しあわせなお昼寝

冬の日、月曜日。
実家とこたつとワンコと私。

*****

12月4日、くもりの朝。

月曜日、世の中は一週間の始まり。
我が家も、私の家族も一週間の始まり。
私は土曜日出勤の代休で本日はお休み。
昨日のお昼頃に実家に帰ってきて、昨日の夕方か今日の朝には東京に戻るつもりだったが、再発していた「新潟帰りたい病」「山が見たい病」「家族に会いたい病」のため、あと1日だけ実家で療養することにした。

実家からは少し遠い県内の専門学校に通うため、学生寮で生活をしている妹にも同じ日に帰省してほしかったのだが、冬休みが始まるまでは帰省しないそうで。会えるかと思っていたから少し、さみしい。また2人でいつものように一人暮らしの寂しさを語らい、寂しさで病んでしまっている自分たちに可笑しくなってケタケタと笑い合いたかったのに。それはまた年末までのお預けのようです。

今日を実家で過ごし、明日からはまた、東京で今の私の日常に戻る、仕事に行く。
大都会での生活、飽きている仕事。
憂鬱、なんて書かないもんね。

12月の新潟だ、寒くなった。緑の山に赤、黄、オレンジの紅葉が混ざる。山頂に雪化粧をした山も並んでいる。窓の外のこんな景色を見つめながら歯磨きができる。洗面台の目の前に窓、絶景の額縁。その横にある2階への階段に座って父と歯磨きをしていたり、きょうだいと喋ったり歌ったり。
自然豊かな豪雪地帯に生まれ育ち、素敵な家族にも恵まれたからこその時間。
その階段には私達家族の声が、怒鳴り声も笑い声も、泣き声も、ぜんぶ染み付いている。額縁の中の山々にも、田んぼにも畑にも、そんな私達の声を、姿を、記憶されているような気がしてしまう。


父と母が仕事へ、高校生の妹と中学生の弟は学校へ行った。

7時10分、父が出発する時間。妹も父の車に乗り、家から徒歩30分かかる駅まで送ってもらっている。

「まあゆっくりしろ。」

出かける前に父が声をかけてくれた。

まだ実家にいた頃、父は出かける前に朝食を食べている私やきょうだいの頭を無言で撫でてくれることがあった。悩んでるとき、疲れているとき、思春期に入ったとき。

ゆっくりしろ、という父の声はあの頃のそれに似ていて、少しばかり涙腺が緩んだ。

7時40分頃に弟はバス停へ、スクールバスで中学校へ向かう。

時間ギリギリ、走る弟を窓から見つめる母。あー、走ってる走ってる。なんて、愛おしそうに見つめている。母も出かける前にやることが残っているのにバスが出るまで見つめ続ける。ちなみに、妹が乗った電車も時間を確認して窓から見送っているようで。そんな母の後ろ姿が愛おしい。黄色と薄いオレンジのラインが入った電車、大きな山をバックに走っていく。小さい頃から見ているこの景色。映画のワンシーンのようだなと、大人になって思う。

8時頃、母も出発。

「こたつ着けて、ロンタ(我が家のワンコ)と茶の間にいな、2人で1つのヒーターであったかいでしょ。」

違和感がないような気もするが、よく聞くと少しばかり拙い日本語。それでも20年以上日本にいる母の日本語レベルには英語学習者として本当に感心する。

玄関で母にいってらっしゃいをして、茶の間へ。

ロンタもいて、仏壇に祖父と祖母、叔父2人もいる。そんな茶の間が落ち着くから母に言われずとも最初からそこにいるつもりだった。
寒いし、こたつでダラダラしていたいですから。それが冬の醍醐味ですから。

石油ストーブの匂い、こたつの匂い、朝起きてすぐに父があげた線香の匂いもかすかに残っている。そしてロンタの犬くさい匂い。母の匂いとお化粧道具が混ざったと柔らかく優しいお花のような匂い。ぜんぶ混ざっていい匂い。どこのスーパーやドラッグストアに行っても、こんなにもリラックス効果のある芳香剤は手に入らないだろう。

祖父と祖母が近くに居るからなのか、本当によく眠れる我が家の茶の間。
祖母は私が保育園に入ったばかりの頃に亡くなり、祖父は2年前、私が上京してから1年後に亡くなった。

茶の間で寝ていると、今、祖父が畑から帰って来たとして、なんの違和感も感じないな、と思う。カラカラカラと茶の間の引き戸を開けて、目尻のシワをクシャッとさせ、にこにこしながら私に声をかけてくるのではないか、なんて。

みんなが出かけて我が家のワンコもお眠りの体制に入る。
日付が変わって今日の午前1時まで妹とお喋りをしてしまい、5時間しか寝ていない私もぬくぬくのこたつに入り座布団を枕代わりに畳の上に置く。心地の良いウトウトが大きくなる。

月曜の穏やかな朝、静かな茶の間、ロンタの微かな寝息が聞こえる。仏壇には満面の笑みを浮かべた祖父、その横に優しく口角をあげている祖母。

こたつに入り横たわる。曇り空が晴れてきたのか、ロンタの柔らかい真っ白な毛並みに光が当たる。温かい太陽の光に当たり、気持ちよさそうなロンタのふわふわなおしり、リラックスしてクタッとなっている大きなパピヨンの耳。我がワンコながら、なんとなんと、なんと可愛いのでしょうか。

茶の間をふんわり漂う温もりに包まれて、心なしか心拍数もいつもより穏やかだ。からだもこころも満たされている。母が作る朝ごはんで胃袋も満ち満ちている。重くなるまぶたに逆らうことなく安心して閉じる幸せ。
ロンタとわたしの幸せなお昼寝は、お昼ご飯の時間を過ぎてからも続いていた。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?