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映画感想 トップガン マーヴェリック

 この映画はトニー・スコットのために。

 1986年のトニー・スコット監督、トム・クルーズ主演の『トップガン』は大ヒット映画となり、トム・クルーズはスター俳優への階段を駆け上る切っ掛けとなった。普通ならこれくらいの大ヒット映画となればすぐに「続編だ!」となるのだけど、トム・クルーズがこの作品に強い愛着を持ったため、「安易な続編は作って欲しくない」と自ら続編の制作権利を購入し、続編を作らせないようにしていた。
 2010年頃、パラマウント映画がジェリー・ブラッカイマーとトニー・スコット監督に『トップガン』の続編制作を提案した――とWikipediaに書いてあるのだけど、この時にトム・クルーズが買収した続編制作権利がどうなったかよくわからない。トム・クルーズが権利を手放したのか、それともトム・クルーズが続編制作の提案に乗り気になったのか。とにかくもこの時に一度続編制作に向けて企画が進行した。
 当初のプランでは前作とはまったくの別作品になる……という予定だった。というのもトニー・スコット監督が「安易な続編にしたくない」、という意思があったからだ。マーヴェリックの出演も少なくなるだろうと考えられていた。
 ところが2012年トニー・スコット監督が自殺。この時に企画は頓挫しかけたが、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーとトム・クルーズが企画を引き継ぎ、水面下で脚本制作を進めることになった。
 続編制作が正式に発表になったのは2017年。翌2018年5月30日に撮影は開始され、間もなく撮影は終了。2019年にはすでに完成していて、公開される予定だったが、コロナウィルス蔓延のために公開延期。一時はストリーミング配信の提案も出されたがトム・クルーズの意向で却下される。世の中の状況が落ち着くのを待って、2022年5月、ようやく劇場公開となった。
 ご存じの通り、『トップガン・マーヴェリック』は世界的大ヒットとなった。公開後もリピーターが繰り返し視聴し、ロングラン公開となっていくつもの社会現象を引き起こすほどのムーブメントになった。北米では週末だけで1億ドルを稼ぎ出し、2ヶ月後には北米累計興行収入が6億ドルを超えて『タイタニック』越えとなった。トム・クルーズ主演映画としても最高の興行収入を達成。評判はその後も途絶えず、とうとう年末のアカデミー賞レースにも名前が挙がるほどとなった(ただし受賞は音響賞のみ)。
 日本でも100億円を越える大ヒットとなり、トム・クルーズ主演作で100億ドル越えは『ラストサムライ』以来2本目。
 最終的に世界興行収入14億9349万ドルとなった。
 映画批評集積サイトRotten Tomatoesでも批評家評価は97%。平均点は10点満点中8.3。その他の多くのサイトで高評価獲得。大ヒットも文句なし……と誰もが納得する作品となった。

 前半のストーリーを見ていこう。


 カリフォルニア州モハーヴェ砂漠。マーヴェリックはここでスクラムジェットエンジン搭載極超音速テスト機ダークスターのテストパイロットを務めていた。その日はマッハ9を目指して飛行するはずだったが……告げられたのは予算削減のためにダークスター計画の凍結だった。これからチェスター・ケイン海軍少将が基地にやってきて、計画凍結を言い渡しにやってくる。
 しかしマーヴェリックは「まだ来てない」今ならチャンスがある――とダークスターに乗り込むのだった。
 間もなくダークスターが基地から発進。そのタイミングでケイン少将がやってくるが、すでにマーヴェリックは音速の只中。もう引き返せない。ダークスターはその後も加速を続け、高度6万フィート上空でとうとうマッハ9を達成。人類最速の男となった。ダークスターはさらに加速を続け、ついにマッハ10到達。司令室の一同が歓喜する。「これで予算が付くぞ!」と。
 マーベリックはそこでも留まらなかった。まだ行ける……。ダークスターをさらに加速していく。マッハ10.1……マッハ10.2。ダークスター内の温度が急速に上昇していき、計器が異常を示し始める。「もうやめるんだ!」――司令室の声を無視して、マーヴェリックは加速を続ける。速度計がマッハ10.4を示した直後、ダークスターは空中分解する。

