見出し画像

絶望の夜、抱きしめた憂鬱

暗闇が手招きしている。やさしい黒は、わたしのことをどこまでも引き込んで、いつのまにか溺れてしまう。苦しみを言葉にするたびに、どうにか息が吸える気がする。鬱は今日も絶好調、治ることなんてありえないんじゃない?と笑えるほど。素敵な言葉ばかりを紡ぎたいのに、そんな風に上手くはいかない。人生ってたぶんこんなもん。憂鬱な夜ばかりを過ごすことにいつまで経っても慣れなくて、毎回新鮮な気持ちで堕ちてしまう。馬鹿みたい、いい加減慣れてくれ。どんなに楽しいことがあっても、どんなに嬉しいことがあっても。心の片隅からじわじわと広がる闇は、いつのまにかわたしの脳内を支配する。

朝起きるといいとか、散歩は大事、とか。筋トレがいい、光を浴びろ。そんなことを言われるたびに、「それができたら鬱じゃないんだよなあ」と静かに思う。わたしは内なる鬱と戦争するのに精一杯で。いつだってギリギリの防衛戦、包囲網はたやすくわたしの心臓を握る。じわじわと追い詰められる毎日に、最終手段がよぎる毎日に。

だれかの訃報を聞くたびに、悲しみと苦しみと、ある種の救いを感じてしまうのは罪だろうか。この世界から羽ばたいていったあのひとには、きっと羽が生えたんだろうなと想う夜。わたしの罪は、生まれてきたことを呪ったことだ。地獄があるとしたら、そこは憂鬱から逃れられた天使たちのオアシスだろう。この世界で自責思考に傷つけられる毎日よりは、血の池で泳ぐ方がマシな気がしてしまう。

どんなに綺麗な言葉を並べても、美しい思い出があっても。この病気は永遠にわたしを苦しめる。曲がり角でぶつかる憂鬱。この世で変わらないものなんてないけれど、憂鬱だけはいつも同じ顔をしている。聞き飽きただろうし、わたしも書き飽きた。それでも、こうして言葉にすることで息が吸えるのなら、だれかの居場所になれるなら、と泣きながら書き殴る気持ち。あなたのことを救いたかったなあ、と心から思う。自分のことすら救えない癖にね。

希望なんて言葉、わたしの辞書にはない。そこだけ空白になった辞書を開いて、懸命に言葉を探す。憂鬱を抜け出す光の言葉を、あなたを救い、なによりわたしを救う言葉を。見つからない希望の言葉たちの代わりに、わたしは絶望の言葉を繋ぎ合わせ、希望を書こう。きっと、そのために言葉は生まれたのだから。

たくさんの涙もたくさんの嗚咽も。傷だらけのこころもからだも。意味なんてないのだろう、今はそう思ってしまう。けれど、その過去を、1秒先には思い出になる今を。意味のあるものにするのは、自分なんだよ。意味のあるものに変えてゆけるのは、ただ自分だけなんだよ。成功者が語る下積み時代のように、苦い思い出が愛おしい懐かしさになるように。

だから、もう少しだけ、もう少しだけ。この世界で生きてみようかな。

わたしたちが抱える絶望も憂鬱も無くなることは絶対にない。にんげんはいつもどこか不安で、どこか満たされない生きものだから。でも、わたしたちはみんな同じように不安だってこと。それだけを知っていれば、世界は少しだけやさしく見える気がする。

いつか見えるはずのトンネルの先、光が差す夜明けのように。後ろ向きのまま進んでゆこう、下を向きながら。前向きに生きなくてもいいのだ。ネガティブなまま、死にたい一日を延長しよう。意味のあることなんて出来なくていい、素晴らしいことをする必要なんてない。死にたくてたまらないあなたが、今日を生きててくれたことだけで、これ以上ない幸せだから。怠惰なまま、勇気なんてないまま、後ろ向きの延長線。いつか顔を上げられる日が来れば、きっと歩んできた道の長さに驚くことができるから。

生きててくれてありがとう。今日を生きるという選択をしてくれてありがとう。大切な自分、とか大切な一日、とか思えないまま、わたしたちは一緒に絶望していようね。何も生み出すことができないとワンワン泣きながら、ただ"生き続ける"という最も美しく、最も難しく、最も苦しいことを。

わたしは生きる意味なんてないと思ってる。悲しみに押しつぶされて、苦しみに絞められて。それでも生きようと思えるのは、やっぱりあなたがいるからなんだよ。ただ、それだけなんだよ。わたしがこの世界に居残る理由になってくれてありがとう。そして、願わくばわたしもあなたの理由になりたい。だから、書くよ。書くよ、ずっと、ずっと。だから、生きていようね、必死に泣きながら生きようね。

今日も苦しい日だったね、なのにこうして文章を読んでくれてありがとう。おやすみを言わせてくれてありがとう。明日はおはようを言い合おうね。ほんとうに、ほんとうに、今日を生き延びてくれてありがとう。おやすみなさい、また明日。会えたら抱きしめさせてね。

この記事が参加している募集

眠れない夜に

ほろ酔い文学

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?