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【書評】阿部拓児「アケメネス朝ペルシア」(中公新書)

 中東(オリエント)やペルシア地域(イラン)と聞くと、現代人は「イスラム圏」のイメージを持つだろう。だが、この地域がアラブの征服を受けてイスラム教が定着したのは7世紀のこと。イスラム以前のオリエント世界について、現代日本人はあまり多くを知らない。

 アケメネス朝ペルシアは、今から約2500年前にペルシア~エジプトまでにいたるオリエント世界を統一した「世界帝国」である。アケメネス朝に関する逸話は、藤子・F・不二雄「カンビュセスの籤」や、岩明均「ヒストリエ」といった漫画作品にも取り入れられている。

 現代日本人には遠い国に感じるかもしれないが、紹介される逸話は興味深いものばかりだ。

 建国者キュロス2世は、大帝国の創始者にも関わらず、その出自や死の詳細が謎に包まれている。

 最盛期を導いた王ダレイオス1世の即位の経緯は謎が多く、何らかの陰謀が存在した可能性がある。

 ギリシアと戦った王クセルクセス1世は、海峡を渡る橋を架けようとした。荒天によって工事が失敗すると、「怒って海に鞭打ち刑を与えた」という逸話を持つ。

 聞きなれない人名が多いものの、予備知識のない人も読めるよう配慮された構成・文体だと思う。近年の歴史本でも「当たり」の一冊だと感じた。

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