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ブレスオブザワイルド フィールドワークの旅 その1 地政学から見る、二つの砦の意味

このブログ記事に関する前置き

 私はこれまでに何度かブログで「現代は文字の時代ではなく言葉の時代だ」と書いてきた。これはどういうことかというと、現代人は文字なんて読まない。動画にして言葉にしないと見てくれない。
 私はそういう時代変化に完全に乗り遅れてしまった。なぜなら私は喋りがまったくダメ。自分の声を録音して自分で聞いてみても、何を言っているのかわからない。もはや日本語に聞こえないくらい滑舌が悪い。
 ああ、動画で発表できたらなぁ……。ふだんこうしてブログ上で書いていることを、そのまま動画で言葉にするだけでも、見る人は確実に増えるはずだろうに。あっちのほうがはるかに多くのユーザーがいる。

 しかし私は「言葉」がまったくダメなんだ。これはどうにもならない。

 そこで、私は音声読み上げソフト『東北ずん子』さんを購入し、いくつかのブログ記事を音声化してみた。するとほぼ修正なしで音声化に成功できてしまった。これは、いけそうだ……と思ったのだが、しかし肝心の動画をどう作る? 私はかなりの貧乏暮らしをしていて、動画制作ソフトなんて買うお金がない。動画制作ソフトを買ったところで、どうやって動画を作るの? それにかかる時間は? 経費は? 私はブログだけ書いて過ごしているわけではなく、基本は創作。小説や漫画を描いている。そのオマケで書いているのがブログ。それで私は1日ずっと机に前にいる。動画を制作する時間なんてどこにもないじゃあないか。

 結局、音声化までは進んだものの、そこで終了。ブログの動画化計画は頓挫してしまった。

 と、いう話が2021年6月の話。なんと1年以上前の話だ。
 2021年6月の時点で、動画用の原稿を新たに書き下ろし、音声化まで進んだのだけど、しかし計画が頓挫してしまったためにお蔵入りになっていたものが、今回新たに公開するブログ記事。

 内容は『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』。
 元記事になっている『ブレスオブザワイルドのあれなんだろう?』は私のブログの中でもっとも閲覧数が高く、しかも現在に至るも毎月閲覧数1位を飾る記事だ。動画化するなら、まずこの記事からだろう……ということで気合いの入りまくった私は、もう一度『ブレスオブザワイルド』を最初からやり直し、新たに発見したことを追加して書き直したものが、今回の元記事だった。
 しかし計画自体が頓挫してしまったために、封印することとなった……。

 結局のところ「動画化計画」は破綻してしまったのだけど、せめて元になっている記事は公開しよう……ということで今回ようやくお披露目となった。
 元記事を書いてから1年、やっと余裕ができたから……というのもあるけれど、つい先日、続編である『ティアーズ・オブ・キングダム』の発売日が発表されてしまった。新作が出てしまったら、もう永久封印じゃないか! そこで慌てて仕上げまで急いだ……というのが今回の経緯だった。

 というわけで、ここからブログ本編。本来動画で公開するはずだったものだけど……。書き起こしだと思ってごゆっくりどうぞ……。

ブレスオブザワイルドとは?

 2017年Nintendo Switchのロンチタイトルの一つとして発売。発売後、世界中で大ヒットし、累計販売本数1700本以上。得たトロフィーの数は100本以上。発売から4年が経過しても売り上げランキングに乗り続ける、「刷新し続ける名作」が本作だ。

 この『ブレスオブザワイルド』について書いた私のブログ記事はなぜか公開から現在に至るも読まれ続け、noteでは当時から今も閲覧数1位でありつづける記事になっている。それくらいの『ブレスオブザワイルド』が愛される作品ということである。

 そこで私は、一番読まれているこの記事ともう一度向き合ってみることにした。『ブレスオブザワイルド』をもう一度最初からプレイし直して、新たに発見したものを追加し、現時点での究極版といえるものを書こう――それが本記事だ。

 というわけで、第1回のテーマはこちら――

地政学から見る、二つの砦の意味

 2つの砦――というのはもちろん、アッカレ砦とハテノ砦の2つ。

 こちらがアッカレ砦。

 こちらがハテノ砦。

 それでは最初の問題を片付けよう。
 なぜアッカレ砦とハテノ砦はあの場所に作られたのか。

 ハイラル地図を見てみよう。
 このハイラルを軍団で攻めるとしたら、どこから攻めるだろうか?

