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メキシコ道中私日記-8日目【テマスカルシンゴ】複雑な関係

【テマスカルシンゴ(Temascalcingo)ーメキシコシティ】

二人の縮まらない距離

「凄い田舎だよね」
「うん」とりあえず言い返しが思いつかないので適当に返事をした。

 私とA君は、私の友達が住んでいるテマスカルシンゴに向かっていた。確かにA君の言う通り、テマスカルシンゴに近づいてきて、山々しか見えないし主だった建物は見えてこない。
 しかし、全く縁がない土地ならまだしも、仮にも私の友達が住んでいる地域と分かっているのにそんなことを言われるのは少しモヤっとした。
 別のチワワに住む友人と話した時もそんなことがあった。
「友達が住んでいるテマスカルシンゴに行くんだ」
「あそこなんてなんもないじゃん」
 笑いの絵文字までついていた。
 チワワのお前が言うか?と思って、やっぱり同じ理由でモヤっとした私はそのまま返信をしなかった。
しばらくして彼は「ごめん、あの言い方は良くなかったと思う」と言ってきた。
 そう、彼は自分で良くないと分かってて言ったのだ。お互い良く知っていて関係性が出来ているならジョークとして言うのは有りだと思うが、彼は私の友達と仲いい訳でもないのにその発言はデリカシーが無いと思った。

 テマスカルシンゴの村に入ると、陶器に壺が沢山並んでいる路面店が沢山見えてきた。ここは陶器の壺が有名らしい。
 テマスカルシンゴに住む友人G君(30歳くらい)と、具体的な待ち合わせ場所は決めていなかった。初めは「今近くに来たよ」とか、チャットでやりとりしていたが、具体的な話になって来たので、土地勘もない言語も怪しい私が中途半端に間に入るより、直接話してもらった方が早いと思い、私のスマホをA君に渡して、私達が合流できるように、A君とG君で直接話し合ってもらった。
 街中を車で走っていると、棺桶が沢山並んでいるお店が見えた。メテペックに行った時にも見たが、路面店に棺桶が並んでいる光景は妙だった。


路面の棺桶屋さん

 G君は街中の駐車場に車を停めた。A君との待ち合わせはここなのだろうか?
「ちょっと散歩しようか」
「え、でも動いちゃったら友達が来た時に分からなくなるかもしれないじゃない?」
「大丈夫だよ。とーこの友達は自分達を見つけられるよ」
 一体どこからそんな自信が来るのだろうか。
 具体的にどういう話合いをされていたか把握していない私は、駐車場からそう離れないように意識しながら歩いていると、G君からもう一度電話がかかってきた。
 私はA君にスマホを渡した。お互いどこ?なんてやりとりをしていると、G君が「あー、見えた」と言ったので、私は顔を上げると上下革ジャン革パンのG君が見えた。

 息を切らして走ってくるG君。私の前に着くと、下を向いて肩を揺らしながら息をしている。まるで42,195キロ走って来たかのような息の切らし方だ。
 話しかけようとすると、
「ちょっと待って」と手を差し出して、はぁはぁしているG君。
 話せる状態じゃないらしい。
 確かにG君は細身で運動が得意そうには見えない。
「走るの慣れてなくて」
 走るの慣れてなくて、なんてセリフを生まれて初めて聞いた。長距離に慣れていないとかそういうのはあっても、その辺走るのに慣れてるとか慣れていないとか、気にしたことなんかない。
 思わず無言でA君と顔を見合わせた。




 G君と合流すると、その村のお祭りを見に行こうということになって、A君の車で移動しようとした。
 私が車に乗ろうとすると、G君が張り切って私の乗る席のドアを開けてくれた。
「ありがとう」と私が言うと、今までのずっとドアを開けてくれていたA君がちょっと戸惑ったような顔をした。

 お祭り会場の近くに車を置き、パレードが見れるところまで3人で歩いて行く。するとA君が私の傍をピッタリとつきながら歩いている。しかも、A君の癖で時折話しかける時に、私に身を近づけて囁くように話したりする。大きな声で言えないような内容なら分かるのだが、全然そうではない話題でも時でも囁くようにして話しかけるのだ。
 A君は今までずっと会っていて、G君は今会ったばかり。しかも数時間後にはここを去らないといけない。だからG君ともっと話したいし、3人いるの2人だけがくっついてるっていうのが好きじゃない。私はなるべくG君と、もしくは3人で話せるようなフォーメーションになるように努めて歩いた。

