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D2Cはバズワードか

最近「D2C」というワードが一般的にもよく言われるようになってきたと感じています。私自身、学生時代にアパレル業界で起業した経験や現職でD2C領域の仕事を担当するようになり、このトレンドにはかなり深くウォッチしていました。そこで今のD2Cの現状を自分なりの理解でまとめてみようと思います(ただの主観です)


D2Cとは

D2Cとは「Direct to Consumer」の略で、"メーカーが自社で企画・製造した商品を自社のECサイトなどを用いてダイレクトに消費者に販売する仕組みのこと"を指します。
よくB2BやB2Cと並列的に並べられて、それら二つの進化系のような描かれ方をされることが多いですが、基本的には企業がコンシューマー相手にビジネスをしているのでB2Cにカテゴライズされます。

ではいったい既存のB2Cとは何が異なるのでしょうか。

あえて私なりにいままでのB2Cとの違いがわかりやすいように伝えると「テクノロジーの力によって業界の慣習をディスラプトしようとしている企業」であり、さらにいうと「消費者から指名買いされる企業」だと言えます。

<D2Cが誕生した背景>

少しマクロな視点でD2Cが誕生した背景的な話に触れておきます。

①「モノ」から「コト」消費への移行
②SNSを活用したデジタルマーケティング拡大
③テクノロジーによって業界の垣根の消失

背景①-「モノ」から「コト」消費への移行

「モノ消費」 :  商品のそのものの所有に価値を見出す消費傾向
「コト消費」 :  商品やサービスを購入したことで得られる体験に価値を見出す消費傾向

最近若者は車を買わなくなったとか、高級ブランドの洋服に興味が無くなったとかそうゆう類のものです。

今の時代、若者は簡単にはモノを買ってくれません。
それはシェアリングエコノミーの発達によってモノを「所有」ではなく「共有」するようになったり、メルカリなどのリユース市場が拡大して中古で欲しいものを手に入れたり、NetflixのようなWebサービス体験にお金を使用するようになったり、様々な要素が絡んでいると思います。

だからこそ単に品質の良いものを作っても売れないのが、今の時代のメーカーの実態かと思います。

背景②- SNSを活用したデジタルマーケティングの拡大

インスタ映えというワードが流行したりして、人々の生活にSNSが無くてなならない存在となり、インフルエンサーと呼ばれる存在が様々なジャンルで誕生しました。それと並行して各SNSに広告を打ったり、インフルエンサーに商品を宣伝してもらうデジタルマーケティングが拡大しています。
またそもそも企業自体がSNSを活用することでマーケティングをすることも可能となっています。

さらにインスタ発のブランドなども多数誕生してします。

(インスタで大人気となった17kg)

今や、多くのメーカーや小売店などがオンラインで物を売る時代ですが、オンラインでの売上を上げるためにはSNSをどう活用するかが最重要課題となっているのです。

背景③- テクノロジーによる業界の垣根の消失

上記でも少し触れましたが、金融業界は今やIT企業が大きな影響力を持っています。

GAFAはもちろん、日本でも楽天やLINE、Yahooなど多くのIT企業が金融業界に参画して既存のメガバンクなどを脅かしています。
他にも、自動車、不動産、ホテル、家電、教育、ヘルスケア、エネルギーなどほとんどすべての業界でITの力は無くてはならない要素となり、IT企業による業界への参入も日常茶飯事となりました。

もちろんメーカーや小売業界も例外ではありません。

ここで述べたいことは、

・背景①~③などがあって多くのD2Cブランドが誕生したということ
・D2Cは一過性の流行などではなく、どの業界でも起こっている本質的なパラダイムシフトであるということ

です。

そして、これから具体的に説明していくD2Cの波に乗れないと新規レイヤーに破壊(ディスラプト)されてしまうと考えられます。

押さえるべき4つの特徴


ここからは実際にD2Cの特徴やビジネモデルをより詳細に説明していきます。私はD2Cの特徴として大きく以下の4つの要素があると考えています。

①ダイレクトアプローチ
②デジタルファースト
③イミ消費
④共創性

もちろん4つは別個として存在しているのでは無く、互いに複雑に絡み合っていて、このような分け方が正しいかどうか不明ではありますが、一旦上記を1つずつ説明していきます。