 もしもハイラルと土地が隣接しているようであれば、心情的には陸路から攻めたい。しかし北と西は険しい谷になっていて、数千人の軍団を連れて通り抜けることは不可能。

 特に北西はヘブラ山脈という標高の高い雪山があり、これを乗り越えての行軍は正気ではない。

 南西ゲルド砂漠は熱すぎて通行が困難。それに道しるべなき砂漠がえんえん続く地域なので、こっちを通り抜けようというのは正気ではない。もしも砂漠を抜けられても、その先にあるのは壁のようなゲルド高地だ。
 高地の一角に、どうやら人工のものと思われる細い道があるが、もしも行軍する場合、ここで細い列を作らねばならず、守るほうは非常に有利になる。しかも道の途中が大きく曲がっているので、騎馬による直線もできない。守る方の地の利が大きすぎる。まともな軍師なら、避けたい道だ。たぶんこの地形は、自然に作られたものではなく、そういう侵略者の存在を意識してこのように作られたものではないか。

 このようにハイラル地方は自然の要害が鉄壁過ぎて、“自然に守られている土地”ともいえる。
 では陸地からの侵略が困難となれば、あり得るのは海岸からだ。
 海岸からの侵入は可能だけど、ハイラル地方はやはり山がちな土地なので、大きな船を直接乗り込ませられる海岸は限られている。侵入可能は海岸線はざっと見て、ヒガッカレ海岸、ミナミノ湾、クレシア半島、アライソ海岸といったところでしょう。

 ではヒガッカレ海岸から侵略したと想定して、軍団はどのような進路を取るか想定してみよう。
 まず侵略者はデスマウンテンは避ける。あんなしょっちゅう溶岩が降り注いでくるような地域を進みたいと思う軍師はいない。

 オルディン地方の西側、デスマウンテンの麓となる場所に「ハイラル軍事演習場跡」と記されている場所がある。実際の風景を見ると、地形が避けるように窪んでいて、演習場跡そのものが陥没してしまっている。

 しかも大地の裂け目はそこから西へ向けてしばらく続いている。これは厄災ガノンが覚醒してから、その後100年の間に地殻変動が起きて、陥没したものと考えられる。デスマウンテンは現在もそれくらい活発に動き続けている。こんな恐ろしい場所は通るべきではない。
 この場所が陥没した理由については別の原因が考えられるが……それは次々回語りましょう。

 ゾーラ達が治めるラネール地方も通行困難な場所だ。ラネール地方の山道はやたらと険しく、人間が通行することを想定しない細い道ばかりなので、ここも軍団が通り抜けるには一苦労しそうだし、地の利を十全に活かせるゾーラ達の攻撃を受けるとひとたまりもない。もしも侵略者側が“人間”だとしたら、この地を通るのは諦めたほうがいいでしょう。

 するともっとも侵入しやすいルートを考えると、ヒガッカレ海岸から上陸して、カナレット高原か、あるいはウクク平原を通る道……ということになる。まさにこの場所に、アッカレ砦が建設されている。

 『ゼルダ無双』時代のアッカレ砦を確認すると、大砲がすべて外側に向けられている。間違いなく、カナレット高原とウクク平原を通行してアッカレ砦手前にやってくるであろう敵軍団を想定した設備だ。

 もう一つのルートである、ハテノビーチとミナミノ湾に目を向けてみよう。
 こちらのルートはそこそこ複雑だが、地形に沿って進むと、やがてクロチェリー平原に辿り着く。ハテノ砦はまさにその場所に建てられ、ハテノビーチから入ってきた侵略者を最終的に足止めするために建てられた砦であることがわかる。

 実はもう一カ所、ここに砦があったんじゃないか……と想像される場所がある。それがハイリア大橋だ。ルート上に樹海があり、アッカレ地方やハテノ地方よりも侵略難易度は高い経路だけど、進行可能なルートだ。ひょっとすると、このハイリア大橋前後に砦が築かれていたんじゃないか……というのは私の想像だが、今のところそういう痕跡は発見できない。

 もしかしたらかつては砦があったが、その後の地殻変動で完全に消失したのかも知れない。
 どういことかというと、ハイリア大橋南部の「湖の塔」周辺の土地が大きく裂けている。これが厄災による崩壊後に起きたものであれば、この隆起によって砦跡は消失したのかも知れない。

