トラバヘッダー最新15

TORABARD 第3話「勇気のうた」

読者のお悩み相談と商品アイデアを基に創る小説『TORABARD』 

第3話「勇気のうた」


〜お悩み相談〜
京都府 24歳 女性 体操クラブ インストラクター トカチェフレディさん
体操スクールのインストラクターをしているのですが、 
教え子の中に、補助なしのバク転に怖くてチャレンジできない子がいます。 
何かいい解決策はないでしょうか?


〜商品アイデア〜

佐賀県 18歳 男性 専門学生 アンディさん

帽子をEHEエボリューションしてみました。


※〜EHEエボリューションとは〜
・Emotional(エモーショナル)「情緒的」
・Hybrid(ハイブリッド)「多様性」
・Exciting(エキサイティング)「わくわくする」
以上3つの要素、TORABARD三大原則〝EHE(エヘ)〟を兼ね備えたうえで物事を進化させるという意味。


◆今回採用されたトカチェフレディさん、アンディさんには、オリジナル孫の手をプレゼント!


TORABARDは皆さまから投稿いただいたお悩み相談と商品アイデアを基にストーリーを制作しております。 

皆さまからの投稿がこの作品を創ります。 

お悩み相談、商品アイデアがある方はコチラまでご応募ください!

採用者にはTORABARDオリジナルグッズをプレゼントいたします!


今回は、以上の投稿を元に書きました。




蝉が鳴く清水寺の西門でニトロはストリートライブをしている。

多くの参拝客が訪れる中で、ボディにハチドリが描かれたチェリーサンバースト色のギターを奏でながらラブバラードを唄う。

唄いながら観覧客に目配りをしていると、虚ろな表情をした女子大生がいた。

鳥の囀(さえず)りを終えると、ニトロはその女子大生に声をかけた。

「お姉ちゃん、どないしたんや? 暗い顔して」

「夏なのにぼっちで寂しい…… 彼氏が欲しい…… 私もリア充になりたい。 でも…… 好きな人に告白する勇気がない……  まるで、胎内めぐりのように、お先真っ暗……」

「胎内めぐり? 何それ?」

「ここからすぐ近所にある、随求堂(ずいぐどう)でやってるんだよ。 真っ暗闇を数珠の手すりを持ちながら進んでいくの」

「へぇ、おもろそうやん。 でも、そんなお姉ちゃんにいい商品があるわ」

といいながらニトロは後ろに折りたたんで置いていた直径2メートルほどの台を拡げて観覧客の前に置き、その上に品物を並べたあと着ているパーカーのフードを被った。

「それでは本日の品物を紹介するぜーー!  ヘイッ、プチャヘンザッ!」

ニトロは女子大生にライムする。

「Badお肌夢中Sunlight Off 乙女 紫外線対策

 夏のアバンチュールSurpriseをもとめ気合い全開ガッツ

 シャツを露わアルコールSunriseを飲めテキーラ宴会や

 シラフおかわりアンコール満杯多めリキュール乾杯Yeah!

