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小説箴言

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聖書の中の「箴言」をベースに小説を書いています。 正しきものと悪しきものの歩みをそれぞれ描いています。しかしその向かう先は、、、
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小説箴言 9章

小説箴言 9章

9章

「浅はかな者よ!ここに来い!」

僕(悟)はまた夢を見た。
俺(龍)はまた夢を見た。

夢の中でその人は家を建てている。
建てあげて、石の柱を7本切り出した。

家畜から肉の料理を並べ、
ぶどう酒を注ぎ、
食卓を整えた。

そして周りにいた女性たちに何かをことづけた。
その人たちが小高い丘の上に駆け上り、この言葉を届けた。
「浅はかな者よ!ここに来い!」

僕は「行きます」と叫んだ。
俺は

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小説箴言 8章

小説箴言 8章

8章

僕(悟)は夢を見た。
俺(龍)は夢を見た。

何かが叫んでいる夢だ。
人の形をしている。
丘の上で、街の中で、家の前で、
必死に何かを叫んでいる。

僕に向かって。
俺に向かって。

「お前だ!お前に言っている!
 お前に届くよう声を枯らしている!
 浅はかな者よ!悟れ!
 愚かな者よ!知恵を得よ!」
その必死さに、言葉とは逆に、愛のようなものを感じた。

「聞け!これは支配する者の言葉だ

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小説箴言 7章

小説箴言 7章

7章

夜、おばあちゃんの家まで、お父さんと車で行くことになった。
僕(悟)が学校から帰ってすぐに、お父さんの妹から電話があって、調子が悪いから見に行ってほしいとなったそうだ。
お母さんは仕事だからいけなくて、夕飯の都合で僕も一緒に行くことになった。

二時間ほどある車の中で、お父さんとたくさん話した。
あの子のことを話した。
お父さんの教えてくれたことを守ろうとしていることも。

するとお父さん

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小説箴言 6章

小説箴言 6章

6章

さらに最悪なことが俺(龍)には待っていた。
いや、最悪を止めるために必要な最悪だったのかもしれないが。

年上のその彼女を仲間との集まりに連れて行った時のことだった。
久しぶりに会えて浮かれていたのだ。
女に飢えた男どもの前で優越感に浸っていた。
「おい、こいつらとも遊んだってくれや。ははは!」
冗談のつもりだった。
「おい、龍!ほんとか!いいんか?」
「おう、おう!なぁ?」
笑いながら振

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小説箴言 5章

小説箴言 5章

5章

あの頃、じいちゃんは俺(龍)に言った。
「おい!よう聞けよ!!
 調子に乗るなよ!調子ええことばっか言ってんなよ!!」

あの女に会ったのは中1の夏だ。

年上の女に誘われついて行った。
初めは刺激的で、魅力的な、甘い言葉と匂いに、興奮した。
その気持ちよさに浸った。

しかし、しばらくして俺は、沼にハマっていっている心地がした。
俺はなんとか這い上がろうとしたけれど、あいつはどんどん闇に

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小説箴言 4章

小説箴言 4章

俺(龍)の親父は暴力を振るうクソ野郎だった。
俺のことも、母ちゃんのこともよく殴った。
小2の時に母ちゃんと家を出て、俺はじいちゃんの家に預けられた。

あいつが教えたことは「龍、強くなれよ」ってことだけだ。
俺は嫌でも強くなった。
強くなればなるほど、苛立ちは増した。

あの牧師の話の後から、親父のことを考えることが多くなった。
『父が愛しい子を叱るように』
そう言っていた。
あいつがこの俺を愛

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小説箴言 3章b

小説箴言 3章b

『我が子よ、主の懲らしめを拒むな。
 その叱責を嫌うな。
 父が愛しい子を叱るように、
 神は愛するものを叱る。』

年少に来た牧師のこの言葉に、俺(龍)は気がついたら涙が出ていた。
泣きながら首を傾げていた。

月に一度の全体集会では、いろんな人が来てくれた。
時にはマジックショー、時には演歌歌手。
そして時には、元ヤクザの牧師が来た。

その牧師の話が始まる前の、聖書の一節を読んだすぐ後のこと

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小説箴言 3章a

小説箴言 3章a

僕(悟)は次の日から朝、ゴミ拾いを始めた。
誰かに好かれたいんじゃない。褒められたいんじゃない。
ただ昨日の美しい夕日の感動を再び味わいたいのだ。

早朝にはたくさんのおじいさん、おばあさんとの出会いがあった。
僕は彼らが、なんて優しいんだと感動した。
彼らは僕の心を何一つ殺さなかった。
こんな僕の話を真剣に聞いてくれた。
そして僕の存在そのものをとっても褒めてくれた。

その姿勢に「聴く」そして

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小説箴言 2章

小説箴言 2章

2章
僕(悟)の心は叫び続ける。
それは昨日読み漁ったあの巻物の中の知恵だ。

僕はそれに耳を傾けることにした。
受け入れることにした。
まるで心の中に他の誰かがいるみたいだ。

目の前では、警察が不良たちの首に手を置き、不良たちは不満そうにパトカーに乗せられていく。
不安でいっぱいだった僕の心は次第に落ち着いていった。
「正しさとはなんだろう。この恐れはなんだろう」
僕は考え始めた。
この世界の

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小説箴言 1章

小説箴言 1章

僕は悟(さとる)。
ある日、家の倉庫でソロモン王の巻物を見つけた。
ソロモン王は古代イスラエルの王で、大いなる知恵と有り余るほどの財産を持っていた。
その書物はこう始まった。

『これはあなたが、知恵と命令の言葉を知るため、
悟りの言葉を理解するため、
正しさ、裁くこと、公平であることにおいて、
知恵の命令を受け入れるため、
若い浅はかなものに知識と慎みによる思慮深さを与えるため、のものである。』

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