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【2000字ドラマ】それでも、地球は動く 告白編〜100回目の告白〜

★できれば、『それでも、地球は動く 気づき編〜あの日、手を差し伸べてくれたのは〜』を先に読んでいただけると、面白さが増すと思います。

【登場人物】

遠藤 千春(17)高校三年生
押水 結衣(17)千春の親友
嶺井 涼介(17)千春の同級生

【注釈】
*プロットは脚本形式に近い形で書いております。
*この話の前日譚である「それでも、地球は動く 気づき編〜あの日、手を差し伸べてくれたのは〜」と、後日談である「サイドストーリー」も是非お読みください。単品で楽しんでいただいても構いませんが、繋げるとテーマの「若者の日常」をより感じ取れる作品になると思います。
*人物名M「〜」は、モノローグで心の声を表しています。
*人物表と注釈は、字数に含めておりません。

【プロット】
○高校・校庭
桜で一面、春色に染まっている。
地面は花びらで、まるで桜の絨毯のよう。

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千春、マスクを顎にズラし大きく息を吸うと、桜の絨毯の上に、どかっと寝転び、陽の光を心地よさそうに浴びている。

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千春、掌を太陽に翳して呟く。
千春「風も木も、太陽も、いつもと何一つ変わらない。それなのに、修学旅行がまた中止って」

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千春、スマホを取り出し、結衣にビデオ通話を繋ぐと、巫女姿の結衣が映る。
結衣「おー、千春。インスタ映え子ちゃんかよ」
千春「ちょっと声が聴きたくなって。家の手伝い中か、ごめん」
結衣「大丈夫。お賽銭もキャッシュレスの時代だから、仕事が楽になったわ」
千春「結衣のところ、ちゃんと大吉入ってる?毎年凶しか出ないんだけど」
結衣「入ってます!営業妨害で訴えるよ」
千春「ごめんって。ところでリモート組はみんな元気?」
結衣「元気、元気。遅刻する心配が無いからね。ほらスクショ」

結衣のタブレットには、ボサボサ頭でパジャマ姿の男子生徒たちが映っている。

千春「いいなあ、リモート」
結衣「登校組に自ら志願した癖に」
千春「私たち今年で卒業だし。今年、出会いがなかったら、私のアオハルジ・エンド」
結衣「もしかして、登校組に気になる人でもいる?」

千春「こういう時だけ勘が鋭い子は嫌いだよ」
結衣「誰?まあ、まず嶺井は論外ね。あいつ、無愛想でルール厳守人間だし。木村はマスクしてるとイケメンだけど……」


千春「嶺井」



結衣「え?」

千春「だから、みーねーい!」

結衣「えっ!あの嶺井!」

千春「そんなに驚かなくても」
結衣「ま、好みも十人十色だし。だけど、告白できる?」
千春「告白は……」
結衣「ほら、恋に消極的だからこれまで恋人ができなかったんだよ」
千春「積極的だし!登校もしてるし!」
結衣「でも、あと一歩が足りないんでしょ?」
千春「うう、負けを認める」
結衣「恋愛とは戦。いくら優れた戦術を立てても、踏み出せなきゃ無意味。それは、歴史が物語ってる」
千春「だけど、踏み出せない理由が。こんな時期だし」
結衣「それは言い訳。当たってぶつかること」
千春「私にできるかな?」
結衣「人間、思いの外、やればできるよ」
千春「分かった。やってみる」
結衣「その調子。告白のリハやろう」
千春「ここで⁉」

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校舎の時計は12時30分。
結衣「ほら、早くしないと昼休み終わるで」
千春「分かったから!」

千春、深呼吸する。
千春「み、嶺井くん……。わ、わ、私とつ、つき合ってくっださい!」
結衣「全然ダメ。ストーカーみたい。もう一回」
千春「嶺井くん……。私、ああっ!」
千春、顔を赤らめて手で隠す。
結衣「ダメ。はい、もう一回」

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校舎の時計が、12時50分を指す。
千春「付き合ってください!」
千春、ぜえぜえと息が上がっている。
結衣「お疲れ、ようやくだね」
千春「こんだけ練習したら、言えるはず」
結衣「大丈夫。千春ならできる。安心して」

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強い風が吹き、地面に落ちている桜の花びらが舞うと、何者かの手が出てくる。
千春「きゃあ!」
千春、腰を抜かす。

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桜の絨毯がもぞもぞと動き、マスクの嶺井がプハッと顔を出す。
嶺井「あぶねぇ。死ぬかと思った」
千春「み、嶺井くん!」
嶺井「よお」
千春「よおじゃないって。なんでここに……」

嶺井、千春に近づいてくる。

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千春の鼓動は、徐々に高まる。

嶺井、千春のマスクを鼻まで引き上げる。
千春「え?」

嶺井「飛沫、危険」

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千春「あ、ごめん。って、なんでここに?」
嶺井「押水がここに来いって言うから、仕方なくね」
千春、スマホを見ると、結衣はテヘペロのポーズをしている。

千春「もしかして聞いてた?」
嶺井「99回目の付き合ってくださいまで」
千春、愕然と地面に手をつき
千春「全部、聞かれていた」

嶺井「で、100回目は?」
千春「嶺井くん……だめ、言えない!」
千春M「結衣、助けて!」
千春、スマホを見ると、結衣はお祓い棒を持って祈祷している。
結衣「(祓詞)清め給へと白す事を……」
千春M「おいいい!」
嶺井「どうしたの?」
千春「あの、その……」
千春、人差し指を合わせて躊躇している。

嶺井「99回も練習したのに、その程度?」
千春「え?」
嶺井「だから、今までの練習は無駄だったの
かって聞いてるんだよ」
千春「できるもん」
嶺井「なら、やれよ」

千春、深呼吸をする。
千春「嶺井くん、私と付き合ってください!」
千春、目を瞑りながら、お辞儀をして、片手を突き出す。
が、しばらく何も起きない。

千春M「もしかして……ダメ?」

千春、顔を上げると、
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嶺井が、アルコールを手に念入りに染み込ませている。

千春「え?何やってんの?」
嶺井「アルコール消毒に決まってるだろ」
千春「だからって、このタイミングで」
嶺井「俺の大事な人が苦しむのは見てられねえんだよ!」
千春「嶺井くん……」

嶺井、千春の手を握って
嶺井「こんな面倒臭い俺だけど、よろしくな、千春」

千春「ありがとう、……涼介」

スマホから、結衣の声が聞こえてくる。
結衣「おっと!二人とも密じゃ?ソーシャルディスタンスは守りなさ」

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千春、結衣との通話を切る。

千春「放課後、部活?」
嶺井「無い、一緒に帰ろ」
千春、小さくガッツポーズ。

二人は校舎に向かって歩き出す。
千春「なんで、結衣に呼び出されたん?」
嶺井「あいつは、全て知ってたんだな」
千春「さすが神社の娘」
嶺井「折角だし、押水の神社でくじ引こうぜ」
千春「ダメ。あそこは凶確定ガチャだから」
嶺井「それは草」

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チャイムが鳴り響く。
嶺井「やばい」
嶺井、千春に手を差し出す。
千春、嶺井の顔を見て手を掴むと一緒に駆け出す。

【了】(本文:2260字)

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