 目指すはマーメイドが群がるビーチ

 そのために大海原で乗り越えろピンチ

 途中で現れる足引く魚

 夢中で海の深くまで誘う深海魚

 眼中にねぇそいつらに巻き起すぜビッグウェーブ

 暗中ではねぇ下より上の方が楽しいぜ共に波乗り

 Fun自由ハンパねぇSunshineが照らす醍醐味

 Come CrewナンパへGoいつの間にかそいつらも仲間に」

ニトロは虎の咆吼(ほうこう)を一旦止め、女子大生に普通に話しかけた。

「ほら、コレ被ってみよし」

「これは…… 帽子?」

「普通の帽子とちゃうどすえ」

といいながら女子高生が言われるがままに被ったスウェード生地のハットの頭部を覆う山の部分に手を添えると、その部分が外れ、鐔(つば)だけになった。

「えぇ、何コレ? 帽子のクラウンが外れたけど……」

するとニトロは台の下から麦わら生地のクラウンを取り出し、それを鐔に装着した。

「ほら、これで麦わら帽子に変身どす」

「へぇ、この帽子はクラウンを好きな生地に変更できるんだぁ」

「その通り!  他にもパナマ、フェルト、布、ニットと、季節ごとに生地をチェンジできるんやで! ちなみに鐔のサイズも変更できるで」

「デザインに飽きたら変更できるのはイイね」

「あと、この帽子の鐔は防水加工がされているので、もう一つ機能がついていますっ!」

といい、ニトロは再びライムする。

「FearなShowerから視界守るCover

 見えない恐怖の世界とはもうおさらば

 逃げ足の方向を変え立ち向かったら

 楽しいことだらけさRest of my Life

 同じ螺旋から抜け出せChange

   これまでの衣装を脱ぎ捨てろ変身

 No Beliefな野郎達に迎合せず前進

 So Believe俯瞰や調和より直感で先進

 そうすれば必ず見えてくるぜNew Scene

 ヴァイブスを解き放てる真実のStage」

ラップを終えると、女子大生がニトロに話しかける。

「もしかして、シャンプーハットになるってことですか?」

「イエス! これさえあれば、朝シャンも楽勝どすえ! あっ、ちなみに朝シャンというのは、〝朝からシャンソンを歌うこと〟ではなくて、〝朝からシャンプー〟のほうね」

「朝シャンかぁ……」

「まぁ、この帽子さえ被ってたら、モテモテでマッハでリア充確定やな!」

「この帽子くださーーい」

「サンキュー、JD! あっ、お金はこの募金箱に入れてや! 参考価格はここに書いてるからね」

そして女子大生は清爽な表情で露店を後にした。

「あの…… この帽子さえあれば本当にモテモテになれるんですか?」

タンクトップを着た体育会系の男性が話しかけてきた。

「あぁ、この帽子さえあれば、お兄さんはゴエモンになれるで!」

「ゴエモンって、あの石川五右衛門ですか?」

「そう! 女性のハートを盗みまくり! ゴエモンGOで、京都中の舞妓はん、全員GETだぜ!」

「そっ、その帽子一つください!」

「サンキュー! お兄さん、仕事は何をしてんの?」

「体操クラブのインストラクターをしています」

「マジっ! ほんじゃあ、アレできんの? バク転!」

「はい……。 一応」

「マジかよーー! バク転できるのにモテへんってどういうことなん!? あれさえできたら、舞妓はんが次々とロンダートで寄ってくるんじゃないの!?」

「子供の頃は多少チヤホヤされましたけど……  世の中はそんなに甘くないんですよ……」 

タンクトップ男性は眉毛を歪めながらいう。

「そんなことより、お兄さん、虫除けスプレー的なものとか持ってない? O型やからめっちゃ蚊に刺されんねん」

「今は持ってないけど、僕が勤める体操スクールに行けばありますよ。 まぁ、体操スクール兼自宅なんですけどね。 親父が創設した体操スクールを僕が継いだんです。 場所も近所ですから、取りに行きましょうか?」

「自宅で結構、ケッコー、蚊取り線香! ちょっと麦茶でも飲みながら、開脚前転二回半ひねりの技について語り合おう!」

「は…… はい」

ニトロは品物を片付けながら、客衆に向かって閉店アナウンスをする。

「えぇ、本日のMCニトロ店SHOWはこれにて終了でございます。 またのお越しをお待ちしております」

片付けを終えると、ニトロはタンクトップ男性にいう。

「お兄さん、名前は?」

「吉岡誠(よしおかまこと)といいます」

「OK、マコちんやな。  俺はビート板検定準2級と、ロイター板鑑定士3段の資格を持っている! だからニトロって呼んでくれ!

「はぁ…… ニトロさんですね」

「お兄さん、もうちょっとリアクションしてよぉ! 今のは夏と体操つながりのサマージムナスティックボケでしょうが!」

その二十分後──

二人は体操スクールに到着した。

広さ四百六十平米ほどの体育館には鉄棒や跳び箱、トランポリン等の器具が置かれており、反面にはタンブリングバーンが敷かれている。

そのタンブリングバーンの上で一人、続けざまに後方回転とびをしているレオタードを着た女性がいた。

その様子を眺めるニトロ。


(今、ほ、ほしが見えた……)


体育館の端に立っている男二人の存在に気がつくとレオタードレディが近寄ってきた。

「吉岡先生、いらっしゃったんですね。 そちらはお知り合いの方ですか?」

「この方は、ニトロさん。 さっき、清水寺で知り合ったんだ」

「マイネームイズ ニトロ レペゼン大阪

 お好み焼きは マヨネーズwithソースPaint a lot ええねん あおさがyeah!」

「あら、ミュージシャンの方?」

「はいっ! お客さんにはよく、歌声を聴くと安心すると言われるので、巷では〝吟遊ラッパー界のセーフティマット〟といわれていますっ!」

「それは安心するわ!」

「しかし、スゲぇっすねーー! あんなに何回もクルクルとバク転ができるなんて」

「まぁ、体操スクールのインストラクターですから当然ですよ。 でも、私のクラスの子で、補助なしのバク転に恐くてチャレンジできない男の子がいるんです」

「へぇ、そうなんや。 バク転さえできたら学校でモテモテパラダイスやのに、何をビビってるんでしょうねぇ」

「前方回転とびの場合は、床に手をつく前に自分の手が見えるのでまだ恐怖心は薄いんですけど、バク転は着地するときまで自分の手が見えないので、それが恐怖心を煽るみたいです」

