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サンタクロース

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クリスマスのおはなし
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サンタクロース~01.怖い顔のトト

1 怖い顔のトト 「トトが来たぞ! 早く逃げないと、食べられちゃうぞ!」  夕暮れの公園に男の子の声が響き渡ると、それまで遊んでいた子供たちが、足元の落ち葉をかき分けながら一斉にかけ出しました。 「ふんっ!」  と鼻を鳴らすと、逃げまどう子供にはいっさい目をくれず、公園の中をトトは悠然と歩いていきます。 「ガキどもが、ふざけやがって……」  髪の毛は、もうほとんどが真っ白。独身で顔は少し釣り上がった目と鷲のような鼻。背が高いのに痩せていて、人付き合いもせず、無口でめったに感

サンタクロース~02.十一月の出来事

2 十一月の出来事   それはトトが七歳になった十一月の最初の日曜日のこと。その日は早朝から雪が降っていました。ドアを少しでも開けると冷たい空気が、ふわっと一瞬で部屋中を駆け回ります。  今日はトトとフラン、ふたりでお留守番です。両親は、いつものように隣の町の病院までフランの薬を取りに出かけていました。 「ねぇフラン。フランはクリスマスプレゼントに何をお願いするの?」  トトとフランは部屋で来月に迫ったクリスマスの話をしています。 「あのね。フランはカエルをお願いするわ」

サンタクロース~03.ケンカの後

3 ケンカの後始末  急に祖父母の家で暮らすようになったトトとフランでしたが、祖父母の家は隣町にあったので、トトは学校も変わることもなく以前の暮らしと、それほど変わりませんでした。もちろん両親を亡くした寂しさで二人は泣いてばかりいましたが、トトは決してフランには泣いている姿を見せませんでした。  祖父母は家の離れで家具を作る仕事をしていたので、時間があると子供たちの側に居てくれて、なるべく時間を取ってくれました。   それでも、両親を亡くしてからフランはあまり人と話さなくな

サンタクロース~04.フランとカエル

4 フランとカエル    十二月に入った、ある日の事でした。学校も数日前から休みになり、トトは朝からフランと遊んでいます。といっても最近はフランの調子があまり良くないので、ベッドで横になっているフランにトトが話しかけるといった感じでした。  フランがトトにこう言いました。 「ねぇ、おにいちゃん。クリスマスプレゼントにカエルは欲しくなくなったの……」 「今度は、何が欲しくなったんだい?」 「パパとママ!」  明るく答えるフランに、トトは何も言い返す言葉が浮かびません。トトだって

サンタクロース~05.小さな、えくぼ

5 小さな、えくぼ  クリスマスの前日、深夜から降り続いていた雪が辺りを真っ白に染めました。そっと息を吐き出すと、細長く伸びていく冷たい空気。トトのほっぺたがリンゴのようにツルツルと赤く光っています。 「フラン、見てごらん。雪が降っているんだよ!」  トトはフランの部屋に入ると、フランに声を掛けて自慢げにカーテンを開けました。 「ねぇ、起きてごらん」  フランは返事をしません。トトが不思議に思いベッドをのぞき込みます。 「ねぇ、フラン?」  するとベッドの中で、フランが目を

サンタクロース~06.見知らぬ老人

6 見知らぬ老人  妹のフランを失ったトトの悲しみは深く、あの日以来、感情をほとんど外に出さなくなりました。笑っていてもどこか寂しそうでした。祖父母はそれをとても心配しましたが、いつしかトトは 『他人に深入りしたり、期待しなければ、ガッカリする事も悲しむこともないんだ』  と思うようになっていったのです。本当は、それはとても悲しい事なのです。 それでも、祖父母と居る時は安心できたし幸せでした。二人も今まで以上にトトを気にかけてくれたからです。  それから、当たり前のようにト

サンタクロース~07.トトの友達

 7 トトの友達  公園で老人に会ってから半年が過ぎた頃です。トトの家の隣に新しい家族が越してきました。その家族は父親が居なくて、母親と八歳になる女の子の二人暮らしでした。  二人はまず始めに、近所の方に挨拶をして回りました。最初に出かけたのは隣のトトの家です。 「こんにちは」  トトの家のベルが鳴るなんて久し振りです。トトは少し驚いたのですが、ゆっくりとドアを開けました。 「こんにちは、隣に越してきたポリー・ランドールと言います」  痩せた人の良さそうな顔をした女性がお辞

