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#8 首相の「ぶらさがり取材」その本当の狙い

岸田首相が2021年の就任以来、ぶらさがり取材をうける回数が100回を超えたとのニュースがありました。特に2月以降、ペースが加速。ロシアのウクライナ軍事侵攻に加えて夏の参院選を見据えて安定した政権運営をアピールする場面もみられる、とのことです。

そもそもぶら下がりとはなんなのか。

マスコミが用意したマイクの前で、いろいろと受け答えすることなんですが、いろんなパターンがあります。一方的に話して終わる。数に限りはあるけれど、話終わった後に質問の受け答えをする。岸田さんに特に多いとされているのが、質問が終わるまで続ける。このぶら下がりが前の首相の菅さんを上回るペースで行われているというものでした。

単純計算で、岸田さんは就任半年で100回ほど。菅さんは1年で130回ほど。やはり回数としては倍以上のペースです。しかしこれが本当に多いのか、過去と比べるとそうとも言えません。

発信力ある小泉元首相は1日2回も

2001年に誕生した小泉政権。この時は1日に2回行われていました。その後、お昼はカメラなし、夕方はあり、となるのですが、いずれにしても1日2回こしていたわけです。そしてこのパターンは、2006年に誕生した第一次安倍政権、福田さん、麻生さん、民主党政権の鳩山さんの時代も1日2回行われていました。ただ、それ以降、2010年の菅内閣では1日1回になり、東日本大震災以降なくなりました。その後誕生した、野田政権、第二次安倍政権はこの慣習をなくして今に至ります。

それではどういうタイミングで行われるか。多くはマスコミから要請する形で行われます。なにか大きな会議があったときや、外国の要人とあったときなど重要な局面のときに、マスコミから官邸に要請をするんです。そして官邸側が時間調整などをして受けることが可能になった場合に、設定されます。もちろん首相の意向も反映されます。その後、官邸のエントランスに首相にでてきてもらい、受け答えが始まります。これが通常のパターンです。

いまは首相への声かけは原則禁止になっています。というのも、それをやるとキリがないからです。誰だって首相のコメントはほしい。特にそういう重要局面や、自分の社しかもっていない情報に対する反応がほしいとき。でもそれをやりだすと、本当にすべての社がやりかねないので、原則的には禁止になっています。なので、こちらから要請して、先方が受けて始まるぶら下がりは、首相に直で反応を聞けるとても重要な機会なわけです。

口下手が故の菅政権の失敗

それがうまくいかなかったのが、前の菅政権だったのだと思います。

ひとそれぞれ受け止め方はあると思いますが、僕はどうしても口下手な印象をうけていました。しかし、はじめはその朴訥したしゃべりかたで親近感をもったひとも多かったのではと思うのですが、結果論でしかないのですが、いまのこのコロナ禍という有事に陥ってるときは頼りなくうつってしまったのではないでしょうか。彼自身もそういう発信力、説明する力、短く説明する力などが足りなかったのかなと思います。そしてやがてぶら下がりを受けなくなっていく。そして質問を受けずに一方的に打ち切る。そうなると関係性がどんどん悪化していく。僕たちも人間ですし、首相も人間ですから、そのあたりはなんとなく理解してほしいところなのですが、だからといって叩くというわけではないのですが、関係性が悪くなっていいことはなにひとつありません。

その点では2001年誕生した小泉政権の小泉純一郎さんは、ワンフレーズポリティクスということばも生まれましたが、短い言葉でぎゅっと要素を詰めてはなす、あれはマスコミ側から見ても見事なものでした。

僕個人としてはなんといっても、大相撲の貴乃花が怪我から復帰して劇的な優勝を遂げて、内閣総理大臣賞を受ける際、小泉首相は賞状を読み終えた後、前を見て、ものすごい笑顔で「痛みに耐えてよく頑張った!おめでとう!」というわけです。あれをやられてしまうと、マスコミ側も使わざるをえません。あんなにぐっと心に響くフレーズを言われると、使いたくなります。

テレビで使えるのは10数秒

テレビの場合、誰かしらのインタビューであったりコメントは十数秒〜15、6秒。20秒を超えることは余程のことがない限りありません。事件事故に巻き込まれた当事者の遺族であったり、独自のスクープの関係者だったり、その人により多く語ってもらいたいシーンがあれば、20秒を超えることはありますが、普通のシーンではせいぜい10数秒です。なので小泉さんの場合は、ぎゅっと短いフレーズで要約して話すので、使ってしまうんですね。ダラダラ話が長い場合は、どうしても切り取らないといけません。そうすると「意図的に切り取られた」なんて言われたりする。なんらかの意図を持って切り取ることはなくて、構成上どうしようもなくて、30秒も使えないから、短くするわけです。コメントして使いきれなかった部分は、原稿におとして、それをナレーションで伝えていくのが基本的な構成なんです。

なので、過去と比べたら突出して多いわけではないものの、近年のケースと比べると多めの岸田さんのぶら下がりは、マスコミ側からしても彼がなにを考えているのか、今後どうしていくのか、などが掴みやすくなります。なので、現時点においては関係性は良好なんだろうなと思います。

ひとつ注意していただきたいのは、関係性が良好だから、べったりということはありません。これは声を大にして言いたいのですが、向こうが何を考えているのか、それは直接言葉で聞く方がわかりやすいです。なので、今後どうなっていくのか。回数などによって関係性が透けて見えてくるのではと思います。

(voicy 2022年3月28日配信)


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