 お話を次に進めよう。

 まずはハイラル地方のなかでも一際巨大な砦であるアッカレ砦を見ていこう。『ゼルダ無双』では往事の姿が表現されていて、その巨大さ、壮麗さは実に見事だった。と同時に、これは「角笛城だ」とも理解できた。

 角笛城とは、映画『ロード・オブ・ザ・リング 第2章』に登場する、ローハンの砦だ。ローハンの騎士は有事の際、全住民を引き連れてこの砦に立てこもり、決戦に立ち向かう。
 映画で詳しく描かれていたけど、本当に全住民を引き連れて、自ら外界から遮断された孤立無援状態に飛び込むわけだから、それだけ覚悟を決めた時にだけ使われる砦だということがわかる。
 映画での角笛城を舞台にした戦いは、名エピソードの一つだった。

 このアッカレ砦も、おそらくは角笛城的な役割を与えられた場所だったと考えられる。

 おそらくハイラルの長い歴史の中で、この地域を通って侵略してきた何者かがいたのだろうと想像される。何の脅威もなく、あんな立派な砦を建設しよう……なんて普通思わないから、それくらいの戦いがいつかの時代にあったのだと考えられる。

 地図上の立地を見ても、オルディン地方とラネール地方の狭間となる細い道で、ここを通り抜けようと思ったら、侵略者は3列程度の細い列を作らねばならず、その横面を大砲で攻撃できるように作られている。
 アッカレ砦に登ろうとしてもそこは鉄壁過ぎる岩壁で、ハシゴもかけられないし、攻城塔を侵入させられるスペースもない。どちらにしてもアッカレ砦の高さを見ると、攻塔城では低すぎだ。
 難攻不落の砦。おそらくこの砦が建設されてから、ハイラルが脅威に晒されたことはなかっただろう。
 アッカレ砦さえ突破できれば、あとは穏やかな道が続き、その先にあるのはハイラル城。しかしそこまでの道のりに戦闘の痕跡が見付けられないことから、アッカレ砦が破られたことは歴史上なかったと想像できる。

 こちらの画像はハイラル城下町がガーディアンに蹂躙されている場面だけど、何か物足りない感じがする。なぜなら“人間”が描かれていない。
 本当ならこの場面は、ガーディアンによる大虐殺が描かれているはず。相手が人間ではないのなら、ガーディアンは何に対してビームを撃っていたのか……という話になってしまう。おそらくは配慮のために、人間の描写が省略されている(レーティングを上げないためとも考えられる)。
 厄災ガノンが復活した後、ハイラル城下町が真っ先に攻撃され、そこで多くの人が死んだのだろう。

 しかし一瞬にして全住民がガーディアンに殺されたというわけではなかった。
 ハイラル城が陥落した後、城にいた兵士達は生き残った住民達を引き連れて、命からがら逃げ延びた。その先がアッカレ砦だった。兵士達は国民の命を守るために、アッカレ砦に逃げ込んで、決死の戦いを挑んだのだった。

 『ゼルダ無双』ではまさにその時のアッカレ砦の戦いが再現されていた。
 ハイラルの人々にとって、兵士にとって、この戦いは想定外のものだった。
 まずアッカレ砦の大砲は、ハイラル地方の“外側からやってきた侵入者”を撃退するために設置されていたので、すべて“外側”を向いている。ハイラル城側を向いている大砲は一基もない。内側に向けた防備なんて想定していなかったのに――そんなことはクーデターでも起きない限り、あり得ないことだったから――、よりにもよってガノンの軍勢は“内側”から攻めてきたのだった。

 『ゼルダ無双』でのアッカレ砦をよく確かめると、大砲はみんな錆びていた。やはり巨大な要塞だったがために、いつでも予算をかけて整備しておくというわけにもいかず、おそらくは平和な時代が長く続きすぎたせいでメンテナンスを怠っていたようだ。『ゼルダ無双』の時代ではイーガ団に占拠されており、肝心なときに兵力を手薄にしてしまったことが致命的になってしまった。

 ちなみにこちらがちゃんと整備された大砲。ツヤツヤである。

 『ゼルダ無双』時代のアッカレ砦内部を見てみると、意外に居住地域らしき設備も見られる。本棚が置かれているし絵画も飾られている。礼拝堂らしきスペースも見られる。一般住民はゲーム中では省略されているが、長期の籠城戦を意識して、人々が住めるように作られていたのだと考えられる。

