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映画感想 ソニック・ザ・ムービー

 2020年公開の映画。公開前は、ソニックのデザインがあまりにもいい加減……で不評になり、公開日を延期してまでデザイン変更してポストプロダクションをやり直した、という紆余曲折はありつつも、蓋を開けてみればビデオゲーム原作映画史上、もっとも収益を上げる映画となった。
 が、日本公開はプロモーションをやってさあ公開! ……という直前で何かしらのウイルスが蔓延してしまったために延期……。何かとトラブルの多い映画だ。
 日本での興行収入は結局どれくらいだったのだろう……とグーグルで検索してもしても出てこない。公表できるほど数字が出なかったのかな? タイミングの悪さで日本での収益は出せなかったものの、全米、そして世界で3億ドルを稼ぎ、すでに続編制作にGOサインが出るほどに成功した作品となった。

ソニック・ザ・ムービー cbe

 とりあえず、いつものように、お話を見ていきまっしょい。

 まず冒頭30分。
 ソニックは何者かに狙われて、リングをくぐって地球にやってくる。何者かに狙われたら、リングをくぐってさらに次のワールドへ目指せ……と指示されているが、その次のワールドというのがキノコの惑星(きっと鼻の大きな髭のお兄さんがいる世界だ)。あの世界には行きたくないなぁ……というのと、辿り着いた地球はありとあらゆる物資に溢れていて、それに寄生して暮らすだけで充分すぎるくらい満喫できることに気付いたソニックは、そのまま地球で過ごすことに。それきり数年が過ぎていく。
 ある夜、野球場で一人遊んでいたソニックは、ふと孤独であることに気付き、自棄っぱちになって走り回っているうちに、電磁パルスを発生させてしまう。街全体を停電にさせるほどの事故になってしまい、国が調査に乗り出すことになる。しかしみんな忙しいので、マッドサイエンティストのドクター・ロボトニックが派遣されることとなってしまった。
 ドクター・ロボトニックはあっという間に近くの森に謎の生物がいることを把握し、ロボットを放って謎の生物を追い込もうとする。
 ソニックがとっさに逃げ込んだのは、トムの家。ソニックがいつも映画を覗き見していた家だった。
 トムはアライグマが入り込んできたのだと思い、麻酔銃を手に駆除しようとするが、そこにいたのは見たこともない青い毛並みの生き物……。トムは茫然として、ソニックの足に麻酔銃を撃ち込んでしまう。これでソニックは一時的に俊足が封じられてしまう。

 ここまで30分。15分でソニックが電磁パルスを発生させてしまい、次の15分でドクター・ロボトニックが登場し、追い詰められるまで描かれている。展開は良い。それぞれの登場人物の紹介と、出会いまでがきちんと描かれている。一時的に超スピードが封じられて追い詰められる、という展開も良い。
 「キノコの惑星」は明らかに『スーパーマリオ』の世界のことで、「あそこには行きたくないなぁ……」というソニックだが、かつてセガがプロモーションでマリオをライバル視していたことを思い出す。意識していたかどうかわからないが、ああいう毒っ気もセガらしさ、ソニックらしさだ。

 前半の展開で気になったのは、ソニックのデザイン。初期のデザインと比較すると格段に良くなったし、ソニックだけを見ると可愛いのだけど、実写の風景と合っているかどうか……というと疑問。どう見てもアニメキャラクター、CGキャラクターにしか見えない。光の捉え方は上手くいっていて、実景と馴染んでいるといえば馴染んでいる。でもどうしてもあの大きな目を見ると、抽象度が合っているようには感じない。
 いっそ、『ロジャー・ラビット』くらいはっきり質感が違っていて、質感が違うことを作品の面白さにしてくれれば気にならないのだが、『ソニック・ザ・ムービー』は光の感触などうまく馴染ませているから、逆に違和感が出てくる。
 ただ、このデザイン問題は何が正解なのかよくわからない。そもそもソニックみたいなキャラクターを、現実世界に連れてくるアイデア自体が無理矢理な話。いっそ、冒頭のシーンをメインにしたCGアニメにしてしまえば話は早いのだが、それだと「実写化」というコンセプトから外れる。それは「アニメ化」だ。実写化というコンセプトを通そうと思ったら、無理を通すための何かしらのアイデアがもう一つ必要になってくる。
 『ソニック・ザ・ムービー』に先立って『名探偵ピカチュウ』という作品があり、そこでは現実風景にポケモン達がいる……という光景にそこまで違和感はなかったのだが……。
 ソニックのデザイン問題は、私はまだ完璧に乗り越えたとは思えない。あともう一押し、ソニックをアメリカの風景の中に馴染ませる工夫が必要だ。

