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メキシコ道中私日記-6日目魅惑の街サンミゲルデアジェンデ

【サン・ミゲル・デ・アジェンデ(San Miguel de Allende)-グァナファト(Guanajuato)】

優雅な朝のひと時

――スカーン。スコーン。スカーン。スコーン――
 ベッドで寝ている私の耳に、規則的に響く音。どうやら外でテニスをしているお客さんがいるらしい。時間はまだ5-6時くらいだ。旅に来て朝からテニスだなんて、なんて優雅なんだ。
 出発の準備をして、A君と宿から車に向かう。途中テニスコートを通ったので、A君に言った。
「朝テニスしてる人いたよねー」
「あー、いたね。うるさかったね」

プール付の宿

 朝食をとる為、街の中心から車で20分くらい行ったカフェレストランに向う。観光客向けのガイドに載っているのか、順番待ちをするほど混み合っていた。メニューにもしっかりと英語表記がある。
 朝からガッツリ食べられるほど47歳の胃は丈夫ではないので、メキシコとは全く関係ないパンケーキを注文する。
 A君は食べ物から飲み物まであれこれ私に勧めてくれる。確かにどれも美味しそうだが、そんなに食べられないし飲めないので要らないと伝えたが私が味見出来るように飲み物を多めに注文してくれた。
 食事を頼むと無料でおかわり自由のコーヒーもついてきた。トイレ問題を回避するため大好きなコーヒーを避けていたので久しぶりのコーヒーだ。メキシコのコーヒーは日本に比べて濃いめで味もしっかりしていて好きだ。  さぁ、ようやく待ちに待ったコーヒー。一口、口に含んだ。
 あれ?
 薄い。濃度も観光客仕様だった。おかわり自由の無料コーヒーだから仕方ないか。よく見るとメニューには「アメリカンコーヒー」と書かれていた。
 
 オープンカフェで雑談をしていると、果物を持った子供の物売りや大人の花の物売りなど次々にやってくる。身なりから想像するにホームレスといった感じではなさそうだ。

豪華なパンケーキセット

サン・ミゲル・デ・アジェンデの街を散策

 再び中心街に戻り、車を適当なところに縦列駐車する。勝手に停めているだけなのでもちろん無料だ。私はA君に当たり前のようにドアを開けてもらって車から降りる。
 ドアを開けてもらうのはレディーファースト的なものもあるが、縦列駐車が日常なので、ドアを開けた時にドアが縁石にぶつからないようにするメリットもあると思う。
 前の日、この車いくらくらいするの?と聞いたら、日本円で約700万くらいと言っていた。700万の車に傷が付いしまったら、ただ乗っているだけの私だって堪らない気持ちになる。

 私が専門学校に通っていた頃、台湾人の同級生が帰省するというので一緒に行かせてもらったことがある。台湾に行くと彼女の知り合いの家にいた私よりさらに若い男の子が毎回ドアを開けてくれていた。初の海外旅行でそういったことに慣れていなかった私は、いちいち開けてもらうのが申し訳なくて、自分で開けるから大丈夫だよと彼に言った。するとその子はなんとなく悲しそうな表情をした。だからそれ以来ドアは素直に開けてもらことにしている。

 昨日は夜だったから壁の色もはっきりと見えてはいなかったが、明るい時に見ると、壁の色が太陽の陽に照らされて色鮮やかに輝いて見える。
 まるでファンタジーの世界のようだが、ここは絵画の中でもなくテーマパークなどでもない、現実の街なのだ。
「わぁー!」
 小学生の頃に初めてディズニーランドを訪れた時のような気持ちであたりをキョロキョロする。
「何が見たい?」
「まずは展望台がある丘へ行って景色を見て、それから通りとお店と通りと通り」と、とにかく通りが見たいことを強調した。
 サン・ミゲル・デ・アジェンデの街はどこを切り取っても絵になる。
 必死に写真を撮っているがよく考えたら私が夢中になって撮っているのは人様の家なわけで、何勝手に人様の家の写真を撮ってんだろうと思ったりもしたが、ここはそういう街なんだから仕方がない。そう自分に言い聞かせ、写真を撮ってはカメラをバッグにしまい、撮りたい場所があったらバッグから取り出した。
 いちいち出したり仕舞ったりの作業はとてもめんどくさかったが、大事なカメラと自分の身を守るためには仕方がない。
 実はカメラを持ってくるかどうかはかなりギリギリまで悩んだ。現地の人にも何人か聞いた。
「カメラ持ち歩いてて大丈夫かな?」
 すると「うーん、危ないかも」とか「大丈夫だと思うけど注意した方がいいよ」とか、という返事が返って来た。
 勿論、私がメキシコに行くよと言った途端に連絡が取れなくなった子にも聞いた。
 すると、「大丈夫大丈夫。皆持ち歩いているし、普通だよ」と彼は教えてくれた。
 そして現地に来て思った。
「ん?一体どこが普通だって?カメラなんて観光客しか持ち歩いていないじゃん。しかもサン・ミゲル・デ・アジェンデに来てようやく数人見かけたけど、カメラぶら下げて歩いてる人なんてメキシコシティでは見てないぞ」
 結局、重くてかさばる望遠レンズは置いて、小さくて軽い単焦点レンズだけつけて持ってくることにした。

