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メキシコ道中私日記-5日目ー恐怖のアウトピスタ

【サン・ミゲル・デ・アジェンデ(San Miguel de Allende)】

 今日からメキシコシティを少し離れ、4日間の旅の旅に出る。
 一旦ホステルをチェックアウトして「また戻って来るから~」とフロントの女性スタッフに告げると、「分かってる!25日ね!」と返事が返ってきた。
 ささいたことではあるがちゃんと私のことを認識してくれているのが嬉しい。
 ホステルのドアを開けると、今日から旅をともにするA君(27)が立っていた。短髪に大きい目をしたモレーノのA君は紺色のウィンドブレーカーと紺色のパンツ姿でいかにもメキシコ人という感じの見た目だった。

UBERに騙された!?

「オラー!」ごめーんという感情を込めて言った。
「オラ!」
「元気?」
「うん、元気、元気。A君は?」
「元気だよ。じゃあ朝ご飯買いに行こうか?どこに行く?」
 事前に、バスの中で朝食を食べながら行こう、という話をしていた。
「その辺にオクソ-OXXO(メキシコで最もポピュラーなコンビニ)があったはずだよ」
「じゃあそこに行こうか」
 OXXOでサンドイッチやお菓子などを調達して、サン・ミゲル・デ・アジェンデ方面行のバスが出ている北バスターミナルへ行くためUBERを呼んだ。
 A君は、メキシコシティからバスで四時間半ほど行ったところのモレリア(Morelia)というところに住んでいて、わざわざ私を迎えに来るためだけのために来てくれたいた。往復九時間以上、私のために時間とエネルギーとお金を使ってくれたと思うと大変申し訳ない。

 UBERが北バスターミナルに着くと、降車位置に向かう車が列をなしていた。私達が乗っているUBERも一緒に流れに沿って進んでいく。
 じゃあここで。とUBERが止まり、車から降りてスーツケースを受け取る。A君がお金を支払っていると、私達の乗っていたUBERが後列車からブッブーと激しくクラクションを鳴らされ、近くにいるガードマンから早く行け!と促された。仕方なく運転手は慌てて車を走らせた。
 その時慌てたのは運転手だけでなく、A君も同じだった。
「あれ、まだおつりもらっていない」
 さーっと前に行ってしまっているUBERを追いかけるA君。
 え!絶対無理じゃん。絶対逃げられたよ。
 そう思ってUBERを追いかけて行ったA君の後を追うと、数十メートル先で端に車体を停めたUBERの運転手が「ごめん、ごめん」と頭を下げながらこっちに向かって走って来た。
 騙された。またしても騙された。この間のタコスのお代といい、今日のUBERといい、メキシコは隙あらばお金を騙し取られると思い込んでいた私はそうでないということに完全に騙された。

 北バスターミナルは、2009年にピラミッドで有名なテオティワカンに行く時に来ている。その時はスペイン語も全く分からなかったしスマホも無かったから、ガイドか何かに書いてあったバス停に行って、恐る恐るバス待ちしているおばちゃんに聞いた。
「あのー。このバスはテオティワカンに行きますか?」
 不愛想だったおばちゃんは「あー、行く行く。行くよ」と教えてくれ、話しかけた瞬間不愛想だった表情は一気に緩んで笑顔に変わった。その瞬間私の心も安堵に包まれ緩んだ。
 北バスターミナルは前回来た時の記憶のままだった。前回来た時は、テオティワカン行きのバスを探してうろついていると、バスの案内人のおばちゃんに、「テオティワカン!テオティワカン!テオティワカン行くのかい?早く乗りなー!!!」と凄い勢いで急かされて慌てて乗り込んだ記憶がある。
 しかもこのテオティワカン。何度聞いても最後のヮカンくらいしか聞き取れない。だからバスを乗る時から降りる時までずっとドキドキしながらヮカンの言葉を頼りに目的地に向かった思い出がある。

 A君もまたL君やJ君同様周りの人に聞きまくって、私たちは乗り場に辿り着くことができた。
 私達は発車時間まで時間に余裕があったので、その場に佇んでいた。するとバスに乗ろうとした他の乗客が私達がバスに乗る為に並んでいると勘違いをして、「このバスは○○行ですか?」と次々と聞いてくる。
 その都度「あー、うちらは並んでないんだけど、でもこのバスで合ってるよ」とA君は説明した。
 メキシコの案内板が分かりづらいのか、人々が見ようとしていないのか分からないが、メキシコの人はすぐ人に聞こうとする。でもそれって、気軽に人に聞ける文化だということでもある。日本なら、知らない人に聞くなんて恥ずかしいとか、他人に迷惑かけたらいけない、などと思って聞くのが躊躇われるが、ここメキシコではそんなのお構いなしで、助け合いの精神で成り立っている。