 ソニックが電磁パルスを発生させてしまう展開は……そうはならんやろう……とは思うのだけど、それには目をつむろう。気になったのは表現の方で、ああいうふうに同じ場所をぐるぐる回るわけだから、ソニックの姿勢は右側(ダイヤモンドの内側)に傾いていなければならない。でもそんなふうに描いていないのが、アニメーションとして気になる。あの描き方だと、ソニックの身体を捉えていないように感じられる。

 もう一つ前半部分で気になったのは、人間側。ドーナツ卿ことトムだが、人間関係がやたらと希薄。田舎だから、そもそも知り合いが多くないとかありそうだけども、トムというキャラクターの背景が薄く感じられる。人間関係が、警察署内で1人しかいない……みたいな描写になっている。ドーナツと喋っているのは、勤務中暇だから……だと思うのだが、この設定がどうにもトムの人間関係を希薄にしている原因を作っている。ひょっとしてトムは、ドーナツに話しかけるほど孤独な人間だったから、孤独なソニックと惹き合ったのか? ……とか考えてしまう。ここはもうちょっと厚みが欲しい。

 では次の30分。
 ソニックは麻酔銃を撃たれた時、大事なリングを入れた袋をサンフランシスコのビル屋上に落としてしまった。そこにやってくるドクター・ロボトニック……。
 ドクター・ロボトニックをうまくやり過ごしたソニックは、サンフランシスコへ行きたいが、そこまでの道がわからないので、トムに車で送ってもらうことになる。
 その途上で、とあるバーの前までやってくるが、ソニックはバーでの光景があまりにも楽しそうだったので、思わずその中へと入ってしまう……。そこで一騒動があり、トムはソニックが「本当の友達が欲しい」という願いを知ることになる。

 前半部分で物語の必要な提示は完了し、後半戦へ向けた布石も込められている。
 この構成自体は問題ないのだが……ソニックがあまりにも軽率にバーの中へと入ってしまう展開はいかがなものだろう。これまでの数年間、ひたすら我慢して人から見つからないように頑張ってきたソニックなのに、ここで急に前提が壊れたような感じになってしまっている。しかもバーの中の人たちが、「青い小人」がいる風景に、ほとんどなんとも思っていない。「彼は皮膚病なんだ」は説明として充分じゃないだろう。どう見ても動物キャラクターじゃないか。
 ソニックは超高速で移動ができる。スタミナも非常に高い。ということは行動範囲は非常に広い。なんならどこかでディズニーランドくらいこっそり行っていてもおかしくないくらいだ。そのソニックは、あの程度の光景で我慢が効かなくなる……というのはどうなんだろう。バーでの騒動を作るために、強引な展開に感じられてしまう。

 そのバーでの騒動。バーの中での光景がほぼ停止状態になり、ソニックだけが高速で移動する場面がある。ソニックの超スピードを、ソニックの視点で描いている。ブレッドタイムの有効活用を久しぶり見た気がする。
 描き方そのものは決して悪くないどころか、むしろ良いのだけど、この場面にもいくつか引っ掛かりがある。というのも、ソニックが触れるものがソニックと同じ速度で動いてしまっている……ということ。例えばスマートフォンを奪い、写真を撮る場面があるのだが、あのスピードで動いているなら、フラッシュも超スローで描かれなければならない。爆発物は爆発が起きる寸前の光が出るところで止まるはずだ。それぞれの速度感があやふやになっている。
 それに、他のシーンのソニックの速度と一致していない。あのスピードは時間を超越してしまっている。ほとんど停止している中を走り回っているような状態になってしまっている。周りの物は、もうちょっと動いていても良かったんじゃないか。

