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サンタクロース~06.見知らぬ老人

6 見知らぬ老人

 妹のフランを失ったトトの悲しみは深く、あの日以来、感情をほとんど外に出さなくなりました。笑っていてもどこか寂しそうでした。祖父母はそれをとても心配しましたが、いつしかトトは
『他人に深入りしたり、期待しなければ、ガッカリする事も悲しむこともないんだ』
 と思うようになっていったのです。本当は、それはとても悲しい事なのです。
それでも、祖父母と居る時は安心できたし幸せでした。二人も今まで以上にトトを気にかけてくれたからです。
 それから、当たり前のようにトトも歳を取りました。祖父母が亡くなると他人を寄せ付けず、トトは一人で暮らすようになったのです。ただ、毎日をこなしている。といった感じで、楽しむ事を忘れてしまったのです。そして、いつしか最初に書いたとおり、子供たちから怖がられる存在になっていたのです。
「トトだ、隠れろ!」
 トトの姿を見て面白がってはやし立てる子供や、
「こわいよ!」
 と本気で怖がって、その場から動けなくなる子供も居ます。でももう年老いたトトには、そんな事はどうでもよかったのです。

 その日はトトの誕生日でした。いつもの様に公園を歩いていたら、ベンチに座っていた老人がトトに声をかけてきました。
「トト、こっちに来なさい」
 大柄で上品な背の高い男の人です。
「誰だい、あんたは? なんで俺の名前を知っているのだ?」
 トトがぶっきらぼうに答えます。トトはその老人に面識はありませんでした。
「これを、持って行きなさい」
 そう言うと、老人はトトに古びた箱を渡しました。箱は五十センチくらいの大きさで、茶色の革張り、丁寧な装飾もされています。
「なんだい、これは?」
 箱を見つめたままトトが尋ねます。
「家へ帰り、願いを込めて箱のフタを開けてみなさい。そうすれば、お前が望む物が出てくるだろう」
 そう言うと、老人は立ち上がり、ゆっくりと歩いて行ってしまいました。トトが慌てて呼び止めます。
「おい!」
 その声に、老人は振り返ると、
「まぁ、よい。また会いに来る」
 と言って、再び歩いて行ってしまったのです。残されたトトはわけも分からず、とりあえず箱を両手で抱えて持ち帰ることにしました。
 家へ帰ったトトはバカバカしいとは思ったのですが、老人に言われたとおりに古びた箱を抱えて、欲しい物を思い浮かべてみました。
「本当に欲しい物が出てくれば、大したものだがな。とりあえず、金貨を頂こうか」
 トトは目を閉じて、金貨を思い浮かべるとフタを開けてみました。
 すると、信じられない事に、箱の中にはたくさんの金貨が入っていたのです。 
「こ、これは、素晴らしい!」
 こんなにたくさんのキラキラ輝く金貨などトトは見たことがありません。
 その日から、トトは家から出なくなりました。何しろ外に出る必要がなかったからです。その箱にお願いすれば、食べる物も洋服も何でも揃ってしまったのですからね。

つづく ~ 7.トトの友達

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