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サンタクロース~07.トトの友達

 7 トトの友達

 公園で老人に会ってから半年が過ぎた頃です。トトの家の隣に新しい家族が越してきました。その家族は父親が居なくて、母親と八歳になる女の子の二人暮らしでした。
 二人はまず始めに、近所の方に挨拶をして回りました。最初に出かけたのは隣のトトの家です。
「こんにちは」
 トトの家のベルが鳴るなんて久し振りです。トトは少し驚いたのですが、ゆっくりとドアを開けました。
「こんにちは、隣に越してきたポリー・ランドールと言います」
 痩せた人の良さそうな顔をした女性がお辞儀をすると、トトに話しかけました。トトは面食らっていますが、女性は話を続けます。
「この子は娘の『アン』と言います。どうぞ、よろしくお願いします」
 女性が隣にいる女の子の背中を押すと、女の子が丁寧に挨拶をして話し始めました。
「こんにちは、私はアン。良かったら友達になってくれませんか?」
 小さな鼻がつんとしていて母親によく似た顔つき、体も母親と同じように痩せていましたが背が高く、少し金色がかった髪を後ろで縛っているからでしょうか、活発そうな印象を受けます。
「あ、あぁ……」
 トトは不意をつかれて、またも面食らってしまいました。それでも女の子は話を続けます。
「ありがとう! もうあなたとは友達ね」
アンはニコリと笑うと、自分の右手をトトに差し出しました。それに釣られて、思わず人見知りのトトも会ったばかりのアンと握手をしてしまいました。
「それで、あなたの名前は?」
 ポカンとしているトトに矢継ぎ早に、アンから質問が飛んできます。
「ト、トトだ」
たどたどしく答えるトト。
「じゃあ、トトおじさんでいいわね。この町へ越して来て、あなたがまず最初の友達だわ。早速だけれど……」
 まだまだ、話したりないといった様子でしたが、母親がそれを制します。
「すいません、この子は、おしゃべりで……」
「だって、友達になったんだもん……」
 アンがふくれされた顔で母親を見上げます。母親はキっとアンを睨みつけます。
「それでは、失礼いたします。どうも、お邪魔しました」
 母親とアンは深く頭を下げました。
「あぁ、よろしく……」
 トトはそっけなく挨拶をしてドアを閉めると部屋へと戻りました。トトが他人と握手なんかしたのは、それこそ何十年ぶりのことでしょうか。
「なんだったんだ? ……そういえばあの子、おれの顔を見ても怖がらなかったな」
 別に悪い気はしませんでした。
「しかも、友達になってくれか」
トトは久しぶりに鏡の前に立って全身を眺めてみたのです。
「ずいぶんと、汚らしい格好だな」
トトはいつの間にか太っていました。何しろ家の中で好きな時に好きな物を不思議な箱から取り出して食べ、仕事もせずに好きな事をしていたのですから。それに髪もヒゲも伸び放題。あまり外に出ないので身だしなみを気にする必要がなかったから当然の事です。
「こんな奴と友達になりたいのか、変わった子だ」
 その日から、ときどきアンがトトの家へと顔を出すようになりました。
 最初のうちは、トトにとって面倒な訪問者だったのですが、気が付くとアンを心待ちにするようになっていきました。
アンは話し好きで、一度話し出すとしばらくの間は止まらなくなりました。そんな時、トトは黙ってアンの話を聞いて笑っているだけです。それはアンの話がとても面白かったから。
 一ヶ月も経つと、アンは学校から帰ると必ずトトの家へと顔を出すようになりました。どこかへ出かける時も一度トトの家へと寄り、しばらく話しをしてから出かけました。それが日課となっていったのです。
 知らぬ間にトトには、それが一番の楽しみになっていました。

つづく ~ 08.もうすぐクリスマス


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