 ダークスター空中分解という危難にもかかわらず生還したマーヴェリックだったが、数々の命令違反、独断専行により、とうとう飛行禁止命令……かと思われたが、上官から「トップガン」へ行くよう指令が下った。それはかつての戦友であり、現在太平洋艦隊司令官となっているトム・アイスマン・カザンスキー海軍大将による意向だった。
 マーヴェリックはサンディエゴへと向かう。30数年ぶりに古巣「トップガン」へ戻る。ただし今回は「教官」として。
 ところがやってくると、とある作戦が提示される。とある“ならず者国家”がNATO条約に違反してウラン濃縮プラントを建設中……とのこと。これが稼働状態になる前に叩きたい。そのために12名のトップガン卒業生を招集した。この12名を指導し、6名を作戦決行のために選出して欲しい――というのがマーヴェリックの役目だった。
 その指令には異議はないのだが――マーヴェリックは候補生12名の中に引っ掛かる人物を見付ける。ブラッドリー・ルースター・ブラッドショー海軍大尉……かつてマーヴェリックの相棒で、訓練中の事故で死亡してしまったグースの息子であった。


 ここまでで20分。トップガンにやってきて、物語の大枠となる「作戦」が説明され、映画の大部分はこのミッションを成功させるための訓練シーンとなる。作戦決行は映画の後半部分。訓練シーンを通して若いパイロットと交流し、団結していくまでの物語が作品の肝となっている。特にその中にかつてマーヴェリックの戦友であったグースの息子、ルースターがいる。ルースターは父の死の原因がマーヴェリックにあると思い込んでいるし、そのマーヴェリックに昇級を妨害されたことを恨んでいる。そんなルースターとどう和解していくのか……がドラマのポイントになっている。

 私は軍事に関する話はよくわからないが、ザッと調べたことを書き記しておこう。

 現在最新鋭機の戦闘機といえばF-35。2011年にアメリカ空軍に納品され、全体で約2300機保有されている。日本も100機ほど保有している。
 『トップガン』のお話しは海軍なので、その海軍だけでも600機ほど保有している。
(「空軍」と思われがちだが、「海軍」のお話し)
 F-35は高いステルス性能を有していて敵レーダーの検知を回避し、対空、対地、対艦など多様な任務に対応ができ、さらに最新コンピューターが搭載されていて航空機内で情報収集、分析、共有が可能である。またVTOL(垂直離着陸)も可能。
 現在最新鋭戦闘機であるのだが、目標となる地域はGPS妨害その他電波干渉があると考えられ、最新ハイテクマシンはかえって能力を発揮できない可能性があるため、今回作戦では採用を見送られた。

 そこで採用されたのが1世代古い戦闘機F-18。2001年に導入された戦闘機で、従来機よりも航続距離が伸び、多様な機動性、高いステルス性を発揮する。この機体が今作において中心的な活躍をする。
 対空、対地、対艦、偵察などの多目的任務に対応する汎用性の高い戦闘機で、機動性にも優れ、ドッグファイトでも高い戦闘力を発揮する。さらに従来機よりもステルス性能が上がっている。AIM-9サイドワインダーやAIM-120AMRAAMなどのミサイルを装備していて、長距離からの攻撃が可能(と、ミサイルの名前を書いていてもなんのこっちゃなのかわからんけど)。
 最初の予告編が流れたとき、F-18が映し出されているのを見て、軍関係者は「なぜF-18なんだ?」と思ったとか……。

 なぜか敵基地内に大切にしまわれているのがF-14トムキャット。1970年代にアメリカ海軍に納品され、1981年の対リビア戦、1983年レバノン内戦介入、1986年ベンガジとトリポリ侵攻で活躍した。
 主翼の可変機構を備えており、高速飛行時には主翼を後退させて空気抵抗を減らし、低速飛行時には主翼を前進させて機体の安定性を高めることができた。また大出力アフターバーナーエンジンを備えており、高速かつ高高度の飛行が可能だった。
 映画でも描かれていたとおり、後部座席にレーダー・オペレーターが座っており、レーダーで目標を探知、操縦者に直接教えることができた。
 F-14時代がなかなか長かったため、エンタメ世界ではお馴染みの機体だった。F-14が登場した映画といえば『インデペンデンス・デイ』、『ファイナル・カウントダウン』。今作でマーヴェリックが「懐かしいな」と言う場面からわかるように、前作『トップガン』のメイン戦闘機だった。
 F-14は映画よりもアニメのほうがお馴染みで、F-14登場アニメ作品は『ブルーシード』『うる星やつら』『機甲戦機ドラグナー』『ケロロ軍曹』『聖戦士ダンバイン』『そらのおとしもの』『へボット』『ルパン3世燃えよ斬鉄剣』。他にも『マクロス』シリーズのバルキリーがF-14の外観がモデルになっている。
 エンタメ世界では馴染み深い戦闘機だが、2006年に退役し、現在はF-18やF-35へと入れ替わっている。そんな機体がなぜ敵基地にあったのかは謎。