 私達が乗る予定のバスが来たので、スーツケースをバスの下の貨物室に入れるため、列に並んだ。私のスーツケースを運転手に預け終わると、A君がリュックからタバコサイズくらいのジッパー付き透明ポリ袋を取り出した。ポリ袋にはにコインがパンパン詰められている。A君はその中からコインを数枚取り出して運転手にチップを渡した。
 チップって普通パンツのポケットとかに少量忍ばせたりするものじゃないのか?
「何それ!なんでそんなに大量にコインを持って来てるの?」
「あー、これ会社のおつり用のお金なんだ」
 え、そんなの持って来ちゃっていいわけ?
 A君はお父さんの経営する会社を手伝っていて、自由に持って来れたということだった。つまりA君のお父さんは経営者なのでA君もそこそこお金がある人なのだ。

 バスに乗り込み、お互いの好きな国や嫌いな国の話をしていると嫌いな国が同じだというのが分かったり、お互い同じバージョンのiPhoneを使っていてバッテリー残量がほぼ同じだったりとかして盛り上がった。
 二時間半ほどかけて目的地に着くと、本当に冬なのかと思えるほど外はギンギンに暑かった。
 ちょうどお腹が空いていたので、バスターミナルで売っていたエンパナーダを買うことにした。
「好きなの選んで」と言われ、ショーケースからエンパナーダを取ろうとトングを探すが見当たらない。もしかして、と思いながらも「どうやって取ればいいの?」とA君に聞くと、なんか疑問でもある?といった表情で「手で取ればいいんだよ」と手で取るジェスチャーをしながら教えてくれた。
 他の客の衛生問題とか、自分の手が汚れるとか一切配慮されていないセルフサービスシステムは、絶対日本じゃあり得ない。
 私はエンパナーダを一つ手でトレイに移し、会計に差し出した。そしてA君が会計をしている隙に、手についた油をそっとポケットティッシュで拭いとった。

恐怖のアウトピスタ(高速道路)

 駐車場に停めてあるというA君の車のもとに行くと、マフラーが標準より太めな気がする。
「マフラー変えてる?」と聞くと、A君は笑いながら「Si」と答えた。
 東京で普段車に乗る機会がない私は興奮気味に車に乗り込むと、「高速で酔わないといいけど」とA君が不穏なことを言う。
 一体どんな運転をするつもりなんだろう?
 そっとスピードメーターを覗き込むと、最高速度300kmの表示がある。
A君は、車、バイク、電車、ドローンなど、あらゆる乗り物が好きだと聞いていた。だから車の運転もきっと飛ばすんだろうなぁ。という想像をしていた。
 しかし、いざ走り出すと、私の期待に反しA君は非常に安全運転だった。
「飛ばすのかと思ったら、意外に安全運転だね」
「昔はそういう走り方もしたことあるけど、今はしないね。危ないし」
 良かった。まだ旅も半分残っている。どうせ死ぬなら旅を終えてからにしたい。

 高速道路を走り出して日本だと絶対あるものがないことに気がついた。
 それは中央分離帯だ。ここは高速道路。しかも片側一車線しかないのにも関わらず中央分離帯が、ない。
 追い越す際は、反対側の斜線にはみ出して追い越しをしする。一応一車線の幅は広めに作られているので反対側から追い越しをする車が来たら端に寄ったりはするのだが、それでも少しタイミングを誤ると正面衝突にもなりかねない。仮に追い越す側は注意したとしても、反対側を走っている側がボーっと道路の真ん中を走っていたら事故ってしまう。なんと恐ろしいメキシコの高速道路。

