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鬼平バース:「蘇る鬼平犯科帳」

わかった、もう一度初めから説明しよう!               俺の名前は長谷川平蔵宜以。
1787年、江戸で火付盗賊改方長官をしている。
昔は悪い連中とつるんでグレていたが、今は多くの武士を束ね、密偵を使って悪党どもの安眠を今日も妨げている。
俺がいる限り、奴らは枕を高くして眠れない。
そう、世界でたった一人の”鬼平”だ。

スパイダーマン構文を使ったが、池波正太郎著「鬼平犯科帳」

そのパスティーシュの話題である。

パスティーシュ(仏: pastiche)は、作風の模倣のこと。 音楽・美術・文学などにおいて、先行する作品の要素を模倣したり、寄せ集め、混成すること。 パスティシュとも表記する。
パスティーシュ - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/パスティーシュ

つまりは、鬼平犯科帳二次創作アンソロジーである。

(池波先生の本家短編も入ってるけど)

私も実は、そんなに全巻全話を全て読んで把握しているわけではない。再放送のドラマや歯抜けで原作、あるいはアニメ(primevideoにある)で見ているので、本気のファンから焚火の足しにされかねない程度なのをご留意いただきたい。

超個人的な各話感想

二次創作アンソロジーであるため、作品によって好き嫌いがかなり発生しやすい。無論、ここに書くのは個人的な感想なのであんまり気にしないでください。ちなみに、私が好きなのは彦十の親父さんとかです。

せせりの辨助……逢坂剛

鬼平っぽいけど鬼平っぽくない、でも少し鬼平な短編。

半月ほど前、手下の小平治が浅草寺の境内で”ばってらの徳三”という昔の盗人仲間を目にした。徳三は、盗賊から足を洗い、古物商を営んでいるとわかり、平蔵がそこへ調査に向かうと、奇妙な女が店にやってきて如来像を買ってくれという。押し問答の末、徳三は、如来像を引き取ったものの、中には小判が三十両も入っていて……。

こんなあらすじを書きましたが、割と複雑な話です。初っ端から読みごたえがある。何気なく引き取ったものからゴトンってヤバイ物が出てくる展開、いいですよね。好き。

ちなみに、逢坂さんの御父上はずっと鬼平犯科帳の挿絵を描いていたそうです。そんな縁ある????

最後の女……諸田玲子

長谷川平蔵の夢小説ってあるんだ……。

二年前、莉緒は”葵小僧”という盗賊に辱めを受け、嫁入りしていた家から帰され兄夫婦の住む家で肩身狭く暮らしていた。当の葵小僧は、長谷川平蔵の手で、裁かれ獄門になった。そして、久しぶりに莉緒と面会した長谷川の口から驚くべき言葉が告げられる。”葵小僧”と全く同じ手口のものが江戸にいる。

はい、長谷川平蔵相手の夢小説。私は何を読んでいるんだ。ホームズのパスティーシュにもオリジナルヒロインものがありますけど、鬼平でこれに当たるとはあんまり思わなかった。平蔵とたった一度だけ想いを遂げた主人公が健気に恋い慕う描写は、なんだか大変なものを読んでいる気分になる。

隠し味……土橋章宏

めっttttっちゃ好き!!!!!

一膳飯屋「萩屋」で働く利吉は、店の主人である善次郎の娘、お光を慕っていた。朝も昼も真面目に働き、腕もいい料理人だが、実は材木業で財を為して、一膳飯屋を立てた善次郎の財産を狙った盗賊団の引き込みだった。  真面目な料理人に身をやつす利吉は、、役目を全うしようとするが、善次郎から、お光と一緒になり跡取りになってくれと頼まれてしまう。

ニンジャスレイヤーでモータルが主人公になる回、みたいな良さがあります。物語は、利吉メインで進められるので純粋に、「ウオー!利吉ー!!」と応援してしまいます。幸せになれよ!

