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メキシコ道中私日記-3日目-危ない薬!?

【チャプルテペック-近代美術館】
※この記事は、別のアカウントから移行したものです。

風邪薬を巡って

 この日は今回の旅で唯一、終日単独行動だった。
 昨日L君に会った時に、今日も誘われるかなぁ、という期待もしたが、用事があったのか、はたまた2日間会ってみて、「こいつはもういいや」と思ったのか、本日の同行の提案をされることはなかった。

 前日に引き続き風邪の調子は良くなかった。最初のうちは効いていた風邪薬もあまり効かなくなっていた。前日の夜、今回の旅で会う予定のA君とのチャットの中で、こんな話をしていた。
「風邪を引いたっぽくて、鼻水沢山でるし、喉とかも痛いんだよね」
「薬は飲んだの?」
「飲んだけど、あまり効いてないみたい」
「うーん、すぐ効くお勧めの薬があるけど、君には強すぎるかも。Dafloxen Fというやつなんだけど」
「何用の薬なの?」と聞くと、その薬の画像が送られてきた。
パッケージに解熱鎮痛剤を意味する言葉が書かれていた。
「あー、解熱鎮痛剤か」
「自分は風邪の時にこの薬を飲むとすぐ良くなるんだよ」
「そうなの?」
「強すぎかな?」
「それは分からないけど、いくらくらいなの?」
「120ペソ(1,200円)くらい」
「じゃあ、後で探して買ってみるね!教えてくれてありがとう!」

 さて、教えてもらったのはいいけど、海外だし日本で違法の物とか入ってないだろうか。しかも解熱鎮痛剤って書いてあるし、鼻水とかも止められる総合薬の風邪薬の方がいいんじゃないだろうか?
 ふと知り合いの薬剤師の方の顔が頭に浮かんだが、LINEグループで繋がっているだけで個人間の繋がりはなかった。そんなことでわざわざ連絡するのもなぁ、と気が引けてやめた。

 朝起きて、五年以上やりとりをしているゲーム友達とチャットをしていた。
 彼に「メキシコ行くからあまりイン(ゲーム)できなくなるから~!」と告げていたら、なぜかメキシコに来てから日本にいる時以上のメッセージを毎日くれていた。
 彼は病院務めをしているので、薬の件を聞いてみることにした。病院務めといっても、オペに立ち会ったりしているとは言っていたものの医者でも薬剤師でもないので、明確な回答を求めるというよりは半ば話題作りとして聞いたつもりだった。最初私はアレルギーで鼻水が出ていると思っていたので、彼にはアレルギーが凄くてという話を前日にしていた。
「なんだか風邪引いたっぽい」
「アレルギーやなかったん?」
「だけじゃなかったっぽい。完全に風邪の症状だった。薬飲んでるけど、良くなったりそうでもなかったりで、こっちの薬も買ってみる」
「こわっ!」
「コロナ時期じゃなくて本当に良かったよ」
「あーそか、海外は今コロナどんな感じなんやろ?」
「もう流行ってなさそうな感じするよ?」
「そりゃ良かった。日本だけか・・・・」
「日本ってまだ流行っているの?」
「うん。流行っているゆうか、水面下にいるよ?」
「へー、そうなんだ。もう皆かかってても気づいてなさそうだもんね」
「風邪薬効くといいけど、どんなもんが入っているのか、すげー気になる」
「これなんだけど」とさっきA君から送ってもらった画像を送る。
「成分表のとこ、教えてくれ!」
「ちょっとネットで調べてみるね」と、画像に成分が書かれていなかったのでネットで調べ、主要成分のところだけ書いて送った。