 作中では「第5世代戦闘機」というぼかした言い回しをされているが、正体はロシアのスホーイ社製造の戦闘機「Su-57」。やっぱり「ならず者国家」ってロシアのことじゃないか。
 アメリカ空軍F-35に対抗するため、ミグに代わる最新機器として開発されたのがこのSu-57。2017年より運用開始となったこの戦闘機は、マッハ2.1で航空し、しかも高い機動力を誇る。作中でも「なんだその動きは」というような飛行でミサイルを回避する場面がある。もちろんハイテクマシンなので、単純なカタログスペックでいうとF-18ではまず勝てない。なのでSu-57と対戦することなく、作戦だけを遂行して速やかに帰投する……というのが今回の作戦の大枠となった。

 ここからは戦闘機に関する世知辛い話。冒頭の実験機ダークスターのエピソードでも上層部は予算凍結、無人機開発に予算を回そう……と計画していた。そこでマーヴェリックは独断専行でダークスターに乗り込み、マッハ10を達成してみせ、計画が無意味でないことを証明してみせている。ここを見てわかるように、全体を通して見ても、「機械なんかよりも人間にも価値があるんだ」……という「人間としての有り様」が作品の背景テーマとなっている。
 その後も戦闘機は、なにかとやっかみの対象にされている。
 前作でも突如現れたミグとドッグファイトをやった後、帰還して上官に怒られる……という場面があった。「戦闘機を一機いくらすると思ってるんだ!」……そう、戦闘機はやたらと高い。F-18が6600万ドル。F-35Aで8900万ドル。戦闘機1機で大作映画が1本作れてしまう値段。上層部は戦闘機1機でも壊されることを嫌う。
 ついでにパイロットもやたらと金を食う。戦闘機パイロットは半年乗らないと初心者レベルに技術が戻ってしまう。再び乗り込もうと思ったら、最初の講習から始めなくてはならない。マーヴェリックのように大ベテランであり続けるためには“乗り続ける”必要があり、そのたびに大量のガソリンを消費し、もしも破損したらお金を掛けて補修したり新しく買い直さなくてはならなくなる。
 金食い虫の戦闘機よりも無人機のほうに集中したい……と思うのは金管理している側であれば自然な考え。無人機と戦闘機なら製造コストは圧倒的に無人機のほうがお安く、パイロットはゲーマーにやらせておけば良い。
 ただ無人機も万能というわけにはいかず、遠隔操作ゆえに遠距離になると不安定になる。それに電波干渉やハッキングされる可能性もある。さらに無人機はたくさんのセンサーを載せているわけではないので、戦闘機のようにパイロットが辺りを見回して脅威に対処する……ということができない。今回の映画のようなシチュエーションの場合、GPS干渉されているので無人機は入っていけない。有人戦闘機の優位性がまったくなくなったというわけではない。
 そういうときの人間としての優位性、やはりそこに人間がいなくてはならない理由……それを掘り下げたのが本作。つまり「人間スゲーんだぞ」という人間賛歌が大きなテーマになっている。

 マーヴェリックは海軍キャリア30年の間に敵機3機を撃墜し、これが最高記録となっている。映画やアニメでは戦闘機同士のドッグファイトは花形……だけど実際には戦闘機同士の対決はあまりやらない。レーダーが高度に発達しているため遠距離から攻撃できるし、スピードが速すぎるし高級機だから、センサーに映った段階でお互いに戦闘は避ける。自分も相手も超高級品である戦闘機を壊したくない……という心理がある。
 戦闘機の主な役割はドッグファイトではなく、猛スピードで敵領空内に突撃していき、爆弾を落として敵基地に打撃を与えること。つまりガーといって、ドカーンとやって、ビャーと帰る……というのが戦闘機の基本運用だ。最近の戦争でも戦闘機は航空機やヘリコプターの迎撃、一部地域の爆撃などに使用されている。ドッグファイトをやった……という話は最近の戦争でも報告がないそうだ。

 そうした時代にあって、状況が状況だけに、しぶしぶながら戦闘機による作戦を遂行しなくてはならない……そういうシチュエーションをあえて作ったのがこの作品。GPS干渉がある地域で、しかもミサイルセンサーに引っ掛からないように低空を猛スピードで駆け抜けなければならない。戦闘機で地上スレスレを突っ走るのは映像としては見栄えのよいシチュエーションではあるが、実際やるとなかなか危険。でもそれを本当にやっちゃってるのが本作の見所。

