬が自由に熱狂

          ものを書くということ

          ものを書く人で、言語から入る人と、静止画から入る人と、映像で入る人と、感情から入る人と、どんな人がいるんだろう。自分は静止画→言語に変換しながら書くタイプ。

          ものを書く人で、言語から入る人と、静止画から入る人と、映像で入る人と、感情から入る人と、どんな人がいるんだろう。自分は静止画→言語に変換しながら書くタイプ。

          世界を言祝ぐには、君のジギタリスになる必要がある

          世界を言祝ぐには、君のジギタリスになる必要がある