 もう一つ気になったのは、ソニックの能力。ソニックは電流をまとっている……。まあそれは良しとしよう。そのソニックが落とした体毛も、電気が無限に発生し続けている設定はどうなのだろう? あれだけの電気を無限に出し続けることができるなら、もはや原発もいらないじゃないか。ピカチュウどころの騒ぎじゃない。あの体毛1本からエネルギーを得て、ドクター・ロボトニックは飛行機を飛ばして続けるわけだけど、あの設定はいくらなんでも都合が良すぎる。もうちょっとアイデアをしっかり練り込んでほしかった。

 ここからはアクションが中心のシーンへと移っていくのだが……。
 まあショボい。高速道路でのアクションシーンは、風景が貧相だし、アクションが始まったら周りの車がいきなり姿を消す。ドクター・ロボトニックがミサイルを撃った時だけ、そのミサイルが被弾するためだけの車が出現する。ハイウェイを走り抜けながらのチェイスシーンなのにスピード感も緊張何も何もない。

 その後のアクションにしてもいいシーンは特にない。どのシーンも貧相だし、やっていることのスケールが小さい。ソニックとドクター・ロボトニックのバトルを観戦している人々にしても、ほんの十数人だし……。インディーズ映画か、というくらい小さなやりとりをしている。

 でもつまらない映画か……というとそんなことはない。ソニックはピカチュウと同じで、独自のスター性があるんだ。単なるCGキャラクターとは違い、ソニックにはソニックでしかない魅力が間違いなくある。だからソニックが何をしたか、それを追いかけていくだけで楽しいと感じさせるものがある。設定もシチュエーションも雑だけど、ソニックのキャラクター性があれば許せる気がする。
 ソニックの可愛らしさもあるが、ソニックというキャラクターの動き方。人間の身幅を超えた動きで走り回る……というのは見ていて痛快に感じられる。
 CG映画では人間の身幅をいくらでも飛躍し放題だし、今時はヒーロー映画で一杯超人が描かれてきた。だから超スピードは、別にソニックだけの特別なものではない(『フラッシュ』がいるし)。でもソニックだと特別に感じられる。それはソニックには独自のスター性があるから。
 それにやっぱり愛嬌だろう。ソニックらしい愛嬌があるから、許せてしまうんだろう。

【ここネタバレ!!】
 『ソニック・ザ・ムービー』は結局の所、エッグマン誕生秘話のお話になっている。エッグマンがジム・キャリーというのは違和感はある。エッグマンはソニックと同一世界の人物ではなく、地球人だったのか? という疑問。ソニックはどう見ても、「CG世界からやってきたキャラクター」なのだけど、そのライバルであるエッグマンが地球人、リアル世界の住人……ということでバランスが取れているような気がしない。
 でも不思議なことに、ジム・キャリーがエッグマンを演じる……ということにそこまでおかしなことではないような気もしている。ジム・キャリーならいいか……となぜか思える。それは(存在がCGキャラっぽい)ジム・キャリーの俳優としての魅力なのかも知れない。

 『ソニック・ザ・ムービー』は全米で記録的なヒットとなり、シリーズ化が決定した(これも「なぜ?」という気はするが)。でもそこまで喜べないな……というのが私の感想。というのも、造りが色んな面で雑。ソニックのデザインが実景とうまく馴染んでいるように感じないし、設定も“無限の電気エネルギー”というのはどうなんだろう。どのシーンも貧相で、スケール感の薄い描写ばかり。ソニックの行動に一貫性も感じられない。総じて映画らしい厚みのない、安っぽい造りに感じられた。
 大ヒット映画となったが、反省点も非常に多かった映画に感じられる。次回作がある、ということは作り手にとってチャンスなので、この第1作目を踏まえた作品にアップデートしてほしい。ソニックというスターがより輝く作品にしてほしい。


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