見出し画像

Vol.2「中小企業のための経営戦略とデザイン経営(成功例をプロセスで解説)

 従来の戦略フレームワークとデザイン経営(デザイン思考)を融合させたV字回復の事例をプロセスを通してご紹介。
 「後継者の不在」から、スタッフの力で売上と顧客満足度を向上させる自律型組織をつくり、コロナ禍でも売上高125%成長を果たしたお店があります。営業形態はスナック。スタッフの力で売上と顧客満足度を向上させる自律型組織をつくりました。そんな実話に基づくサクセスストーリーを、相談者とコンサルタントとの会話から紐解き、企業規模に関わらず取り組める「デザイン経営/思考」を全6回で考えます。店舗型ビジネス/サービス業編となります。
 今回は、Vol.1につづく、Vol.2となります。


【登場人物】
相談者:
 お店のオーナー:Chie
スタッフ:
 ママ:Mari
 スタッフ:Sayaka

支援者:
 プロセスコンサルタント/デザイン思考ファシリテーター
  株式会社U-NEXUS 代表・上野敏良

■チェックリストによる店舗運営の仕組みづくり

――まだまだ上野とオーナーのChieとのヒアリングは続きます。

上野:
 まずは、オーナーが不在でもお店が回る仕組みづくり、いわゆるマニュアルの作成からはじめましょう。Chieさん(オーナー)のお話を伺っていると、スタッフの問題や課題が多くあがってきますが、逆に何か良いところはありますか?

オーナーChie:
 スタッフの子たちは、言われたことはちゃんとやってくれます(笑)
 
上野:
 なるほど。では、ただのマニュアルではなく、チェックリストがいいですね。これまでママのMariさんや、かつてChieさん(オーナー)さんがやっていた営業前(開店前)・営業中(開店中)・営業後(閉店後)のオペレーションをすべて洗い出し、細かくチェックリスト化していくんです。

営業前/営業中/営業後のチェックリスト

上野:
 一般的に、マニュアルを作っても読まれないことが多いです。
 でも、実際に行動に基づくチェックリストにすると、具体的に何をすればよいかが明確なので、スタッフはそのとおりに行動することでお店を回し続けることができます。それに、誰がやっても同じ結果になりますし、身につきやすいのです。
 指示に対して素直に動くスタッフの皆さんなので、チェックリストが有効だと思います。今後入ってくる新人教育にも有効ですよ。
 
――チェックリストを導入してからの「スナックM」の変化は……?
 
オーナーChie:
 おかげで、チェックリストに沿ってみんなが順調にオペレーションできるようになりました。自分では当たり前だと思っていたことも、スタッフに明確に示してあげることが大切だと実感しています。私の愚痴のような話をしっかり生産性のあるものにしていただいて感謝です。

上野:
 スタッフが自分の仕事だと認識していることと、スタッフが当然やってくれるだろうとオーナー側(経営サイド)が期待していることの間には、しばしば食い違いが生じます。その意味でも、お店を運営していくために必要な行動を明文化し、それをチェックリスト化することが有効です。

■KPT(けぷと)を使ったコミュニケーションで仕事やプロジェクトの改善を加速


上野:
 では、次のステップに進みましょう。
 仕組みづくりにおいて、他に困っていたのは、ホウ・レン・ソウについてですよね。

オーナーChie:
 以前は、ママのMariから売上や店の状況を報告してもらっていたのですが、今残っているスタッフとのコミュニケーションツールがなく、店の状況把握をどうしたらよいか悩んでいます。
 
上野:
 では、コミュニケーションを支える仕組みをつくることが必要ですね。KPT(けぷと)を使ってみましょう。

KPT(けぷと)シート

上野:
 KPTとは、「振り返り」によって、仕事やプロジェクトの改善を加速させるフレームワークです。
 上記のように3つのエリアをつくり、
 ①左上に【Keep(うまくいっていること=続けたいこと)】
 ②左下に【Problem(問題)】
 ③右側に【Try(試してみたいこと)】
 この3つの項目を書きます。
 日々の業務をこの3つの項目で振り返って整理することで、課題が早期に発見できます。また、意見交換の場ができ、全員が次に何をすればよいのかが明確になります。とてもシンプルですが、強力ですよ。
 
オーナーChie:
 スタッフの子たちは言ったことは行動してくれるので、こういう仕組みに対しても真面目に取り組んでくれそうです。
 
上野:
 それは、良かったです。
 大切なのは「振り返り」です。
 アメリカの思想家である、ジョン・デューイ(1859~1952)の言葉に、次のものがあります。
“We don’t learn from experience. we learn from reflecting on our experience.”
(人は経験から学ぶのではない。経験から何を思い、どう感じたか省みることから学ぶのだ)と。
 
 では、このKPTのシートをChieさん(オーナー)とスタッフの皆さんで共有するためには、どんな方法がやりやすく、続けやすいでしょうか?
 他の組織の事例も紹介するので、Chieさん(オーナー)の方で考えてみてください。
 
――事例紹介を聞いたオーナーChieの反応は・・・?
 