 そろそろ本編のお話し。

 オープニングは空母から戦闘機が離陸する場面が描かれる。36年前の『トップガン』で描かれた風景を、現在の空母で、現在のカメラで再現された場面だ。
 映像はトニー・スコット監督の前作のほうが上手い。カット割りまで似せて作られているけれど、画面の美しさ、光の捉え方はトニー・スコット監督のセンスまでは再現し切れていない。オープニングテーマ曲は前作と同じくケニー・ロギンスの『デンジャー・ゾーン』だが、どこか環境音に埋没してしまい、前作のように弾けた感じはない。トニー・スコット監督の映像がそれだけ圧倒的だった……ということがわかってしまう。

 そもそもトニー・スコット監督は「続編でも同じことはしたくない」という考え方だったが、監督が変わったことで、むしろ敬意を示す意味で前作を踏襲する展開が作られている。
 マーヴェリックがトップガンにやってくるシーン、ノーヘルバイクで戦闘機と併走するが、この場面も前作の再現。
 映画の中間地点に近いところで上半身裸でアメフトをやる場面があるが、これも前作のビーチバレーの再現。再現はいいのだが、肌のツヤツヤ感がないのが残念。
 第1作目で描かれたことをテンプレートにして、あえて再現。そうすることで2作の連続性を繋げる……ということをやっている。こういうところは監督が変わったから、あえて……というところだろう。

 ただし今回のトム・クルーズの役どころは「生徒」ではなく「教官」。教える側になってトップガンに戻ってくる。生徒達と交流がはじまるのだけど、トム・クルーズは若者達の中に入ってもほとんど違和感がない。撮影時56歳……クローズアップになるとさすがに肌に老いが見えるのだけど、シルエットになると体つきもいいので年齢感を一切感じない。相変わらず体がよく動くし、キレもいいので、もしかするとあの中にいて一番動けていたかも知れない。

 ヒロイン役に選ばれたのはジェニファー・コネリー。前作では名前だけ出ていたキャラクターなのだそう……ちょっと憶えていない。どうして前作のヒロインを演じたケリー・マクギリスがキャスティングされなかったのかというと、普通にお婆ちゃんの姿になっているから。まあ、それは仕方がない。だいたい60歳手前であれだけ姿が若いトム・クルーズのほうがおかしいわけで……。そんなトム・クルーズの姿に似合うよう、ヒロインとしてキャスティングされたのが48歳のジェニファー・コネリー。
 前作の登場人物であるアイスマンことヴァル・キルマーも出演しているのだが、こちらはちゃんと年齢相応の姿になっている。トム・クルーズだけが年齢感がおかしいのだ。
 作中、ヴァル・キルマーはほとんど喋れず、しゃがれ声ですこし声を出しただけだったが、実際に咽頭ガンで話すことができない状態になっている。2021年、AI技術により自身の声をクローン再生して対話ができるようになったという。

 本作の見所は言うまでもなく空中戦。ご存じの通り、コクピット映像はグリーンバッグのCG合成……ではなくすべて本当に戦闘機に乗り込んで撮影している。座席が2つあり、その手前側に本職のパイロットが乗り込み、俳優は後部座席で操縦桿を持って自分が操縦している……という芝居をやっている。
 トム・クルーズは航空機操縦資格を持っているから自分でも演技をしながら操縦したい……と申し出たようだが、それは認められなかった(当たり前だ。俳優にもしもがあったらどうする)。
 そういうわけで俳優がGを受けて顔を歪めるのは演技ではなく、本当。そのコクピットから見える背景もたぶんほとんどが実際のもの。本当にやっているからこそのリアリティは凄まじい。
 前作ではトム・クルーズだけが本当に戦闘機に乗り込んで撮影したが、他の俳優達は実際の戦闘機に乗り込んでも体が耐えきれずとても演技どころではなかったので、合成映像となってしまった。今作は全員が事前に訓練を受けて、実際の戦闘機に乗り込むところまでいった。こういうところで頑なにCGを使わないのも、「人間ってスゲーんだぞ」と示したかったところ。