<①ダイレクトアプローチ>

冒頭でD2CはB2Cに含まれると述べましたが、正確に言うと今までB2Cと言われてきた企業の多くは本質的にはB2Cでは無く、真の意味でB2Cとなる企業がD2Cから生まれているのです。今まで、多くのB2C企業は、消費者との間に広告代理店が入ったり、百貨店をはじめとする小売店が入ったり、プラットフォーム型ECの楽天市場やZOZOが入ったりしてました。そのため正確にはtoCではなかったのです。一方でD2Cブランドというにはそういった仲介会社が無いというのが一番の特徴です。ゆえに真の意味でtoCであり、Direct to Consumerと言う名前がついているのです。

従来のアパレル業界などでは企画、生産、販売など、細かく役割分担され、それぞれの部門で専用業者を通し、巨大なサプライチェーンを構築していました。ただ、多数の工程を経るため、マージンがかさみ、消費者は何十ものマージンが乗った価格設定で商品を買わされていました。

こうした高額なマージンを積み重ねる仕組みを変革すべく登場したのが、例えば眼鏡市場のD2C企業「Warby Parker」です。「Warby Parker」は企画から製造、販売までを自社で行い、仲介業者を取り払うことで高品質な商品を低価格で提供することで大きく成長しました。

(Warby Parker)


<②デジタルファースト>

基本的にD2Cブランドは自らが関与する領域の多くの部分においてデジタルファーストに業務が設計されていることが多いです。それは既存の小売店やアパレルメーカーなどが今までの業務をデジタル化していくのとは少しベクトルが違います。

例えば、ショールーミングやウェブルーミングを前提としたO2O(Online to offline)の店舗設計とECをほとんどのブランドが当たり前のように行っていたりします。

ショールーミング : 商品購入の際に実店舗に訪れて現物を確かめ、その店舗では買わずにオンラインショップで購入すること
ウェブルーミング : 商品についてあらかじめインターネットで情報収集を行い、最終的に実店舗に行って、直接商品を購入すること

またO2O(Online to offline)の一歩先といて最近ではOMO(Online merges with offline)とかニューリテールを取り入れているブランドも多いです。

OMO : オンラインとオフラインのようにチャネルを分断して考えるのではなく、オン・オフのチャネルを融合して、よりよい顧客体験を提供していこうという考え方のこと。つまり、得意なことをオンとオフのそれぞれで担い、どちらか一方では消費活動が完結しない。
ニューリテール : アリババのジャック・マーが提唱したモバイルインターネットとデータテノロジーを用いることで、小売業のデジタルトランスフォーメーションを実現し、オンラインとオフラインを融合させた新しい消費体験を提供すること

そしてOMOの代表的な存在なのが、日本発のD2Cブランド「FABRIC TOKYO」です。単にサイズが合うだけでなくよりライフスタイルにフィットするオーダースーツを提供しているブランドで、オンラインとオフラインのそれぞれ得意としていることを理解して顧客体験を提供している印象があります。

またデジタルファーストとして欠かすことはできない要素としてデータドリブンであることです。これはどの業界でも同じですが「データを制するものはビジネスを制する」と言われています。そのためには当然データを分析する人間が必要ですし、データを適切に収集、保管する環境作り、分析した結果を即座に製品、顧客体験に生かす流れも必要となります。


<③イミ消費>

1章で「モノ消費」から「コト消費」に移行していると述べたが、私は最近さらに一歩進んで、「イミ消費」に突入していると強く感じるようになりました。

「イミ消費」 : 商品自体の機能やサービスの体験などだけではなく、それらに付帯する社会的・文化的な「価値」やオリジナリティ溢れる「世界観」に共感して選択する消費行動のこと
※私の体感では、日本においては3.11以降に発達した感じるが、世界的に見ても同時期ぐらいから徐々に発達しているように思う