 Naproxeno sódico 275 mg
 Paracetamol DC 90 equivalente a 300 mg de Paracetamol

「英語ならまだ分かるけど、そっちの言葉じゃさっぱりじゃ・・」
私は英語にして打ち直して送った。
すると彼から「これに行きついた」と1枚の画像が送られてきて来た。
画像を見ると"麻薬”という文字が見える。
「え、麻薬?」
「やばくね?だってさ、麻薬やぞ?」
「本当にそうなの?」
ポンっと、また違う画像が来る。"レボルファノール”の成分説明が書いていある。麻薬と言う文字が見える。
「これを風邪薬で見たことがない。これ、日本に持って帰って来れるのか?麻薬持ちやぞ?いや、変な意味の麻薬やなくて・・・病院で麻薬ゆうたら金庫に鍵かけて、保存してるよ?これは見たことないけど」
「軽いやつとか?一部の成分とか⁉」
「税関、日本の方の税関通れるのか?」
「薬だから流石に逮捕はされんと思う」
「捨てて帰ってきた方がよくねーか?」
「友達にあげちゃうとかね」
「オランダで合法でも日本でダメなもの、知ってるやろ?」
「うんうん」
「それを持って帰ってくるよーなもんだったら、どーなる???ちみは日本に入れないよ?」
「・・・・」
「メキシコで買いましたと言っても、すんなり、はいそーですかー?って、通してくれるか?根掘り葉掘り聞かれるから、すぐは通して貰えないと思うけど」
「オランダのっていわゆるあの形をしてるやつじゃない? 薬の形ではなくて、葉っぱの形」
「で、それはそれとは違うと思うよ?でも、麻酔する時に使う麻薬でも、おいそれとふつーに税関通れるわけないやん?」
「いや、聞き慣れてる成分なら、なんも言わんかったけど、医療現場にいる俺が聞き慣れてもない薬が入ってるもん信用できん。どーしても、飲みたいなら、寝る前にしたら?」
「そうだね」
彼の言っていることが色々と違う様な、飛躍しているような気はしたが相談した手前、彼のプライドを傷つけることになり兼ねないので引くに引けず話を続けることにした。何より彼は私のことを思って言ってくれているのだ、と自分に言い聞かせて。

「プロポフォールみたいな感じ?」
「プロポは鎮静の方だから、ま、鎮痛ではないけど。ま!いわゆるそっち系が疑わしい。ふつーにアセトアミノフェン、ロキソプロフェンそれらが出てくるならまだしも、本気の鎮痛が出てきて、どーすんや!って、つっこみそーなんやけど」
「本気の鎮痛って何!?(笑) 他はやる気のない鎮痛みたいじゃん」
「 あ、えと、手術する時の本気の鎮痛ってことよ。バファリンやロキソニン飲んでも、転んだら痛いやろ?手術中は何されても痛くないから。心臓止められても、わからないから・・・」
「なるほど。ちとシャワー浴びてくるー」
「風邪ひいてるのに、シャワー・・・も、心配過ぎて、なんも言えん・・・」

 その後、直接LINEが繋がっているわけではないのに、こんな仕事みたいな質問をするのは気が引けたが、やっぱり薬剤師の知り合いに聞いてみることにした。メッセージが返って来なくても仕方がない。

 シャワーから戻ると、同室に泊まっていた20歳前後くらいのまだうぶな感じの女の子二人組が外に出かけるところだった。今がチャンスと思い、気になっていたことを聞いてみた。
「どこから来たの?」そう、彼女たちはスペイン語で話していたけど一体どんなところから来ているのか気になっていたのだ。あと挨拶以外の会話をしないままずっと同室にいるのって少し気まずい。だから何でもいいから話しかけておこうと思ったのだ。
 すると女の子は「オアハカ(Oaxaca)よ」と屈託のない笑顔で答えてくれた。
 え?メキシコ?しかも、オアハカ⁉日本で例えるなら大阪くらいに住んでる人が東京に遊びに来たくらいの感覚だろうか。めっちゃ近いところから来てるじゃん!
「シャワーはお湯出た?」今度は女の子の方から逆質問された。
「うん、出た出た」海外でシャワーのお湯が出ないというのは海外ではよくあることなので聞いたのだろう。
「あー、良かった」その女の子はシャワーに出かけて行った。

 私も準備をして外へ出た。まず腹ごしらえをするため、マックに入った。モーニングセット85ペソ(約850円)。高い!日本で朝マックは500円以下で買えるのに。
 ハンバーガー自体にはソースの味がほとんど(全然!?)せず、別添えのケチャップとハラペーニョソースをつけるしかない。ハラペーニョソースは酸味もありそれほど辛くもなくおいしいのだが、ソースがうまくパテに馴染んでないので微妙だ。

50ペソ足すとソフトドリンクを100%リンゴジュースに換えてもらえる

 マックを出たあと、私は薬局に向かった。
 駅のコンビニくらいの広さに、薬と少し日用雑貨が陳列されている。A君に教えてもらった薬を探すが見当たらないので、カウンター向こうにいる店のおっちゃんに聞いてみることにした。
「Dafloxen Fってありますか?」
「Dafloxen F、あーあるよ!」とカウンターの中のおっちゃんが陽気に答えて、店の奥から箱を持ってきて私に見せる。
「これでいい?」
「じゃあこれください」と伝え、気になっていたことを一応聞いてみる。
「この薬って、強いですか?」
「あぁ、とーーーーーーーっても強いよ!」と言う返事が、にこやかな笑顔とともに返って来た。

