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遠藤周作「深い河」で呼び起こされた、1988年の僕のヴァーラーナシー体験。

亡くなって妻の情愛を初めて知った男性、本気で人を愛したことがない中年女性、動物に心を通わせてきた童話作家、インパール作戦で共に生き延びた戦友を亡くした老人。インド観光ツアーを共にする人たちの群像劇。
洋の東西を問わず心の救済を助けるはずの宗教や思想に対して、作家が投げかける。

僕はガンジス河沿いのヒンドゥー教の聖地ヴァーラーナシーの描写に古い旅の記憶を呼び起こした。

作家がヴァーラーナシーを取材したのと同じころ、20代半ばの僕も彼の地を旅した。
1988年3月、僕は当時デリーに長期滞在していた友人を頼って、予防注射を2度受けてインド大使館でビザを取得して渡航。友人と合流して二人でヴァーラーナシーへ行った。(写真)

河の中まで階段状になっているガート。
遺体を流すそばで沐浴する人たちや、クロールで泳ぎ騒ぐ子供たち、その横で石鹸で体を洗う人もいる。写真で見たことがあっても、その空気感は、小説では描写されない。

安い言い方だけど、混沌だった。
若かった僕は宗教的な意味合いよりただ、「何でもあり」「文化が違う」と捉えた。
インドルピーの価値は忘れたけど、1泊100円程度のゲストハウスに宿泊した。
友人と一緒の部屋は、コンクリートむき出しの壁、木のベッド、ドアはついていなかったような気がする。友人は「外のシャワーはガンジス河から汲み上げた水だから、目に入らないように気を付けたほうがいい」と言った。
照明もない牢獄のような部屋のベットの上で、「見たことのない世界を見たい」と怪しい巻きタバコをふかしたけど体が受け入れなかった。
天井でゆっくりとまわる扇風機の音がどんどん高音になり、悪寒と悪夢を繰り返して長い夜が明けた。
ようやくクリアになった頭。
部屋を出てガンジス河の朝焼けを眺めた。

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