多文化性を表現するひとつのストーリー|文脈の中を泳ぐデザイン #1
『文脈の中を泳ぐデザイン』は、私が2018年11月に上海で登壇した内容を文章に起こした全5回のシリーズです。事例を交えて、私がどのように文脈を行き来しながらデザインしているのかについてお伝えします。
今回は、多文化的な要素をつなぐデザインのプロセスを食器のコレクション「À TABLE(ア・タブレ)」の事例を通してお話しします。
0. なぜ文脈を考えることがデザインする上で重要なのか
1. 多文化性を表現するひとつのストーリー
2. 文化特有のアイデアをより多くの人に伝える
3. ふたつの文化をすり合わせた新しい価値
4. 異文化間の「解釈のギャップ」で遊ぶ
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食器コレクション「À TABLE」のコンセプト
「À TABLE(ア・タブレ)」というのはフランス語で直訳すると「食卓へ」と言う意味で、ご飯ができたときにかける「ご飯できたよー」のような言葉だそうです。
食器自体のデザインのコンセプトは、多国籍な料理が食卓に並ぶ現代の食事スタイルが、静物画のように絵になる光景となること。多文化な食卓をひとつの新しい価値として提案するというものでした。
プロダクトデザイナーたちは、さまざまな国の伝統工芸品の形や使い方をヒントに、現代的の食卓に合うように色やディテールを再解釈して商品をデザインしました。
こちらがその食器コレクションです。
ビジュアルアイデンティティを作る上で、この食器のデザインコンセプトやプロセスを視覚的にも表現したいと考えました。
食器のデザインプロセスをインスピレーションに
そこで、食器の歴史上に「多国籍」なヒントがないかと探していて見つけたのが「青と白の陶磁器」です。
この陶磁器のスタイルは、最初は中東で発明され、そのあと中国でさらに技術が洗練され、それから様々な国へスタイルと技術が輸出されていきました。
よく見ると、それぞれの国で手に入る「青い顔料」を使っているので、スタイルは似ていても、作られた場所によって青の色に少しずつ違いがあります。
多文化性を表現する青のパレットとグラフィック
この「青の違い」のストーリーからヒントを得て、以下の青のカラーパレットを作成しました。食器のプロダクトデザインで引用している各11カ国に合わせた青を選びました。
またロゴ(以下画像左)はAの文字のまわりにTABLEの文字がならぶことで、食卓(A)に人(TABLE)が集まって来る様子を表しています。
右のキービジュアルは、テーブルを真上から見たときに食器が並べられている様子を文字で表現しています。料理が盛られた写真やイラストではなく、食器の名前の並べ方で表すことで、多国籍な食卓のイメージを限定させず、見る人の想像を掻き立てるようにしました。
ポスターやカタログなどで、これらの要素がひとつになって使われると、多種多様なものがひとつの場所に集まっていることを視覚的に表すことができ、それぞれの青がパッケージやスタンプなどで単体で使われるときには、識別の役割を果たすことができます。
状況説明ではなく意味の形成を
多様性や多文化性をデザインに起こすとき、さまざまなものが共存していることに重きをおくだけでは、色々なものが同じ場所に居合わせた「状況説明」で終わってしまいがちです。
その関係性や居合わせる理由を強めるストーリーのレイヤーがもうひとつ加わることで「多様なものが共存している意味(=アイデンティティ)」をつくりあげることができると思います。
プロジェクト「À TABLE」の詳細は以下のページでご覧になれます。
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次の回では、ある展示デザインの事例を通して、文化に特有のコンセプトをどう他の文化の人にもわかるよう表現するかということについてお話しします。
「そもそもなぜ文脈とデザイン?」「文脈とデザインの関係を考え始めたきっかけは?」については以下の記事でお話ししています。
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