「イミ消費」にとって大事なのは製品の性能などに加えて、ブランドの世界観やコンセプトです。例えばスーツケースブランドのAwayは旅をテーマとする雑誌を作っています。

他にもアパレルブランドのEverlaneは徹底的な透明性をコンセプトに商品に対してどれほどお金がかかったのかや工場の様子を公開することで消費者が納得して購買できるようにしています。
※本来アパレルブランドというのは原価や製造工程は秘密にするのが一般的

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従来のブランドから見ると間違いなくタブーだけれど、同社の掲げるスローガンは「Radical Transparency(徹底した透明性)」である。
衣料品の工場がある途上国の過酷な労働環境が問題視される中で、Everlaneは委託先の工場の生産過程や従業員の写真、取引開始までのエピソードまで丁寧に伝えているのである。
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO35710890V20C18A9H46A00/


また上記のような崇高な世界観や価値とまではいかなくても、「イミ消費」というのは身近なところでもどんどん生まれてきています。
例えばインスタで有名になったインスタグラマーがTシャツをデザインしてファンが買うといったことが最近よく目にすると思います。機能としては普通のTシャツであったとしても、インフルエンサーがデザインすることでそこには独自の世界観が生まれており、同時にインフルエンサーを応援するといった意味も兼ね備えているのです。これは立派な「イミ消費」であり、今後もどんどん増えていくと考えられます。

だからこそ製品単体の性能や質だけでなく、いかに世界観やブランドメッセージを製品に吹き込み、イミ付けをした状態で顧客に提供するかが大事なのである。

<④共創性>

共創性とは、簡潔にいうと消費者と一緒になってより良い製品/ブランドをつくりあげていくことです。

今までのアパレルブランドなどは広告としてテレビCMを打ったり、雑誌に広告を打ったりしてきましたが、D2Cブランドの主戦場はSNSです。

SNSで広告を打ったり、自社のSNSを運営していくことは当然必要になってきますが、大事な要素として消費者の口コミがあります。D2Cでうまくいっているブランドは例外なく、消費者の口コミで拡大していると言えます。

つまりD2Cが成功する鍵というのは、いかにして消費者に愛されて、SNSで投稿してもらえるかであり、消費者の力が必要不可欠なのです。

インスタグラムのフォロワーでD2Cの中でダントツに多いのがコスメブランDのGlossier (フォロワー266万人)ですが、

Glossier CEOのEmily Weissは以下のように述べています。

One of the things we really rely on is our customers as co-creators and sort of co-conspirators of our company.
私たちが大事に思っていることは、顧客を私たちの会社の「共創者」であり、「共謀者」と思っていることです。

引用 : D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略

上記のコメントからも消費者と一緒になってブランドを成長させていくのがD2Cの特徴であることがうかがえると思います。

また今まではより良い製品を作るのは完全にブランド側が独自でおこなってきましたが、、D2Cブランドでは消費者の声をデータとしてすぐに製品へ反映したり、一人ひとりのサイズや好みをデータとして蓄積していくことで個人によりパーソナライズされた商品を届けることが大きな流れとなっています。つまり一方的に製品を開発して消費者に届けるだけではなくて、消費者と開発者やデザイナーとの間の会話を利用しながら、商品を消費者に届けているのです。

今後はどうしていくべきか


現在ではファッションやフードの領域を中心に次々とD2Cブランドが誕生しましたが、今後は、ものづくりのすべての領域でD2C化が進んでいくと考えています。単に質や機能が良いだけでなく、しっかりとしたブランドの世界観があり、よりサスイテナブルで、個人にパーソナライズされた製品を提供するD2Cブランドがどんどんシェアを伸ばしていくと考えられます。こうした未来は、ものづくりとしての歴史と伝統、ノウハウが溜まった日本産業にとって、追い風のように思えます。大量生産ではなく、目の前の顧客のためにより良い製品を作るD2Cブランドが日本からたくさん生まれることを願っています。


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