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サンタクロース~12.古びた箱の使い道

12 古びた箱の使い道

「アンは、まだいじめられているのだろうか……」
 トトはアンの様子が気になって公園に足を運びました。でも、そんな心配はいりませんでした。アンはみんなと仲良く遊んでいました。それを見て安心すると、トトは子供たちに背を向けて歩き出しました。
「トト!」
 アンがトトを見つけて近づいてきました。びっくりしたトトは、慌てて公園を抜け出そうとしました。アンがトトの背中に声をかけます。
「なんで、声を掛けてくれないのよ!」
「い、いや、おれの側にいると、またアンがいじめられちゃうんだよ……」
「なにを言っているの!」
「おれは、怖い顔をしているだろう。だから、昔から子供たちに嫌われているんだ」
 アンが一瞬、悲しい顔を見せました。でもすぐにいつもの笑顔を見せました。
「まったく、鏡を見た事がないのかしら。全然、怖くなんかないわよ。よく聞いて、トトの顔は何かしら……。そう! 熊だわ。まんまるの熊よ。熊のロックスにそっくりよ!」
「なんだい、それ?」
「あれ、知らないの? ロックスって、有名なぬいぐるみの事よ。わたしは覚えていないんだけど、パパが亡くなる前に、わたしに買ってくれたんだって、ママがそう言っていたもの。今度、家へ来たときに見せてあげるわ。とてもかわいいのよ。だから、トトもかわいい顔って事でしょう?」
「そうかい? ……でも、せっかく、みんなと仲良くしているのだろう」
 すると、アンは顔をつんと上げて言いました。
「いいのよ! だって、こんなに優しい人を嫌うだなんてどうかしているわ。それなら、わたしそんな人となんか、遊びたくないもの!」
 トトはアンと知り合えた事を神に感謝しました。アンに出会ってからのトトは、いろんな感情を知ることができたからです。笑ったり、ドキドキしたり、泣いたり、うれしくなったり。全てトトが忘れていた感情です。
「それに、その赤い帽子。とても似合っているわよ」
 アンがからかうようにトトのお腹を肘で突いて言いました。その帽子はクリスマスにかわいいサンタに貰った帽子です。
 あくる日からアンがトトを無理やり公園に連れて行きました。トトは少しずつ子供たちの中へ解けこんでいったのです。なかには、これがあの恐ろしい顔をしていたトトだとは、知らなかった子供もいました。昔と比べてトトはとても太ってしまいましたからかもしれませんね。
 トトは一ヶ月もしない内に子供たちと仲良くなりました。もう公園に行っても誰も逃げたりしません。それどころか子供たちの方から、自然とトトの周りに集まってきたのです。
 子供たちと話していると色々な事が分かりました。いま、とても欲しい物。みんなが夢中になっている遊び。体が悪くて公園に来られない子の事とか、色んなことを子供たちがトトに話してくれたのです。
 そして、トトはとても大事な事を思い出しました。
「あの頃、自分もこの子たちと同じ様な考えを持っていた。同じように生きていたんだ」ということを。
ただ、色々な事があり過ぎて、それを普通の人より早く忘れてしまっただけなのです。昔は、トトも子供でした。とても優しさに溢れていた子供だったのです。
 それからのトトは、古びた箱から自分の物を出さなくなりました。その代わりに子供たちへ色々なオモチャや必要な物を出したのです。そしてそれを、その子の誕生日にそっと家のポストに入れたり、学校の門の所へ置いてきたのです。
 すると次の日には、子供たちが決まってそれを持って公園に集まってきました。そして、トトに興奮気味に話してくれたのです。
「ああ、そうかい。それは良かったね」
 トトは子供たちの笑顔を見ると心が安らぎました。

つづく ~ 13.老人の正体

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