「なるほどねぇ」

「しかも、バク転を補助なしで成功させることはその子の卒業課題なので、クリアしないとスクールを卒業させてあげることができないんです。 そうなると親御さんになんと言われるか……。 しかもテストは一週間後です…… なので、最近、夜もまともに眠れなくて……」

「それは大変だ! レオタードお姉さんのお肌が荒れてしまう! それよりも、お腹空きません?」

「はい。 晩御飯まだなのでお腹ペコペコです。 吉岡先生もまだ食べてないんじゃ?」

「そうだね。 今日は外食で済ませる予定だったからまだ食べてないや」

「マコちん、自宅にホットプレートあるかい? あと、お好み焼きの具材も」

「勿論ありますよ! お好み焼き作ってくれるんですか? 嬉しいなぁ」

「私もお好み焼き大好きです」

「ちょうど、ここに小麦粉もあることやしなっ」

ニトロは鉄棒の下に置かれてあるプラスチックの容器の中に入った白い粉を見ながらいう。

「ニトロさん、それは小麦粉ではないですよ! 炭酸マグネシウムと言って滑り止めに使う粉です」

「えっ、そうなんや……」

数分後──

「できたーー! さぁさぁ、お二人さん共お食べよし」

二人は体育館に敷かれたマットの上に座りながら踊る鰹節に息を吹きかけながら口へ運ぶ。

「どう? ウマイどすえか?」

「美味しーーい」

「体育館で食べるお好み焼きもなかなかウマイなぁ。 あっ、よかったらこれ京都名物なので、かけてみてください。 よく合うと思いますよ」

誠は自宅のキッチンから持ってきた調味料をニトロに手渡した。

「おっ、一味唐辛子かぁ! サンキュー! 夏といえば辛いものやもんなぁ!」

ニトロはそれを受け取った後に上方を指差しながらいう、

「あっ、あそこ見て! ながれぼしっ!」

「ウソっ!? 流れ星どこですか!?」

そして二人が上方に意識を奪われている間に誠のお好み焼きに大量の一味唐辛子を挟み入れた。

「あっ、もう流れ星いってしまったみたい」

「くそぉ、願い事したかったのに……」

見れなかったことを悔やむ誠はお好み焼きを口に運ぶ。

「ヒィーーーー!! ヒィーーーー!!」

大量の一味唐辛子入りのデンジャラスフードを口に入れた誠のリアクションを見て抱腹絶倒するニトロと驚くレオタードレディ。

「吉岡先生!? どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?」

「フゥーーーー!!」

目が充血し汗だくになりながら辛さに苦しむ誠にニトロが抱腹しながらいう。

「いっ、いま、マコちん、ラマーズ法してた!」

「ちょ、にっニトロさん…… この一味の量はヤバイですよ! もう勘弁してくださいよーー!」

「これからこの商品を〝インスタントラマーズ法〟と名付けよぅ! それより、流れ星に何をお願いしたかったの?」

「えっ、それはまぁ、舞妓さんが似合う素敵な大和撫子と結婚して子供を作って幸せな家庭を築きたいなと……」

「なるほど…… 舞妓はんのラマーズ法をリアルに聴くことがマコちんの願望ということね……」

 「まぁ、そりゃ大量にこの一味を食べて自分でするよりは、頑張って舞妓さんに言わせたいですよ!」



「しかし、さっき言ってた、バク転恐怖症チルドレンって次、いつくるの?」

「確か、明日スクールに来るはずですよ」

「明日かぁ。 わかった! その子は俺に任せなさい!」

「えっ、任せなさいって?」

「俺が、その子のバク転恐怖症を克服してあげましょう!」

「そんなことできるんですかーー? ニトロさんは体操のド素人なのに」

「あぁ、任せなさいっ! その小僧にバク転をクリアさせてレオタードお姉さんの睡眠を確保しないと、せっかくのスベスベお肌が荒れてしまうからね!」

「あら、それは頼もしいわ」

「一体、どんな手段を使うんだろう…… なんだか心配だなぁ」

翌日──

「ニトロさーーん! 起きてくださーーい! もうそろそろ生徒がくる時間ですよーー!」

昨晩は体育館で呑み明かし、セーフティーマットの上で寝ているろくでなしミュージシャンを誠が起こす。