 アッカレ砦の全体像を見ると、シーカータワーがすっぽり内部に収まるような作られ方をしている。

 全盛期の頃のシーカータワーは人間も物資も一瞬にして送り放題だった……という話だったので、有事の際はここに兵力を一気に送り込んでいたのだろう。そういうシーカータワーの機能を込みで設計されたと考えられるから、砦はシーカータワーが機能していた頃に建てられたのだと考えられる。

 それにしても、見事な建築物だ。固い岩盤の上に立てられた白塗りの壁が美しいコントラストを作っている。アッカレ砦のシーカータワーに登ると、防寒着が必要なくらい冷え込む。それくらいの高さがあるということだ。全盛期の頃のハイラルが優れた建築技術を持っていたことはよくわかる。これもおそらくはシーカー族の技術によるものだったのだろう。

 もしも正面を突破されても、そこにガーディアンが待ち構えており、鉄壁を誇った砦だったはずだ。

 ところが『ゼルダ無双』の時代ではアッカレ砦の重要度はやや忘れられがちになっていて、ときどきその周辺の広場で兵隊訓練が行われる程度の場所……になっていたようだ。平和な時代が長く続きすぎたのだろう。

 残念ながら、アッカレ砦の戦いはハイラル側の敗北で終わった。籠城を前提にした要塞だったから、ここに立てこもった兵士はおそらく全員死亡。逃げ込んだハイラル住人達もここで命を落としたことだろう。ハイラル城下町の次に凄惨な光景がここで繰り広げられることとなった。

 砦は再建不能なくらい、徹底的に破壊されてしまう。あそこまでガノンの軍勢によって破壊され、怨念の沼だらけにされたのは、ガノン側にとって手を焼いた砦であり、再び人間側に戻さないためにも、あそこまで破壊する必要があったためだ。アッカレ砦の立地を見ても、あそこさえ潰しておけばハイラルの防衛は致命的に弱体化する。

 ガノンにそう思わせるくらいに、アッカレ砦の戦いは苛烈で、兵士達は懸命に戦い抜いたのだ。徹底的に破壊されたからこそ、その時代の兵士達が死力を尽くして戦ったのだとわかる。

 余談だが、『ブレスオブザワイルド』の時代ではハイラル全土が荒廃しきっており、ありとあらゆる建築物は破壊された後だったが、よくよく見ると山脈の深いところまで階段が作られ、旗がはためいている。眺めのいい高台へいくと、砦跡と思われる痕跡も見られる。おそらくは『ゼルダ無双』の時代まではこういったところまで人が住んでいたか、あるいは兵士が駐在していたと思われる。
 丘の眺めのいいところに兵士を駐在させて置いて、そこで侵略者を察知したらただちに報告へ行くか、あるいはシーカータワーが機能していた時代では一瞬にして軍団を送り込んだりしていたのだろう。
 ハイラル地方は外部の守りから徹底したものがあり、それが長年の平和を維持する秘訣になっていたと考えられる。
 もっとも、その平和も内側からやってきた脅威に、あっという間に陥落してしまうわけだけど……。

 では次に「ハテノ砦」を見てみよう。

 ハテノ砦は『ブレスオブザワイルド』と『ゼルダ無双』のプレイヤーにとってもっとも因縁深い場所だ。なぜならリンクはここで力尽き、倒れたのだから。『ブレスオブザワイルド』の時代ではガーディアンの残骸が大量に残されており、これがほとんどリンク一人の手によるものだと考えられるから、かつての戦いがいかに壮絶なものだったかを思わせてくれる。またクロチェリー平原の自然が100年後の時代であってもほとんど回復していないことから、戦いがその後にも影響を与えていたことがわかる。

 『ブレスオブザワイルド』の時代ではほとんど何も残されていなかったこの場所だけど、『ゼルダ無双』の時代を見ると、クロチェリー平原と呼ばれる場所一帯に、いくつもの砦が建設されていて、「要塞」と呼ぶべき場所だったことがわかる。実は後に「クロチェリー平原」と呼ばれるようになる一帯が砦だった。この場所も、どこかの時代に夷狄の侵略を受け、建設された防衛施設だと考えられる。

 この地に砦が築かれた理由について、「侵入が容易な土地だから」……と説明したが、もう一つ理由がある。それがこの双児山の地形だ。
 この地形を見て、私たちはピンと来るものがある。それは「テルモピュライの戦い」だ。

