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【書評】桜井英治「日本の歴史12 室町人の精神」(講談社学術文庫)

「室町人の精神」とは絶妙な副題だと思う。そもそも、現代人が室町時代を敬遠する一因として、「共感のしにくさ」があると思っている。戦国時代や幕末の人物には感情移入できるのに、鎌倉時代や室町時代の人物には感情移入しづらい、という感覚はないだろうか。

 有力な守護大名が、明確な謀反の根拠もなく粛清されたり、暴れる土一揆の要求を呑んで徳政令(借金帳消し)を出したりと、室町時代のできごとは(どの時代でもそうかもしれないが)、現代人にはつかみづらい傾向にあると思う。

 本書は、室町時代のできごとを紹介するだけでなく、この時代の人々の考え方、価値観をしっかり掘り下げることで、「どうしてそんなことが起きたのか」をつかみやすくしている。この点が本書の長所だろう。

 例えば、事件の真相を突き詰めずにうやむやにしてしまう「無為(ぶい)」の考え方。現代人には不可解に思えるが、とある陰謀を暴き立てすぎると、有力守護大名たちに累が及び、幕府の政治が大混乱に陥るリスクもある。秩序を壊さないための価値観である「無為」は、室町時代の政治史のキーワードとなる。

 一見不可解な室町人の言動も、価値観の違いを考えれば理解がしやすくなるということを再確認できた。


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