 時折A君が、ここはどう?ここは写真撮らないの?と気を利かせてくれる。ところが私の感性と合わない部分もある。ただせっかくの気持ちを無碍にもしたくないので写真はたまにとったりしたが、エネルギーと時間がもったいないのでうん大丈夫と断る方が多かった。

誰かのお宅の窓
誰かのお宅のドア


誰かのお宅のドア

 寄り道を繰り返して私達は丘まで辿り着いた。展望台には日本人を含めた数組の観光客がいた。恐らくゲイカップルと思われるイケメン二人もモデルさながらのポーズを決めて記念撮影をしている。

ピピラの丘からの景色

 展望台からの景色を堪能して坂を下っていくと、小さい車だけ通れますという看板がある道があった。小さい車でなくても運転技術が必要そうな道だ。道の出口まで行くと、テラコッタ色の壁がところどころ白くなっている。よく見ると、車が擦ったような跡なのがわかる。ここまで来てしまったら、自分の車幅間隔が分からない人や狭い道を上手く抜ける技術の無い人がバックで狭い道を戻る技術を持ち合わせているとは到底思えない。何より後ろから車が来たらバックなんてできない。

壁に刻まれた多くの人の焦りと涙

 壁に付いている沢山の人の涙の痕を眺めながら街に降りてくるとショッピングタイムだ。ここでもA君は、ここはどう?ここは見ないの?と気を利かせてくれる。
 ここでもやはり全部の提案を受け入れている時間は無かったので、うん大丈夫とお断りした。
 市場には季節柄クリスマス用の商品も沢山並んでいる。ここは商品も雑然と置かれていて、路面店のような観光客を意識したような小奇麗感はない。
 A君はレディーファーストで先を歩かせてくれるのだが、慣れない道で先に歩くというのは心地が悪かった。日本だと、男性と一緒の場合はその後ろを歩くことが多いので余計に歩きづらい。歩くだけならまだしも、レストランなどに入るときに先にどうぞと通されると、私が先にお店の人に会うことになり、アワアワする羽目になるので、落ち着かない。


スターバックスも街の景色に溶け込んでいる


クリスマスには人形に服を着せて祝う習慣がある

 オシャレで綺麗な街、サン・ミゲル・デ・アジェンデ。ゴミすらあまり落ちていない。日本で例えるなら京都や鎌倉、飛騨高山。そういった観光地のポジションと似ている。その空間にいると気分は盛り上がるが、じゃあそこに住みたいかと言われると、住みたくはない。あくまでたまに遊びに来るから楽しめるのだ。

 街を一通り見終えるとちょうど辺りも暗くなり、ずっと歩きっぱなしだったこともあり、体力も尽きてきたので、グァナファトに移動することにした。


グァナファトへ


 グァナファトへ向かう道は、街灯も乏しい真っ暗なところがひたすら続いていた。まるで北海道の山道を走っているような感覚だが鹿には出会えなかった。

 グァナファトに着くと一気に賑やかムードになった。ドラクエなどのロールプレイングゲームなどをやっていて、何もない草原を歩いていくと急に賑やかな街に入ったりする。そんな感覚だ。

 先ほどまでいた街とはガラッと雰囲気が変わり、観光地的な賑わいの中にも生活感と廃墟感がある。週末の夜のせいか星夜のせいか分からないが多くの若者たちが街に繰り出し騒いでいる。
 私達の乗った車は細い石畳の道をクネクネと上っていく。テンションも上がる。音楽のヴォリュームも上がる。
 窓を開けると大音量の音楽が車外に聞こえる。「え、大丈夫なの?」と私が聞くと、「大丈夫大丈夫、ここはメキシコだからね」と言う。
「メキシコだから」
 なんて使い勝手のいい言い訳だ。
 私が街の様子を録画しているとA君が気を利かせて車のルーフウィンドウを開けてくれたのでルーフウィンドウから外の様子を撮影する。助手席側の窓から撮るより、視野も広く坂道を登っているところなので上からの方が
街を歩いてる人たちがこちらの様子を見るので、私と目が合う。少し気まずい。でも大丈夫。
 だってここはメキシコだから。
 ホテルへの行き方が分かりづらく、A君がホテルへと電話する。「あー、大学のところを入っていけばいいんだね」と言って電話を切る。
 それから少し坂道を登ったり降りたりして、A君が呟いた。
 「あれ?違うなぁ」
 気づいたら、さっき来た道に戻っていた。
 もう一度ホテルに電話をして、なんとかホテルに辿り着いた。