オーナーChie:
 そうですね。事例を聞くと、うちの場合はパソコン入力はできないので、このシートを紙に出力し、毎週のスタッフミーティングで状況を書き込んでもらって、シート自体の写真を撮って、週一回、売上伝票と一緒に写真をLINEで送信してもらおうと思います。LINEなら普段から皆が使い慣れているのでスムーズにできそうです。
 
上野:
 いいですね。
 KPTにはどんな小さなことでもいいから書き出してもらってください。
 そして、Chieさん(オーナー)としては、このシートを確認後、その内容に対してのコメントを赤ペンで書き込み、また写真に撮ってスタッフの皆さんに送り返すフィードバックを行ってください。フィードバックによってサイクルが回り、コミュニケーションツールとして機能しますし、スタッフの皆さんにとっては張り合いになって、モチベーションアップと成長につながります。
 時々、お店の方にも顔を出すということですが、こうした日々の積み重ねがあることで、話も早いですよね。

――ミーティングシート導入後の「スナックM」の変化は……?
 
オーナーChie:
 KPTはシンプルですが、お店や人の運営に関わる要素が全て含まれていて、うまくいっていること(=続けたいこと)、問題になっていること、スタッフの皆が次に取り組みたいと思っていることが“見える化”され、とても役立っています。
 
上野:
 現場の状況は、オーナーが把握しておくべきことですよね。
 それに、KPTは【Keep(うまくいってること=続けたいこと)】から書き出すので、「良いこと』から入る分、【Problem(問題)】も出しやすく、【Try(試してみたいこと)】も出やすいんです。
 今回の一番の成功要因は、KPTの共有方法をChieさん(オーナー)が自ら考えて決定したことです。その場で考えて、即決して、即行動に移せる力があるので、成果につながるのも早いんです。
 それに、やはり組織づくりの基本はコミュニケーションが基本です。
 今回は、KPTのシートでオーナーとスタッフのコミュニケーションがきたということですね。これは、近年最注目を集めている、元MIT(マサチューセッツ工科大学)組織学習センターの共同創始者のダニエル・キム氏による「組織の成功循環モデル」という理論で説明できるんです。
 私がご支援する際に、とても大切にしている考え方です。

■組織の成功循環モデル

組織の成功循環モデル(グッドサイクル)

上野:
 組織が業績を上げるためには、組織を構成するメンバー同士がお互いに尊重し、相互理解を深めたり、一緒に考えたりする「①関係の質」が大切です。今回はミーティングシートでコミュニケーションを図れるようになりました。いきなり「何か話して、ミーティングして!」と指示してもなかなか難しいのですが、こうしたフレーム(KPT)があると話が進めやすいですし、内容自体も実際に共有すべき情報ですよね。
  そうすると、気づきを得たり、楽しさを感じたりすることができ、「②思考の質」が向上して、自発的・積極的に行動するようになり、「③行動の質」が向上します。その結果、「④結果の質」が高まって、「①関係の質」がさらに向上し、組織全体の信頼関係が高まって、プラスの循環が続いていくんです。

オーナーChie:
 つまり、私たちにおいては、今はまだ「関係の質」が以前より少し高まったに過ぎないのですね。となると、次は「思考の質」を高めていかないと…。
 
上野:
 いえいえ、この短期間に少しでも「関係の質」が改善されたのであれば素晴らしいことです。

 組織に変革をもたらし、自分たちが望む結果を得るためには、一見、遠回りのように見えますが、この「関係の質」の高い組織の土台づくりが欠かせません。

 今は『話し合いの場』ができた状態です。
 ちなみに「成功循環モデル」は、サイクルの回し方によってはバッドサイクルにもなるんです」

組織の成功循環モデル(バッドサイクル)

上野:
 バッドサイクルは、結果を追い求め、目先の業績を向上させようとするところからはじまります。そうした「①結果の質」を求めるやり方には無理があるので、強制力や指示命令の行使、やらされ感の高まりによって「②関係の質」が低下します。それが、「③思考の質」と「④行動の質」の低下につながります。
 結果的に自発的・積極的に行動しなくなるので、成果が上がらず、「①結果の質」が低下し、職場のさまざまな問題が発生するというマイナスの循環にはまり込んでしまうのです。
 つまり、生産性の向上や職場の問題解決の大前提が「関係の質」の向上であり、そのためにコミュニケーションのあり方を見直すべきということなのです。
 
オーナーChie:
 危うく、私も結果ばかりに先を急いで、バッドサイクルに陥るところでした。
 
上野:
 案外、Chieさん(オーナー)のように、バッドサイクルの説明にハッとする経営者は多いんです。その共感から「バッドサイクルを抜け出したい」という動機で私にご依頼いただくことも多いです。
 もちろん、今回のケースでは、ママが不在になってしまった以上、短期的な目線も必要で、まずはお店を持続することに重きを置かなければなりません。そのために、先ずはチェックリストを有効に活用して、オペレーションができる状態にします。
 ただ、チェックリストだけだとやらされ感が出てきてしまいますので、合わせてコミュニケーションの土台づくりが大切になります。

 では、次のステップにいきましょう!
 

【Vol.2 まとめ】


・「言われたことは行動する」スタッフの特性を生かし、オペレーションを回すためのマニュアルをチェックリスト化する。
・KPTを使ったミーティングシートと使い慣れたツール(LINE)で、オーナーとスタッフのコミュニケーションを実現する。
・KPTの振り返りにより、スタッフの希望をアウトプットさせ、オーナーからフィードバックすることでスタッフの成長を引き上げ、モチベーションを向上させる。

現場のオペレーションやコミュニケーションの円滑化による土台づくりが組織変革の第一歩!

(Vol.3につづく…)

#中小企業 #後継社長 #店舗経営 #店舗ビジネス #価値創造 #サービス業 #アトツギ支援 #デザイン思考 #デザイン経営 #自律型組織 #自走型組織 #フレームワーク #ファシリテーター #チームづくり

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?