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【書評】小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)

 ロシアによるウクライナ侵攻により、ロシアの軍事戦略についての関心が高まっています。著者はロシア及び軍事の専門家でもあるため、この分野を学ぶには外せない一冊でしょう。

 本書は2021年5月の発行です。ウクライナ侵攻より前ですが、余計な先入観なしに書かれているという長所があります。

 軍事の用語は無味乾燥な略語であることが多いのですが、本書は一般向けにできるだけ易しく書かれていると感じました。

「ハイブリッドな戦争」

 本書の第1章で紹介されるのは、2014年のクリミア危機です。
 ウクライナ首都での政変を機に、クリミア半島にロシア軍が素早く展開。ロシアの管理下で「住民投票」を行い、クリミア半島を併合しました。

 ロシアは、従来の軍事の枠には収まらない手口を用いて、クリミア半島を鮮やかに併合したとされます。インターネットを用いた情報操作や、正規軍ではない民兵などの活用です。同年、ドンバス地方での紛争(今年のウクライナ侵攻の口実にもなった)も始まりましたが、ここではドローンが活躍しました。

 ただし、筆者は「ロシアが最新のテクノロジーを用いて戦争のあり方を変化させた」と単純に書いているわけではありません。

 ロシアが考えている戦争の主体はあくまで正規軍で、それ以外の要素は「西側に対する自国の劣勢を補うもの」程度ととらえるのがよさそうです。

ロシアが恐れる「永続戦争」

 一方、ロシア独特の考え方も紹介されています。例えば、欧米諸国はロシアに対し、プロパガンダを含めた戦いをしかけている――と、ロシアは本気で考えています。戦時だけでなく平時も続く「永続戦争」というわけです。

 21世紀初頭、旧ソ連の権威主義的な国々(ジョージア、ウクライナ、キルギス)で起きた「カラー革命」は、ロシアを攻撃するために西側諸国が裏で糸を引いていたというのです。

 確かにロシア側の言動を見ると、被害者意識が異様に強いように感じます。欧米はカラー革命において民主派を支援するなどしていますので、完全な被害妄想とも言い切れません。


 他にも興味深い指摘がありますが、きりがなくなるのでここまでにしておきましょう。

 現在、ウクライナがロシア軍を押し戻し、プーチン大統領が部分的動員をかけるなど、ウクライナ侵攻に動きが出てきています。落としどころは不透明ですが、一刻も早い終結を願います。

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