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【書評】曽村保信『地政学入門』(中公新書)

 書店に行けば、「地政学」とついた書籍が平積みされています。帯にはたいてい、「地政学は、現代のビジネスマンに必要な教養」という意味の宣伝文句がついています。

 北朝鮮問題や沖縄の基地問題など、地理の観点から明快に説明してしまえるのが人気の秘訣でしょう。しかし、気軽に読めてしまう入門書は物事を単純化しすぎていたり、地図が不正確であったりします。より深い理解に至るには、もう少し難しめの本にも挑戦した方がいいでしょう。

 しかし、地政学の古典として著名なマッキンダーやマハンの文章は難解です。難しい文章は読み慣れている研究者でさえ、「読みにくい」「訳しにくい」と評するほどです。

 本書は1984年初版の古い本(まだソ連があった頃)ですが、2017年に改版が出ました。「入門」と言いつつも単純化はされておらず、読み応えのある本です。現代でも十分に読む価値はあるでしょう。

 構成としては、1章で「地政学の祖」とされる英国のマッキンダーの理論、2章ではドイツのハウスホーファーの理論を、ナチスに利用された負の側面も踏まえて紹介しています。3章ではマハンやスパイクマンらアメリカの地政学が紹介され、理論がアメリカの外交戦略に実際に影響を与えた事実を描き出しています。

 書かれた時代が冷戦期ゆえ、ソ連についての言及があるのは古く感じるかもしれません。しかし、「ソ連とアフリカの関係」などの視点は知らないことが多く、かえって新鮮に思えました。

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