 薬を入手したものの、まだこの薬を飲むべきかどうか悩む。これが変な薬でないとしても強過ぎておかしなことになったりしないだろうか?でもこのままじゃ風邪は良くならないし・・
 すると厄介な私の好奇心がしゃしゃり出て「こいつを飲め」と私に言った。
 えいっ!飲もう!勇気を出して飲むことにした。一応念のため半錠だけ口に入れた。

メキシコのトイレ事情

 ソカロのストリートを歩いていると、トイレを猛アピールしているところがあった。どでかく掲げられたWCの大きい看板に、スピーカーで「いしやき~いも~♪」をスペイン語版にしたような感じで、「綺麗なトイレあるよ~♪」みないなセリフに節をつけたアナウンスが大音量で流れている。
 メキシコに限ったことではないが、海外に行くと街中どこでもトイレを無料で貸してはくれるわけではない。メキシコのコイン式トイレの相場は5-7ペソ(50~70円)が平均。メキシコの物価と比較すると、トイレ1回にこの金額はなかなか痛い。ただ意外だったのはちゃんとおつりが出るということ。おつりが出るといっても入れられるのはコインだけなので、常にコインを持ち歩いていないとトイレにも行けない。
 トイレといえば、メキシコのトイレでもう一つ日本人を悩ませるのが、トイレットペーパーを便器に流せないということだ。便器の横に大きいゴミ箱が置いてあって、そこにお尻を拭いたトイレットペーパーを入れる。
 なんだろう。紙を便器に入れられないというだけで、なんとなくすっきりしない。尿検査で尿をコップに入れたときのような残尿感。
 ゴミ箱は蓋があったりなかったり。蓋がないものは他の人の投げ入れた紙が丸見え且つ臭いも気になる。蓋がついていると、見た目や臭い問題は解決されるが、蓋を開けないと紙を入れられないので、他の人が入れようとしたものがついているかもしれない蓋を手で触らないといけない。しかも座った体勢で開けないといけないので、座ったまま上半身だけ捻って片手で蓋を開けてその蓋を持ったまま、もう片方の手は他に自分の汚物が付かないように捨てるという器用なことをトイレの狭い個室の中でしなければならない。その無理な姿勢のせいで背中がつりそうになる。
 習慣とは恐ろしいもので、用を足す前は「ゴミ箱に捨てるんだぞ」と思っていても、用を足し終えると無意識に同時にポイっと便器に紙を投げ落としてしまうのだ。私の落とした紙が原因で詰まっていないといいが。


トイレアピールの凄いお店
紙はゴミ箱へ

チャプルテペック

 今日はせっかく一人だし、どこへ行こうか?前回メキシコに来た時に次にメキシコに行ったら訪れてみたいと思っていた、ルイス・バラガン邸も、フリーダ・カーロ美術館も、どちらも予約が取れず断念した。
 出来れば前回行ってないところに行きたい。近場で行けるようなコンデッサ(condesa)やメキシコ国立人類学博物館(Museo del Tiempo Tlalpan)、テオティワカン遺跡(Teotihuacán)、チャプルテペック(Capultepek)なんかは前回行ったし、と色々調べて、近代美術館(Museo de Arte Moderno)に行くことにした。