祭壇神輿

 パレードの最後尾に付いて、村の中心に行くと、道の両脇に屋台が出ていた。ちょうどお腹も空いてきたので、屋台で何か食べようということになった。G君のおごりで3人分のタコスを注文した。今まで私の分もほぼ支払ってくれていたA君も、G君に支払いを任せた。
 屋台で3人で座っていると、物売りの少年がやって来た。屈託のない笑顔がとても可愛い。G君のところに少年が来ると、少年にお金を渡して何かを受け取った。
 注文したタコスが来て食べていると、さっきの物売りの少年が横に座っていることに気づいた。
 それを見たお店の人が、「早く出て行きなさい」みたいなことを少年に言った。どうするのだろうと様子を伺っていると少年は、
「食べるためにここにいるんだよー!」と反論した。
 まもなくしてお店の人がタコスをG君に渡すと、G君はそのタコスをそのまま少年に渡した。
 少年は実に美味しそうにタコスを頬張った。
 物を買ってあげたり、小銭を渡すだけでなく、こうやって助け合ったりしてこの国は回っているのだと感じた。



お祭りの屋台/撮影:G君
屋台飯

 今日のクリスマスのお祭りに合わせて移動遊園地が来ていた。日本ではあまり一般的ではないが、海外では割とポピュラーな移動遊園地。
 G君に、「乗り物好き?」と聞くと、「Si!」と答えた。私も好きだから良かった。
 せっかくなので、乗り物に乗ることにした。
 移動遊園地なので大した乗り物はなかったが、この3人の微妙な空気を変えられるのではないかと思った。
 日本ではバイキングと呼ばれる船型の乗り物に、A君と乗りこみ、G君がお金を払った。しかし、G君は入口を入らずに下から見ている。
「乗らないの?乗ろうよ」とA君と二人でG君に声をかけると、G君は両手を合わせて謝るポーズをしている。
 さっき乗り物は好きって言ったのはなんだったんだ。
 結局A君と二人で乗ることにした。
 日本のバイキングだと、真ん中を堺に向かえ合わせになっていて、前後に揺れるようになっているが、メキシコのはなぜか真ん中の席だけ電車のように、横に揺れるようになっていた。
 私はその珍しい向きに配置された席に座った。その席に座った理由は実はもう一つあった。それは、何か事故が起きても一番被害が少ないと思ったからだ。
 乗客が全員席に着くと、係りと思われるスーパーマリオのTシャツを着た中学生くらいの少年が安全バーのロックしてくれた。ロックといっても日本のようにしっかりしたものではなく、日本の公園のブランコの方がまだしっかりしてるんじゃないかというくらいのもの。
 乗り物が動き始めるとマリオの少年が後ろで立って乗っている。立ち乗りブランコの感覚だろうか。安全バーどうこう以前の問題だ。立ち乗りでバイキングに乗るなんて当然日本じゃ考えられない。
 メキシコのバイキングは動きも日本とは違った。速度を落としてきて、止まるのかと思いきや、なぜかまたそこからスピードアップ。一回のプレイ時間が日本より長く、一回60ペソ(約600円)だけど、日本の倍くらいの長さを乗ってられるのでお得感がある。
 バイキングを降りて、「なんで乗らなかったのー?」とG君に聞いた。
「前にこれに乗ってバーが壊れたことがあるんだよ」
 あーやっぱり!!
 そう言えばこれから会う別のメキシコ人のAL君も前に乗り物に乗って落ちそうになって死にかけたからもう乗らないと言っていた。日本でもごく稀に遊園地の事故はあるけれど、ここではそんなレベルでなく頻繁に起き得るものなんだと知って恐くなった。
 その後も別の回転系の乗り物に乗ったが、私は安全バーを一切信じることができず、背もたれや乗り物の横に捕まって振り落とされないよう変な態勢で必死になっていたので、とても疲れた。
 バイキング以外の乗り物はG君も一緒に乗り、3人で楽しめた。
 2人を乗り物に乗せたのは正解だったと思った。少しだけA君とG君が話す場面があったからだ。
 タコスから乗り物に至るまでG君がポンポン豪快にお金を払っていて、G君も金持ちなんだなと改めてそう思った。改めて、というのは、日本でG君とチャットしている時に、人を信用できないから友達がいないと言っていた。理由を聞くと、自分の家は地元で有名だから、お金や権力目当てに近寄ってくる人ばかりだから人を信用できない。ということだった。
 そういえば、ネットや旅先で会う人達、特に貧富の差が激しい国の場合、お金持ちに出会う機会が多い気がする。日本文化や海外に興味がある、興味が持てるというのは、ある程度お金がある人でないと難しいのかもしれない。