荷物がはみ出たまま高速を走る車

 周りを見ていると、移動遊園地の遊具を運んでいる車やトランクから荷物がはみ出たまま走行している車など、中国ほどではないが色々な車が走っていて、私にとっては目新しく、見ていて飽きない。
 興味深々に辺りの風景や放牧されている動物などを観察していると、反対車線に、制服に身を包み銃を持っている複数の人が荷台に立ってる車が走ってきた。日常生活で普通に銃を目にする機会があるというのはやっぱり海外だなぁ。
「あれは警察?」
「そう。でも高速にいるのはグァルダ・ナショナル(la guarda nacional)と呼ぶかな」
「メキシコの警察は腐敗が凄いと聞くけど、彼等は安全な警察なの?」
「うーん。安全な警察と、悪い警察、両方いるかな」
 日本のテレビ番組でも、メキシコの警察はお金欲しさにあたりかまわず捕まえて賄賂をもらったりしているというのを見たりする。メキシコ人に聞いても、「メキシコの警察は悪いから」と口を揃えて言う。
 料金所を出るとパトカー2台と警察官数名が待ち構えていた。
 「この警察は安全な警察?」と聞くと「そうだといいけど」とA君は答えた。
 関係ない私まで緊張してくる。そっとパトカーの横を通過すると、車は無事止められることなく通過出来た。当然と言えば当然なのだろうが、車内はまるで密入国をしようとしている人が入国に成功したかのような解放感に包まれた。
「安全な警察だ!」とA君が言ったのを皮切りに私達は笑いあった。そしてもう安全とばかりにA君は窓を開けた。

高速出口で待機しているグァルダ・ナショナル

 車内で雑談をしていると、さっきまで会っていたJ君の話になった。
「彼は何歳なの?」J君がA君について質問したように、今度はA君がJ君について聞いてきた。
「31歳だよ」
「ふーん。その友達は働いているの?」
「今求職中みたいだよ」
「自分の知り合いで日本車に勤めている人がいるから紹介できるよ。彼が望めばだけどね」
「うーん、多分彼はそういう仕事をする人じゃないと思うよ」
「彼は何の仕事をしている人なの?」
「デザイン系だから、営業とか技術系とかはしないと思う」
「それじゃあ無理だね」
「うん。あと彼の親戚が日本の自動車会社で働いているらしいよ」
「そうなんだ!だったらそんな心配する必要なさそうだね」
「うん、そう思う」
 お互いがなんとなく気にし合っているのが面白い。

リアルディズニーランド、サン・ミゲル・デ・アジェンデ

 サン・ミゲル・デ・アジェンデに着いた頃にはもう辺りは暗くなっていた。街の中心に着くと、それまでとは明らかに違う街並みが現れた。石畳の通りにヨーロッパ風の建物。説明されなくても目的地に着いたのだということが分かる。
 今夜泊まるAirbnbの前に着くと、仰々しい門と門番の女性が出迎えてくれた。女性に今夜の宿泊者だということを伝えると、車三台分くらいの長さの門を開けてくれた。
 門をくぐると、異国情緒たっぷりの景色が広がっていた。南国の木々と綺麗にデザインされた庭のような私道。THE別荘というような建物は一軒一軒デザインが違っていて、まるで自分が金持ちになったような気分だ。ここは800ペソ(約8,000円)と言っていたけれど、一桁違うんじゃないかと思えるようなAirbnbだ。それまで4人相部屋の庶民的なホステルに泊まっていたから尚更ギャップを感じた。
 部屋に入ると恒例儀式の部屋中を見回って写真を撮るという作業を行った。いくつになってもこの、部屋や建物を見る作業というのは楽しい。きっと私は通常の人よりも家や建物、部屋などの空間を見るのが好きなんだと思う。小さな頃から人の家に行くのが好きだったし、より多くの空間を楽しみたいがために引っ越しを10回以上繰り返している。なぜそっち方面の仕事をしなかったのか、18歳の自分に会えるなら教えてあげたい。

 街の中心に出ると、リアルディズニーランドのようなファンタジーな世界が広がっていた。テラコッタ色やマスタード色の壁にぼんやりと照らされる間接照明。建物と建物を繋いだ線から垂れる複数の星形のオブジェ。スターバックスでさえもオシャレに見える。夜にも関わらず観光客で溢れていて、治安の悪さは感じられない。メキシコシティではあまり聞こえてこなかった英語も度々聞こえる。

ヨーロッパのような街並み

 腹ごしらえをするべく、適当に良さ気なレストランに入った。今回の旅で初のレストランらしいレストランだ。生演奏が聴けるステージなんかもある。観光地のせいかメニューも英語で書かれている。お値段は少しお高め。ただ、メキシコやヨーロッパだと、日本や中国なんかと違い、一気に沢山頼んでみんなでシェアして食べるというよりは個々で食べたいものを食べるということが多いので、夕食でもランチくらいの金額で済んだりする。つまりランチとディナーの予算比が日本と比べてそれほどないということになる。
 一つのテーブルを見ると、10-12歳くらいの子が一人で座っていて、宿題みたいなものを広げてゲームをしながら一人ご飯を食べている。まるで家のリビング状態。観光地のちょい高めのこのレストランに似つかわしくない。日本でもたまに見かける店の子供が店の端っこで家のご飯を食べている光景。きっとそんな感じなのだろう。