「もぅ…… ダルぃ、ダルぃ…… 今日はちょっと体調がアレやねん……」

「体調がどうしたんですか?」

「ちょっと、昨日あたりから、平等院鳳凰リウマチ口内炎やねん……」

「なんですかそれは! なんかの必殺技ですか?」

「ニトロさん、こんにちは。 昨日はお好み焼きご馳走様でした」

体育館にレオタードレディがやって来た。

「こんにちはーー! いやぁ、今ちょっと、このセーフティーマットに穴が空いてたりしないか、安全を確認してたところなんですよーー!」 

ニトロは即座に起きあがり、セーフティマットを点検しているフリをしながらいう。

「あら、それは関心だわ! 子供達の安全を確保するのは大人の役目ですからね」

「あれっ、それよりも、今日はレオタード着てないんですか?」

「えぇ。 昨日はスクールが終わった後、久しぶりにレオタードを着て床で演技をしていただけだから。 生徒に教えるときはいつもTシャツに短パンジャージですよ」

「それじゃあ、今日もスクールが終わったらレオタード着るんですか?」

「さぁ、どうかしら」

「お姉さん、星座はなんですか?」

「あら、急にどうしたの? 乙女座だけど?」

「確か…… 今日の乙女座のラッキーアイテムはレオタードだったな……」

「えっ、そうなの?」

「はいっ! 間違いないですっ! だからスクールが終わったら絶対にレオタード着たほうがいいですよっ! 絶対にっ!」

ニトロが熱弁していると体育館の入り口から生徒がゾロゾロとやってきた。

「先生、こんにちはーー」

「みんな、こんにちは」

器械体操に相応しくない格好をしたニトロを見て生徒の一人がレオタードレディに問いかける。

「先生、この人は誰ですかーー?」

「この人はニトロさん。 ミュージシャンの方よ」

「どうしてミュージシャンがいるんですかーー?」

「今日はねぇ、特別講師として来てもらってるのよ」

女性インストラクターが軽く説明を済ませるとニトロが口を開く。

「えぇ、チビっ子の皆さん、どうもはじめまして。 本日は臨時特別講師としてお招きいただきました、ロンダートバク男と申します。 略してニトロと呼んでください」

子供達は不審な目で見ている。

「ところで、この中に補助なしのバク転にチャレンジするのをビビっている少年がいるって聞いたんやけど、どの子かな?」

生徒の中の一人が指を差しながらいう。

「アイツのことだ!」

ニトロが指を差された方へ目をやると、耳が真っ赤になっている丸刈りの少年がいた。

「君かぁ」

「はっ、はい…… どうしても一人でチャレンジするのが怖くて……」

丸刈り少年は緊張しながら応える。

「しかし…… 私がきたからにはもう安心だ…… 君が将来バイトするときの履歴書の特技欄に〝バク転〟と書けるようにしてあげよう」

「ほっ、本当ですか? 僕も早く一人で出来るようになりたいですっ!」

「では、早速行くぞ! 野郎ども!」

「えっ、行くぞってどこにですか?」

誠は少し驚いた様子でニトロにいう。

「まぁまぁ。 これからこのマルガリータ少年を連れてちょっとそこのお寺で課外授業するから、マコちんも着いてきてもらっていい?」

「お寺で課外授業ですか? まぁ、この近所で時間内に帰ってこれるなら結構ですけど。 僕も同伴なら安心ですし」

「よし、では課外授業へ行く前に、マルガリータ君、この帽子を被りなさい」

ニトロは露店で売りさばいていた帽子を手渡した。

「マコちんも帽子被って行くの忘れないようにね」

数分後──



帽子を被ったニトロ一行は三重塔の北西にある、随求堂(ずいぐどう)へとやってきた。

「さぁ、これからここでナンパをするぞーー!」

「えっ!? ナンパ!? どうして!? ここで!?」

「このお寺には胎内めぐりっていう真っ暗闇を数珠の手すりを持ちながら進んでいくアトラクションがあるから、この広場でナンパしてから一緒に真夏のホラーアトラクションへレッツゴーというノリでっす! ほらよく言うやん? 吊り橋効果ってやつ?」 

