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20240709 イラストエッセイ「私家版パンセ」 0028 一神教の垂直体験

 キリスト教などの一神教に特有のものに、「垂直体験」というものがあります。ぼくたち日本の文化にはあまりなじみのない概念なのですが、これを知っておくと、一神教の世界の価値観を理解する手助けになります。
 これは科学的な概念ではありません。あくまでも宗教が対象にするのは人間社会なんです。けれども、もしかしたらその社会から生まれた科学にも影響を与えているかも知れません。

 人間社会を含め、この時空の世界を二次元の平面上の営みだと仮定します。そこには一定の力学が働いており、理論的には有限の因果律によって事物が動いています。
 一神教の神はこの平面を越えた所にある、とされています。二次元の存在である人間は、この平面の外にある三次元の神を見ることはできません。しかし神は、時々、いやしばしば人間に介入すんですね。
 二次元に住む我々は神の存在を見ることは出来ませんが、二次元の世界に介入された事実が残ります。これを垂直体験と呼びます。
 一神教世界の優れた芸術には、この垂直体験があります。飛躍と言ってもよいし、啓示と言っても良い。インスピレーションという言葉も、外側からの介入というニュアンスがあります。
 垂直体験では人間的論理が全て無効になります。そこにおいて人間の発する言葉は、ただ「是」、Yes になります。あたかも受胎告知を受けたマリアのように。あるいは「否」の場合もある。エホバの顔を避けて逃れたヨナのように。

 余談になりますが、ユングの心理学では、人間の意識は絶えず無意識の世界の介入におびやかされています。これは別次元からの介入というより、地下からの介入と言っても良いと思います。ちょっと感覚的になりますけれど、垂直体験は非常にドライなものですが、こちらの体験はもっと湿潤な感じです。

 これも余談ですが、神秘主義というものがあります。
 それは内なるものの中に外なるものを発見し、外なるものの中に内なるものを発見することと定義できると思います。
 ユングの心理学的に言えば、個人の無意識を超えた普遍的無意識の領域は、超越者のいましたもう場所でもある、ということだと思います。

 垂直体験は、絶対的に外なるものの介入です。(論理的に。)ですから、人間が予言したり、思い通りに操ることはできません。そこが一神教と魔術や占いの違うところです。魔術は神を操る技術ですから。そこで、キリスト教が広まると同時に、魔術が廃れてゆくことになり、結果として科学が生まれることになるのですけれど、それはまた別のお話です。

フラ・アンジェリコ「受胎告知」 模写





私家版パンセとは

 ぼくは5年間のサラリーマン生活と、30年間の教師生活を送りました。
 たくさんの人と出会い、貴重な学びと経験を得ることができました。もちろん、本からも学び続け、考え続けて来ました。
 そんな生活の中で、いくつかの言葉が残りました。そんな小さな思考の断片をご紹介したいと思います。
 これらの言葉がほんの少しでも誰かの力になれたら幸いです。

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