 今宵泊まるのはコロニア風のホテル。ホテル内を歩くだけでヨーロッパの観光スポットに来たような豪華さだ。廊下にはアンティーク家具がオブジェとして飾ってある。
 申し分ないこのホテル。しかし一点だけ難点があった。海外のホテルでは「シャワーのお湯が出ない問題」というのがよくある。
 なんと、このホテル、お湯ではなくてシャワーの水が出なかったのだ。2つあるシャワーの取手のどちらを回してもお湯しか出ない!辛うじてギリギリ浴びれる温度だったので、我慢して浴びた。


コロニア風ホテル
コロニア風ホテル

「ブエノスタルデス!」
 A君が廊下ですれ違った他のお客さんに挨拶をする。
 しかし、挨拶は返って来なかった。
「彼らはメキシコ人じゃないねぇ。メキシコ人ならすれ違ったら挨拶するのが普通だから」
 知らない人通しがすれ違いざまに挨拶をする。日本の登山の時のような風習か。
 ホステルでのバスルームを思い出した。皆すれ違うと、挨拶をしてくれていた。挨拶されるから返そうとするのだが、この挨拶の言葉である「ブエノスディアス」とかが、私はいつも噛みがちで上手く言えないのだ。しかも急に言われるから尚更焦って言えない。さらに、焦っているからブエノスディアスだったかブエナスディアスだったかも分からなくなる。

 ホテルを出ると、今回旅に来て初めての雨が降っていた。
 グァナファトの夜景を見るために高台の上を目指した。
 A君ガイドで、多分こっちだろうという道を進む。こんなところ観光客が通るのかというような細い石の階段を上っていく。雨で地面が濡れているので滑りやすくなっている。
「大丈夫?」
 A君は常に私がズッコケないか心配してくれる。
 まともな街灯もないのでかなり暗く、絶対に夜一人でこんなところは歩かないだろう。いかにも物陰から誰かが襲ってきそうな気配のする場所だ。
 坂を上っていると、分かれ道が現れた。見ただけではどっちが正しいか分からない。もちろん看板なんてものもない。適当に進んでみるが、間違っている様子なので戻る。
 あっちかな、こっちかな、と迷いながらも私達は展望台に辿り着いた。
 昼はカラフルな建物が綺麗に見えるということで有名なグァナファトの景色だが、夜でも十分に綺麗だ。ところどころライトアップされている灯りの色が、都会の夜景とはまた違った形で美しい景色をつくりだしている。
 そしてこんな高台からでも街中の大音量の音楽が聞こえる。傍にはビール6本箱を二種類持ち込んで音楽をかけて話しているカップルがいて、ロマンティックな夜を堪能している。

一人では歩くの怖い展望台への道
展望台からの夜景

 下に戻ってくると、夜の街は相変わらず若者で溢れていた。クラブもたくさんあってクラブ音楽が聞こえてくる。石畳と石の壁。オレンジ色の光。ドアが開けっぱなしで聴こえてくるクラブミュージック。ヨーロッパを思い出させてくれる。

 私達はレストランに入った。ここでも英語メニューがデフォルトになっていた。
 話題はA君が日本に来た時の話になる。
 A君には以前日本人の彼女がいた。しかし、A君と付き合っている途中に彼女は別のメキシコ人と付き合ってしまったらしい。 
「日本に来た時はどこに行ったの?」
「秋葉原に行ったよ。電車の模型のお店に行った」
「あー、良かったじゃん。乗り物好きだもんね」
「でもね、彼女がそんなつまらないの見てないで、早く行こうって言うからゆっくり見れなかったんだ」
「えー、せっかく日本に行ったのに?」
 なんとも気の毒なA君。
 A君はいい人だ。そう、いい人。所謂「いい人なんだけどね」と言われる部類のいい人。姑から好かれるようなタイプ。ただこういう”いい人タイプ”は、女性からしたらもの足りないって言われるんだろうなぁ。


<メキシコ道中私日記-7日目【グァナファト】爆音で迎えるクリスマス>に続く

<メキシコ道中私日記-1日目から読む>


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