生バンドがあるレストラン

 とりあえずアルコールを飲みたい。私の喉も何かこうサッパリ酸味があってシュワっとしたものを欲している。しかしメニューにはそれらしきものが見当たらない。A君に私のリクエストを伝えて、A君からお店の人に伝えてもらう。カクテルの欄を指さしながら「この中に炭酸が入っているのはありますか?」とA君がお店の人に聞くと、質問の答が返って来たのでそれをそのまま私に教えてくれる。
「どれも炭酸を入れられるって」
 あと、「お酒飲んでいいのか?だっていうから問題ない年齢だよって伝えておいたよ」と言う。
 アジア以外の海外に行ったことがある人なら経験している人も多いと思うが、日本人は若く見られる。それもうんと若く。
 どれにもソーダを入れられるということだったので、フルーツ系のカクテルにソーダを入れてもらい、料理はA君はソペス、私はトマトソース系が好きなのでポソレを頼んだ。
 目の前に出てきたポソレは見るからに美味しそうだ。ポソレとはトマトをベースとしたスープに豚肉や鶏肉などが入った料理だ。一口スプーンで口に入れてみる。
 いや、うまい!!
 トマトの酸味にニンニクのコクが効いている。ポソレという料理が美味しいのか、このお店のポソレが美味しいのかは分からないがとにかく絶品!自分の好みに合っている。これよ、これ。この味を求めていたのよ!ざっくりとパスタで例えると、カルボナーラやクリームソースパスタのようなまろやかな味より、ペスカトーレやアラビアータパスタのようなヴィヴィッドな味が好きな人はポソレは口に合うと思う。逆にカルボナーラやクリームソースパスタが好きな人はソペスが口に合うと思う。

通りから見えるレストランの入り口

 腹ごしらえを終えて、夜のサン・ミゲル・デ・アジェンデで教会や街並みを眺めながら散歩する。話題は男女の話になった。
 「ラテン系の男の人って嫉妬深いよねー」と、私がこの質問をラテン系男子にすると、大体みんな苦笑いをしながら、そうだね。と言った後に、でも自分は違うけどね、とか自分はちょっとだけだよ、と、”皆も”がそう答える。だが実際にはラテン系の男は嫉妬深い。
 ふと気になった質問をしてみた。
「ところで私って幾つに見える?」A君は私の年齢は伝えていなかった。
「うーん、21、2くらいかな?」
 は?
「いや、あり得ないでしょ!えっとー・・・私八歳の子供いるの知ってるよね」
「うん、でもこっちは皆若い時に子供産む人沢山いるから」
「いやー、でも2009年にメキシコ来てるとか、他にもスペイン旅行したりとか色々過去の話とかしてると思うし、色々計算おかしくなると思うんだけど?」
「あー、計算なんてしなかったなー。あはは」
 やれやれ、A君に限らずわりと皆、会話でなんとなくの年齢が分かりそうなものなのに、あり得ない年齢を言ってくるのだ。
 この年齢問題に関しては、執拗に年齢を聞いてくる人と全く聞いて来ない人がいる。聞いてくる人は大体恋愛対象として見てくる人。聞いて来ない人は、恋愛対象として見ていない人。それと一番多いのは恋愛対象で見ているけれど、見た目がOKなら実年齢は気にしないというタイプ。A君もこのタイプだ。実は今回会う前に、チャットでこんなやり取りがあった。
「前にネットで知り合ったスペインの人と付き合ったことがあるよ」
「どうやって付き合うことになったの?」
「彼とやりとりしてて、彼が『とーこは自分の彼女だよ』と言ったからだよ」
「へー、そうなんだ!じゃあ自分もそれやってみるね」
「うん、試してみるといいよ」

「とーこは自分の彼女だよ」
「あなたは私の彼氏じゃないよ(笑)」
「あれー?機能しなかったー。ハハー」
「アハハ」

 観光客で賑わいを見せているサン・ミゲル・デ・アジェンデの夜の街を一通り散策して本日の宿泊先に戻った。
 この街は昼の顔も素敵に違いない。明日が楽しみだ。

観光客で賑わう街角

<メキシコ道中私日記-1日目から読む>

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