土橋さんは、「超高速!参勤交代!」の脚本を書いた人でもあります。おもしろいはずだ……。

前夜……上田秀人

歴史的長谷川平蔵。

小普請組に所属する長谷川平蔵は、その日、江戸城に呼び出しを受けていた。旗本として、順調すぎる出世を重ねていた長谷川平蔵は、この呼び出しでまた新たに役目を貰い、更なる高みへ登れるのではと期待していた。彼に任ぜられた役目は勿論……。

寝そうになった!(正直な感想) 歴史的な事実を鑑みて、正しいかどうかわからないですが、池波正太郎の鬼平ではなく長谷川平蔵として描写した短編だと思いました。伝記的。

浅草・今戸橋……門井慶喜

うさ忠いいよね

火付盗賊改方同心の木村忠吾は、近頃急に流行りだした『土用の丑の日』を蛇蝎のごとく嫌っていた。そのせいで、見廻りの最中に立ち寄った定食屋で出された、茄子の煮物の出汁が、鰻とわかり暴れる醜態を晒すも、そこで二年前にとある事件の関係者であった茂七と鉢合わせるが……。

忠吾は、鬼平犯科帳では割とレギュラーに属するキャラクターで、スットコドッコイという感じですが可愛げのあるほうなので人気はそれなり。ハードな話が多い鬼平シリーズでのコメディリリーフ。ゲイにケツを狙われたりする。

狐桜(耳袋秘帖外伝)……風野真知雄

そうだけどそうじゃない

南町奉行の根岸肥前守鎮衛は、自らが耳にした噂や怪異を「耳袋」と自ら題して積極的に集めている。そして、その「耳袋」には外部には漏らせない裏の「耳袋秘帖」も存在していた。根岸の屋敷に近頃来た新人女中おかつは、以前勤めていた場所で狐を見たことがあるという……。

ぶっちゃけ「耳袋秘帖シリーズ」が好きでこのアンソロジーを買った面もある。あるけどさあ……! もっとこう、二大ヒーローが共闘!イエーイ!みたいな感じかと思ったよ! そりゃ、根岸が奉行の時に鬼平は亡くなってるけど! そういう感じがよかったのでちょっと微妙だった。話は面白い。

石灯籠……梶よう子

老境の武士はかつての宿敵を思うのか

森山源五郎孝盛は、喜寿を迎え、その祝宴のあと客が帰った後、庭をぼんやりと眺めていた。日ごとに衰えていく養父を慮り、孝盛を部屋に招き入れた娘婿の盛年は、ふと現役時代の慣習に思いをはせ、そこから記憶の糸を辿っていくことになる。

老年の男が語る昔の思い出話、良いと思わないか! ねえ! 歴史的な面の長谷川平蔵という点では「前夜」と被りますが、回想形式なので此方の方が読みやすく感じた。


瓶割り小僧……池波正太郎

実家のような安心感

詮議場と呼ばれる狭い白洲では、年若い与力が引き出された盗賊を詮議していた。盗賊は全く口を割らず、名前も言わなければ生まれた国も言わない。焦るばかりの与力に、盗賊は不気味に薄笑いを浮かべている。それをみていた長谷川は、盗賊の顔にふと、見覚えがあるのに気が付いた。

説明不要の池波節全開の鬼平犯科帳。ウーン、これこれ。如何して彼が盗賊になってしまったのか、如何して道を誤ってしまったのか。それを紐解き、裁く鬼平の目が光る! つまり、いつもの! いやあ、鬼平って本当にいいものですねえ。

総括

面白かったです!

ちょこちょこ鬼平犯科帳関係ないというか、それ池波正太郎の鬼平じゃないやんけ!みたいなのもありましたが。やはり、個々人のレベルが高いのでそれも許容できます。

さながら、色んな味のおかずが入っている幕の内弁当みたいで。統一性がないのが美徳、みたいなところがあると思います。

私のように、鬼平犯科帳にさほど詳しくなくても読めて、短編集なので少し時代劇摂取したい、いろんな味をつまみ食いしつつ、クオリティは保証されている。という点でかなり優秀な一冊だと思います。

最近、時代劇。足りてますか? 摂取しよう、江戸時代!

今回のコラムを執筆に際しまして、大いにパクらせていただきました。

いつも楽しく読んでいます。お望月さんに感謝を!

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