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サンタクロース~03.ケンカの後

3 ケンカの後始末

 急に祖父母の家で暮らすようになったトトとフランでしたが、祖父母の家は隣町にあったので、トトは学校も変わることもなく以前の暮らしと、それほど変わりませんでした。もちろん両親を亡くした寂しさで二人は泣いてばかりいましたが、トトは決してフランには泣いている姿を見せませんでした。
 祖父母は家の離れで家具を作る仕事をしていたので、時間があると子供たちの側に居てくれて、なるべく時間を取ってくれました。 
 それでも、両親を亡くしてからフランはあまり人と話さなくなってしまいました。病状も悪くなるばかりです。トトはそれを気にして学校の授業が終わると急いで帰りました。今までと違って友達とは一切遊ばずにフランと二人で遊ぶことにしたのです。そのせいか、少しずつでしたがフランの顔に笑顔が戻ってきました。
 その日も、いつものようにトトは学校から帰ると真っ直ぐにフランの部屋へと入っていきました。おばあさんがフランのためにピンク色のカーテンや、動物のお人形を作ってくれたので部屋は少しばかり賑やかなです。
 今日は、フランの様子がどこか変でした。
「どうしたの、フラン?」
「なんでもない……」
「具合でも悪いの?」
「違う……」
 フランはトトと目を合そうとはしません。不思議に思ったトトが部屋を見渡すと、すぐに原因がわかりました。
「あっ!」
 フランの机の上には、トトが祖父母に貰ったばかりの車の玩具がバラバラに置いてあったのです。
「壊したな!」
 トトは急いでかけより玩具を拾い集めます。おじいさんが仕事の合間に作ってくれた木で出来た玩具。それを貰ったトトは嬉しくて何日もかけて丁寧に色を塗ったのです。
「なんてことをしてくれたんだよ!」
 トトは泣きそうな声を出して玩具を調べます。何ヶ所も木が折れてしまっていて、とても直りそうにありませんでした。それはフランが壊してしまった玩具を直そうとして、逆にどんどん壊してしまったのです。
「な、なんで……。ぼ、ぼくのだぞー! おまえだって、人形を貰っただろ!」
 トトが大きな声を上げると、フランを睨みつけました。
「だって、わざとじゃないもん」
 フランは、そのまま泣き出してしまいました。
「絶対に許さないからな!」
 そう言い残してトトは部屋から出て行ってしまいました。そのままその日は終わってしまいました。
 翌日、トトは学校から帰るとフランの部屋には寄らずに、自分の部屋へ閉じこもりました。もうフランのことは怒っていませんでした。学校に居る間ずっと昨日の事を思い返しては、フランに何と話しかけようか考えていたのです。トトはフランと仲直りがしたかったのです。でも昨日あんなに怒ってしまい、バツが悪くて素直に「ごめんなさい」とは言えませんでした。考えても、考えても良い案は浮かびません。
 トトが壁を背にして足を組んで座っていると、目の前の扉が少しだけ、すっと開いて何か小さいものがコロコロとこちらに向かって進んできたのです。
「うん?」
 トトは立ち上がると、それを手に取りました。
「これは……」
 それは木で出来た車の玩具でした。でも前のものとは違って、ただの木に車輪が付いているだけの品物です。でも、トトには「これはフランが作ったんだ」ということがすぐにわかりました。
「ねぇ!」
 トトは急いで扉を開けました。でもそこにフランはいません。フランは車をお兄ちゃんの部屋に入れると、急いで部屋に戻ってしまったのです。
 トトはフランの部屋に行こうと思いましたが、なんだか照れくさくてやめました。そして少し考えると、祖父の仕事場へと向かいました。
「ねぇ、おじいちゃん。ぼくに車の玩具の作り方を教えてよ」
 祖父は仕事の手を止めて、トトに笑顔で答えます。
「あぁ、もちろんだ」
 今日は仕事になりません。なぜなら、午前中はフランがここへ来て今のトトと同じ事を言ったのです。そして、さっきまでフランに丁寧に玩具の作り方を教えてあげたばかりなのですから。
 隣で祖父の仕事を手伝っていた祖母は子供たちの行動を見て目頭が熱くなり、とうとう涙をこぼしてしまい、トトにわからないようにそっと部屋を後にしました。
 一時間後、それはとても上手に出来上がりました。トトはそれを持ってフランの部屋に行くと、扉を少しだけそっと開けて、ゆっくりと車を床へ転がしました。コロコロと転がっていく車。壁にもたれて座っていたフランはそれを目で追います。
 フランの足元にぶつかって車が停まりました。フランは立ち上がると、急いで扉まで歩いてドアを開けました。
「おにいちゃん……」
 そこにはトトが笑って立っていました。
「ただいま!」
 フランは、お兄ちゃんの顔を見て安心して笑い出しました。トトの手には絵の具のセットと、フランが一生懸命に作った車の玩具が握られています。
「一緒に色を塗ろうか?」
「うん!」
 フランが大きな声で返事をしました。これでケンカもおしまいです。

つづく ~ 04.フランとカエル

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