 映画『300 スリーハンドレッド』という作品でこの戦いが詳しく掘り下げられたので、この戦いについて知っている人は多かろう。たった300人のスパルタの精鋭が、テルモピュライと呼ばれる場所で数万人の軍勢を押しとどめた……という話だけを聞くとファンタジーにしか聞こえないが、歴史上の事実だ。
 その戦いがあった地形、というのがちょうど双児山のような、二つの山が接しているような、ごく十数人しか通行できない細い道だった。英雄レオニダス達はこんな地形の山を拠点に、屈強の肉体を盾に、死ぬまでこの場所を守り抜いたのだった。レオニダス達が決死の時間稼ぎをしている間に、仲間達が軍勢をかき集めて、最終的にペルシアの軍勢を打ち負かした……というのが現実の歴史だ。

 おそらくは双児山もそういう想定の上に作られた場所だと考えられる。もしも侵略者が砦の防壁を突破したところで、待ち構えているのは細く伸びた一本道。どんな大軍勢も、ここで細く伸びた列を作らなければならない。守る側は出口で防壁を作って、待ち受けるだけでいい。少数でも大軍勢を押しとどめることができる。
 『ゼルダ無双』時代の双児山を見ると、幾重にもバリケードが築かれていた。おそらくここもアッカレ砦と同じく、鉄壁の防御を誇る場所だったのだろう。

 しかしこのハテノ砦でも想定外の出来事が起きてしまった。ガノンの軍勢は外側からではなく、内側から来てしまった。しかも大量のガーディアンが猛烈な勢いで押し寄せてきたのだ。
 双児山の地形を活かした防壁は何の役にも立たず、後にタモ沼と呼ばれるようになった場所に築かれていた砦も陥落し、統制立てた戦闘ができない混乱状態に陥ってしまう。

 ガノンもむやみにボコブリンの軍団を突っ込ませるだけではなく、いかにすれば人間文明を効率よく、速やかに崩壊させられるか、考えていたのだろう。人間側が対ガノン向けの兵器を用意するなら、その兵器を乗っ取る。しかも人間側がまだその兵器を使いこなせていない間がチャンスだ。ガノンにはそれだけの狡猾さがあった。
(人間側がガーディアン研究をもっと進めていて、完璧なコントロール下に置いていたら、ガノンに乗っ取られることもなかっただろう)
 現代でもしも近代兵器をすべて乗っ取られ、人間側が肉体のみで戦わねばならない状況に陥ると、どうにもならないはずだ。ハイラルの兵士達が直面したのは、まさにそういう状況だった。

 ところで、双児山の地形はどのように作られたのだろうか?
 あの地形が天然自然に作られたもの……という感じはない。
 そこで考えられる説が、「ビーム兵器説」だ。

 オイオイ、ビーム兵器なんてどこにあるんだ?
 ……と思われそうだが、

 ここにある。

 神獣が撃ち放つ攻撃は、明らかなビーム兵器だ。

 ガーディアンの放つ光線もビーム兵器。

 おそらくかつての時代では、こうしたビーム兵器をいろんなところで使っていたんじゃないか……それこそ地形を作るためにビーム兵器を使用したかも知れない。

 『ブレスオブザワイルド』の風景を見ていると、様々な地形に遭遇するが、その中でも不思議な地形は多くある。
 例えば次のような地形。

 画面の左上奥にぽっかり空いた穴も、ビーム兵器によるものかも知れない。

 他にもビーム兵器で作られたかも知れない地形は見付けられるかも知れないが、ほとんどは長い年月の風雪で、自然の風景と一体となっているが……。

 闘技場跡周辺からグランドキャニオン入り口、さらにゲルド砂漠にまで抜ける道……。この辺りの地形の削れ方を見ると、どことなく不自然だな……と感じるところがある。自然の現象として、こんなにパチッと崖が切り取られるものだろうか。しかも都合良くゲルドの居住域まで道がずーっと続いている。