 チャプルテペックまでは、ソカロから1回メトロを乗り換えるだけで行ける。ソカロ駅からメトロに乗り1駅行って、ピノ・スアレス(Pino suárez)駅でライン1に乗り換えて、あとは1本でチャプルテペックまで行ける。はずだった。
 改札にメトロカードをタッチして改札を通る。表示された残金を見ると、残金は問題なさそうだ。ピノ・スアレスまで行き、乗り換え予定のライン1の乗り場を目指す。LINE1は路線図ではピンクの線になっていて、実際の標識もそれに合わせてピンクになっている。ピンク色を表示を目指して歩く。順調に標識通り進み、階段を上る。
 あれ?外が見える。どこかで間違えたかな?と思い戻ってみる。再びピンクの標識がある方を確認する。間違いない。もう一度来た道を戻る。やっぱり外に通じる出口しかない。都内でも地下鉄の乗り換えで一旦地上に出て何百メートルも歩かされる駅があるから、そういった類のやつなのか?一度改札を出ると再入場はまたお金がかかってしまうからむやみに改札の外に出たくはない。
 でも仕方がないので改札を出て、駅を出た。出口を出るとすぐ目の前にバス停が見えた。え、もしやこれ⁉ バス停の行先を見ると、ライン1の終点の名前が書かれている。スマホでメトロの路線図を見直す。よく見ると、さっき乗った線とライン1の線のマークが違う。調べると、さっきのはメトロでライン1はメトロバスと書いてある。メトロバスってなんじゃ?メトロバスって!バスじゃん!メトロ(地下鉄)じゃないじゃん!私は簡単に引き返せるメトロは大好きだがどこに行ってしまうか分からないバスは嫌いなんじゃ、ボケー!同じ路線図に入れるなよ、紛らわしいなぁ、もう!なんて心の中でツッコミを入れた。
 バスに乗り込み、いつでも降りられるように出口に近い真ん中の方まで移動する。
 公共交通機関はスリが多いと聞いていたので、手荷物に気をつけながら車窓や車内の様子を眺める。
 途中、西洋人風の年配の男性と日本人と思われる顔とアクセントをした年配の女性のカップルらしき二人が乗って来た。メキシコに来てからなかなか日本人を見かけなかったので、(おー、日本人だぁー)と内心興奮し、つい聞き耳をたててしまう。やりとりは英語でされていて、会話の内容から観光客のようだった。
 私は2009年にもメキシコには来ていて、前に似たような景色をみているはずなのに、全然違う景色を見ているようだった。街そのものも近代化が進んでいたり、時間が経っていて記憶が薄れているというのもあると思うが、私の目にかかっているフィルタ、つまりそれまで見て来た景色や持っている想い、余裕などで見える景色が違っているのではないだろうか。
 バスはひたすら真っすぐ進んでいる。確かに地上を走る地下鉄のようだ。これなら多少乗り過ごしても、迷う事がなさそうだ。

 目的地であるチャプルテペック停留所に着き、バスを降りた。チャプルテペック公園の方に向かう。きっと以前もこうやって歩いたんだろう。当時はスマホもなかったから、紙面の少ない情報だけを頼りに歩いていたんだと思う。当時はそれが当たり前だったが、今考えると自分のことながらよくそんなアナログな方法であちこち行っていたなぁと思う。
 公園に入り、美術館のある方向へ歩く。この公園も前回来ていたが、まったく印象が違う。この公園の場合、印象なんかではなく明らかに変わっていた。以前はこんなに大量の人はいなかったしこんなに出店も出ていなかった。人も少なく、長閑な公園だった。
 今回はお祭りでもあるのかと思うくらい百メートル以上もあるだろう長さの両脇に出店が出ていた。食べ物屋や飲み物屋、頭に飾れるという猿のぬいぐるみ飾り。こんなの誰が買うんだろうと思ったが、意外にもこの猿のぬいぐるみを頭につけている人は多かった。ディズニーランドでよく見かける被り物のような感覚なのかもしれない。
 出店だけでなく施設も多少増えていて、明らかに以前はなかった巨大迷路やアスレティックなどのアトラクションも増えている。

 公園を抜け、目的の近代美術館へ向かう。チケットを購入し、荷物を預ける。普段美術館に行くことはあっても、近代、というより現代の作品を見ることはあまりないので、こういうのもたまにはいい。

 じっくり美術館を堪能し出口を出ると、薬について聞いていた薬剤師の人からLINEの返信が来た。
 回答の内容としては、こんな感じだった。

「naproxenoはナプロキサンという普通の痛み止めです。paracetamolDC90はアセトアミノフェンで日本での商品名はカロナールです。どちらも普通の解熱鎮痛薬です。これを同量300㎎混ぜた配合錠です。ただ日本で1日3回で処方する量が1錠に含まれています。
 パラセタモール1回300㎎は通常の量です。ただ、日本ではカロナールとロキソニンを併用することはないです。
 服用して体に悪いことはないですが、私なら1日1錠をお勧めします。心配なら半分に割って服用して良いと思います」

 普通の薬で良かった!量も半分だけにしておいて良かった。流石プロ!スペイン語なのにも関わらずこんなに明快な回答を頂けるなんて!
 それにしても、あの麻薬騒ぎはなんだったんだ。
 半錠だけ飲んでいた薬は特に私の身体に異変はもたらさなかったが、強烈な眠気が襲って来た。そういえば症状も大分収まった気がする。

 少しボーっとした頭で公園を散策する。どこもかしこも人がいっぱいだ。前回来た時も行った動物園にもう一度立ち寄った。ここの動物園はただで入れて、前回来た時はそのことにいたく感動した。
 園内も人でいっぱいだ。その中でも檻の中が見えないくらい人が溢れているところがあった。その動物を見るための行列も出来ている。動物名を見たら、「パンダ」と書いてある。メキシコでもパンダは人気なのか。

