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『嗣永伝 NO.7』 嗣永の自己紹介というか、活字に苦手意識を持っている人間が、自身で小説を書くようになった経緯を語っていく。


文藝賞落選後、どうしてもその現実が受け止めきれず、何もする気にはなれなかった。仕事にも身も入らず、といって新たに小説を書こうとも思えず、まるで生きがいを失ったような、そんな気分だった。

とりあえず、落選の結果をデリヘル嬢の彼女に伝えないといけない。

LINEで結果を報告した。

〈文藝賞、落選しました。自信はあったんですが、まさかこんな結果になるとは、残念です……。べつの文学賞に応募するかもしれませんが、今のところは未定です……。今まで色々と協力してくれてありがとう。あなたと一緒に執筆できた時間は、とても楽しかったです……。〉

〈そうだったんだ……、残念だったね……。最初はすごく驚いたけど、わたしもあなたの小説に参加できて、すごく楽しかった。こちらこそ、ありがとう……〉

そう、彼女から返事があった。

すごく泣きたい気分だったけど、泣けるほど感情が高ぶってもいなかった。

これからどうしようか? 小説家を諦めようか? 現実の仕事に本腰を入れようか? ほかに楽しみでも探そうか? 友だちでも見つけようか? 傷心旅行でもしようか? でも、どこへ行こうか?

結局、そのどれもしなかった。

小説の執筆の本腰を入れることに、新たにモチベーションが湧いてこなかったのだ。どうせやったところで無駄になると、投げやりな気持ちを持っていた。文藝賞に応募して、箸にも棒にもかからなかったことに、何かに本気になって取り組むことに嫌気が差していた。たった一回応募して、落選したくらいで、なにを弱音を吐いてるんだ? と思う人もいるかもしれないが、遊びでやってないぶん、本気で取り組んでて向き合っているぶん、ストレートで落選したときの、衝撃があまりにも大きかった。佳作止まりだったとしても、それなりに編集者の目に止まっただの、目に見えた結果を残せていれば、やる気を再燃させることもできたかもしれないが、あまりにストレートで落選してしまったことに、すぐには立ち直ることができなかった。

しばらく小説から距離を置きたかった。

いつも通り仕事をして、仕事が終わったら、家に帰ってきて、お酒を呑んで、猫の世話とYouTubeやNetflixなどのサブスクを見まくっていた。たまに体型維持のために近くの川沿いをジョギングしたりはしていたが、ほんとにそのサイクルを繰り返していた。何の刺激もなければ、何の張り合いもない、虚無的な日々を送っていた。

とにかく仕事も辞めてしまいたかった。目標もなければ、未来への希望なんて持てなかった。責任感と義務感と、生活費を稼がなくてはいけないという脅迫観念だけで、なんとか気持ちを保っていた。

それからは、しばらく小説を書くこともなく、虚無感を抱えながら、仕事をするだけの毎日を送っていた。正直、ここで文章にしても、面白くないので端折ろうと思う。

文藝賞の落選から2年ほど務め、ぼくは別会社からのヘッドハンティングを受けた。正直、会社勤めからは、足を洗おうと思っていたので、最初は断るつもりだったのだが、その前に現在の愛車(現在は2台目になる)ロードスターを買ったばかりだったこともあり(いつか、紹介するかもしれない……)、さすがに無職(無収入)になるわけにもいかず、不本意ではあったが、その会社からの引き抜きの話を受けることにした。

引き抜きを受けた一番の決め手は、給与面の待遇がよかったからなのだが、まあ能力を買ってくれて引き抜いてくれるなら、不本意だろうが本意だろうが、何でもよかった。どうせ小説でも結果は残せなかったわけだし、べつの生き方でも、違う結果が残せるなら、それでいいと思っていた。

それから給料も高くなったこともあり、次の会社に籍を移すことになったぼくは、業界は同じだったのだが、仕事内容としては、その中でも事務や総務などを任されることになり、労務や売上管理、労務士や税理士などとの、やりとりをすることもあった。

そして、その時期に今の妻とも知り合った。

詳しく書くことは、妻のプライバシーの問題もあるので避けておくことにするが、彼女とは付き合う前に、一つの取り決めをしている。

それは、ぼくの小説の執筆には口を出さないということだ。

はっきり言って結婚願望など皆無だった。彼女をつくるより、結婚するより、子孫を残すことより、小説家となり大成する。そのことだけを考えていたし、もし、小説家になれなかったとしても、『生きた証をこの世に残してから、死にたい……』そう思っていた。

付き合い始めたのも、どちらからというわけでもなく、いつの間にか付き合っているような形になっていて、なぜか一緒に暮らすことになり、気づいたら一緒に生活をしていたという感じだった。

で、彼女にはもちろん小説の執筆のことは話していたし、彼女にもぼくの小説は読ませている。(というより、読ませるつもりはなかったのだが、「読ませろ」と向こうからごり押しで要求されたため、仕方なく読ませたというほうが、的確かもしれない)が、彼女とはもともと趣味が合わないこともあり、ぼくの書いているモノに関しては、よく判らないというスタンスをとっている。お互いに家に居ても、基本的に別々のことをしてるし、たまにお出かけをすることはあっても、お互いに趣味が合わないので、必要でない限りは一緒に行動することはない。向こうの買い物に付き合わされることはあっても、荷物持ちと車の運転手として付き添っているだけだ。

こっちも向こうのやることに干渉はしないし、向こうもこちらのやることには口は出さないし、お互いに適切な距離感を保ちつつ、相手のやることには、深入りしないようにしている。

まあ、プライベートなことは、これくらいにして、小説の執筆に話を戻そう。

そして、転職してから、しばらくが経ったころ、『note』と出逢うことになる。

(妻と出会ったのが先か、『蝶々』noteでの投稿が先だったかは、ハッキリとは覚えていないが、もしかするとnoteとの出逢いが先で、note『蝶々』を投稿している最中に、どこかのタイミングで妻と出逢って、一緒に生活をするようになったかもしれない……)

それまでにも某サイトで作品をアップしたことはあるが、なんと説明したらよいのか、毛色が合わないというか、作品のコンセプトが合ってないというか、もともと純文学系の作品を書いていたぼくは、その〝なろう系〟のサイトに上がっているような、ラノベ系の作品全般が好きになれず、そこで作品をアップしていることに関して、なんとなく違和感ようなものを感じていた。

ただ、だからといって、作品を世に出そうにも、その他の術がなく、ちょうど純文学系の作品も扱っていそうな、ほかのサイトを探していたのだ。

作品を完成させられても、誰かに読んでもらって、評価してもらわなくては、何も始まらない。

とにかく『蝶々と灰色のやらかい悪魔』を、お蔵入りさせることだけはしなくなった。どこでもいいから、この作品を人の目に触れるところに、置いてやりたかった。この作品の良さを判ってくれる人のもとに、どうにかして届けてあげたかった。

ちゃんと方向性が合っていて、それなりに人が集まっているプラットホームを探していた。

そして、ぼくは『note』に辿り着く。

ここだったら、『蝶々』をアップしても違和感なく投稿できるのではないか? ぼくと価値観の合う人たちが、たくさん集まっているのではないか? 同じ志をもった人たちと、有意義な交流できるのではないか?

そう思った。ぼくは、


『蝶々と灰色のやらかい悪魔』の投稿を開始することになった。



次回へ続く……




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