変な向きのバイキング


 それからお祭りを見たり、街中にある教会、市場なんかを3人で見て回った。2人の間に終始微妙な空気が流れていた。
 メキシコに来る前、A君と旅のプランを決めていた時に、A君は私の旅にずっと同行したいと言った。友達と会ったりするよ、と言っても大丈夫だよと言っていたが、全然大丈夫じゃないじゃん。これが全部の友達と会っていたらどんなことになっていたか。想像するだけで恐ろしい。

市場内の床屋
市場のキャンドル屋

 メキシコシティに戻るバスの時間が近づき、バスに乗る為バスターミナルに向かった。本当はA君が一度モレリアに戻ってメキシコシティまで私を送ってくれると言う話をしていたのだが、モレリアに戻ってさらにメキシコシティまで行くとさらに時間がかかるし、ただ私を送る為だけにメキシコシティに来てもらうのも申し訳ない。A君はしばらく、とーこ一人で大丈夫かなぁ、と心配していたが、お互いのお金、時間、エネルギーのことを考えるとその方がいいと思ったので、「大丈夫、大丈夫」といって一人で帰ることにしたのだった。
 メキシコシティまでのチケットを買おうとすると、A君とG君が二人で同時にお金を出そうした。
 その二人の様子を見ていた私は心の中で笑った。結局「自分が払うからいいよ」とA君が言って支払った。
 バスの待合室で3人でバス待ちをしていたら、G君が「ちょっと出かけてくる」と言ってバスの待合室を出た。30分、1時間、結構長い時間経ってG君が戻って来た。G君の手を見ると紙袋があった。
 その紙袋の中には私へのお土産が入っていた。お祭りの屋台で買ってきたのか、お菓子やぬいぐるみなどが入っていた。G君に会った時に日本から持ってきたお土産を渡したので、そのお返しということなのだろう。

 バスの待合室の窓からバスが入ってくるのが見えた。自分の乗るバスがどれかは分からなかったが、バスの出発時間が近づいてきたので、
「もう行ったほうが良くない?」とA君に言った。
「まだ大丈夫だよ」とA君は答えたが、ここで乗り過ごすわけにいかないので私はずっと心配でバスの方を眺めていた。
 A君が「そろそろ行こうか」と言って、バスがいる外に出た。
 ギリギリまで待合室にいたので、列の後ろの方に並んだ。思ったよりバスに乗る乗客の列は長い。
「乗れるかな?」
「大丈夫、乗れるよ」A君は答えた。
 私が乗り込む瞬間になった。A君の言う通り、確かに乗れた。
 しかし、乗れはしたはが、座る席はなかった。長距離バスで立ちっぱなしなんて想像していなかった。
 そう、ここはメキシコだから。
とりあえず私は最後まで距離が縮まることのなかったA君とG君に手を振ってテマスカルシンゴを後にした。

 私は最前列の運転手席の横に立っていた。他に座れなかった人もその辺りに数人立っている。私が立っているところは段差があって、段の下に降りると捕まるところが無く、上に上ると掴まれるが変な態勢になる。片足を段の上に、もう片足を段の下に置き、後ろに手を回すような形で掴まりながら耐えた。本当は段差のところに座ってしまいたかったけど、怒られたら怖いので不安定なバランスのまま立っていることにした。
 まるでさっきの遊園地の回転系の乗り物の続きの気分だった。
 運転手さんがこちらを振り返り微笑みかけてくれたので微笑み返した。優しそうな運転手さんだったので安心した。
 次のバス停に着くと、近くの席の人が降りてくれたので座れることができた。後で乗って来た人が段差に座る。なんだ、座っても良かったんだ。

