Tomomi Maezawa

デザイナー。ドイツ・ミュンヘン在住。複数の文化圏での経験をもとに、多文化的なグラフィッ…

Tomomi Maezawa

デザイナー。ドイツ・ミュンヘン在住。複数の文化圏での経験をもとに、多文化的なグラフィックやタイポグラフィを研究しています。製作過程や日々気になったことなどを記録していきます。ウェブサイト:https://tomomimaezawa.com/

マガジン

  • 気になって、考えたこと

    日常の中で出会ったこと、思ったことについて、頭の整理として記録していきます。

  • あのときの話、これからの話

    これまでの製作プロセスや、進行中のプロジェクトのことなど、私の作品にまつわることを文字にしていきます。

最近の記事

フェイクの価値を今こそ熟考してみたい

Taylor SwiftのDeepfake問題に興味を持ったのは、最新ニュースのヘッドラインからではなく、YOASOBIの曲を彼女のAIがカバーした音源をYouTubeで見つけた時だった。 本人は歌えないであろう日本語歌詞を本人の歌い方のくせや特徴を見事に表現して歌うAI。DeepFakeのAIの仕組みを知らないので、どのように作られたのか分からない。(例えば、AIのフィルターをかける前に、ゴーストシンガーがいったん声を吹き込む必要があるかどうかとか?) しかし、単純に楽

    • 料理が私たちを文化的な鎧から解放する

      「その人が食べたもの、飲んだものが、その人の考えや夢、行動を作る。」 こう信じていた未来派のフィリッポ・トマソ・マリネッティは、1932年、レシピ本という国民にとって最も親しみのあるフォーマットを使って、世間を挑発した。パスタに宣戦布告をしたのだ。 彼はこの著書(というか作品?)「The Futurist Cookbook」のなかで、パスタが人々の心と体を「重く」し、不機嫌で悲観的にし、創造的な思考や行動を妨げていると語った。パスタの追放が人々を歴史や伝統から解放し、イタ

      • なぜガリアーノのマルジェラのクチュールが衝撃的だったのかを考える

        先週、インスタグラムを眺めていると、ふとひとつの写真が目に入った。コルセットをつけた、ヴィクトリアン風の装いのモデルが写っていた。 ひと昔前のファッションショーか何かなと思ったが、スクロールすると同じモデルの写真が、ひとつ、またひとつと現れ、気づくと私のタイムラインを占拠していた。ショーの他の写真を見ていくと、もう釘付けになり、顔がにやけ、興奮が湧き上がって来た。それが今季のガリアーノのマルジェラのクチュールショーだった。 1週間以上が経った今も、まだその興奮が冷めやらな

        • 異文化間の「解釈のギャップ」で遊ぶ|文脈の中を泳ぐデザイン #4

          『文脈の中を泳ぐデザイン』は、私が2018年11月に上海で登壇した内容を文章に起こした全5回のシリーズです。事例を交えて、私がどのように文脈を行き来しながらデザインしているのかについてお伝えします。 今回は、最近仕事をする中でよく感じている「私の中での日本のイメージ」「別の文脈から見た日本のイメージ」とのギャップを利用したデザインの可能性についてお話しします。 0. なぜ文脈を考えることがデザインする上で重要なのか 1. 多文化性を表現するひとつのストーリー 2. 文

        フェイクの価値を今こそ熟考してみたい

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        • 気になって、考えたこと
          Tomomi Maezawa
        • あのときの話、これからの話
          Tomomi Maezawa

        記事

          ふたつの文化をすり合わせた新しい価値|文脈の中を泳ぐデザイン #3

          『文脈の中を泳ぐデザイン』は、私が2018年11月に上海で登壇した内容を文章に起こした全5回のシリーズです。事例を交えて、私がどのように文脈を行き来しながらデザインしているのかについてお伝えします。 前回の1と2では、「多くをひとつに」あるいは「ひとつを多くへ」といったどちらか一方向のものでしたが、また別に異なる文化が融合したアイデアの視覚化という課題も多くあります。今回はラーメンレストラン「TONKOTSU」の事例を使ってお話しします。 0. なぜ文脈を考えることがデザ

