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サンタクロース~10.パーティーの約束

10 パーティーの約束

あくる日の夜遅く、トトはドレスを持って部屋を出ました。
「こ、こんばんは……」
 トトは勇気を出してアンの家のベルを押したのです。アンがトトの家へ来ることがあっても、自分からアンの家へ行くなんて初めてのことです。トトの顔は緊張して耳まで真っ赤になっていました。
「はい?」
 ドアを開けたのは、アンの母親です。
「こ、これを、あの子に……」
 トトは無造作にドレスを母親へと手渡しました。贈り物なんかしたことがないので、ドレスはむき出しで袋にも入っていません。
「えっ、よろしいのですか?」
 アンの母親がいきなりのことで、少し驚いています。
「い、いや、もらい物だから……。おれには子供が居ないから。必要ないんだ」
 そう言うのが、精一杯です。アンの母親はすぐに笑顔を見せてくれました。
「本当に有難うございます。あの子が喜びます。ちょっと、お待ち下さいませんか、すぐにアンを呼んできますから」
「い、いや、いいんだ。渡してくれれば……。嫌なら捨ててくれよ」
 そう言うとトトは照れ臭そうな顔をして、慌ててアンの家のドアを閉めて出て行ってしまいました。
 家に帰ってもトトの心臓はドクン、ドクンと高鳴っています。ソファーに腰を下ろすと、今度は
『アンは喜んでくれるだろうか。もし、ドレスが気に入らなかったら……』
『他の色の方が良かったかな? あれを着て友達の所へ行ったら、また馬鹿にされやしないか』
と、次々と不安な考えが湧いてきます。他人へのプレゼントは選ぶのが大変です。ましてや相手は何十歳も年が離れた女の子なのですから。
 そのとき玄関でベルが鳴りました。トトは玄関の前に立つと、声を掛けました。
「誰だい?」
「私よ」
 ドアを開けると、そこにはアンが立っていたのです。
「……似合うよ」
 トトは思わずそう言っていました。アンがたったいまプレゼントしたばかりのグレーのドレスを着て立っていたのです。それはトトが想像したとおり、いやそれ以上に彼女に良く似合っていました。
「ありがとう、トトおじさん」
 アンが丁寧にお辞儀をします。今日のアンはなんだか、おしとやかです。トトが優しく言います。
「別に構いやしないよ。気に入らなければ捨ててくれよ」
トトの目頭が熱くなってきました。
「でも、ごめんなさい。こんな夜遅くにお邪魔しちゃって。確かに、レディがこんな遅い時間に、男の人の家へと伺うなんて、とてもいけないことだわ。……でも、どうしても今日中にお礼が言いたくて」
 昨日の夕方、公園で泣いていたアンがまるで嘘のように、今はトトの前でとびっきりの笑顔を見せています。
「別にいいんだよ……」
「ねぇ、クリスマスには、絶対にお家にいらっしゃって!」
 トトが慌てて首を左右に振って答えます。
「いや、それを着て友達のパーティーへ行けばいいじゃないか!」
 そもそも、トトはそのつもりでアンにドレスを用意したのですから。
アンは首をゆっくりと左右に振って答えます。
「いいえ。わたし、クリスマスはトトおじさんとパーティーをするわ。だって、その方が絶対に楽しいもの!」
「友達のパーティーに行きたいんだろ?」
 トトが尋ねます。
「いいの。わたしはトトおじさんとクリスマスを迎えたいのよ」
 アンがトトを真っ直ぐに見つめて、そう言いました。
「……ああ、それならお邪魔するよ」
 返事をしたトトの顔は笑っていました。今度は、昨日誘われた時とは違って『心から出席したい』と思ったのです。

つづく ~ 11.暖かいクリスマス

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