「吊り橋効果とは、恐怖心や暗闇、不安感を共有した相手に、人は親近感を持つといわれる心理学ですね。 だからデートでお化け屋敷に行くとより効果的という……」

「マコちん、めっちゃ詳しいやん」

「たまたまスマホのニュースアプリで見たんですよ…… でもナンパという行為ってどうなんですか?」

「なんやマコちん…… ナンパしたことないの?」

「当たり前じゃないですか…… そんなチャラくて低俗な行為しませんよ!! しかもお寺でナンパなんて罰当たりな……」

「さては…… マコちん…… 女性に声かけるのにビビってるな?」

「べ、別にビビってなんかないですよ!」

「なら、問題ないやん! マルガリータ君も一緒にレッツナンパね!」

「えっ、僕もナンパするんですか?」

「当たり前やんか! 男に生まれた以上は女性は自分からハンティングしていかないと、一生つまらん人生で終わってしまうで! それを今から学んでおきなさいっ!」

「はい。 でもどうしてバク転の課外授業なのにナンパなんですか?」

「えっ…… だって夏やから……」

「それだけですか!?」

「うん。 それだけ」

半信半疑な表情を浮かべる丸刈り少年の後ろで急に静かになった誠にニトロがいう。

「あれっ、マコちんどうしたん? 急に静かになって。 もしかしてナンパ緊張してんの?」

「そっ、そんな…… ことない…… ですよ。 あの、ちょっとトイレに行ってきもいいですか?」

「うわ絶対、緊張してるやん。 なんか顔もちょっと青冷めてきてるやん。 大丈夫? イケる?」

「はい……。 ちょっと待っててくださいね」

数分後──

「もぉ、マコちんおそいおそいっ! トイレどんだけ長いの!」

「すみません……」

「さて、それではレッツナンパと行きましょうか! まずはわたくしがお手本を見せるから、君達ヘタレチキン南蛮はそこで正座をして見ておきなさい!」

といいニトロが広場を少し散策すると三人組の女性が歩いてきたので話しかける。

「あっ、どうもすみません。 わたくし、この度〝胎内めぐらせ屋〟というお店をこの近くでオープンいたしまして、今ならキャンペーンで無料で胎内をめぐらせ放題なんですけど、いかがですか?」

「えっ…… 何? この人……」

「ちなみにわたくし、〝胎内めぐら専門学校卒〟ですので、サービスには自信がありますよ!」

「キャーー!! 変態よーー!! 誰か警察呼んでーー!」

女性の悲鳴を聞いたニトロは即座に体操ペアの元へ戻っていった。

「あれ、おかしいなぁ。 あの子達、今日ちょっと体調でも悪いんかなぁ?」

戻ってきた脳内不めぐりに誠がいう。

「なんですか!? 今のは!? 確かにこのシュチュエーションからして胎内めぐりに誘いたいという伝えたいことや言ってることは間違えてないですけど、端からみれば変態丸出しじゃないですか!!」

「よし、なら次はマコちん行ってみよーー!」

「えっ、僕ですか……」

「ほら、マルガリータ君も見てるぞぉ。 バク転にチャレンジできない少年に、格好いい大人の背中を見せないとっ」

「わっ、わかりました。 それでは行ってきます」

といい誠が広場を少し散策すると三人組の女性が歩いてきたので話しかける。

「あの…… はっ、はじめまして…… わたくし、吉岡誠と申します。 ご多忙のところ誠に恐縮ではございますが、僭越ながらお声を掛けさせていただきました。 本日はお日柄もよく……」

