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【短編小説】 のぶちゃんとドーナツ ~ 覗いてごらん ~

のぶちゃんはドーナツが大好き。

きょうもママと一緒に大好きな公園へやってきました。

大好きなすべり台の階段をよいしょよいしょと登って、

ひとりでスルスルスル~っと滑り降ります。

また、よいしょよいしょと登ってスルスルスル~。

次はブランコに乗ります。

ママに背中を押してもらってブーンブーンと漕ぎます。

ホントはもっと大きく漕ぎたいけど、

「飛んで行っちゃうからあぶないのよ」と言って、

ママはちょっとしか押してくれません。

いつもはのぶちゃんもあきらめますが、

きょうは大きく漕ぎたい気分です。

「もっともっと!」

のぶちゃんは頑張りますがママはいつもとおんなじにしか押してくれません。

プリプリし始めたのぶちゃん。

すると公園にドーナツ売りのおばさんが入ってきました。

ブランコが面白く無いのぶちゃんは「ドーナツが食べたい」と言いました。

ママは見たことの無いドーナツ売りのおばさんからは買いたく無いようです。

遊んでいる他のこどもたちはおばさんの周りに集まり始めています。

ドーナツを買ったこどもは美味しそうに食べ始めています。

食べているこどもたちは「おいしい、おいしい」と言っています。

のぶちゃんはもう一度「ぼくもドーナツ食べたい」と言いました。

「みんな食べているから、ぼくも食べたい!!」

のぶちゃんはブランコの上でばたばたしました。

ママが「ひとつだけよ」と言いました。

ママと一緒におばさんのところへ行きました。

ひとつひとつで売っていなくて、ひと袋にみっつ入っているようです。

「ひとつだけ頂きたいのですが。」ママがおばさんに聞いています。

「ひとつでは売れないの。残りひと袋なのよ。」とおばさんが言いました。

のぶちゃんがママのスカートを引っ張って「食べたい!」と言いました。

「仕方ないわね。」と言って、ママが最後のひと袋を買ってくれました。

「はい、いちばんおいしいドーナツだよ、ぼっちゃん。食べる前にドーナツの穴を覗いてみてね。」とおばさんが言いました。

「うん!」のぶちゃんは嬉しそうにドーナツの袋を受け取りました。


さっそく袋からひとつドーナツを取り出しました。

ひと口サイズの小さなドーナツがみっつ入っています。

おばさんに言われた通りにドーナツの穴を覗いてみました。

穴の向こうにブランコが見えます。

ブランコにはのぶちゃんが乗っていました。

ブランコを勢い良く漕いでいます。

いつもよりも大きくブーンブーンと漕いでいます。

ブーンブーンと大きく高くブランコが前後しています。

のぶちゃんが泣き始めています。

あんまり高くて怖くなったのです。

そして、一番高いところまで上がったブランコからポーンとのぶちゃんが飛び出してしまいました。

のぶちゃんはびっくりして急いでドーナツを食べました。

ブランコには他のこどもたちが乗って楽しそうに漕いでいます。

ママが「またブランコに乗る?」と聞いてきました。

のぶちゃんは「乗らない。」と言いました。

のぶちゃんよりも大きい男の子がブランコを大きく漕いでいます。

他のこどもが「あぶないよ!」と言っています。

男の子は「すごいだろう!」と楽しそうに言いました。

一番高いところまでブランコが上がったときに、男の子がポーンとブランコから飛んでしまいました。

ドサっと落ちた男の子から他のこどもたちはくものこを散らすように「わーー!!」っと逃げてしまいました。

びっくりして動けなくなって泣いている女の子もいます。

ママと他のおとなたちが駆け寄って男の子に話しかけています。

男の子は大きいケガは無かったようで火が点いたように泣き始めました。

他のこどもが男の子のママを呼んできました。

男の子は「ママー!!」と言って泣いてます。

ヒザとおでこに赤く血がついています。

男の子のママがのぶちゃんのママと他のおとなたちに「すいません、ありがとうございます。」と謝っていました。


「ブランコ、怖かったね。」のぶちゃんがママに言いました。

「のぶちゃんは気を付けて乗りましょうね。」とママが言いました。

自転車にのぶちゃんを乗せてママがおうちに向かいました。

のぶちゃんはふたつめのドーナツの穴を覗き込んでみました。

ママと乗っている自転車に車が突っ込みました。

のぶちゃんが放り出されました。

のぶちゃんはわんわん泣いていますがママは全然動きません。

のぶちゃんは急いでドーナツを食べました。

少し前を走っている自転車のおにいさんが赤信号を渡ってしまいました。

ママが「あぶないわね」と言いました。

するとおにいさんにトラックが突っ込んできました。

大きなトラックのブレーキ音とドンっという何かがぶつかる大きな音が聞こえました。

すぐにもっと大きい悲鳴が聞こえ始めました。

ママといつもの公園の帰りと違う道でおうちへ帰ってきました。


ドーナツは最後のひとつになりました。

のぶちゃんはドーナツの穴を覗くのが少し怖くなりました。

でも覗かないといけない気持ちになっています。

のぶちゃんはギュっと目をつぶってドーナツの穴を覗きました。

ドーナツ売りのおばさんが怖い顔でのぶちゃんを覗き返してきます。

のぶちゃんは目をつぶったままパクっとドーナツを食べました。

ドーナツから「ちきしょう」と声がしました。


のぶちゃんとママは毎日公園へ遊びに行きます。

ドーナツ売りのおばさんはもう来ません。


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