UBER確保に大奮闘

 4日前に来たオブセルバトリオバスターミナルに戻って来た。
バスターミナルは、人がいっぱいいて、スリも多いし気を付けてね。と色んな人に言われていたので、なーんだ、それほど人いないじゃん!と思って外に出ると、メトロへ入るのに長蛇の列ができていた。軽くUBERを呼べそうなところを探したが見つからない。反対側のタ出口の方に行ってみる。こちらも車や人がごった返していて、UBERを呼べるような雰囲気ではなかった。
 とにかくUBERを呼ばなければ。しかし一体どこで?
 返信はすぐに来ないかもしれないと思いながらもL君に相談のメッセージを送ってみた。A君に送らなかったのは、A君はメキシコシティの人間でないから詳しくないだろうと思ったのと、また気を遣ってA君のお金でUBERを呼んでしまうのではないかと思ったからだ。
 するとL君から返信が来て、メトロに乗る側に警察があるからそこでUBERを呼んで!と言う。その場所の画像もついていた。しかしそちら側はメトロに乗る人以外は進入禁止で行けない。もう一度反対側に行ってみるが、やっぱり無理そうだ。
 オブセルバトリオバスターミナルは意外に大きく、さらにこの混雑と暗さで周りの状況が把握しずらい。どこが危なくてどこが危ないくないのかの判断もつきずらくなっている。
 あぁ、このスーツケースさえなければ、少し我慢してメトロに乗るのに。このスーツケースを持ったままではこの国であの混雑した電車に乗るなんて絶対無理だ。
 L君にもA君にも、メトロは危ないからUBERを呼んでと言われている。さらにJ君からもこの辺りは危ないと言われていた。
 さらに頼みのスマホの充電ももう残りわずかになって来ている。充電がなくなったらUBERも呼べないし地図も開けない。あーどうしよう。早くなんとかしないと。
 意を決して、観光客と思われる人達がUBER待ちしているところで私も呼ぶことにした。L君に、ここはどうだろう?とその場の画像を送った。
「うん、大丈夫だと思う!」
 私は安心してUBERを手配しようとアプリを開いた。するとなんと私のUBERのアプリの位置情報が機能しない。こんな人や車がごちゃごちゃしたところで位置が少しでもずれていたらUBERは私を見つけられないだろう。スマホのバッテリーに余裕があれば設定をなおしたり色々出来るのだが、充電はもう僅か。あー、なんで充電を交換して来なかったのだろう。少し飛行機などで面倒でもなんでモバイルバッテリーを持ってこなかったのだろう。
 「位置情報が機能しないんだよ」
 私はL君に伝えた。
 「じゃあ、自分が呼んであげるよ。現金しか使えないやつだけどいい?いくらもってる?」
「500ペソならあるよ」
「分かった」と言って400ペソのUBERを手配してくれた。私が見ていたUBERより100ペソほど安かった。

 それから私はひたすらUBERを待つが全然来ない。UBERの情報はもらっていた。周りはUBER待ちやタクシーがいっぱいいる。ホームレスっぽいおっちゃんもうろついている。
(気づかない間に見過ごしちゃっのかな?ちゃんと来れてないのかな?)
 本当にこの場所で合っているのだろうか?不安が大きくなる。
 するとL君からメッセージが届いた。
「UBERがもう着いてるって」
「え、どこ?まだ見てないよ」
「赤色のホンダ車だよ」
 L君からもらった情報では白い車にフロント部分にトナカイの角の飾りがついている車だった。しかもホンダとか言われても、車に詳しくないから分らない。
私は近くを走って、赤い車を探した。
 すると私が待っていた位置から20mくらい離れた場所にL君が呼んだUBERがいた。
 よく話を聞くと、私が立っていたところへは侵入が出来なかったらしい。
 とにかくUBERに乗れて良かった。

 安心して乗っていると、
「着いたよ」突然運転手に言われた。
 え、そんなはずはない。窓の外の景色が全然違う。
「ここじゃないよ」
「ここだよ。アミーゴって書いてあるでしょ」
 確かにアミーゴと書いてはあるが、私の泊まっているホテルではなかった。
 私が運転手に「違うよ」と言っても「合っている」と言ってきかない。
 でも違うものは違う。こんな夜に外に放り出されても困る。
 私はずっとそこのホテルに泊まっていたんだから、と予約した画面を見せる。
「中国語なんて分からないよ」
「中国語じゃなくて日本語だし」と、ついモヤっとして口に出てしまった。
 本当はモヤっとする理由なんてない。向こうはどっちが上とか下とか考えているわけではないのだ。自分でも十分それを分かっていたはずなのに、いざ実際に言われてモヤっとしてしまった自分に反省した。
 あぁ、こんなことがないようにちゃんとL君にGoogle Map の位置情報を送ったのに~。
 埒があかず、運転手がL君と電話する。
 何とか運転手に理解してもらい、電話をL君から私に変わると「あーごめんごめんー」
 もぉ、しょうがないなぁと思いながらもL君のキャラだと怒る気には一切ならなかった。
「500ペソになるけどいい?」と運転手が私に聞いた。
「いいよいいよ」
 とにかく何でもいいからホテルまで連れてくれ。

 7時前にバスターミナルに着き、ホステルについたのは9時過ぎだった。
 とりあえずベッドに入り、「着いたよ」とA君とL君に報告した。細かい説明をする元気はなかった。
 明日はまぁまぁ期待をしているAL君に会う日だ。期待と緊張をしながら眠りについた。



<メキシコ道中私日記-9日目ー1日だけのプリンセッサ>に続く

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