見出し画像

密集戦法「ファランクス」の右端の謎

 古代ギリシャの人々が得意とした戦法を「ファランクス」といいます。鎧で武装した重装歩兵が密集し、整然と行進して戦うというものです。

 アテナイでは裕福な市民が重装歩兵として国防に貢献し、参政権を勝ち取っていったことが、世界史の教科書にも記載されています。

 このファランクスでは、各々が右手に槍、左手に盾を持ちます。自分の盾は、自分自身の左半身と、左隣の兵士の右半身を守っています。そうなると、「右端の兵士だけは自分の右半身を守ってもらえないのでは?」という素朴な疑問がわきますね。

 気になる「ファランクスの右端」のことは、トゥキュディデスの『戦史(歴史)』にも言及があります。小西晴雄訳のちくま文庫版から引用します。

 どんな戦列でも起こることなのであるが、敵と接触するために戦列を前進させると、戦列の右翼がさらに寄ってしまう傾向があって、両戦列とも敵の左翼を自軍の右翼で取り巻く形になってしまう。

下巻P49

 ファランクスの右端にいる兵士は、どうしても右半身が無防備になります。そのため、行進していると少しづつ右にずれていってしまうのです。

 トゥキュディデスがこれに言及したのは、ペロポネソス戦争中のある戦いで、自軍が右にずれすぎたので、王が対処のため命令を下した、という場面です。

 ここから、以下のことが読み取れるでしょう。

・ファランクスには、右端の兵士の右半身が守られないという欠点があった。
・そのため、行進すると右にずれていきやすかった。
・古代ギリシャ人もその欠点は分かっていたが、そのままファランクスを採用していた。
・ファランクスの欠点は、司令官が戦場で適切な指示を出すことで補われていたと考えられる。

 トゥキュディデスが細かいことを書き残してくれていたことに、感謝しなければいけないでしょう。


この記事が参加している募集

#世界史がすき

2,672件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?