 フライトアクションは前作と比較して格段に良くなっている。前作も同じように戦闘機のあちこちにカメラを付けてリモコン操作で撮影したのだが、肝心の場面がうまく撮れてなかったり、ピントがぼやけていたり。フライトアクションになるといったい誰がどの機体に乗り込んでいるのか見ていてわからない状態だった。
 実写映像でどうしても撮影できない部分は特撮になるのだけど、その特撮は実際の戦闘機映像と比較して露骨に質感が違っていたので、どうしても違和感だった。
 この辺りは今作で格段に良くなった部分。今作でも戦闘機のあちこちにカメラを設置して、本当にフライトしながら撮影しているのだけど、画面がとにかく鮮明。動きをしっかり捉えられている。見ていて混乱することがない。36年の間にカメラ技術がいかに進化したのかがわかる。現代のカメラ技術の恩恵をもっとも受けた映画なのでは……と思うくらい。
 さらにCGも使えるようになったので、戦闘機がカメラ前スレスレを飛ぶような危険なシーンや、爆発物を使ったシーンなどはCGで描くことができる。CGは何もないところで描いてもなかなかうまくいかないのだけど、かなりしっかりした撮影素材が充分ある状態で、さらにCGが載せられているので、見ていても実際戦闘機なのかCGなのかの区別がつかないくらいだった。
 フライトアクションはコクピットからの映像がかなり多めだけど、俳優の顔面ばかり撮るのではなく、コクピットから周辺風景が見える画角で撮られているので、超高速で流れていく背景や迫ってくる敵機の姿も見えるように描かれている。この臨場感がかなり凄い。パイロットと同じ視覚で見られるので、例えば敵機が迫ったときどう感じるのかが体感でわかるようになっている。これはIMAXシアターの大スクリーンで見るとものすごい迫力だっただろう。
 戦闘機が旋回する瞬間、音速以上で飛んでいるから翼や背中に「雲」が発生する。あれは「ベイパー」という現象で気圧差が急速に大きくなったときに発生する。気圧が低くなった方にベイパーという雲が発生する。この現象が自然に発生しているように描けているのが良かった。あの雲が「エフェクト」の代わりになって、戦闘機に躍動感を作ってくれている。

 36年の時を経て作られた続編は、あの頃と同じように社会現象になって、あの頃以上のメガヒット作となった。そういう意味で「戻ってきた」感じのある作品となった。
 技術面での発展は大きく、36年前ではうまくいかなかったところが今作ではどれもバッチリうまく行っている。36年続編を作らなくて良かった。作品やテーマが風化せず、むしろ生き生きとした存在感を持つようになった。下手な続編を作っていたらそれきり忘れられていたかも知れない。むしろ「伝説の作品」だったから名前が残ったし、今作もしっかり伝説として残る作品になった。
 特にシナリオ面。前作は映画の終盤に唐突にミグが襲来して戦闘になる……とかなり無理矢理感のある展開だった。今回も後半になってF-14トムキャットがなぜか出てくる……という無理矢理があったはあったけど、全体を通しても納得感のあるストーリー。ドラマの作り方も無理がない。
 ただ、マーヴェリックたちが戦っている相手が最後まで誰なのかがわからない。戦争をカジュアルなスポーツのようなものにしてしまっている。確かに本作のテーマは「戦争」ではない。なんでも機械やAIだ……という時代にあって人間の役割、人間賛歌を描いている。AIやCGやロボットばかりではなく、「人間が凄いんだ!」がこの作品で一番言いたいこと。人間にしかできないことがまだまだこれだけあって、機械に仕事が奪われるのはまだまだ先だ……と。そうしたテーマの中に「戦争」までを描き込んでいくと、ストーリーが難解になってしまう。大衆的なエンタメではなくなってしまう。だからあえてザックリ切り落とされているが、そこに引っ掛かりを残すというのも事実。エンタメの作り手として、難しい割り切りだ。
 ドラマのキーとなっているポイントは、グースの息子であるルースター。ルースターは父の死の原因がマーヴェリックにあると思い込んでいるし、さらにそのマーヴェリックが自分の昇進を妨害したことを恨んでいる。マーヴェリックは自分が恨まれていることを知りながら、あえて全ては語らないようにしている。
 マーヴェリックがすべてを語らないのは理由があるし、そこに義理堅さを感じさせるように作っている。後半に向けてルースターといかに和解していくか……がドラマの核になっていく。だいたい思った通りの展開になるのだけど、やっぱりこういうシンプルな構造の物語がバチッとハマってクライマックスへ向かうと気持ちいい。やはり定番のドラマはこうでなくちゃ。こういう率直なエンタメとしての気持ちよさがあるから、誰もが繰り返し見たいと思う作品になっている。
 そこに誰も見たことがない本物のフライトアクションがあって、ドラマとうまく相乗効果を発揮している。アクションはCGで力押し……ではなく題材選びがいかに大事か、がよくわかる。
 『トップガン』はトム・クルーズがスター俳優の階段を駆け上がった最初期の作品だったが、その続編は結果的にキャリア40年の大きな節目になった。トム・クルーズは相変わらず凄い。体もよく動くし、存在感もある。『トップガン マーヴェリック』によっていよいよ不動の存在になったのではないか。その切っ掛けとして『トップガン マーヴェリック』は伝説として今後も語られるだろう。


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