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2022年冬期アニメ感想 鬼滅の刃 遊郭編

 『鬼滅の刃 無限列車編』にて日本映画史上に残る興行収入400億円をド派手に達成し、その興奮も冷めないうちに新シリーズがテレビ放送される。今や「現在進行中の伝説」となっている『鬼滅の刃』。その放送はやはり凄まじいもので、放送される度にTwitterトレンドワードに上がってくるし、『鬼滅の刃』関連ニュースはド派手に毎回大盛り上がり。やはり注目度が高いゆえに「メディアの玩具」にされがちだった……という側面もあったが、それはさておき、いま国内最強コンテンツは間違いなくこの作品。

 さて『遊郭編』のあらすじは……。

 無限列車での戦いで炎柱である煉獄杏寿郎を死なせてしまった炭治郎達。ただ見ているだけで、何もできなかった……。その時の後悔と反省は深かった。
 炭治郎は傷が治る間もなく、煉獄家を訪ねるのだった。煉獄杏寿郎の最後の言葉を伝えに行くのだが、そこにいたのはだらしない酒飲みになっている煉獄の父親だった……。
 蝶屋敷に戻ってきた炭治郎は、仲間達と修行の日々を再開する。鬼退治の実績も積み重ねていき、少しずつ実力を上げていくのだった。
 ある日、鬼退治から戻ってみると、蝶屋敷には音柱・宇随天元が尋ねていた。宇随天元は蝶屋敷の娘を強引に連れ去ろうとしていて、炭治郎はそれを引き留め、「自分を代わりに連れて行け」と申し出るのだった。
 ところが行ってみると、そこは遊郭。遊郭に潜入する必要があったから、宇随天元は女を連れて行こうとしていたのだった。しかしついてきてしまったのは炭治郎達3人は男……仕方なく、炭治郎達は女装をして遊郭に潜入するのだった。

遊郭の風景と女達の描写は非常に美しい。当時の人々が感じていたであろう遊郭特有の幻想的空気が表現される。この幻想に混じってくる「妖」が鬼……このシチュエーション作りが良い。

 ここから遊郭潜入、遊郭に潜む鬼を探索する物語がド派手に始まるのだが……。
 お話が始まった冒頭は、遊郭の光景がCGで描き出されており、グリグリ動き回るド派手な光景に圧倒されるのだが、しかし遊郭の内部の文化についてはそこまで深掘りされない。調査の過程で遊郭という場所ならでは……の展開があるかと思いきや、遊郭という場所をそこまで深掘りされない。
 ここで遊郭という場所が掘り下げられなかった……ということが後々に響いていく。最終話、堕姫を掘り下げるエピソードが挿入されたが、その時になってはじめて遊郭最下層の光景が描かれる。遊郭は華やかなところだけではない、そこには多くの悲劇もあった……という描写だが、あの段階になってから改めて語り直すのはちょっと手間がかかりすぎる。もう一段階、早いところで説明を終えていたら、「改めて説明」もせずに、スッとドラマに持ち込めたはずなのに。そういうところでの構成の悪さが気になる。

 第2話で遊郭に潜入し、第3話でどうやらそのどこかに鬼が潜んでいるらしい手がかりを掴み、第4話で炭治郎は女装をやめて隊服を身にまとい、ときと屋を後にする。そこに堕姫が出現し……。
 思いのほかあっさりと上弦の鬼を発見する。炭治郎達が発見したというか、あちら側から来てしまった……という感じで……。うーむ、これまで調査していたのはなんだったのだろうか。堕姫発見まで、鬼の特徴も調べられてなかった……というのも引っ掛かる。なんのために潜入捜査したんだろうか、という感じにもなる。

 ここから第6話から10話まで、ひたすらバトルシーンがド派手に描かれるのだが、とにかくも「回想シーン」が多い。
 バトルが始まった、盛り上がった……と思ったら回想シーンに入る。回想シーンが終わると、一回クールダウンの間が入る。台詞のやり取りが必ず入り、それからまたバトルシーン……という展開になる。回想シーン開けてそのままバトルの続き……というふうにはならない。
 これはバトル漫画・バトルアニメの作法的なものなので、回想シーンが入るとバトルシーンもワンクッション置く、というのがある。
 この作法が災いして、バトルシーンがなかなか盛り上がらない。盛り上がりかけると止まり、盛り上がりかけると止まり……を繰り返してしまう。その回想シーンも果たして必要か……という内容で。
 『遊郭編』の弱点はこの物語構造。あらかじめするべき説明を端折って展開だけを早めてしまったから、後になって「説明のための物語」を導入しなければならなくなってしまった。後になって説明を入れるから、それが次なるバトル/ドラマを作り上げるための言い訳(こじつけ)っぽくなってしまう。
 もうちょっとじっくり、順序立てて物語を組み立てていったら、後半に入ってからグダグダすることもなかったはず。「遊郭編」は脚本の練り込みが不充分だった……というしかない。