パンダ見たさに行列ができている

 公園をプラプラ散策してるうちにいい時間になってきた。暗くなってからの女の1人歩きは危ないので帰ることにした。

 すると昨日一昨日会ったL君からメッセージが来た。
「返事遅れてごめん!風邪のせいでとても疲れてて体調が悪かったんだ」
 そっか、体調悪かったから今日誘わなかったんだね。ん?え、もしやその風邪って・・・私からうつった?きっとそうだよね。あーーごめんよーーーー!私のせいで風邪を引いて連絡できなかったというのに、飽きられたのか?なんて考えてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 公園を出て、バスに乗ろうとしたがなんとなくもう少し歩いてみたい気分だった。適当なところがあれば夕食も済ましたいしと思い、もう少し歩くことにした。
 次のバス停まで来て、ふと見ると大行列ができている。この大行列に並んで乗るの面倒だなぁ。そう思い再び歩き始めた。初めはバス路線沿いにひたすら歩いた。自分の気のまま歩き進むと、バス通りから離れていった。一応Google Map を見ながら歩くが買ってから二年ほど経つiphone13mini のバッテリーは容赦なく減っていった。なんとかホステルに着くまでバッテリーを持たせなければ。駅が近くにないところでバッテリーが切れたりなんかしたら面倒なことになる。
 だんだん疲れてきたのでそろそろメトロに乗ろうか?近い駅はどこかなぁ?とGoogle Mapで探す。
 駅があるとされている場所まで来た。すると駅の看板だけあるのにその先に行っても肝心な駅がない。するとコンクリートに囲まれた真っ暗な空間に人が集まっているのが見えた。壁は落書きだらけ。ストリートダンサーがダンスの練習でもしてそうな空間だ。一見治安が悪そうにも見える。様子をうかがっていると、音楽が聞こえて来た。真っ暗闇に響渡る大音量の音楽に合わせて大合唱する人々。一体なんの集まりなんだろう。写真に収めたかったが、その異様な光景にスマホを出す勇気がなくてやめた。

 結局チャプルテペックからホステルまで約5㎞ほどの道のりを歩いて帰った。
 ホステルに戻ってフロントの女性に「オラー!○号室だよ」と伝えると、いつものように笑顔で「オラ!」と言って部屋の鍵を渡された。
 渡された鍵を見ると、違う番号が書かれている。
「え、違うよ。○号室だよ」というと、首を傾げてゴニョゴニョ言いながら今日の朝まで泊まっていた部屋のの鍵を渡された。その部屋に戻ろうとすると、初日からずっと同室の女性が「ねぇ、」と話しかけてきた。
「私達の部屋変わったのよ。こっちに移動したから!」と言って別の部屋に案内された。
 一瞬意味が分からず、どういうこと?とフリーズしていたが、説明されているうちに、私が朝いた部屋は閉鎖されて、別の部屋に移動しなければならなかったということが分かった。
 私のスーツケースも運ばれていて、部屋移動があると知らずに適当に置いてあった着替えや私物も丸ごとシーツに包まれて運ばれていた。洗濯物とかも干してあったので、シーツの中で湿った洗濯物と乾いた着替えや別の物などが無残にも一緒に混ざっていた。当然洗濯物は乾いていなかった。
 ようやく状況を把握した私は、フロントに行き再び鍵を交換した。
 新しい鍵を持って部屋に戻ろうとすると、スタッフの男性が何やら考えながらこちらをじっと見ている。
 私が「オラ!」というと、彼は「・・・とーこ?」と聞いてきた。
「そう」と言うと、一瞬顔が明るくなって「オラ!」と返してくれた。
 今の不思議な間は何だったのだろうか。しかもホステルのスタッフが名前で呼ぶということってあるだろうか?お客への声掛けにしては不自然だと思ったのは私の思い過ごしなだけなのか。もしかしてやっぱり彼は2009年にこのホステルにいた、とてもフレンドリーだったあのスタッフじゃないのか?
 あー、今凄くそれを確かめたい。でもここに来た時にその話をした女性スタッフが横にいる。この人またそれ言ってるよ、なんて思われるんじゃないか。彼にうまく伝えられなかったら?なんてことを数秒グルグル考えて、肝心なところで気の弱い私は彼にその疑問をぶつけることが出来ず、部屋に戻った。
 今日から寝る部屋に窓はなく、代わりに同室の体調が悪そうな彼女のために導入されたと思われる通常の二倍くらいある扇風機が置いてあった。

 結局、外で食事はせず帰り道のセブンイレブンで食料を仕入れた。
 扇風機のゴォーっという轟音の中、私はセブンイレブンで買ったサンドイッチを頬張った。

チャプルテペック内

<メキシコ道中私日記-4日目ースレスレの恋に続く>

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