          ふたつの文化をすり合わせた新しい価値|文脈の中を泳ぐデザイン #3

          多文化性を表現するひとつのストーリー|文脈の中を泳ぐデザイン #1

          『文脈の中を泳ぐデザイン』は、私が2018年11月に上海で登壇した内容を文章に起こした全5回のシリーズです。事例を交えて、私がどのように文脈を行き来しながらデザインしているのかについてお伝えします。 今回は、多文化的な要素をつなぐデザインのプロセスを食器のコレクション「À TABLE(ア・タブレ)」の事例を通してお話しします。 0. なぜ文脈を考えることがデザインする上で重要なのか 1. 多文化性を表現するひとつのストーリー 2. 文化特有のアイデアをより多くの人に伝

          多文化性を表現するひとつのストーリー|文脈の中を泳ぐデザイン #1

          文化特有のアイデアをより多くの人へ伝える|文脈の中を泳ぐデザイン #2

          『文脈の中を泳ぐデザイン』は、私が2018年11月に上海で登壇した内容を文章に起こした全5回のシリーズです。事例を交えて、私がどのように文脈を行き来しながらデザインしているのかについてお伝えします。 今回は、「フーハ」という展示デザインの事例を通して、ある文化に特有のコンセプトをどう他の文化の人にもわかるよう表現するかということについてお話しします。 0. なぜ文脈を考えることがデザインする上で重要なのか 1. 多文化性を表現するひとつのストーリー 2. 文化特有のア

          文化特有のアイデアをより多くの人へ伝える|文脈の中を泳ぐデザイン #2

          なぜ文脈を考えることがデザインする上で重要なのか|文脈の中を泳ぐデザイン #0

          2018年11月、友人@mugi_shanghaiにご紹介いただき、上海のトークイベントにて登壇する機会がありました。 反響があり、自分としても勉強になったので、ぜひその内容を記録しておきたいと思い、noteに全5回のシリーズとして公開します。 0では「なぜ文脈とデザインなのか」「なぜ私がそれを考えるようになったのか」について、また1から4では事例を交えて「どのように異なる文脈の間でデザインしているのか」についてお伝えします。 0. なぜ文脈を考えることがデザインする上

          なぜ文脈を考えることがデザインする上で重要なのか|文脈の中を泳ぐデザイン #0

          味噌汁のお椀にはご飯をよそわない — 工芸が生き残るということについて考える —

          夫と暮らし始めた頃、炊いたお米を味噌汁のお椀に入れて食卓に出そうとしているのを見て、ちょっとこれは味噌汁の入れ物だから、と言ってごはん茶碗に入れ替えてもらうことがよくあった。 今では、和食の時こそ違いは徹底するけれど、うちには他に手頃な深さの器がないので、もうごはん茶碗でシリアルを食べているのを見ても、ポテトチップスを汁椀に入れて出されても目をつぶっている。 ここ最近各国の工芸と関わる機会が続き、そんなことを思い出した。 広州の生活と「広彩」去年12月「広彩」と呼ばれる

          味噌汁のお椀にはご飯をよそわない — 工芸が生き残るということについて考える —

          フェイクニュースからデザインの意義を考える

          「情報リテラシー」という言葉を初めて聞いたのは、大学一年の時だった。 これからデザインを学ぶ人は、「情報を自分の目的に合わせて使いこなす能力」を身に付けることが重要です、というのを繰り返し教えられたのを覚えている。当時は「全体」「部分」「統合」といったまるで数学の教科書のような単語での説明に、はぁ、そうなんですね、という曖昧な理解しかできなかった。 今振り返ると、自分のデザインが環境とか社会といった大きな枠組みの中でどのような役割を果たすか、あるいは、そのデザインを新たな

          フェイクニュースからデザインの意義を考える

          服と女性のステイタスの関係 — 私がワイドパンツを選ぶ理由 —

          私はワイドパンツをよく履いている。 オーバーサイズのシャツやコートを好んで着ている。 「どうしてこういう服装を選ぶようになったのだろうか」 先月ある記事を読んでから、ずっとそのことを考えている。 タイトルは「Modest Dressing, as a Virtue」(控えめな服装の美徳)。 最近世界で流行しているモデストファッション(肌の露出が少なく、身体のラインを覆い隠すような服装)について書かれていた記事である。 モデストファッションというと、ムスリムの人向けのフ

          服と女性のステイタスの関係 — 私がワイドパンツを選ぶ理由 —