 とはいえ、バトルシーンそのものはとにかくも素晴らしい。ufotable入魂のバトル作画だ。  細かく見ていくとしよう。

 第8話のバトルシーン。激しく動き回るド派手なアクションだが、止めるとこんなふうになっている。
 宇随天元は両手剣だが、ふたつは鎖のように繋がり、ヌンチャクのように振り回して使っている。だからエフェクトが渦を巻いたような効果として現れている。
 一方の妓夫太郎の斬撃は赤いエフェクトで表現される。2人の斬撃がぶつかるところに火花エフェクトがパッと散っている。
 見ているとわかるが、実際の剣、鎌とは別にエフェクトが描かれているのがわかる。キャラクターの動きだけではなく、エフェクトも同時に動く。さらに宇随天元の剣と妓夫太郎の鎌で合計4つの刃。これが一瞬も止まることなく動き続けるから、とにかくも賑やかでド派手な画面に仕上がっている。

 一瞬後のコマ。
 妓夫太郎の腕が振り切っている。一つ手前では、腕は残像しか出ていなかったが、振り切っているので止まっている。が、斬撃エフェクトが残っているし、剣戟がぶつかった瞬間の火花もまだ残っている。

 さらに一瞬後のコマ。さっきの瞬間から、妓夫太郎が素早く体を振り回し攻撃。鎌の形をしたエフェクトが出現している。このエフェクトが画面映えして格好いい。宇随天元は剣を回転させつつしゃがんでかわすが、血のエフェクトが散っている。どうやら切られたようだ。

 妓夫太郎が体勢を整えようとしている。一つ手前のコマに出た斬撃エフェクト、火花エフェクトがまだ残っている。宇随天元がしゃがんだところから飛び上がろうとしている。

 剣戟と剣戟の一瞬の「間」のような瞬間。宇随天元がジャンプし、妓夫太郎が次の攻撃に向けて勢いを付けている。妓夫太郎の視線が宇随天元を追いかけている。

 妓夫太郎の攻撃。斬撃エフェクトがド派手に画面を横切る。宇随天元は空中で逆さまになりつつも、剣を振り回して防いでいる。

 また一瞬の「間」のようなコマ。妓夫太郎は攻撃を終えて、体勢を整えている。斬撃エフェクトの残像が残っている。宇随天元も空中で体制を整えている。

 宇随天元、その一瞬の隙を突いて、攻撃に転じる。宇随天元の剣がわずかな残像だけしか描かれていない。斬撃エフェクトが妓夫太郎を攻撃するが……。この攻撃はかわされてしまう。


 第10話。我妻善逸の攻撃を切っ掛けに、クライマックスに突入する。ここからのシーンはとにかく画面全体がド派手に動き回る。「止め」のカットが一つもない。

 宇随天元と妓夫太郎の壮絶なバトル。ここも画面全体が動き回りながらアクションが繰り広げられる。ということは、この破壊された遊郭のシーンはデジタルで作り起こしている、ということ。トンデモなく労力が注がれている。後半バトルシーンは、宇随天元の剣戟エフェクトは青で表現される。

 宇随天元と妓夫太郎が横へ移動しながら攻撃をし合っている瞬間。まるで滝を転落していくかのようなド派手なスピード感。我妻善逸の「神速」の画面移動に合わせた動き、神速で盛り上がった展開を殺さないように描かれている。(「横移動」の動きとしては本来不自然。しかし画面の勢いを殺さないためにも、あえて画面を思いっきり動かして描かれている)
 2人のポーズがかなり誇張されている。昔からあるアニメのポーズだが、アクションの最中に入るとやたらと格好いい。

 2人がフルサイズになった場面。激しく剣をぶつけ合う場面だが、恐ろしいことにこの場面、画面がグルグル回転しつつ……。普通にアクションを描くだけでも大変なのに、さらに画面の回転を加えながら……超S級のド派手な作画だ。
 これまでと同じように、宇随天元の斬撃が青、妓夫太郎の斬撃が赤で表現される。剣戟エフェクトに「月の輪」型エフェクトが出現している。『マクロス』のバトルシーンでよく見られたエフェクトだ。画面右端に、斬撃の衝撃が散って、破壊されているところがある。