サンタクロース~08.もうすぐクリスマス

8 もうすぐクリスマス  その日も、いつものように学校が終わるとアンがトトの家へとやって来ました。 「今日はどんな話を聞かせてくれるんだい、アン」  トトはいつもの大きな椅子に座り、アンは向かい側の真っ赤なアン専用の椅子に座ります。テーブルにはアンが好きなイチゴのキャンディーとビスケットがのっています。もちろん家具もお菓子も全て見知らぬ老人から貰った箱から出した物です。  トトはいれたてのコーヒーのカップに息を吹きかけて冷ましながら、少しずつ口に入れていきます。 「今日は、

サンタクロース~09.古びたドレス

9 古びたドレス 「どうしたんだ、アンは」  その日は、いつもの時間になってもアンが来ませんでした。トトは何度も時計を見上げます。だんだんと落ち着かなくなり、久しぶりに家から出て公園をのぞきに行くことにしました。  近くの公園に着くと小さな女の子がベンチで泣いていました。何気なく見ると泣いていた女の子はアンでした。トトは急いで側まで走っていくと、泣いているアンに声を掛けました。 「いったい、どうしたんだい?」  アンは顔をあげるとトトを見て安心したのか、話しを始めました。

サンタクロース~10.パーティーの約束

10 パーティーの約束 あくる日の夜遅く、トトはドレスを持って部屋を出ました。 「こ、こんばんは……」  トトは勇気を出してアンの家のベルを押したのです。アンがトトの家へ来ることがあっても、自分からアンの家へ行くなんて初めてのことです。トトの顔は緊張して耳まで真っ赤になっていました。 「はい?」  ドアを開けたのは、アンの母親です。 「こ、これを、あの子に……」  トトは無造作にドレスを母親へと手渡しました。贈り物なんかしたことがないので、ドレスはむき出しで袋にも入っていま

サンタクロース~11.暖かいクリスマス

11 暖かいクリスマス     クリスマスがやってきました。トトは朝から落ち着きません、そわそわと何度も時計を見て立ったり座ったりの繰り返しです。 やっと約束の時間が来ると、部屋を出てドキドキしながらアンの家のベルを押しました。 「いらっしゃい、トト!」  すぐに、アンがグレーのドレスを着てトトを出迎えてくれました。 「……とても、綺麗だよ。アン」  トトは二人にプレゼントを用意してきました。アンにはドレスに合わせたグレーの帽子、彼女の母親には、とても暖かそうなコートを。  

サンタクロース~12.古びた箱の使い道

12 古びた箱の使い道 「アンは、まだいじめられているのだろうか……」  トトはアンの様子が気になって公園に足を運びました。でも、そんな心配はいりませんでした。アンはみんなと仲良く遊んでいました。それを見て安心すると、トトは子供たちに背を向けて歩き出しました。 「トト!」  アンがトトを見つけて近づいてきました。びっくりしたトトは、慌てて公園を抜け出そうとしました。アンがトトの背中に声をかけます。 「なんで、声を掛けてくれないのよ!」 「い、いや、おれの側にいると、またアン

サンタクロース~13.老人の正

13 老人の正体  翌年の十二月、クリスマスの事です。夜遅くにトトの家のベルが鳴りました。ドアを開けると、そこにはいつかの老人が立っていたのです。公園でトトに不思議な箱を渡してくれたその人です。 「やはり、君を選んで間違いじゃなかったようじゃ」  と、向こうから声をかけてきました。 「あなたは、いったい?」 「名前は別にあるが、みんなからはこの季節になると『サンタクロース』と呼ばれておるよ」  トトは驚きました。でも、この老人から不思議な箱を貰っていたので、決しておかしな

サンタクロース~14.子供たちと一緒

14 子供たちと一緒  トトはオモチャ屋さんを開きました。幼いころに祖父から習った木工品づくりの技術は覚えています。祖父が自分たちにしてくれたように、子供たちへ木で様々なオモチャを作りました。  トトは、ここのオモチャ屋さんに居ると、子供たちが欲しい物を調べる事も出来たし、いつも子供たちの側にいられたから幸せでした。何よりも今のトトは子供たちが好きだったから。  今日はアンが友達と店にやって来ました。トトは笑ってうなずくとアンを見つめました。   「すべては、この優しい子が