【あの世】 統失2級男が書いた超ショート小説
初夏のとある昼下がりに僕はスキンヘッドの医者から膵臓癌のステージ4で、余命半年だと宣告されてしまった。医者の言葉はドラマのセリフのように聞こえて、僕は不思議な気持ちになっていた。そして、そのあとは病院内の自販機で緑茶を買って飲み干したまでは記憶にあるが、どうやって家まで帰ったのかは全く覚えて無かった。僕は40手前の孤独な男だ。僕が死んでも悲しむ者は誰も居ない。この現実に直面して精神が崩壊しそうになりながら、その晩は自宅で12年振りの煙草を狂った様に吸い続け、安物の焼酎を呷る様に飲み続けた。酔い潰れた僕はいつの間にか眠りに落ちていた。翌日は午前9時過ぎに起床し、勤務先である運送会社に電話を入れ、退社したいとの旨を伝える。上司からの引き止めの言葉には、若干の感謝を覚えつつも、僕は「病気の親族を看病する為に故郷に帰ります」と作り話を伝えた。上司は渋々納得した様子で僕の退社を受け入れてくれた。8年間務めた会社への電話による退社の申し入れは、些か不義理で非常識であったかも知れないが、僕は余命半年なのだ、そんな事はもうどうでも良い。電話を入れたのも無断欠勤を始めると、安否確認の為に会社の人間が自宅を訪ねて来るかも知れず、それを面倒に思ったからに過ぎなかった。僕は近所のラーメン屋で豚骨ラーメンを食べて帰宅した後、ネットの通販サイトで故郷の菓子とロープを注文した。
僕は白い部屋の中に居た。照明も窓も無いのに何故か部屋は明るかった。広さは4畳ほどだろうか、しかし天井は高い。見知らぬこの部屋の中には何も置かれていないし、扉も見当たらない。僕は酷く不安になり「誰か居ますか?ここから出して下さい」と大声で2度叫ぶ。すると、何処からともなく若い女性の声が聞こえて来た。それは僕の好きな女優の声にそっくりだった。「自殺した罰です。その部屋の中で完全に孤独な1億年を過ごして下さい」
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