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【エッセイ】コーヒー、私、時間(連作1)

目を閉じれば、あの時間が蘇る。
いつもではないけれど、目の前にふっと浮かぶ。
コーヒータイム。
音も匂いも一緒にいる人の表情も、あの時に戻っているかのように。

両親はよくコーヒーを飲んでいた。
私が、学校から早く帰る土曜日。
急いで階段を駆け上がる。
「お帰り」と言うように
私の鼻に、ちょっぴり大人の香りがフワッと届く。

ドアを開ける。
コーヒータイム中の2人の後ろ姿。

「ただいま」
より一層強くなるコーヒーの香りに、
「今から休日だ!」というワクワクした気持ちが合わさる。

まだ幼い私は2人のコーヒーを味見するだけ。
それも時々。
やっぱり苦くて…うーん、おいしいとは思えない…
そこで「ミルクタイム」に変更し、私は2人の間に加わる。

あの時間が懐かしい。
あの時の会話。
あの時の笑い声。
今は全て過ぎてしまった時間。

コーヒーに添えられる、クッキーやチョコレートの味さえ二度と戻らないような気がしてしまう。

幼い時の時間は独特だ。
スーッと流れ、過ぎ去っていくように思う。

「年を重ねると時間が早く感じる」という話をよく聞く。
私の場合は逆かもしれない。

幼い時はあっという間。
もっともっと全てのことを大事にしておきたかった。
何気ない日常は、たった一度の「何気なくない日常」だから。

コーヒータイム。
その記憶は、一度しか来ない「一瞬」の大切さを思い出させてくれる。
2人と過ごす時間がもう二度と来ない訳ではない。
でも、「一瞬」は過ぎ去り続ける。

一瞬、一日、ハラハラと砂のような小さい粒の重なりが、
やがて大きな時間の波に削られる。
あたかも存在してなかったように。
時間の波は底へと消えていく。

では、もう無くなってしまったのか?
いや、確かに存在した。
記憶として、静かに私の体に存在している。

私と2人。
3人の一瞬が後どのくらい重ねられるのだろう。
限られた時の中で、私はしっかり確かに過ごしていきたい。
時の重なりが削られ続けて無くなるまで。
だから今日も思う。

さぁ、今度はいつ3人で「コーヒータイム」をしようかと。

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