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Web3.0 会計:いまさら聞けない「暗号資産」とは

はじめに

2022年は、暗号資産を保有する上場企業が増加した年といっても過言ではありません。
保有企業の増加に伴い、会計基準の整備が追い付いていない点や、暗号資産に詳しい専門家が不足している点等、環境面の課題も浮き彫りになってきました。

<問題意識>
会計に携わっている方々にとって暗号資産に詳しい専門家が不足していることは社内外への説明に窮したりと効率性に直結する喫緊の課題です。
日々の業務において「そもそもこれって暗号資産とどう違うの?」といった疑問をお持ちの方も多いことでしょう。


<本稿について>

本稿では、議論の前提となる会計上の「暗号資産」の範囲をまとめています。日々の業務の一助になれば幸いです。



1.公表済の会計基準等

本稿では、「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(以下、「当面の取扱い」)で定められている「暗号資産」の定義を対象に整理します。
なお、本稿は現在公表されている会計基準等と監査基準等に基づいています。会計基準の開発状況についてはこちら(Web3.0 期末決算に向けて 会計基準等の動向|treasur05364270|note)の記事をご参照ください。


2.「暗号資産」とは

当面の取扱い

当面の取扱いでは、資金決済法に規定する暗号資産を対象とすることが明記されています。

●本実務対応報告は、資金決済法に規定する暗号資産を対象とする。ただし、自己(自己の関係会社を含む。)の発行した資金決済法に規定する暗号資産 は除く。
●「暗号資産」とは、資金決済法第 2 条第 5 項に規定する暗号資産をいう。

当面の取扱い 第3項、第 4 項


資金決済法の規定

また、資金決済法においては以下のように規定されています。

この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第三項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。

一  物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

二  不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

資金決済法 第 2 条第 5 項


既存の会計基準との関係

暗号資産には直接的に参照可能な会計基準が存在しないため、独自で会計基準を定めることとなりました。 下表と、上述の資金決済法上の規定を照らすと、より理解が深まります。

当面の取扱いに基づいて筆者が作成


収益認識基準との関係

また、売却時の会計処理と関係しますが、暗号資産については収益認識基準の対象外となります。

本会計基準は、次の(1)から(7)を除き、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される。

(7) 資金決済に関する法律(平成 21 年法律第 59 号。以下「資金決済法」という。)における定義を満たす暗号資産及び金融商品取引法(昭和 23 年法律第 25 号)における定義を満たす電子記録移転権利に関連する取引

「収益認識に関する会計基準」第 3 項


3.電子マネーは「暗号資産」に該当するか

「Suica」や「PASUMO」のような企業が発行する電子マネーについては、「前払式支払手段」として暗号資産と異なる定義がなされています。
以下の 4 要件をすべて備えたものが前払式支払手段となります。

(1)金額又は物品・サービスの数量(個数、本数、度数等)が、証票、電子機器その他の物(証票等)に記載され、又は電磁的な方法で記録されていること。
(2)証票等に記載され、又は電磁的な方法で記録されている金額又は物品・サービスの数量に応ずる対価が支払われていること。
(3)金額又は物品・サービスの数量が記載され、又は電磁的な方法で記録されている証票等や、これらの財産的価値と結びついた番号、記号その他の符号が発行されること。
(4)物品を購入するとき、サービスの提供を受けるとき等に、証票等や番号、記号その他の符号が、提示、交付、通知その他の方法により使用できるものであること。

:一般社団法人日本資金決済業協会 HP より

定義だけ見ると暗号資産との境目が難しい気もします。実務的には前払式支払手段を発行する際に届け出が必 要なため、届け出業者が発行している場合は暗号資産に該当しないと言えるでしょう。
また、前払式支払手段の中には加盟店しか使えない等、不特定多数の者により利用を想定している暗号資産と は異なる点も見受けられます。


4.ゲーム内通貨は「暗号資産」に該当するか


<従来型ゲーム>
「ギル」や「ゴールド」に代表されるゲーム内通貨については、基本的にはゲーム内でしか利用できません。不特定の 者を相手方として購入及び売却ができないため会計上の暗号資産には該当しないものと考えられます。


<NFTゲーム>

一方で、STEPN のような NFT ゲーム内で利用される「GMT」等については、取引所にも上場していて他の暗号資 産とも交換が可能であることから、会計上の暗号資産に該当するものと考えられます。


5.まとめ

<類似した機能でも異なる会計処理>
暗号資産、電子マネー、ゲーム内通貨については、電子決済という機能に着目すれば類似していますが、上述のとおりその法的性格は異なります。
本稿では触れませんが、法的性格が異なれば、おのずと会計基準等が想定する会計処理も変わってきます。


<法的性格 vs 経済的実体>

実務においては、社内外の環境変化に伴い会計基準等が想定していない事象が生じることがあります。
その場合、会計処理を導出するにあたり、法的性格と経済的実体のどちらを重視するかという議論になるわけですが、会計の目的が投資家保護にある以上、合理的な説明がつく範囲であれば経済的実体を重視した選択がなされることとなります。


<必要な対応>

Web3.0 の領域はとにかく変化が早い領域ですので、他の領域以上に、経済的実体を反映した会計処理になっているかのセルフチェックが重要と考えられます。
しかし経済的実体の検討には、暗号資産に詳しく、経済的実体が検討できるだけの会計に関する一定の知見、社内外との折衝力といった総合力のある人材を充てる必要があります。


<サポートしています>
会計処理や監査対応でお困りの方がいましたら、私どもでサポート致しますのでお気軽にお問い合わせくださ い。

以上

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