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【書評】会田大輔「南北朝時代」(中公新書)

 中国における「南北朝時代」といっても、ほとんどの人はぴんと来ないと思います。

 諸子百家を出した春秋戦国時代、始皇帝や項羽・劉邦のいた秦・漢時代、多くの英雄豪傑がいた三国時代と比べても、著名人は少ないです。また、遣隋使・遣唐使という形で日本史とのかかわりがある隋唐よりもイメージはしにくいはずです。

 有名な三国時代と隋唐に挟まれた五胡十六国・南北朝時代は、多くの王朝が短期間に興亡したこともあって、学ぶハードルの高い時代です。北方諸民族が活躍した時代であり、「拓跋氏」など人名表記が難しくなるのもネックです。

 それでも、南北朝時代は魅力の多いダイナミックな時代でもあります。北魏の太武帝や孝文帝、東魏の高歓、西魏の宇文泰、梁の武帝など傑出した人物が多く登場します。一方、極めて血生臭い事件が頻出し、暴君の出現率がやたらと高いのも南北朝時代の特色です。

 印象的な逸話を2つ紹介します。

〇南朝・斉の明帝は有能な皇帝でしたが、猜疑心が強く多くの皇族を処刑しました。粛清を前にすると彼は焼香して嗚咽したので、臣下はその晩に誰かが殺されることを悟ったといいます。

〇北朝・東魏の軍人であった侯景は、南朝・梁に亡命しますが、後に反乱を起こします。梁の実権を握った侯景は、「宇宙大将軍・都督六合諸軍事」という誇大妄想のような称号を自称しました。侯景は部下に殺されて生涯を閉じますが、梁は壊滅的打撃を受けて滅亡に向かいます。

 こうした暴力的な時代ではありましたが、新たな制度や伝統が創出されたり、貴族制が廃れて実力本位の官制に変化したり、しばしば女性が権力を持ったりと、ダイナミックな変化もみられました。伝統的な中国の文化と、北方遊牧民の文化が出会ったことが変化の背景にあります。

 決して理解しやすい時代ではないですが、学び始めには最適の「南北朝時代通史」なのではないでしょうか。


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