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純粋な好奇心を原点に『中谷宇吉郎の森羅万象帖』

何をきっかけに出会った本だっただろう。
たしか、数学者・岡潔氏の本を読んでいる中で名前が出てきたのが最初だったか。

雪の科学者・中谷宇吉郎氏。

「雪の科学者」と言う言葉にときめいた。

もっと昔に、あるテレビで、江戸時代に研究された「雪華模様」の話を聞いた頃から、私のアンテナは立っていたのかもしれない。

最初はただただ「雪華模様」の美しさと「雪の科学者」への好奇心から手を伸ばした

『中谷宇吉郎の森羅万象帖』/LIXIL出版。

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http://www.livingculture.lixil/publish/post-187/

貴重な研究資料とシンプルな言葉で綴られた中谷宇吉郎氏の本からの学びは多かった。

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新たな価値を創造するとは?

「分からぬと思っていても聞いているとその中にきっと何かのヒントがあるもので、
 それが大切なんですよ。
 オリジナリティというものは、何もない所から出るものじゃなくて、
 出来るだけ沢山の人のやったことを利用して初めて出せるものだからね」
(『中谷宇吉郎の森羅万象帖』P13)

東京で働きはじめて5年が経ち、会社という組織で働くなかで、
新たな価値を創造することについて考えていた私にとって、
中谷宇吉郎氏の師である寺田寅彦氏のシンプルな言葉は大きなヒントになった。

私の務めている会社は創業約15年のいわゆる中小企業。
多くの企業様とのパートナーシップで成り立っていて、
コアコンピタンスはガーデンエクステリアの設計・デザイン。
今、私が携わらせていただいている仕事は、
3年前、5年前、15年前、
当時の人々が築き上げ蓄積してきたものが土台になっている。
そんな当たり前で大切なことに気づいた5年目。
2018年は代表から「価値」について問われ続けた。

私はここでどんな価値を生み出しているのか?

私のポジションは営業で、顧客の新規開拓に関わるが基本はリスト営業で、
営業研修などの企画・運営もするが、これまで培ってきたノウハウを基につくっていく。
今あるものをベースに積み上げていく、2を5や6にすることが得意な私にとって、
デザイナーのように0から1を生み出す仕事が憧れだった。

ゼロから何かをつくりあげる「創造」もあれば、
今あるものの見方を変える「創造」があり、
いろんな人の叡智を編集して生み出す「創造」もある。

私が今の職場で生み出す価値は3番目の「創造」だ。
そう考えるに至るヒントがこの本にあった。

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科学って何だろう?

「雪は天から送られた手紙である」
(同書P27)

雪の結晶の"形"とその形ができる"条件"を研究した結果、
結晶の中心部と周辺部の結晶の形を見れば、
上空の気象の状態を類推することができることが発見された。
このことを中谷宇吉郎氏は「雪は天から送られた手紙である」と表現した。

「科学者は科学の専門家であることにとどまらず、
 広く一般にもわかりやすく伝えるのが使命だ」(同書P47)
「自然の神秘に純粋に驚嘆する心から発した研究は、
 大体はいつかは国家のためにも人類のためにも役に立つものなのである」(同書P52)

「科学ってよくわからない」まま大人になってしまった私に、
「科学」への興味を掻き立て、「基礎研究」の大切さに気づかせてくれたのは
中谷宇吉郎氏のこれらの言葉だった。

「科学する」とは「考えること」「探求すること」で、
「シンプル」で「美し」く、「努力の蓄積」「時間」をかけて
人類を「成長・向上」させてきたのか。


先日、国際リニアコライダー(ICL)の日本誘致のニュースを見た。
参照)国際リニアコライダーニュース
https://www.fnn.jp/posts/00388330HDK
https://www.fnn.jp/posts/00403840HDK

「国際協力のもと世界に一つだけ建設」される国際リニアコライダーの研究施設。
その研究がどれだけの価値を生み出すものかは私にはよくわからない。
でも、このニュースを見たときとてもわくわくした。

お金の面で日本政府はまだ手を挙げられない状態のようだが、
失敗を恐れ投資を避け、次の候補地となる中国へ技術を流出するよりも、
失敗も成功も、全てを糧に、日本に技術を蓄積することの方が、
投資額以上のはるかに価値あるものを未来に遺していける。

中谷宇吉郎氏は1900〜1962年の時代の人だ。
科学や物理の基礎研究はとても地味で、
成果が出るまでには時間がかかるが、
1900年初頭の物理学者や数学者、科学者の人たちの
基礎研究が、今の日本の発展を築いてきたのだろう。

2000年初頭、100年経ってまたそのチャンスが回ってきた。
一般ピープルの私の感覚を越えたスケールの未来産業投資
何ができるかわからないけど、未来を想像しわくわくしてしまった。

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科学者のこころ

「君、仕事は楽しみながらするものですよ」
(同書P13)

すっかり科学に興味を持った私。
中谷宇吉郎氏に「物理的」の研究の心得を教わる。

「物理的」の研究
1:純粋な興味を持つこと
2:厳寒の2月、仙石原で徹夜するという程度の熱心さを持つこと
3:思いついたことを、億劫がらずに直ぐ試みて見る頭の勤勉さを持つこと
4:偶然に遭遇した現象をよく捕え、それを見逃さぬこと、即ち、いつも眼を開いて実験をすること
5:新しい領域の仕事を始める時に怖がらぬこと
6:妙にこだわらぬこと
(同書P 45)

仕事をするにおいて成果を出すのは当然のことだけど、
何かを始める最初の原点は、純粋な好奇心から始めようと思う。

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思い悩んだときは本書を開き、
美しい雪華の研究写真や、
シンプルでユーモア溢れる言葉を使う
雪の科学者・中谷宇吉郎氏に触れ、
純粋な好奇心を掻き立てることをオススメします。


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