 次の瞬間のコマ。宇随天元、妓夫太郎が同時に攻撃を繰り出す……。前のコマの剣戟パーティクルがまだ残っている。
 さっき衝撃で破壊されたところが火を噴いている。

 さらに次の瞬間。さっき火を噴いていたところが燃え始めている。破壊された家の内側に火が残っていて、それが酸素に晒されて火が点いた瞬間だ。
 攻撃している宇随天元だが、エフェクトの数が4つ。作画は24コマで描かれているわけだが、その24コマで捉えきれない速度で手が動いていて、エフェクトが次々に現れている様子が描かれている。

 宇随天元と妓夫太郎のバトルを追いかけてくる炭治郎。画面が異常な速度で移動している。やはり「落ちていく」ような動き。最高に盛り上がる瞬間だ。

 三者が同時に攻撃する。この瞬間だけ、止まっている。まるでタランティーノの『レザボア・ドックス』のような瞬間。堂々と止めて見せるだけあって、この瞬間だけでもやたらと格好いい。ここから妓夫太郎の首を切り落とす、ラストシーンへとド派手に向かって行く。

 途中、少し「あれ?」と感じるところもあったが、アクションが動き出すととにかく強い。作画だけでも充分「魅せる」画を作ってくるし、アクションの展開だけで物語をグングン引っ張っていく。ufotableの画作りの凄さがとことん伝わってくる。業界随一の制作力を誇るだけのことはある。

 ただ、やっぱり物語全体を見ると、構成の弱さが課題として残る。遊郭という場所を活かしきれていたとも思えない。
 前半の「調査編」はなかなか物語が動き出さない。堕姫を発見してからはアクションに入るが、アクション→回想→アクション→回想……の繰り返しで、なかなか盛り上がらないし、お話が進展しない。
 こういった構造は確かに『ジャンプ』漫画でよくありがちな描き方で、「作法」ともいえるところもある。『ドラゴンボール』や『銀魂』でもよく描かれた手法だ。
 でも『鬼滅の刃 遊郭編』でのこの作法は、あまり効果的ではなかった。『鬼滅の刃』は「話術」の巧さで成り立っていて、それが効果的に発揮していた場面はいくつもあった。が、今回に限ってはその話術でお話全体を盛り上げるほどの効果は出ていなかった。回想の繰り返しでドラマが重層的になることもなく、どこか「尺稼ぎ」的に感じるところがあった。
 第7話で妓夫太郎が登場し、ここからはアクションで盛り上がっていく。ただこれも、やや「力押し」な感じがある。作画のパワーで押し切った感じがある。押し切れるほどの制作力を発揮していた……ということもあったのだけど。
 ドラマの弱さ……という部分は最後まで拭いきれずに終わる。途中、堕姫に取り込まれた遊女がいたはずだが、あの人はどうなった? その後の物語が描かれない。遊郭で出会った人や、関係ができあがった人達がいたのだが、そうした人達のドラマが掘り下げられなかったし、広がらなかった。最後は結局、炭治郎や善逸と上弦の鬼の物語だけで収束してしまった。「遊郭」という舞台が、物語を深めるほどの効果を発揮しなかった。これがとにかくも惜しい。アクションの描写が見事だっただけに、ドラマが薄くなってしまっているのが残念。
 とにかくも構成が弱い、ドラマが薄い。第11話で堕姫と妓夫太郎の過去が掘り下げられたのだけど、どうせならそこに至るまでにドラマを組み立てる用意をして欲しかった。

 日本映画興行記録を塗り替えた『無限列車編』に続く作品というだけあって、今や日本国民が最も注目するアニメになってしまった『鬼滅の刃』。注目されすぎて周囲がやたらとざわついた……というのもあるが、しかし作品は揺らがず、この作品にとっての最良の形が追求された。途中のダレ場はあったものの、最高のクライマックスを見事に描ききった。今でも『鬼滅の刃』はたくさんあるアニメの中でも随一の存在感をド派手に放っている。
 それもまだ途中。ようやく「上弦の鬼」が1人倒され、これから物語は佳境へと突入していく。むしろこれからが本番。続くエピソードが楽しみな作品であるのは変わりない。


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