「あの…… 急になんですか? 私たちこれから胎内めぐりに行くので、邪魔だからどいてくれます? それになに、その帽子…… 超ダッサーーい!!」

「はいっ! すみませんでしたっ!」

といいながら誠は正座で待つ二人の元へと駆けて行った。

「マコト氏…… 今のはなんですか? お見合いですか? なんの自己紹介ですか?」

「はい……。 やっぱり社会人のマナーとして自己紹介は大切だと思いますし……」

「そんなもん、ナンパなんてバイブスが全てなんやから、名前なんてどうでもええわっ!」

「しかも…… この帽子ダサいって言われましたけど……」

「どうせアイツらは、〝本物のオシャンティ〟というものを理解してない田舎モンや! 気にすんなっ! よしっ、次、マルガリータ君行ってみよーー!」

「えっ、僕もやるんですか?」

「当たり前やないか! ほら、早く行ってこいっ! 」

丸刈り少年が広場を少し散策すると小学校高学年くらいの舞妓少女を連れた二人の舞妓が歩いてきたので話しかける。

「こんにちは……」

声をかけた瞬間、丸刈り少年が被っている帽子のクラウンが外れ、鍔だけの状態になった。

その様子を見て舞妓少女が口を開いた。

「何…… その帽子…… あっ、その印象的な丸刈りは確かどこかで見たことある子やわ」 

その様子を正座しながら見守るニトロが口を開く。

「ん? あのカッパ少年、なんか良い感じじゃない? しかも舞妓はんやで! マコちん、ちょっと俺たちも行ってみる?」

「そうですね」

正座を崩した二人は元丸刈り、現カッパ少年の元へと向かった。

「へぇ、今日は体操スクールの課外授業なんや」

「う、うん。 そうなんだ。 この人たちは体操スクールの先生と臨時特別講師の人なんだ」

丸刈り少年の会話を聞いた誠が舞妓少女にいう。

「あの、この子と知り合いなの?」

「はい。 同じクラスの同級生です。そしてこの二人は年の離れた私の親戚のお姉さんとその友達です。 これから三人で胎内めぐりっていうのを体験しに行くんです」

「そうだったんだね」

それを聞いたニトロが口を開く。

「実は僕たちもこれから課外授業で胎内めぐりを体験するんですけど、よかったら一緒にどうですか?」

「えぇ、この子のお友達の関係の方なら別にいいですよ」

親戚の舞妓レディが応えた。

そこでニトロは誠に小声で耳打ちする。

「マコちん…… やったな。 一人はNL(ノイズルッキング)舞妓やけど、もう一人は超美人舞妓やん」

「はい…… やりましたね」

数分後──

胎内めぐりを終えて再び広場へと戻ってきた一同。

「ちょっとーー!! この人、さっき暗闇の中で私のお尻触ったーー!!」

「誰が触るかーー!! どうせ触るんやったらもっと顔のチューニングが合ってる舞妓はんのを触るわーー!!」

「ほんと…… ミュージシャンって手が早いわ……」

ニトロとNL(ノイズルッキング)舞妓が揉めている隣で、誠は舞妓レディと和やかな雰囲気で会話をしている。

「へぇ、一人でバク転にチャレンジできるようになるための課外授業だったんですね」

「そうなんです。 ちなみに一週間後にテストがあるんですけど…… それまでに成功してくれるかどうか……」  

丸刈り少年と舞妓少女がトイレへ行っている間に親睦を深めようとする誠にニトロが小声で耳打ちした。

「マコっつぁん…… このノリで連絡先の交換をっ! あと、マルガリータ君たぶん…… あの女子に恋しとるわ……」

それに誠も耳打ちで応える。

「マジっすか!? でも、連絡先の交換なんて…… どうやって?」

「俺にいい考えがある」

丸刈り少年と舞妓少女が広場に戻ってきたのを見計らってニトロが口を開いた。

「あの、もしよかったら、今から一週間後に開催される五山の送り火をこのメンバー皆んなで観ませんか?」

その言葉を聞いた女性三人は軽く相談をした後、舞妓レディが応えた。

「私はお盆の間はずっと京都に滞在していますし、友人はここが地元なので、一週間後なら別に構わないですよ。 ちょうど、友人のおじいちゃんのコネで良い場所で観覧できますし」

「マジっすか!? このノイズ…… あっ、っと失礼。 この個性豊かな顔をされたお友達のおじいちゃんはスゲェ人なんですね!! ラッキー!! 」

「そうよ。 アタシのおじいちゃんは京都観光協会と京都五山送り火連合会に顔が効く超お偉いさんだからね」

ニトロはNL舞妓の会話を流し聞きした後、舞妓レディにいう。

「では、恥ずかしながらわたくしは携帯を持っていませんので、このタンクトップメンと連絡先を交換してもらってもいいっすか?」

「はい、わかりました」

そして誠と舞妓レディが連絡先交換を済ませた後、

「では、また一週間後にこの場所で会いましょーー」

体操スクール──

「ただいま戻りました」

「あら、皆さんおかえりなさい。 吉岡先生、課外授業はどうでした? どんな内容だったんですか?」

「三人で随求堂の胎内めぐりに行ってきたんだ。 真っ暗闇の中を数珠の手すりを持ちながら進んでいくという体験は、着地まで手が見えないバク転に一人でチャレンジすることに通ずる部分があって、目の前が見えないからこそ想像しながら進んで行くということ。 技の視界をイメージすることが重要な体操の本質的な部分を理解させようとするとても有意義な授業内容だったと思うよ」


(マコっつぁん…… ただ俺たちはノリでナンパと吊り橋効果目的のデートをしただけやのに…… いいように解釈してくれるなぁ…… 男って美人が掛かっていると、なんでもポジティブに捉えるようになるのか?……)


「なるほど、それは課外授業ならではのしっかりとした意義の有る内容ですね。 この子にとっても貴重な体験ができたと思います。 ニトロさん、ありがとうございました」

「いぇいぇ、わたくしは当然のことをしたまででございます」

「では、先生たち戻ってこられたので、私はこれで失礼しますね」

「あぁ、お疲れ様」

レオタードレディが帰ると、誠はセーフティーマットに腰を掛けているニトロにいう。

「今日は色々とありがとうございました。 おかげで貴重な体験ができました。 ナンパというのは、その人が持つ空気感やオーラ、パッション、ノリ、ニトロさんのいうところのバイブスだけで男女が互いに判断し合うというフェイスtoフェイスで筋の通った交流システムであり、声をかけて断られた方は傷つきますが、断った方は傷つかないとても理にかなっている出会いの手段だということを学びました」

