【閉鎖病棟】④毎朝パンを食べる方法
朝食は、コメ派?パン派?
私は、パンが好き。
だけど、ここの朝食は毎日コメだ。
閉鎖病棟での生活も、ひと月位すれば慣れたものです。
ここでの生活は、悪くもなく。
しかし、決して快適でもなく。
そういうものだ。
という意味での「慣れ」かもしれません。
治療は順調。
初期は、薬の副作用が酷く出る時もありました。
ピタリとくる薬に出会うまでは、ストレスの日々でした。
(このことは、また別の機会に。)
今まで、宙ぶらりんとしていた、自分の感覚やら意識やら。
それらが、少しづつ手元に戻ってくると、
今、ここにいる理由。
今、私がすべきこと。
そんなことを考えてみたり。
自分自身のこと。
今いるこの場所。
そこにいる人々。
そんなことにも、少しづつ興味が持てるようになりました。
私のベッドの隣人は、毎日同じ時間に外出しては、大量の荷物を持って戻ってくる。
入院した時も。
保護室から移動した時も。
私は状況を理解しているようで、きっと殆どできていなくて。
されるがまま。
連れていかれるがまま。
そんな状況だったはず。
だから、既にいた同室の患者と挨拶を交わすこと。
そんな感覚も、まるでなかったのだと思います。
きっと、彼女たちにとっても、それは大した問題ではなく。
今更、改める必要もありませんでした。
私がいた閉鎖病棟には、他人との会話を好む人が結構いました。
しかし、誰とも関わりを持たずに過ごす方も、もちろんいます。
だから、私は隣人がどんな女性だったのか、殆ど知りません。
ただ、彼女は、病棟内で一番沢山の物を持っていて、少し不思議な存在でした。
そのうち、
彼女が毎日、近くの店舗で買い物を楽しんでいるのだとわかると、私は羨ましくてたまらなくなりました。
自由に外出をして、買い物を楽しむ方法。
それが知りたい…。
病気や入院に関して。医師からは細かな説明を聞けぬまま、私の入院生活は始まりました。
しかし、説明があったとしても。
まだ、殆どが理解できなかったことでしょう。
私がいた閉鎖病棟について。
医師の診察は週に一度。
限られた貴重な時間です。
だから、質問や要求は必ず伝えます。
でないと、また。
いつもと何も変わらない一週間を、過ごすことになってしまいます。
暫く私は、医師の診察に呼ばれても、
ぼんやりと座って、与えられた質問にただ答えるだけでした。
それも次第に変わり、
私の要求は少し具体的になっていきました。
外に出たい。
煙草を吸いたい。
携帯電話を使いたい。
パンが食べたい。
だけど、時々。
医師を目の前にすると、今まで容易に出来ていたことが、ちっともうまくいかなくて。
私は、酷く自分に苛立ちを感じていました。
伝えたいことを覚えておくこと。
それを確実に相手に伝えること。
こんなにも、難しいことだったのだろうか?
たとえ、
伝えたところで、叶わないことも多くあります。
それでも、
一週間分の要求や、私の中の出来事を。
私は、必死に説明しようとしていました。
だから、私の最初の要求は「書くもの」。
酷く発作を起こしたその最中も。
私は、自分自身を文字にして残そうと必死でした。
私の入院生活において。
「文字を残せるもの」に関する制限が厳しかったのも、それをしないため。
でも、こんなことでは…。
大切なことを忘れてしまう。
必要なことを伝えられない。
だから、今は、書くものが必要だ。
久しぶりに手にした筆記用具。
そこに私は「毎日朝はパン」と、書きました。
ひとつ、確実に前へ進むように。
何ができて何ができないのか?どうすれば変わるのか変えられるのか?
私の場合。
必要な情報収集は全て病棟内でした。
どうして携帯電話を使えるの?
どうしてオヤツを持ってるの?
どうして喫煙所に行けるの?
ゲームは?音楽は?本は?
退屈をしのぐものはどうやって手にいれているの?
どうして毎朝パンを食べているの?
どんなに些細なことも。
気になったことは、全て自分で情報を得ようとしました。
でないと、
何も変わらなから。
何も変えられないから。
そうやって、一つ一つ先に進んでいくしかなかったのです。
閉鎖病棟の中。
心の病は、とても不安。
もし、今の時代であれば、
私は、ほんの少し違ってったのかな?とも思います。
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