 もしかすると最北と最西に刻まれた深い谷も、自然のものではなく、人工的に作られたものかもしれない……。

 こんなふうに、『ブレスオブザワイルド』の地形を見るとすべて自然に作られたものではなく、ビーム兵器のようなもので削ったような痕跡があちこちに見いだすことができる。

 ではどうしてこのような痕跡があちこちに作られていったのか?
 おそらくは商業的な交通をよくするためと考えられる。
 というのも、ハイラルは自然の要害に守られた土地だが、しかし逆に言えば自然環境に取り残された土地ともいえてしまう。漁業などで得た収穫物を、中心地であるハイラル城まで運ぶこともできない。自然のままだと、ゲルド族やリト族との交流も難しい。ゲルドキャニオンを貫く道ができる以前に、ゲルド地方との交流や交易があったとは思えない。
 だからこそビーム兵器でハイラル城を中心に、四方へ伸びる道を作った。
 もちろん防衛上の都合も同時に考えて、双児山であれば防衛は楽だ……とか、グランドキャニオンの曲がりくねった道も騎馬の直進を避けるために作られたと考えられる。
 交通は便利にするが、侵略に対しては相変わらず難しく……。そういうコンセプトの元で地形の構築が行われたのだろう。

 次の疑問に進もう。

 リンクは命尽きるまでハテノ砦で戦い、守り通したが、どうして彼はそこまで戦い続けたのか? 冷静に考えれば、その場所を死守せず、撤退すればよかったはず。どうしてリンクはそこまでして戦い続けたのか?

 もしかしたらその答えと思われるものが、『ゼルダ無双』で描かれた「ハイラル宿場町」にある。

 画像を見てわかるように、ハイラル宿場町は兵団に摂取され、そこに住んでいたはずの住人の姿がない。こちらもハイラル城下町のような虐殺があって、姿を消したのだろうか。いや、厄災復活前にはすでに人の姿がほとんどなくなっていたから、おそらくどこかへ疎開した後だと考えられる。
 では人々が疎開した場所とはどこであろうか?
 地図を見てそれらしき場所、たくさんの人々を受け入れられそうな場所と言えば――ハテノ村だ。

 ハテノ村は穏やかな場所だが、『ブレスオブザワイルド』時代のハイラルではもっとも人口が多く、賑わった場所だ。地図を見ると“辺境”ともいえるこの一地方が、どうしてこんなに賑わっているのか。これはもしかすると、ハイラル宿場町から疎開してきた人たちが、そのまま定住したためかもしれない。またハテノ砦での戦いで守られ、損害を受けなかったからかもしれない。

 ハテノ村の様子を見ると、リンクが命懸けで砦を死守した理由がおぼろげにわかってくる。もしもハテノ砦を放棄してしまったら、その背後にいるハテノ村の人々が危険にさらされてしまう。リンクはハテノ村の人々を、あるいは疎開でやってきたハイラルの人々を守るために、命懸けで戦ったのではないだろうか。

 『ブレスオブザワイルド』は虐殺シーンを描かなかった作品だ。だが状況的にいって、虐殺は起きていたはずだ。ハイラル城下町や宿場町にいた多くの人々は、100年前の戦いの時に命を落とした。
 リンクもゼルダ姫も、虐殺の瞬間を目撃していたはずだ。リンクはその場面を目撃したから、ゼルダ姫を守るために手を引いて逃げ出し、ゼルダ姫は四英傑だけではなく、国民全員見殺しにしてしまったから絶望し、己の無力さを呪ったのだ。

 だからこそゼルダ姫は覚悟を決めるわけだ。いつ目覚めるかわからないリンクを待って、100年の時をかけてガノンを押さえ込み続ける……リンクも命懸けで戦ったのだから、自分も……。もしかするとリンクは永久に目覚めない可能性もあった。それでもゼルダ姫は賭けに勝てることを信じて、ガノンとの戦いに身を投じていった。

 『ブレスオブザワイルド』はあらゆるものが完全に崩壊した後の物語で、世代が2つほど進んでいるから、人々は100年前に何が起きたのか、ほとんど記憶すらしていない。どうやらそんなこともあったらしい……という感じだ。すでに人々は国家としての結束を喪い、それぞれで小さなコミュティを築き、どうにかこうにか生きている……という状況だ。

 しかし土地に残されている痕跡をつぶさに見て行くと、すこしずつ100年前、何が起きたのか、そこに隠されたドラマが浮かび上がってくる。100年前、本物の勇者が命懸けで戦い、ハイラルが完全に崩壊する一歩手前で守ったのだ、と。
 何もかもが破壊され、死に絶え、それでも立ち向かおうと挑んだ人々の物語が、土地に残されている。その痕跡に気付いた瞬間、『ブレスオブザワイルド』の語らぬドラマが動き始める。

 そんな人々の思いが大量に残された土地を通り過ぎるとき、私はしばしばこの地でかつてあったであろう物語を思い、感傷的になるのだった。

次回:「シーカー族の残した祠の謎」

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