「アンタ… 体育会系やのに、なかなか理屈っぽいな…… もっとシンプルにいこうよ……」

「しかし、一週間後のデートはなぜ、五山の送り火なんですか?」

「五山の送り火へ誘ったのは、実はとある作戦があんねん」

「とある作戦?」

「マルガリータ君は、今日のあの女子に惚れてるやろ?」

ニトロは丸刈り少年にいう。

「はっ、はい。 実は、そうです。 でも今日、声かけた時は舞妓の格好をしていたので、あの子だとは気づきませんでした。 でも、同じクラスの隣の席なので、偶然あの子が僕のことに気づいたんです……」

「やっぱりな。 そこで、あの女子を確実に振り向かせるためのナイスアイデアを俺が思いついた」

「えっ、でも、ぼく告白とか無理ですよ…… そんな勇気ないです。 今日だってまともに話せなかったのに」

「気持ちを伝える手段は直接言うことだけではないで。でもどっちみち、一週間後のテストはクリアしないとその作戦は遂行できへん。 その作戦内容を今から話すのでよく聞くように」

「はいっ!」

一週間後──

「いよいよ今日がテスト本番やな。マコちん、今日の朝早くからずっと仏壇で拝んでるで」

体操スクールの創設者である父親の写真が飾られた部屋の仏壇前で手を合わせている誠の後ろで正座するニトロが丸刈り少年にいう。

「はい。 頑張ります」

「それより、レオタードお姉さん、俺のことなんか言ってなかった? 例えば最近、体操のオリジナル技に〝ニトロ〟という技名を付けたとかさぁ」

「いや、なんにも言ってませんでしたけど」

「あらそう」

その瞬間、仏壇の鈴の音が部屋中に鳴り響いた。

「そこの仏壇に飾られてある仏花あるやろ? あれはアスターっていう花やねんけど、あの花の花言葉って知ってる?」

「いえ、知らないです」

「花言葉は、〝変化〟」

「〝変化〟ですか……」

「そう。 この間、マルガリータ君が勇気を振り絞って女子に声をかけてなかったら、マコちんも素敵な出会いはなかったし、今日こうしてデートの約束をすることもできひんかった。ほんの少しの勇気が自分も周りもより良い方向へ変えるということを既に行動で示したやん? だから自信持ってチャレンジしておいで」 

「はいっ! わかりました!」

三人共仏壇で手を合わせ終わったあと、テストが行われる体育館へ向かうと見覚えのある個性豊かな顔をした女性が立っていたのでニトロが話かける。

「おっ、久しぶり! 今日もフェイスのチューニング合ってないやん!」

「誰が顔面不協和音じゃ! 本当にあの子がテストに合格するか、しっかりこの目で見届けさせてもらうわね」

ニトロは私服のNL舞妓の言葉に応えた。

「あぁ。 しっかり見ていって」

数時間後──



清水寺の広場から五山の送り火を展望する男女六人。

五山の送り火とは、お盆に行われる京都の伝統行事で、京都を囲む5つの山にそれぞれ「大文字」「左大文字」「船形」「鳥居形」「妙法」の形に火を灯すというものであり、五つの山に五種類の送り火を焚くところから「五山の送り火」と呼ばれるようになった。 

時間差で次々と灯火されていく炎よりも、舞妓レディの私服姿に心を奪われている誠。

丸刈り少年はクールな舞妓少女の態度に怖気つき一言も話せないでいる。

ニトロは灯される炎を見ながら薄気味悪い笑みを浮かべている。


(実は、今日はレオタードお姉さんを誘っているのデース! ちなみにこの事は、違う表現でNL舞妓にも伝え済みで、彼女は協力してくれる強い味方なのデース!  レオタードお姉さん、もう着く頃かなぁ)


最後の鳥居形が点灯されてからしばらく経つとNL舞妓が口を開いた。

「とりあえず、全ての文字が灯火されたわね。 さっき、そこで私の地元の友達を見かけたから、久しぶりにちょっと話してくるね。 すぐに戻るから皆さんはこのまま送り火を楽しんでて」

NL舞妓は広場にある柱時計を見てからニトロにウインクをしながら去っていった。

「あの、私、お手洗いに行ってきます」

舞妓レディがそういうと、

「俺も、ちょうどトイレ行きたかったから、一緒に行こう」

(レオタードお姉さんとの待ち合わせ時間までまだ少しあるしトイレ行っとこうっと)

