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ミュージカル映画『ザッツ・エンターテイメント』のススメ【感想】

 これまで三本ほどミュージカル映画の特にミュージカルシーンについてのnoteを書いてきました。

 これらの記事のなかでたくさんの優れたミュージカルシーンを紹介してきました(特に100選の方はオススメです是非)が、一つ紹介し忘れていたシーンがありました。

 こちらのシーンです。『バンド・ワゴン』(1953)という落ち目のミュージカル・スター(フレッド・アステア)の再起を描いた作品の比較的序盤に登場します。

 このシーン、実は私たちの自主映画製作での最初のミーティングでスタッフみんなに見せた映像で、少なくとも僕は自主映画製作における一つの重要な理念だと思っています(どこまで浸透できてるかはともかくとして)。

 このシーンで歌われる「ザッツ・エンターテイメント」という曲。このように、エンタメあるあるをいろいろと羅列していって「この世界はステージだ!これぞエンターテイメントだ!」と歌い上げるような歌詞になっています。

 私はこのシーンを通して、スタッフに「私たちがやろうとしているのはこういったエンターテイメントなんだぞ!」というのを伝えたかったのです。どうしても現実(予算とかロケーションとか)とか、様々な良い映画観がぶつかったりして、おとなしい優等生的な作品を作りたくなってしまうことも多いと思いますが、スタッフには是非ともこの曲の精神を忘れないでほしいと思っています。サスペンスフルに。エモーショナルに。

 さて、実はこの曲は、MGM(という昔の映画会社)にとって「雨に唄えば」に並ぶほどの、いやもしかしたらそれ以上に重要な曲になっています。というのもMGMの社史を振り返る『ザッツ・エンターテインメント』というドキュメンタリー映画シリーズの表題曲そして主題歌に選ばれているからです。そしてこのドキュメンタリー映画とにかくオススメです。

1.延々と続くクライマックスと興奮

 この映画シリーズはドキュメンタリー映画でありながら、そのほとんどがミュージカル映画のミュージカルシーンで構成されています。それも数百とあるミュージカル映画のなかで、さらに選りすぐりのミュージカルシーンが次々と流れていくので見ていて興奮が止まりません。

 つまり良いとこどりができるんです。つまらないミュージカル映画でも、筋を追わずに見どころのダンスシーンだけを見れる。はっきり言って最高の企画です。公開当時はあまりの豪華企画なので正装して映画館に向かう人たちがたくさんいたとも言われています。当時はYouTubeがないですから、昔の名ミュージカルシーンがまとめていっきに見られるなんて本当に夢のような企画だったんだのでしょう。日本では公開されなかったミュージカル映画もたくさんあったのでなおさらです。

 ちなみに『ザッツ・エンターテインメントPart3』(1994)では未公開シーンもたくさん盛り込まれています。なかでも目玉なのはジュディ・ガーランド版の『アニーよ銃をとれ』(1946)でしょう。この映画もともとジュディ・ガーランド主演で製作していましたが、彼女の性質上の問題から降板になり、代役が立てられることになりました。

 あまり画質は良くはありませんが、YouTubeにあったので貼っておきます。こちらのアニーもなかなかです。

2.豪華すぎるプレゼンター

 社史を綴るドキュメンタリー映画なので、プレゼンターが必要なのですがそのプレゼンターがいちいち豪華。第一作目ではジュディ・ガーランドをその実の娘であるライザ・ミネリが紹介しています。

 また、フレッド・アステアジーン・ケリーを紹介し、ジーン・ケリーフレッド・アステアを紹介するという場面を見れるというおいしさもあります。

 第二作目ではジーン・ケリーフレッド・アステアが二人でザッツ・エンターテイメントの替え歌を華麗なダンスとともに披露しながら様々な映画を紹介してくれます。その時点でジーン・ケリーは64歳、フレッド・アステアは76歳。フレッド・アステアにとっては表に出た最後のパフォーマンスとなりました。しかしこの二人のダンスと替え歌は相変わらずのチャーミングさ。一見の価値があります。特にエンディングの数々のスターの名前の羅列になっている替え歌は感動的ですらあります。

 第二作目はオープニングの出演者紹介も大変演出が凝っていてとにかく素晴らしいです。とはいえ、こちらはYouTubeで見ることができるのですが。

 この他にも三作目にはミッキー・ルーニーエスター・ウィリアムズ、はたまた一作目にはジェームズ・スチュアートまでもがプレゼンターとしてさまざまな映画を紹介してくれます。ミュージカル映画ファンならだれもが興奮するスターたちの肉声に興奮が止まりません。

 ただ第三作目には、ミュージカル映画ファンとしては寂しさを感じずはいられませんでした。というのもこの時点ですでにジュディ・ガーランドフレッド・アステアは亡くなってしまっているのです。しかも当のMGM社も巨額の負債を抱えたまま経営権を失いほとんど実体を持たない状態になっていました。あれほどの素晴らしいスターが亡くなり、あれほどのスタジオを抱えたMGMが実質つぶれてしまったのです。

 第三作目ではこの二人の追悼的な意味合いもあったのでしょう。ジュディ・ガーランドフレッド・アステアの名シーンもまとめて紹介されます。そのひとつひとつの素晴らしさ酔いしれる一方で、もう二度とこういったシーンを作ることができないのだと悲しい気持ちになります。彼らの映画は、そしてMGMの作る映画はそれだけ素晴らしく、スペシャルなものだったのです。

3.注意点

 この映画はミュージカル映画ファンであれば絶対に見るべき作品となっています。が、その一方で注意点もあります。この映画はミュージカル映画史についてのドキュメンタリー映画ではあるのですが、MGM社史でもあるのです。そのためMGMの作品しか取り上げられることはありません。

 つまりMGMのスターではなかったオードリー・ヘップバーンマリリン・モンローといった今私たち誰もが知る映画スターは一切出てこないですし、ワーナー・ブラザーズで数々製作された『四十二番街』などのバークリー振付の名作映画や、RKOで多数製作されたフレッド・アステアジンジャー・ロジャース主演映画たちも『トップ・ハット』ですら登場しません。しかしこれらの作品もミュージカル映画史においては非常に重要な作品です。ミュージカル映画史を知りたい人はこれらについては自分で見る必要があります。

 私は「ザッツ・エンターテインメント」を最初に見たとき素直に「昔のミュージカル映画はほとんどがMGMが製作していたんだ!」と思ってしまったし、それこそマリリン・モンローもMGMの人だと勘違いしていました。

 それくらい「ザッツ・エンターテインメント」では「空の星の数よりも多いスターたちがいる」というMGMのキャッチコピーや、「ミュージカル映画といえばMGM」というメッセージがとにかく入っているのです。このメッセージについては間違っているとも言い切れない部分があるのですが、これからこの映画を見る人は必ずしもそうでもない場合があることを覚えておいてください。

4.最後に

 かなり軽めの記事にはなってしまいましたが、『ザッツ・エンターテイメント』について書きました。このドキュメンタリー映画を見れば、タップダンスからのバレエ尊重への流行の流れもなんとなくつかめますし、数々のスターの名前を知ることが出来ます。そう言った意味でミュージカル映画初心者向けの導入としてもすぐれています。

 三作ともに格安でAmazon Primeで見ることができますので是非見てみてください!

(今はこっちで執筆してます)

筆者:とび
学生映画企画『追想メランコリア』の脚本担当。

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