ニトロは柱時計で時間を確認してから舞妓レディとトイレへ向かった。

残された誠は丸刈り少年に気を使い、舞妓少女と二人きりになるように少し距離を離れたとき、五山の送り火は全て消灯し周りが真っ暗になった。

「お待たせしました。 急に辺りが真っ暗になっちゃって、携帯の充電も切れちゃったし、全然見えないんですけど、場所はここでよかったですか?」

真っ暗闇の中でレオタードレディが到着した。

「はっ、はい! こちらで合ってますよ!」

誠は、目の前に現れた相手がレオタードレディとは一切気づかす、舞妓レディだと思い込み緊張している。

「あの…… 今から、貴女に対する僕の気持ちを伝えたいと思います」

熱の籠った誠の言葉にレオタードレディは応える。

「はっ、はい?」

それと同時に少し離れたところにいる丸刈り少年も少女にいう。

「あっ、あの、いっいまから、ぼっ僕の気持ちをつっ、伝えますっ!」

どもりながらも必死で話す言葉に舞妓少女も応える。

「はっ、はい?」

すると、急に辺りが明るくなり、消えていた送り火が再度点灯した。




左大文字と〝妙〟が〝好〟、〝法〟は〝き〟に変化して点灯され、〝大好き〟という文字が現れた。

女性たちが突然現れた文字に釘付けになっていると、レオタードレディが口を開いた。

「あの、実は私も以前から先生に好意を持っていました」


「えっ、先生?」


誠が視線を点灯された文字から隣に移すと、ようやく相手がレオタードレディだということに気がついた。

「あっ、えっ!? どういうこと!?」

「どういうことって、二回も言わせないでください。 恥ずかしいです」

目の前に起きている出来事が理解できずに動揺している男の生徒に告白された舞妓少女も口を開く。

「バク転ができるなんてなかなかクールやん。 別に彼氏にしてあげてもいいで」

「ほっ、ほんとーー!?」

そのタイミングでニトロと舞妓レディがトイレから戻ってきた。

「あれーーっ!! なんでーー!! なんでもう文字が点灯してるのーー!!  しかも、すでにレオタードお姉さんも到着してるーー!! 待ち合わせ時間と点灯までまだ時間あったはずやのに……」

広場の柱時計を指差しながらいうニトロに舞妓レディが携帯を取り出しながら口を開く。

「あの時計、遅れてますよ……」

「まっ、マジか……」

ニトロが膝から崩れ落ちてると、NL舞妓が戻ってきた。

「どうだった? いい感じに点灯されてたでしょ?」

「文字は超イケてたけど、タイミングが……」

二人の会話を聞いていた舞妓レディがNL舞妓にいう。

「やっぱり…… あの点灯された文字はアンタの仕業だったのね」

「そうよ。 おじいちゃんの鶴の一声で実現したというわけよ。まぁ、あのスケコマシミュージシャンから、丸刈り君が〝バク転のテストに合格したら実現して欲しい〟って頼まれたから、困難なことに勇気を持って立ち向かう少年の恋を実らせるために協力しただけよ」


ニトロは唇を噛み締めながら思った。


(ホンマは、俺がレオタードお姉さんに告白するためのアイデアやったのに……)


こうして真夏の告白大作戦は幕を閉じた。


翌日の清水寺の西門──


「もぅ夏が終わるというのに……  俺の恋の炎は灯らんなぁ……」

ニトロは千切った段ボールを掲げて失恋をぼやきながら沿道に立っている。

すると、一台の車が止まった。

「なぁ、それに書いてある〝アナタの名前を歴史に残します〟ってなに?」

「今って、星とかにも自分の名前を付けれたりするやろ? まぁそんなノリで、お兄さんの名前を歴史に残すことが可能やで」

「どこまで行きたいの?」

「お兄さんのノリでよろしく」

「ノリ? まぁ、面白そうだし乗って行きなよ」

「ところで、どうやって僕の名前を歴史に残してくれるの?」

「お兄さんは体操の技ってなにができる?」

「えっ、反復横飛びや前転りとかしかできないよ」

「お兄さん、名前は?」

「えっ、タケウチだけど」

「では、これから〝反復横転り飛び〟という技は〝タケウチ〟という技名になります」

「マジで? それって教科書とかにも載る系のヤツ?」

「もちろんっ! これから家族や友達にもドンドン自慢しないとっ!」

「でも…… どうしてお兄さんがそんなことできるの?」

「えっ、だってそういう専門学校とかも出てるし……」



第3話テーマソング「BEAT ON」



TORABARD 第4話「和のうた」へ続く

©NITRO 2016

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まいどおおきに✪
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